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第58話 平和の裏で

いつも読んでいただきありがとうございます


 置かれた家具や調度品はすべてが細かく作られ壷一つだけでも家が建つぐらいの価値を持つだろう

それらが数多に置かれた部屋の中、意匠を凝らして作られた服を身に纏った一人の男が眉間に皺をよせ机の上を見つめていた

 机の上にはその部屋に見合わない禍々しい黒いオーラを漂わせた粉々に割れた水晶の山があった


「兄さん、ティリが死んだみたいだね」


 男の後ろから声がかかる。

 男はその声に反応するように振り返ると肩口まで伸ばしたアイスブル―の髪がさらりと舞う

 そこには男が鏡から出てきたと言っても信じるほど姿形から着ている物までそっくりな人物が立っていた。


「あぁ、どこまでも使えん女だった」


「仕方ないよ。所詮、妾の娘、使えないのは最初からわかっていたでしょ」


「ふん・・・。しかし、あいつも一応、父上の血を引いていたから少しは使えるとは思ったんだがな」


「グラディエーターのスキル持ちだっけ?せっかく蛇に預けて教育まで施したのに無駄になっちゃったね」


「無駄な時間を使わされたよ!」


 男はいら立ち気味に壷の一つをたたき割る


「兄さん、そうイライラしないでおくれよ。すでに奴を動かしたからさ」


 壷をたたき割り息を荒げる男が振り返る

 目が血走りその顔は醜悪に歪んでいる。普段の美しさからはかけ離れた形相だ


「お前、勝手に動かしたのか?」


「あの女が失敗した時の保険さ。兄さんも知っているんだろう?

 ゲートを殺した奴はおそらく異世界者だよ。だからこそあの女を向かわせたんだよね

 通常の手段では殺せないから」


「それは分かっているが・・・」


 男は段々と落ち着いてきたのか表情が元の美しい顔に戻る

 兄と呼ぶ男と向かい合わせになると写し鏡を見ているようだ


「これ以上、計画を台無しにされるわけにはいかない。だから事前に保険をかけたんだよ

 魔の森から魔物の氾濫を引き起こすのは最後さ。その手始めにアボルグを孤立させよう」


「ふむ。そういうことか。そういえば街に潜ませているグレイから王国の第1王女がアボルグに

 向かうという情報を得た。これをうまく絡めて利用するか」


「ふふ。さすが兄さんだよ」


「いや、お前がいてくれるからこそ俺は俺であれる」


 2人は両手と額を合わせて目をつぶり意思を合わせるように呟く


「「すべては帝国のために」」



 ハーミットの屋敷の玄関前にウェインをはじめ屋敷に勤める者たちが集まっていた。清十郎を見送るためだ


「みんなには忙しい中、わざわざ見送ってもらってすまぬ」


 清十郎は頭を軽く下げる。

 

「いや、気にしなくていいよ。みんな清十郎を家族と思っているからね。家族を見送るのは当然のことさ」


 ウェインは細い目をさらに細めると優しく語り掛ける


「そうですよ。清十郎様はもうハーミットでは欠かせない大事な家族です。気を付けて行ってきてくださいませ」


 そう言うのはイリアだ。その胸元には昨夜、贈ったペンダントが輝いている


「イリア殿、ありがとう。しっかりと勤めを果たして帰ってくるから待っていてくれ」


 イリアのエメラルドの瞳を清十郎はしっかりと見つめる


「んん?なーんか、ふたりの雰囲気がちがうねぇ」


 ウェインがニヤリと笑いながら小首を傾げる


「・・・師匠。イリア姉様となにかあった?」


「「なにもないぞ(ですよ)」」


思わず2人の声が重なる


「ふふ。いいんですよ。昨日はお二人で楽しい時間をお過ごしになられたみたいですから」


「ミーニャ。余計なことは言わなくてよろしい」


 顔を赤らめイリアがぴしゃりと言い切る


「まぁ、何があったか大体予想がつくからあえて聞かないけどイリアのことはロムアもいるし任せといてよ。これでも兄だからね」


 イリアの胸元に光るペンダントを見ながらウェインは胸を叩いて優しく微笑む


「うむ。ところでポーラ殿が見当たらぬが・・・」


「ああ、彼女はティリが起きちゃってね。その面倒さ」


「そうか。ティリもあの様子じゃしポーラ殿に任せるしかないしのう」


 清十郎は肩を軽くすくめる


 昨日、治療を負えてしばらくして目を覚ましたティリはポーラの姿を見つけるとお母さんと言ってしがみつき離れなくなったのだ


 それからというもの起きている間はポーラを探し求め少しでもポーラの姿がいなことに気づくとベッドから這いずり出てもポーラを探し求める始末だった


 ポーラはお手洗いにもいけないわねと苦笑いをしていたがとりあえず元々の気質なのかティリが甘えると優しくあやして寝かしつけている

 ちなみに清十郎をお父さんと呼んでいたのはイリアには言えない秘密だ


「よし、ならそろそろ時間故、行くとしよう」


 そういうと清十郎は最後にイリアを見る


「気をつけて行ってきてくださいませ」


 イリアは視線を受け止めるとしっかりと頷いた


 その様子をみんなは温かく見守り清十郎は手を振り屋敷を後にした


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