第57話 月明りに照らされて
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少女の治療が終わった清十郎はひとしきり汗を拭き着替えを終えるとウェインに明日からの遠征の件とバングリーと打ち合わせをした工房の件について話をした
ウェインはにこやかに笑うと頷いてこちらは任せておいてよと言っていた
少女については約束通り生かして面倒をポーラとロムアに任せると言っていたので一安心だ
ウェインとの話を終えた清十郎は屋敷の廊下を歩き部屋の前に立つと扉をノックするとはーいと返事の後、ミーニャが顔を出し清十郎を確認してから扉を開いた
中に入ると寝る間際だったのか蝋燭の灯がほとんど消され薄暗い部屋の中、イリアがネグリジェに身を包み肩からケープを掛けて窓際の椅子に座っていた。髪の毛は三つ編みにして肩から胸元に垂らしている
「清十郎様、こんなに夜遅くにどうしたのです?」
月明りに照らされて思わず見慣れないイリアの幻想的な姿に胸の高鳴りが止まらない
昼間アンガスに仕掛けられた悪意満載のイタズラによる心の衝撃はどこかに飛んでいった
「あ、あの・・・」
普段なら普通に話せるのにと清十郎は思いながら立ち尽くしているとイリアは小首を傾げる
「とりあえず、清十郎様、お座りになられたらどうですか?」
イリアが座るように勧めてくるのでテーブルをはさんで対面にすわるとミーニャが紅茶を淹れてそっと2人の前に置いた。清十郎の赤くなった顔を覗き込むとニヤリと笑う
「ふふーん・・・。何やら大切な用事がおありの様ですね。私はお邪魔虫みたいですから少しの間、席を外しますね」
そう言い残すとミーニャは部屋を出ていった
2人きりの部屋。目の前にはいつもの涼やかな顔を優し気にほころばせたイリアが清十郎を見つめている。清十郎は顔を赤くしながらも意を決してイリアの顔をしっかりと見る
「イ、イリア殿!」
「は、はい!」
いつもの清十郎と違う必死な声音にイリアもだんだんと緊張してくる
これはもしかして?
イリアもある程度、話が予想できると段々と胸の高鳴りが止まらなくなり自然に両手にも力が入る
目の前の清十郎が手を震わせながら懐に手を入れて上品な布に包んだ何かを取り出すと机の上に置いた
???
予想だにしなかった清十郎の行動にイリアは分からなくなる。とりあえず気を落ち着かせて清十郎に尋ねる
「これは?」
「あ、開けてみてくだされ」
清十郎はそう言うと顔を赤くし下を向いてしまった。とりあえずイリアは目の前の布を手に取ってみると中に何かが入っているようだ。丁寧に布をめくるとそれは露わになった
「まあ!」
イリアの驚きの声が部屋に響く
薄いミスリルに細かく丁寧に彫られた梅の花が咲きその下には青緑色の魔鉱石が光り、アーモンド形のペンダントが月明りに照らされて一際輝きを放つ
「清十郎様これは?」
「そ、それは、儂が兼ねてより作り上げたものじゃ」
贈り物ならそれなりに送られた経験のあるイリアだがなぜそこまで清十郎が緊張しているのかがわからない。するとぽつりぽつりと清十郎が語りだす
「その花は儂の故郷で咲く花でな。昔からお偉い人達が好んでおった花でもあるんじゃ
美しく咲く香り高いその花はイリア殿に似合うと思うてな。気品高く美しいそなたに・・・
いや、貴方の儂を思うてくれる誠実な美しさを思うて作ったんじゃ」
「清十郎様・・・」
「儂は明日からギルドの依頼で一週ほど街を空ける今だからこそ、これを贈ろうと思ったんじゃ」
「それは危険なのですか?」
「いや、危険はそれほどではないと思う。ただ、儂よりも貴方が心配なのじゃ」
そこで清十郎は黙る。緊張は薄れてきたようで手の震えも治まっている
イリアはじっと自分の掌にあるペンダントを見つめる
「清十郎様、もし私が今の姿をしておらず他の皆様もおっしゃられるような美しさというものを持っていない姿で貴方と出会っていたらどうなっていましたでしょうか」
「時間はかかろうとも貴方をきっと好きになっていたでしょう」
「それは私の外見は関係ないと?」
「うむ。儂はあなたに一目惚れをした。でもこれはきっかけにすぎぬ。貴方と言葉を交わす全てが楽しく貴方はいつも誠実に儂に接してくだされた。それ故に表の美しさよりも内なる美しさにきっと惹かれておりましたでしょう」
清十郎はそこまで言うと目をつぶる
イリアは清十郎の嘘偽りのない言葉に心が震えるのを感じる
エメラルドを思わせる瞳より流れる一粒の涙
「清十郎様・・・。このペンダントを私にかけてくださいませんか?」
清十郎は目を開け、涙を流すイリアに戸惑うが言われた通りペンダントを受け取ると不器用ながらにもイリアの首にペンダントをかける
「ふふ。似合いますか?」
「ああ、とても似合うぞ」
月明りにペンダントが照らされイリアの美貌を一層引き立てる
「イリア殿・・・」
「清十郎様、私は今までいろいろな男性から声をかけられてきました」
清十郎が美しいと言葉をつづけようとしたところでイリアが語り始めたのでじっと話を聞く
「でも、声をかける方は全て私の外見だけを見て判断なされておりました
顔だけよければそれでいい落ちぶれたハーミットでも顔さえよければ妾としては十分だと。まるで鑑賞用の鳥を飼いたいというような思いが感じられたのです。それだけに私は男性の方をとても苦手になりました」
でもと、イリアは清十郎の目をしっかりと見る
「あなたは違うのですね」
万感の思いを込めたイリアの言葉を清十郎はしっかりと受け止める
「うむ。儂はそのような思いは抱かぬ。貴方をしっかりと思い守る男となろう」
はっきりと言い切る清十郎にイリアは真実の意思を感じる
「清十郎様・・・」
「イリア殿・・・」
お互いにしっかりと瞳を合わせたまま自然と距離は近づき月明りに照らされた2人の影は一つに重なった
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