第28話 戦いの後始末
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部屋の外から聞きなれた声が聞こえてくる
「やだ!俺、師匠と帰るから帰らない」
「ビット様、ダメですよ。後でウェイン様がお帰りになられると怒られますよ?」
「俺は師匠と一緒に帰る!」
ビットとミーニャだ
「やれやれ、ビットにも困ったものだね」
「ははは。あれだけ元気があれば大丈夫じゃろ」
扉越しに聞こえてくる2人のやりとりにウェインが溜息をつきながらぼやくと清十郎が呵々と笑う。2人はいま詰め所の一室にお互い机を挟んで座っている
あの後、子供たちは兵士によって大通りに面した警備隊の詰め所に全員保護され治療師によって手当てを受け問題ないと判断されてからそれぞれの家に送り帰されていった
最後に残ったのがビットだ
「だめですよ、ビット。あなたは私たちと先に帰るのです」
「でもイリア姉様・・・」
「駄目です。お兄様も清十郎様もこれから忙しいのです。さあ帰りますよ」
「はい・・・」
やがて駄々をこねるビットに凛とした声でイリアが諭すとさすがのビットも大人しく帰ることを決めたようだ。扉がノックされウェインが返事をすると3人が入ってきた
「では、お兄様、私達は屋敷の方に戻ります」
「うん。そっちはよろしく頼むよ。ビット、わがまま言わずに屋敷で大人しくしているんだよ」
「はい、父上・・・」
「では、清十郎様、お兄様失礼します」
「うむ。ロムア殿がいるから大丈夫と思うが気をつけてな」
イリアが丁寧にお辞儀をすると追従してミーニャとビットがお辞儀をして部屋をでていった
あの後イリアとミーニャは一通り商店を見終わりそろそろ清十郎が元気になったのを見計らってクマの子亭に戻った
しかし清十郎がいない。レイルに尋ねると急用で清十郎は先に帰ったと言うがレイルから聞いた清十郎のその時の様子が気になってイリアとミーニャは暫く休憩も兼ねてクマの子亭で待ってみようということになった
窓際に座り2人で紅茶とケーキを楽しんでいると通りを走り回る大勢の兵士が見えたので何事かと思っているとウェインを見かけたので声をかける
するとビットを含めた子供たちが誘拐されかけそれを清十郎が助けたと言うではないか。慌てるイリアとミーニャをウェインはなだめるとちょうどいいとばかりにビットの迎えを頼んできた
イリアとミーニャはすぐに了承しウェインと共に詰め所に向かうとビットはすでに治療師の手当てを受けぴんぴんとしており清十郎に話をせがんで困らせているところだった
馬車はすでに手を回していたのでこれ以上ウェインたちを困らせてはいけないとロムアが御者を務めるハーミット家の馬車がやってくるとじゃあすぐに帰りましょうとなったわけだ
「さてとじゃあ清十郎、どういうことでああなったか教えてくれるかい?」
詰め所の机には先ほど兵士の一人が淹れてくれた紅茶がおいてある。それを一口、口にしてウェインは口を開いた
「ああ、それはな・・・」
と、清十郎は事の次第を事細かく説明していく。その話をせっせとウェインの後ろの机に向かい紙にメモしていく兵士の姿があった
やがて説明が終わると紅茶を口にする。すでに冷めてしまっていたが上等の茶葉を使っているのか屋敷の紅茶よりは味は落ちるもののそこそこに美味かった
「まずは、またビットをいやアボルグの子供たちを助けてくれてありがとう」
ウェインはそういうと清十郎に頭をさげた。後ろの兵士も一緒に頭をさげている
「ふたりともそうかしこまらず頭をあげられよ。儂はいつも言うておるが儂が好きで助けただけのこと。気にする必要はない」
清十郎はそう言いながら首を振り2人の頭をあげさせる
「はは、清十郎にはいつもそう言って助けてもらっているね。もう借りばかりで返しきれないよ」
「気にするな。それよりも話があるのであろう?」
ウェインはにこやかに笑うと清十郎は話を促す
「ならお言葉に甘えて本題に入るけどさっき清十郎が真っ二つにした相手を検分したんだ」
そこまで言うとウェインの目が鋭くなる
「あいつはデスピエロといって神聖アルバート帝国の子飼いの暗殺者だよ」
「デスピエロ?」
「うん、相当の凄腕での奴でね。闇魔法に精通していてね。姿を消すことはもちろんの事、相手の意識を洗脳したりして操ったりするんだ。それに加えて体術のスキルを持っていて素早い身のこなしから鉤爪を使った暗器による攻撃を得意としているんだ
実際、さっき確認したら鉤爪を身に着けていたから顔以外にもデスピエロで間違いないね。以前、交戦した奴がいたんだけど戦いの最中なのに奴が言葉を発すると体の自由が奪われたそうだ」
清十郎は戦った時の事を思い出す。たしかに奴がしゃべるごとに立ち眩みや視界がぶれた気がしたことを思い出した
「その顔をみると心当たりがありそうだね。以前戦ったやつも体の自由を奪われかけてギリギリのところで他の仲間が駆けつけて命拾いしたのさ。もう何人もの貴族や騎士、冒険者がやられていてね。出来れば生け捕りにしてほしかったんだけど・・・」
「儂もそうしたかったのはやまやまであったがな。なにぶん子供をかばいながらじゃったし奴の仲間が常に狙っておったから悪いと思ったがさっさと始末したんじゃ」
清十郎の何でもないようないい方にウェインは苦笑いを浮かべると後ろの兵士に指示をだし一枚の紙を持ってこさせた
「さすが清十郎だよ。文字は分からなくてもまぁ見てごらんよ」
ウェインが差し出した紙を見ると見覚えのある白塗りの顔に目と口を強調した化粧がしてありシルクハットをかぶった絵が書いてあった
「おお、こいつじゃ。変な奴じゃったぞ」
「うん、これは奴の手配書で見てもらいたいのはその下のここの部分」
ウェインが似顔絵を書いてある下を指さす。相変わらずミミズがのたまっているがそこだけ”0”が書いてあった
「これは?」
尋ねる清十郎にウェインはニヤリとする
「懸賞金。いくらだと思う?」
「むっ?ひぃふぅみぃ・・・」
清十郎はここ数日にやり取りとミーニャに聞いて少しは数字が読めるようになっていた
「0が4つじゃな」
「正解、少しは分かるようになってきたね」
ウェインは微笑むと清十郎に人差し指を立てた
「金貨1000枚って書いてあるのさ」
「なんと!それはすごいのう・・・」
金の価値はミーニャに教わっているしここ数日のやり取りで分かっている
「それに加えて最近、子供の集団失踪事件が他の街や村でも多発していてね
ここアボルグでも未遂におわったことだからあとで懸賞金以外にも褒美もあると思うよ」
「ほう!金に興味はないが認めてもらえたみたいで嬉しいのう」
「ただねぇ・・・」
そこでウェインは言い渋る。やがて溜息を吐くと話始める
「たぶん、領主に呼ばれるよ。なるべく清十郎の存在は隠しておきたかったんだけどね。あいつ生粋の武人だからきっと清十郎は厄介なことになるよ」
「それは面倒じゃのう・・・」
清十郎は思わず嘆息する
「ま、領主のレギウスとは知らない仲じゃないから悪いようにはならないと思うけど・・・ラーク、今の呼び捨ての件、内緒にしといて」
「わかりました!」
ウェインはしまったという顔をして後ろで書類を書いていた兵士に声をかけた
「昔からの知り合いであいつとは王都の学院時代からの腐れ縁なんだよ。戦場でも一緒に肩を並べて戦ったこともあるしだからこそ奴も僕も呼び捨ては気にしないけどね」
「ほう。それなのに呼び捨てもダメなのか?」
「そこはそれ。僕も奴も気にしないと思うけど立場があるから部下の前で敬称なしはまずいだろ?」
ウェインはそういうとにこやかに笑う
「話を戻すけど領主によばれてその時に報奨金を渡されるし礼も受けると思う。まだわからないけど一緒に食卓を囲むかもしれない。 だから清十郎にはしっかりと礼儀作法を憶えてもらわないといけなくなったからよろしくね」
ウェインはいたずら気に笑うと清十郎に言う
「はぁ。それはまた難儀じゃな」
清十郎はそう言うと今朝の礼儀作法の練習を思い出し明日以降のこと考え溜息を吐くのだった
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