第29話 戦いの後で
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屋根の上で様子をうかがっていた二人は清十郎の声に体を震わせすぐに立ち去る。あのままだと本当に切られかねない殺気を向けられたからだ
「信じられん、ゲートが一撃でやられたぞ!あんなものなんて報告すればいい」
背が高く横幅もある男が屋根の上を走りながら隣にいる仲間に声をかける。二人はフード付きマントで頭と体を隠しておりその表情は伺い知れない
「私も知らないよ!あんな化け物この街にいるなんて聞いてないし!」
隣で走る大柄な男に顔を向けず小柄な女性が答える。身を包むマント越しに胸に慎ましながら線が出ていることから女性だとわかる。しなやかに屋根を飛び移る様から相当の身体能力を持っているのだろう
「ゲートを斬った瞬間みえたか?」
「いや、霞んで見えなかった・・・あんな剣技、私は知らない」
「勝てるか?」
男が女に尋ねる。女はそれに首を振る
「心配するな、俺もきっと勝てん。とりあえず、ありのままの報告をせねば・・・」
男がそういうと2人は足早にアボルグの街から去っていくのだった
翌朝、いつも通り起き身支度を整えていると廊下を走って近づいてくる気配を感じた。おそらくビットだろう
「師匠ー!朝だよ!起きてる?」
ノックをせずにいきなり扉が開いて離れに飛び込んでくる少年に清十郎は嘆息する
「ビットもう大丈夫か?・・・と聞かんでもその様子だと大丈夫じゃな」
清十郎はビットの様子に安堵する
「まぁ、その元気があれば走る量を増やしても大丈夫じゃな」
「げぇ!師匠、そりゃないよ!」
にやりと笑う清十郎にビットががっくりと肩を落とす
そのあと清十郎は言ったとおりに走る量を増やし鍛錬を終えるとビットは汗を拭くと食堂に向かって走っていった
「昨日はありがとございました」
イリアとミーニャは鍛錬の間中2人を見ていたがビットがいなくなったところでそろって清十郎に頭を下げる
「よいよい。イリア殿、何事もなく済んだのじゃ。気になさるな」
それでもイリアは頭をあげない
「清十郎様、私は・・・いえハーミット家はもう何度も助けていただいております。でも、私は清十郎様に何も返すことができていません・・・」
「そうです。清十郎様、今回はビットさまを含め領主さまのご子息も助けていただいております。なんとお礼を申せばよいか・・・」
イリアに続きいつもよりまじめなミーニャの態度に清十郎は頭を掻く。どうしたものかと思っているとイリアが頭をあげた
「す、すこし、横を向いていただけませんか?」
イリアが清十郎に横を向けと言う
はて?と思いながら横を向くとそっと柔らかな感触が清十郎の頬を触る。清十郎は慌ててイリアの方を向くと目線を斜め下に向け顔を赤くしたイリアがいた
「お、お礼にはちょっと足りませんが、いずれ・・・
わ、わたし、何を言っているのでしょう・・・あ、あの、失礼します!」
真っ赤になったイリアはそのまま走り去っていく
いきなりの事で追いかけることもできず固まっていた清十郎の肩にポンと手が置かれる。振り向くとそこには顔を赤くしたミーニャがいた
「わ、わたしもした方がいいですか?」
そうミーニャは言うなり目を閉じて唇を突き出してくる。さすがにミーニャとなると清十郎も心が平常心に戻っていく。嘆息するとミーニャの頭を手刀で軽くたたく
「ふぎゃっ!清十郎様、ひどいっ!乙女の決意を無駄にした!」
「阿保なこと言わずに朝食にいくぞ」
涙目のミーニャをみて清十郎は呵々と笑い食堂へ向かうのであった
食堂に向かうとウェインはおらずビットと顔をまだ赤くしたイリアが座っていた
ウェインはおそらく昨日の後始末で徹夜で事にあたっているのだろう。昨日、話をした時点で家に帰れないよと苦笑いしていたウェインを思い出す
それでも返せれないほどの借りができちゃったねとビットの無事を清十郎に感謝していた
清十郎が席に着くと早速、食事が運ばれてくる。3人の前に食事が用意されるとイリアが食べましょうと言って食べ始めた。今日のメニューはローストビーフを薄切りにしサラダとあえたものとオムレツにコーンスープだった
さっそく清十郎はオムレツを口にする。とろける様な食感が口の中に広がる
「今朝の食事はいつもよりうまくかんじるのう・・・」
しみじみとつぶやく清十郎にイリアがクスリと笑う
「ふふ、いつも清十郎さまは美味しそうにたべられますね」
イリアの優しい微笑みに清十郎は照れて頬を掻く
やがてサラダとコーンスープをペロリと平らげるとミーニャが淹れてくれた紅茶を飲みながら人心地つく
「ねえ、イリア姉さま」
「どうかしましたか?」
ビットがイリアに顔を向ける。その顔はどこかいたイタズラっぽく笑っている気がする
「師匠といつ結婚するの?」
ビットの爆弾発言に紅茶を飲んでいた清十郎は盛大に噴き出す。イリアは固まったまま動かない。ここぞとばかりにミーニャが追随する
「もうすぐお子様を抱く日も近いかもしれませんね」
睨むイリアの視線をミーニャは横を向いて口笛を吹く真似をしてごまかす
(朝の事を根にもっておったか・・・)
やがてイリアがビットの手をにこやかに握ると食堂をでていった。目がわらっていなかったからおそらくオ・ハ・ナ・シの時間がまっているのだろう
清十郎はナプキンを使い口の周りを拭くと心の中でビットに合掌した
朝食後バングリーに言われていたBランクの冒険者との戦いに向けて瞑想をしてすごしていた
昨夜、昨日の戦いで相手の鉤爪による攻撃を受けた時に刀身の刃の一部が若干欠けていたのでしっかり研ぎ直し手入れを施したので刀は万全の状態になっている
その代わり睡眠時間が減ったため、身体的な疲れは若干残っているが瞑想し体調を整えている限り不調は感じられず戦いに支障がないことを確認する
どんどんと扉をたたく音で瞑想を終えると振り返る
「お前はもっと静かに呼べんのか」
そこには赤髪を逆立てた男、アンガスが開いた扉にもたれかかるようにして立っていた
「あいにくとダチに気をつかうような男じゃないんでな」
そう笑うと清十郎もつられて笑う
「はは、お主はそういう男であったな。ところでミーニャ殿かロムア殿が呼びに来そうなものじゃがお主が直接来たのは珍しいのう」
「あぁ、昨日は大変だったな。俺も呼び出されて昨夜は街の不審者の炙り出しに大忙しだったぜ。ここにくる途中でロムアとウェインが一緒なのを見たからここにいないのは知っているしミーニャは今日の試合を観に行くってビットが駄々をこねてその面倒を見てたから勝手にお邪魔した」
「なるほどのう」
アンガスの言うことでその光景が目に浮かんだのか清十郎は苦笑いだ
「けどなぁ・・・」
アンガスは言いづらそうにする
「どのみち今日の試合は中止になったからビットはどのみち行けなかったけどな」
「ふむ、何かあったのか?」
「昨日の誘拐未遂の後、今日、戦う予定だった奴と連絡が取れなくなったんだ」
アンガスは嘆息すると話を続ける
「さっきも言ったが昨日の事件の後、冒険者全員招集がかかったんだ。誘拐未遂の中に領主の息子含めて貴族家の子息たちがいたんだから当然かもしれんがな
まして犯人がデスピエロだろ?冒険者ギルドも総出でお前が言っていた逃げた二人組を捜索するのに駆り出されたわけだ。依頼に出ているやつは依頼表の受理状況を冒険者ギルドで把握されているからそれ以外の奴な」
「じゃが、全員の居場所なんてわかるのか?」
「ああ、お前はまだ知らんか。なんで所属がギルドカードに載っていると思う?」
アンガスは清十郎に問いかける。腕を組みしばらく考える清十郎だがやがてお手上げとばかりに首を振る
「はは、さすがのお前もわからんか。実はな、このカード魔道具になっていて本人の魔力と繋がっているから直接本人に呼び出し音を鳴らすことが出来るんだ」
「ほう!それはまたすごいのう」
清十郎の吃驚した顔に気をよくしたのかアンガスは続ける
「所属ギルドごとで管理しているから個別管理も可能になっているぜ。だからお前が事情聴取を受けていた時、お前のは鳴ってないだろ?」
「たしかに儂にはそんなことはなかったな」
「で、その機能を使って一斉呼び出しを受けたんだ。酒を飲んで寝ていても頭に直接響いてうるさいからな。分からんなんてことはないぜ
依頼に出ているやつが戦闘中だと邪魔になるから依頼表で確認しながら呼び出しをかけるんだ
連絡のつかないやつは個別に何回か連絡するし居場所のわかっている奴は他の冒険者を呼びにいかせたりして所属を確認することになっているんだが奴の場合、ねぐらにしている場所にもいないし何回も呼び出しても出なかったらしい
町からでて離れると音はどんどん小さくなるから街にはいないと判断されたんだ」
「・・・なるほどのう」
ひとしきり話し終えるとアンガスはふーっと息をはく。清十郎が理解したのを見計らって話を続ける
「でだ、お前さんの場合、微妙な立場だからまだ罰則関係は教えてもらってないだろうがこの緊急呼び出しによほどの事情がないかぎり応じなかった時はペナルティがあるからな」
「む?ペナルティ?」
「罰則ってやつだ。ギルドからの永久追放から降格、金になる場合もある」
「ふむ」
「奴は長年、冒険者をしているからそんなこと分からんことないと思うんだがとにかくギルド職員が朝から連絡しているがつながらないってんで昨日の捜索に対する報酬を受け取りにギルドに寄ったらお前に伝えるよう爺に言われたんだよ」
「そういうことか・・・」
清十郎が理解するとみるやいなやアンガスはニヤリと笑う
「ああ、だから今日は暇になったろ?付き合えよ」
「うん?いや、わしは・・・」
「暇だろ?」
「やることが・・・」
「ま、無理には言わんがな。せっかくだしイリアとミーニャに清十郎が暇になったことを伝えてくるぜ。喜んで買いもんに行くって・・・」
アンガスが背を向けそう言いかけたところでその肩が掴まれる
「お?どうした?」
「ひまになった・・・」
「ん?」
「だから暇になったと言うたんじゃ!」
「別に無理にとはいわんぞ?」
「・・・さてはお主、イリア殿とミーニャの買い物に付き合ったことがあるな?」
「ウェインから前に誘われてな。その時はそこにエリザも追加でいたぞ」
アンガスは強面の顔を意地悪気に歪める
「さて、俺はイリアに伝えてくるな。清十郎が暇になったってー」
「もう、地獄のような選択はしばし勘弁じゃ!どこへでもついて行くから言わんでくれ!」
縋りつく清十郎を見るアンガスの顔はさながら悪魔の笑顔のようであった
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