第27話 清十郎戦う
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清十郎は今、疲れ切ってクマの子亭で突っ伏していた
「おなごの買い物は恐ろしい・・・」
清十郎は死んだ目で呟く。なぜこれだけ疲れているかというと理由は昨日にさかのぼる
昨日、イグリットの店を出てから買い物に付き合った清十郎だが回る店で必ずイリアとミーニャが究極の2択を常に迫ってきたのだ
イリアはどちらがいいですか?と聞いてきて外すと苦笑いを浮かべながらそうですねと寂しそうに去っていくしミーニャは外すと女心がわかっていませんねと溜息を吐いて去っていく
当たるとイリアは目に見えて明るくなり嬉しそうに去っていきミーニャはむふんと胸を張ってスキップして去っていく
間違えることが出来ない選択をずっと続けられたのだ。清十郎の精神的摩耗は推して図るべし
昨夜は疲れていたので彫金作業は早めに切り上げて寝たものの翌朝になっても疲れが思いのほか抜けておらず清十郎は軽めの鍛錬で切り上げた。その代わりビットはしっかりと走らせた
午前中もテーブルマナーの講義中、手元が狂い何回も食器を倒したり落としたりといつもの清十郎と違うことに気づいたイリアが気を使ってやめにした
ところまではよかったが気分転換もかねて街に買い物に行きましょうとイリアがにこやかに両手を合わせて首を可愛らしく傾けながら提案してくるものだから休みたいと言えず清十郎の精神にトドメを刺した
だが出かけたはいいがあまりに清十郎が疲れ切って目が死んでいるのを見かねて昼食後にイリアが私とミーニャで買い物に行ってきますから待っていてくださいと気を使ってくれて現在に至る
「はぁー・・・」
窓際の席に突っ伏し窓の外の移り行く景色を眺めながら何度目かの溜息を吐いた時、目の前にドンとジョッキに入った果実水が置かれる
「これマスターからです。なんでもお前の気持ちがよくわかるからってサービスですって」
清十郎が顔をあげるとレイルが立っていた。奥を見ると店のマスターがサムズアップしていた
「やや、これはすまぬ・・・」
清十郎はそういうと店のマスターに向かって手をあげる。マスターはそれをみるとにこやかに奥へと入っていった。去り際にみせたマスターの顔はがんばれよと言っているようだった
「清十郎さんも元気だしてくださいね」
レイルはそういうと他のお客へ応対に去っていった。窓の外では目の前の服飾店の店内でイリアとミーニャが嬉しそうに服を選びあっている
(こうして外からみているならこれほどなごむものもないがなぁ)
そう思いながら清十郎は果実水に口をつけると濃いブドウの味が口の中に広がり甘さが疲れきった精神を癒してくれるようだ
女性を連れて待っていて酒をださず果実水を出してくれるマスターの心遣いに清十郎はありがたく思う。実は外見から子供と思われているとは清十郎は思うまい
(うん?あれは・・・)
ぼーっとしばらく窓から景色を眺めていたが視界の端に見慣れた緑の髪の少年ビットが路地に入っていくのが見えた
ビットだけじゃなく幾人もの少年少女が同じように路地に入っていく。だが周りの大人たちは子供たちに気づくことなくそこに何もないかのように素通りしていくではないか
嫌な予感がした清十郎は果実水を一気に飲み干すと席を立つ
「あれ?清十郎さんもういくの?ミーニャたちを待たなくていいの?」
席を立ったことに気づいたレイルが声をかける
「うむ、ちと急ぐ故、ミーニャ殿がきたら先に帰ったと伝えておいてくれ」
そういうとレイルの返事を待たずに店を飛び出す
先ほどから清十郎の勘が急げと告げる
子供たちが入っていった路地裏に入る幸い一本道になっておりやがて子供たちの後姿を視界にとらえる。背中を追いかけ路地裏を曲がると建物に囲まれた開けた行き止まりの場所にでた
「ビット!しっかりいたせ!」
清十郎はその場所で立っている見慣れた緑の髪の少年に駆け寄り声をかけるが目の焦点があっておらず、ぼーっとしていた。声をかけながら肩を掴みゆすってみるが何も反応しない。周りの子供を見てみるも皆、同じような状態になっていた。子供の中にはこの間、ビットと争っていた赤髪の大柄な少年もいた
(これは、どういうことだ?)
相棒の刀に右手を添え警戒態勢に入ったまま清十郎は周りの様子をうかがう。先ほどからうるさいほどに清十郎の勘が危険を訴えてくる
「ははは!まさか私が後をつけられるとは思いもしませんでしたねぇ」
清十郎の上から小気味いいようなリズミカルな声音が聞こえてきた。一瞬視界がゆがむが頭を振り声がする方を見る。3階建ての建物の上にそいつはいた
やがて声の主は建物を飛び降りると清十郎の前にふわりと降り立った
(なんじゃ奴の姿は・・・)
清十郎はその者の姿に眉間に皺を寄せる。紫の上下の服を纏い黒のシルクハットをかぶり顔は真っ白に塗られその上から目と唇を目立つように化粧がしてあった。清十郎は骨格や筋肉の付き方から男だとあたりをつける
「貴様、何者だ・・・」
清十郎が子供たちを守るように前面にでると誰何する
「ふーむ、あなたの方こそ何者ですかねぇ。私の声を聴き、正気を保っているとは」
またしても目の前の男が喋ると清十郎の視界がぐらつく
(またじゃ・・・なんじゃこの感覚は)
「まぁ、いいでしょう。そこの商品どもに傷をつけなければいいだけのこと。私の魔法が効かねば死んでもらうだけです」
そういうと白塗りの男は清十郎に向かって飛び込んでくるようにその手を振りかぶる
清十郎は咄嗟に避けようとするが視界が揺さぶられるのと男の速さに避けることが出来ず正面から攻撃を受け止める
ガキン!
金属がぶつかり合う音がして清十郎は子供たちの方へ吹き飛ばされる
「くっ・・・」
「おや?私の攻撃が効かない?いや、この痛みは・・・ひゃははは!手が切れていますよ!」
清十郎はぐらつく視界の中、素早く抜刀し相手の拳に宛がい後ろに自ら跳び勢いを殺した
正眼に清十郎は構えると戦闘態勢に入る
「この私が、この私が、傷をつけられるなんて!あぁ、なんて今日は最高の日だ!」
「これ以上の問答は無用の様じゃな・・・」
清十郎は男の意味不明な言動にこれ以上喋らせるつもりはなかった
清十郎は呼吸を整えると半眼で相手を見る。怒りを沈め心に波打たぬ静寂の世界を作り上げる。もう視界は揺れ動いていない。心の水鏡に一滴の水滴が落ちる感覚を覚えた瞬間、清十郎の周りの空気が重さを持ち上から押しつぶしていく
「む・・・これは・・・」
目の前の異変に男が気付いた時にはすでに清十郎は一足で相手の懐に飛び込みすれ違いざまに水平に薙いでいた
「はっ?」
呆気にとられる男をよそに清十郎は振り返ると納刀した
「ははは、なんですか!何もないじゃないですか!」
自分の体になにも変化がなく先ほどの重圧が消え去ったことで男は清十郎を馬鹿にするように笑う
「お主はすでに死んでおる。わずかばかりの時に悔い改めるんじゃな」
清十郎は男の横をすれ違いざまにそう囁くとさも終わったと言わんばかりに無防備に背中を晒して子供の方に向かって歩いていく
「はっ?終わった?なにも終わっていませんよ!あなたはこれで終わりです!」
男は清十郎の背中を切り刻んでやろうと振り向いた時に異変に気付いた
「え?なぜ?私の拳が届かない?なぜ空が見える?」
男の体は振り向きざまにずれ頭を下に倒れていく
「あ、あなたは、なにもの・・・」
男は最後まで己に起きたことに気づかずその命の灯は消えていった
「己が死んだことも気づかぬ愚か者に名乗る名前なぞないわ。それと上にまだ残っている者よ!これ以上儂の機嫌を損ねるな!さっさと去ね!」
清十郎は上を向かず、その場で腹に力を入れて叫ぶ。その重圧感のある声があたりに響くと気配が二つ消えていく
その瞬間、子供たちがバタバタと倒れていった
清十郎は気配が消えたことでビットの傍に歩み寄るとすーすーと寝息を立てていることに安堵した
しばらくすると清十郎の声が聞こえたのかガシャガシャと鎧が擦れる音が路地の方から聞こえてくる。おそらく警備の者だろう
「おい、何があった!」
路地から現れた兵士数名は子供たちが倒れ真っ二つの死体が転がっているのを見ると清十郎に抜剣して剣先を向ける
「馬鹿者!誤解をするでない!」
今にも斬りかかってきそうな兵士たちに清十郎は一喝する
「儂の名は片岡清十郎!ウェインの客人といえばわかるか!急いで後ろの者達の手当てをお願いする。ウェインのご子息も居られる」
「わ、わかりました!おい、隊長にすぐにお知らせしろ!あと増員を頼む」
その様子をみながら清十郎は面倒なことになったと嘆息した
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