第26話 ダンスは恋模様
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朝食後、清十郎は己の理性と最大の戦いを展開していた
(すっかりこういうことは枯れたものだと思っていたが体が若返り気持ちも引きずられているのかもしれんな)
今の清十郎は少し見上げればすぐ目の前に鼻筋の通った涼やかな女性の顔がある。女性の顔が若干赤く染まっているのは気のせいではないだろう
体が密着し女性特有の柔らかな感触が掌を伝い動くたびに女性の熱っぽい吐息が耳朶にかかる。絹のようなさらりとした髪がふわりと舞うごとに優しい香りが清十郎の鼻腔をくすぐる。清十郎は自分の顔が熱く真っ赤になっているのを自覚しているが体を離すわけにはいかない
潤んだエメラルドを思わせる瞳と目が合う
「あぅ・・・」
おたがい見つめ合い動作が止まる
「はい!すとっぷ!イリア様も清十郎様も二人の世界に入らない!あたしの前でそんな、そんなこと許しませんよ!」
ミーニャは血涙を流しながら怒声を飛ばす
現在、清十郎はダンスをイリアから学んでいた。しかし、その進捗状況は芳しくないすでに同じようなところで躓き毎回甘い空気を出し始めるので、すでにミーニャは目が吊り上がり怒り心頭状態だ
「まったく清十郎様もイリア様もしっかりしてくださいませ!そのようではダンスは上達しませんよ!」
「ごめんなさいミーニャ・・・」
「す、すまぬ」
「私がお相手すればいいのですがメイドが公式の場で踊ることはないのですから仕方なく、ほんっとーに仕方なくイリア様をお相手に踊っていただいているんですからね!なのに、ふたりったら私をそっちのけで・・・」
ミーニャが怒りを通り越して涙目になっているのをイリアがなだめるが逆効果だ
「まったく!清十郎様もそこで手をワキワキしない!男の子はこれだから・・・」
「なぜ・・・ばれた・・・」
今のミーニャはすさまじい動作観察能力を発揮していた
「さぁ!今のパートをもう一度!」
「「はい・・・」」
こうして清十郎とイリアのダンス講義は続いていった
昼食後、清十郎はミーニャと今日はイリアも一緒にイグリットの店へとやってきていた。昨日、壊してしまった工具と先が丸まった工具の修理を依頼するためだ
カランカランと小気味いい音と共に扉を開くとはーいとエリーがでてくる
「あら?清十郎さんいらっしゃい。あ、今日はイリア様もご一緒なのですね」
エリーはイリアを見るとにこやかに応対する。ところでとエリーは清十郎を見る
「うむ、実は昨日、ミスリルを早速加工してな。道具を何個か壊してしまった故、修理を依頼しにきたのじゃ」
「えっ?もう壊しちゃったの?」
エリーの呆れの視線に清十郎は頭を掻きながらすまぬと謝る
「とりあえず旦那を呼んでくるから。あ、清十郎さん話は長くなりそう?」
「うむ。いろいろ聞きたいこともあるのでな。少し時間がかかるかもしれん」
「それならその間、イリア様とミーニャさんは奥であたしとお茶でも飲んでお話しませんか?」
「ええ、構いませんわ。エリーさんありがとうございます」
「よし。なら清十郎さんはそこで待っててね」
エリーの案内で2人は中に入っていく。しばらくすると奥からイグリッドが出てくる
「おう、清十郎、早速やらかしたらしいな」
「うむ・・・面目ない」
「で、ミスリルは加工できたのか?」
カウンターに置かれた壊れた道具を見ながらイグリッドは尋ねてくるがそこに怒りの雰囲気はない
「ああ、とりあえず、道具に魔力を通してやってみたらできたからそのまま続けた結果がご覧のあり様じゃ」
道具を壊すというのは職人にとって未熟な証拠。清十郎は申し訳なさげにイグリットに頭を下げる
「はははっ!昨日、加工の仕方を教えてやるのを忘れていたのは俺の方だ。俺にも落ち度があるからその頭をあげてくれ」
イグリットは笑いながら清十郎に頭をあげさせる
「しかし、お前さん、たいしたものだな。そうかミスリルを加工できたのか・・・。加工したものはもってきているか?見てみたい」
「うむ。ここにもってきておるぞ」
と、ジャケットの内ポケットから上等な布でくるんだ加工したミスリルを取り出し布を開ける
「これは・・・」
イグリッドの前には途中まで彫金が施されたミスリルだった。精巧に花が彫られ透かしを入れるなど細かな加工がされたものだった。まだところどころ彫り切れていない部分や荒さが目立つため工程がのこっているのだろう
「お前さんこれを一晩で彫ったのか?」
「うむ。未完成品を見せるのはどうかと思うがミスリルの加工があっているか、お主に答えを聞くためにも物を持ってきたのじゃ。どうじゃろうか?」
イグリッドは様々な角度から加工されたミスリルを見ていく。やがて息を吐くと頷いた
「加工の工程はこれでいい」
「そうか・・・」
短く言うイグリットの言葉に清十郎はほっと息を吐いた
「ただこれは最終的には何にするんだ?」
「うむ。それなのじゃ。本来であれば完成したものを思い浮かべて加工を始めるべきであったが久々の金属との触れ合いに加え初めて扱う金属であろう?
心が躍ってしまってな。もともとその花を彫ると決めておったから我慢できずに飾り物を決める前に彫りはじめてしまったのじゃ。ここに至ってどういう飾り物にすればいいか迷っておる。何かいい案はないか?」
「ふーむ・・・」
イグリッドは太い腕を組んでしばらく考える
「これは贈り物とみたが誰に送るんだ?」
「言わなきゃだめか?」
「言わなきゃわかんねえだろ」
イグリットの追及に清十郎は嘆息すると覚悟を決めた顔をして言う
「イリア殿じゃ」
「イリア様か!」
「声が大きい!」
清十郎は素早く口に人差し指をあててイグリットを窘める
「あ、すまん・・・。」
イグリットの大声に奥から何かあったー?とエリーの声が聞こえてきたがなんでもねーぞ!とイグリットが返すとはーいと返事があった
「お主も声が大きい!イリア殿には内緒にしておるゆえ頼むぞ!」
「わるいわるい、ついな・・・。なら、やはりこの国の貴族様はドレスを着る機会が多いから首飾りが一番いいだろうな」
「そうか、なら首飾りで形を決めていくかのう」
「よし、清十郎。さっきの詫びもある。首飾りの鎖の部分は俺が作っといてやるよ。お前のところ炉がないから火入れができないだろ」
「あぁ、それは助かるがいいのか?」
「こんなにいいものを見せてもらった礼だ。気にするな。ただ、鎖はプラチナで作るがいいか?」
「ああ、それでよいがなにか理由あるのか?」
清十郎の疑問にイグリッドは頷くと説明を始める
「鎖までミスリルにするとお前も試したかもしれないが魔力が一定以上たまると魔力を放出するから魔法を使う時に全体的に魔力が散らばってしまって使いづらくなるんだよ。より効率的に使いやすくするために鎖は違う金属にして指向性を持たせた方がいいんだよ」
「ふむ。使用上の問題ということか」
「そういうことだ。魔法を使うことも考えてミスリルにしたんだろ?」
「いや、そこまでは考えてなかったがお主が言うなら鎖はプラチナで頼む」
「あ、そういえば、お前魔力のこと知らなかったな。また詳しいやつに聞けばいいがミスリルを媒体に魔法を使えば魔法を使いやすくなるんだよ。前にも話したと思うが威力もあがるしな。まぁ、任せておけ!」
豪快に笑うイグリットに清十郎はミスリルを布で包みなおし大事そうにジャケットの内ポケットにしまう。そこにちょうど話がおわったのかエリー達が出てきた
「あんた、話はおわったかい?」
「ああ、いま終わったところだ」
「じゃあ、清十郎とりあえず道具は1週間後に取りに来てくれ。今度はもう少しお前の魔力に耐えられるように作り直しておいてやる」
「うむ、よろしく頼む」
「では、いきましょうか」
ミーニャの促しで清十郎はイグリッドとエリーに礼を言うと店を後にした
その後、特に用事のなかった清十郎はイリアとミーニャの買い物に付き合いくたびれ果てたのは言うまでもなかった
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