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第25話 ビット走る

いつも読んでいただきありがとうございます!

 清十郎は久々の金属との触れ合いに時間を忘れ作業をつづけ結果として夜が明けたことに気づかなかった


「師匠!」


 勢いよく扉が開くと共にビットが飛び込んできた

 集中しきっていた清十郎はその声であやうく手元が狂いそうになった


「なんじゃ!騒々しい!あやうく手元が狂うところじゃったわ!」


 清十郎はそう言いつつ振り返るとビットが首を傾げて近寄ってきた


「師匠、もう朝だよ。なにやってるんだ?」


「なに?もう朝か。早いものじゃな」


 ビットの問いに答えず立ち上がると伸びをすると一晩中座っていた影響からか体の節々からバキバキと音が鳴る


「さて、鍛錬に向かうとするか。ん?ビットどうしたのじゃ?」


 軽く服を整え玄関に向かおうとするとビットがじーっと金床を見つめていた。様子をうかがうとビットは一晩かけて清十郎が彫金していたものを夢中になって見ているようだった


「なにこれ!すげーよ!これ、ミスリルだろ?ミスリルでこんなに綺麗につくれるの!?師匠すげーよ!」


 清十郎が声をかけようと近寄るとビットは突如振り向くと大興奮で清十郎に迫ってきた


「わ、分かったからビット落ち着くのじゃ!」


 興奮するビットを清十郎は宥めると嘆息する


「まだ、それは途中じゃ。ここで見たものは内緒じゃぞ」


「うん、わかったよ!特にイリア姉様には内緒だろ。任せておいてよ」


 そういうとビットは玄関を元気よく出ていった。呆気にとられた清十郎はしばらく固まる


「なぜ、わかる・・・」


 ポツリと呟いた清十郎に答えるものはいない


 気を取り直した清十郎は作業台の上に寝かせてあった相棒の刀を持つといつもの庭に向かう。そこではビットと庭園の椅子に腰かけるイリアと後ろにたつミーニャがいた


「おはようございます」


「うむ、おはようイリア殿、ミーニャ殿」


 清十郎が外にでると陽が昇りイリアとミーニャがいることでいつもの時間よりもだいぶ遅れたことがわかった。ビットは身体を動かしくてうずうずしているようだった


「よし、ビット早速鍛錬をはじめるとしようかのう」


「はい!」


「元気があっていいがまずは体をほぐすのが先じゃ。儂の真似をするように体を伸ばしていくのじゃ」


 清十郎はそういうと30分かけて体を伸ばしていく。ビットは何もいわず真似をしていくが飽きてきたのかところどころ手を抜くようになってきた


「これ、ビットしっかりと伸ばさねばならぬぞ」


「でも、師匠これ地味だよ」


 若いビットにとっては苦痛でしかないようだ。それを見て清十郎は自分の若いときもそうだったなと思い出しビットを諭す


「これは、毎日続けてこそ効果がでる鍛錬じゃ。しなやかな体をつくりあげることこそ鍛錬に必要なこと。しっかりとやりなさい」


「はーい」


 ビットの間延びした返事に苦笑いを浮かべると清十郎は伸びの作業を続けやがて終える


「さて、ビットはいつも剣術をどのように鍛えておる?」


「うん、たまに父上やロムアに教えてもらっているよ。剣の素振りや打ち込みが主かな」


「ふむ。なればそれを軸にしてビット殿を鍛えていくか。ただ、まずは足腰が弱い故、儂が良いというまでここの庭を走りなさい」


「え?ただ走るだけ?」


「うむ、走るだけじゃ」


 そういうと清十郎はいつもの素振りに入る


 何も言わない師匠にビットは渋々庭を走る。イリアとミーニャが見ている以上さぼることはできない。ひたすらビットは清十郎が一連の鍛錬を終えるまで走る

 1時間くらい走ったところで清十郎が鍛錬を終えたのか綺麗な所作で納刀する。それを見てビットはようやく終わりかと思った


 膝は笑い全身汗が吹き出し止まらないし、これ以上、走るのはつらい。だが清十郎はこちらを見るが止めることはしない。なぜ走るのかと自問自答しながら走り段々と涙がでてきた時に清十郎が走るのをやめさせる


「ビット、ミーニャ殿に水をもらってきなさい」


 清十郎はそういうとビットに休憩を与える。荒い息を吐きながらミーニャの傍にいくとお疲れさまでしたと水の入ったコップを差し出してくる

 奪い取るようにコップを摂ると一気に飲み干す。冷たい水が喉に清涼感を与え疲れた体に染み渡るよう水が入っていく。飲み終えるともう一杯ミーニャからもらったところで気持ちも落ち着いてきた


「どうじゃ?ただ走るだけでもえらいじゃろ?」


「うん・・・師匠、大変だった」


「そうじゃ、走り続けていると段々となぜ走っているのか、つらいのになぜはしるのか、さらには走るのを命じた儂に怒りを覚えたはずじゃ。最後は自分がなぜ走っているのかわからずつらさで涙がでてきたであろう?」


 清十郎が語るすべてが当てはまっているビットは言葉がない


「それらはすべて己との対話じゃ。足腰を鍛え臓腑を鍛え己の内面も鍛える。ただ走るだけの単調な鍛錬なれど己を見つめ直すにはちょうどいいのじゃ

 まずはビットには毎日、儂の鍛錬の間は走ってもらう。そこからがはじめじゃ。くじけずに頑張るのじゃぞ」


 呵々と笑いながらビットをなでると清十郎は屋敷の中に入っていった


 その日、いつものように挨拶をしながら食堂に入ったウェインはビットのおかしな状態に首を傾げた。いつも元気だけが取り柄のビットが菜っ葉に塩をかけたような状態で疲れ切った状態で座っていたからだ


「あれ?ビットどうしたんだい?」


「・・・」


 ウェインが尋ねるがビットは、ぼーっとしたまま返事がない。ふむと清十郎に目をやるが静かに笑うだけで何も言わない


「ふふ、清十郎様に朝からしっかりと絞られたのですわ」


 困惑するウェインの様子がおかしかったのかイリアが微笑みながらウェインに教えてくれる


「おや?清十郎がビットに訓練をつけてくれたのかい?」


「うむ、師匠じゃからな。まずは小手調べにしっかり走ってもらったのよ」


 清十郎の答えにあぁとウェインは納得した。ウェインも親衛隊に所属する前は騎士団に所属していた。そこの訓練でフルプレートを纏い全身装備で走らされた記憶がある

 それを思い出し苦笑いが浮かぶ


「なるほどね。ビットにはちょうどいい訓練か。清十郎、ビットをこれからも頼むね」


「ああ、しっかり師匠の務めをさせてもらうぞ」


 ウェインと清十郎は互いに笑いあうと運ばれてきた朝食を食べる。ビットは食べる気が起きなかったが清十郎に言われ気を取り直して拒否する胃に無理やり食べ物を詰め込み早々に口を押さえながら部屋に戻っていった。それを見て清十郎は呵々と笑うのであった


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