第22話 応接室にて
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馬車は石畳を走り、やがて見慣れた屋敷の門をくぐると玄関前で馬車は止まる
「師匠!さっそく訓練しよう!何したらいい?」
馬車の扉を執事が開くと同時に飛び降りたビットは清十郎に尋ねる
「まてまて!ビット殿は気を失うほどの衝撃を体が受けておる。今日は休みじゃ」
「そうですよ!いくら治療師様が治してくださったとしても無理は禁物です。今日はお休みになられないとダメですよ!」
「師匠、俺は弟子なんだから殿はいらないよ。ビットって呼んでよ」
清十郎とミーニャが止めるのを無視するようにビットは清十郎に自分を呼び捨てにしろと言う
「そなた、話をきいておったか?今日は休むことが訓練じゃ。わかったか・・・ビット」
清十郎が最後に殿をつけずに呼び捨てにするとビットは満面の笑みを浮かべた
「わかった!師匠がそういうなら休む」
そういうとビットはスキップしそうな勢いで屋敷へ駈け込んでいった。そのあとをビットの世話係の侍女があわただしく追いかけていく
「「はぁ~~~」」
ミーニャと清十郎はそんなビットの後姿を見ると大きく溜息を吐いた
「・・・では、いろいろ疲れましたが清十郎さま、私は報告がありますのでイリア様の元へ参ります」
「お疲れ様じゃの」
「いえいえ、清十郎様も後からイリア様がお話を伺いたいと申されることでしょうから応接室の方でお待ちください。ロムアさん清十郎さまのご案内をよろしくお願いします」
「承りました」
傍で控えていた老齢の男性が返事をするとミーニャは頷いた
「では失礼いたします」
ミーニャは丁寧にお辞儀をすると屋敷の方へ入っていった
「では清十郎様もこちらへ」
清十郎もロムアに促され応接室へ案内される
「そういえばロムア殿と顔を合わせるのは初めてじゃな」
「そういえばそうでしたな。私、ハーミット家の家宰を務めさせていただいております、ロムアと申します。よろしくお見知りおきください」
「うむ、儂は清十郎じゃ。あらためてよろしく頼む」
清十郎はロムアの身のこなしにただの家宰ではないと感じた
ロムアは中肉中背でクラシックフェードスタイルに整えた白髪とカイゼル髭が印象的だが顔に刻まれた皺の数からそれなりの年齢だと思われる。だがその身のこなしは無駄がなく老練した戦人の雰囲気をまとっていた
(なかなかやる御仁じゃな・・・)
観察する清十郎の視線に気づいたのか清十郎を後ろ目でちらりとみるとロムアは口角をあげる
(むぅ、男前じゃ、やりおる・・・)
そんな無言のやり取りを楽しんでいるうちに応接室へとつきロムアが丁寧な所作で扉を開く。清十郎がロムアの案内で部屋に入るとソファーに座るとそれを見計らってロムアが紅茶を用意し始めた
「ロムア殿は武芸をたしなんでおられるのか?」
清十郎の質問にロムアは紅茶を淹れたカップを清十郎の前に置く
「昔、少々嗜んでいただけですよ。その話はまた今度機会がありましたら致しましょう
ではイリア様がお越しになられるまでゆるりとお寛ぎください」
ロムアはきれいなお辞儀を行うと部屋を出て行った
(うーむ、どうやらうまくかわされてしまったようじゃな)
清十郎はそんなことを思いながら紅茶を口にする
ふーっと一息ついたところでついさっきビットとのやりとりを思い出す
(しかし、師匠はないな。鍛冶師を目指すならわかるが剣の道で師匠はな)
清十郎は嘆息しながらそんなことを考えていると紅茶のカップが空になったあたりで扉がノックされイリアが入ってきた
イリアは薄青色のワンピースを身に纏い上品な仕草で裾を引きながら清十郎の対面のソファーに座る
涼やかな顔が間近に迫り清十郎の鼓動は早くなる。イリアは目線を下にむけたまま清十郎と目をあわせようとしない
一緒に入ってきたミーニャは早速とばかりに清十郎の飲みかけの紅茶のカップを淹れ直しますと言って下げると紅茶を淹れ始め紅茶の香りが漂い始める。しばらくして紅茶を二人の前に置きミーニャは部屋の隅に控えた。清十郎とイリアは紅茶を口にする。お互いにほっと息を吐くと先に声を発したのはイリアだった
「清十郎様この度は、ビットが大変お世話になりました」
イリアは丁寧に頭を下げる
「イリア殿どうか頭をあげてくだされ。あなたにそのように頭をさげられると儂はどうしていいかわからぬ」
清十郎に言われイリアはゆっくりと頭をあげる。エメラルドを思わせる瞳が清十郎を見つめる。その瞳は涙をためていた
「イリア殿・・・」
「ミーニャに先ほど事の次第は伺いました。まさか、あのような目にビットがあっていたなんて思いもよりませんでした。お兄様を苦手にしているように見えたのですが悩み続けていたのですね・・・。
でも、あなたがビットの心を開いてくださいました。本当にありがとうございました」
再び頭をさげようとするイリアを清十郎は慌てて手で止める
「イリア殿、そう頭をお下げになられるな。えらいのはビット殿ですぞ。立ち向かうというのは大変勇気のいることビット殿を是非に褒めてやってくだされ」
「それはもちろん・・・。ですが清十郎様のお言葉もミーニャからうかがいました。途中まで聞いた時は私も意味がわかりませんでしたが最後まで話を聞いた時にようやくわかりました。きっとお兄様も清十郎さまには言い尽くせぬ感謝を感じておられることでしょう」
そういうとイリアはニコリとほほ笑む。涼やかな顔の女性が心から優しく微笑む様子のなんと美しいことか。清十郎はそんなことを感じながらイリアの心からの優しいほほえみに見とれてしまった
「あ、あの清十郎様?」
「イリア殿・・・」
清十郎のじっと見つめる視線にイリアも目を合わせたまま時はしばらく流れる
「こほん!」
部屋の隅から盛大にわざとらしい咳払いが聞こえた。2人は慌てるように視線をずらすと清十郎はミーニャと視線があった
そこにはジト目のミーニャがお前らこの間も同じことをしただろうと訴えていた
清十郎は気まずげにイリアをちらっと見るとイリアも同じようにちらっと見たらしく視線が再び合うとお互い顔を赤くし背ける
「なにやってるんすか・・・
彼氏もいないあたしの前でやめてくれないっすか・・・
ほんっとに・・・」
ミーニャの心からの突っ込みに2人はせき込むと本題に入る
「と、ところでイリア殿」
「は、はい、なんでございましょう」
「実は、作業をしたいのじゃが、夜中に音が響くかもしれぬゆえ迷惑にならぬよう作業ができるようなところはありませぬか?」
「そ、それなら今は物置になっておりますが屋敷の離れがありますのでそこを用意させましょう。用意が出来次第ミーニャに案内させますのでその間お部屋でお寛ぎくださいませ」
「うむ。ではお言葉にあまえさせてもらうとしようか」
本当はイリアともっと話していたい清十郎であったがイリアの言葉で激甘な空気にうんざりしていたミーニャによって扉が開かれたため渋々と部屋をでようとしたところでそういえばとイリアが口を開く
「ビットのお師匠様になられたそうですね」
「いや、あれは・・・」
「ふふ、よろしくお願いしますね。お師匠様」
「はい・・・」
否定しようとした清十郎にイリアが優しく微笑む
清十郎はイリアのその顔を見てしまったことで逃げ道をふさがれ部屋をすごすごとでていくだけだった
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