第18話 ウェインの過去
清十郎が部屋から出ると入れ替わりに治療師が中に入っていった。その後ろにまだ仕事中であろうプレートアーマーに身を包み緑の髪にエメラルドを思わせる緑の瞳をした男が立っていた
「清十郎、すまないね。迷惑をかけた」
「気にするな、ウェイン」
「少し話がある場所を変えないか」
ウェインはそういうと受付に座っているターニャにカギを借り1階の奥の部屋の一室に入っていく。何も言わないところをみるとついてこいということなのだろう。清十郎はウェインの後について部屋に入る
机と4脚の椅子が置いてある簡素な部屋だ。ウェインは椅子に座ると盾と片手剣を壁に立てかけ兜を脱ぎテーブルの上に置く
「これをしていると暑くてね」
汗ばんだ緑の髪をかき上げると、ふーっと息を吐く。清十郎も対面に座る
「清十郎にはいつも助けられる。ありがとう」
「気にするな。儂が好きでやったことじゃ」
「はは、清十郎はいつもそう言ってくれるね。僕としては助かるけど」
ウェインは軽く笑うと清十郎に向ってその細い目を向ける
「ところで何があったのかおしえてくれるかい?人伝にしか聞いていないから詳細がわからないんだ」
清十郎は頷くと事の次第をウェインに話していく。話していくうちにウェインの眉間に皺が寄っていく
「そうか、そんなことが・・・」
ウェインはそうつぶやくと腕を組んでしばらくの間、黙ったままだった。その間、清十郎は静かに待つ
(お茶がほしいのう)
そんなことを考えていた時、ウェインが口を開く
「清十郎はすでに知っているかもしれないけれど僕はウェイン=ハーミットと言って貴族の当主なんだ」
「うむ。ミーニャ殿がハーミット家といっておったからそうなのではないかと思っておった。ただ最初の内は貴族よりは金持ちの息子かと思ったがな」
「はは、金持ちの息子か。まぁ、そこそこには持ってるよ」
ウェインは苦笑いしながら相槌をうつ。
「話を戻すけど僕の今は男爵位を賜っているんだけど昔は子爵といってもう一つ上の階級にいてね。ここアボルグの街の領主でもあったんだよ」
「ほう、じゃがなぜ今は位がさがっておるのじゃ?」
清十郎の言葉にウェインは頷く
「うん、それを今から話そうと思っていたんだ。清十郎もアンガスから少し前に聞いたと思うけど僕は親衛隊に居たんだ」
「うむ。そういえば前にそんなことをアンガスが言っておったな」
「ただその話は少し足らないことがあって、親衛隊の隊長をしていたんだ。そのころは王都にも屋敷を構えてたよ。妻もいて一番順風満帆だった頃だったかな」
ウェインは昔を思い出したのか懐かし気に語る
「ただ、時期が悪かった。当時、オーランドとロックバランが険悪でしょっちゅう国境で小競り合いが頻発してたんだよ。ちょうどその頃に王さまがご逝去なされて王位をめぐって争いが発生したんだよ」
「跡継ぎの争いは大変じゃからのう」
ウェインの話を聞きながら清十郎は前世を思い出す
「僕が当時所属していた親衛隊は第3王女殿下のフリーシア様の麾下でね。フリーシア様はお優しく聡明な方だったよ。今のオーランド王国で王位を継承していればきっと名君に謳われていただろうね
でも継いだのは順当に第1皇子殿下のエドガン様さ。猜疑心の強いお方で弟妹に次々と無実の罪をかぶせて死においやっていったよ」
「うむ、しかし後を継いで王になっても弟妹を死なせるほど猜疑心の強い者なら前王も廃嫡しているのではないか?」
「うん。普通はそうなんだけど前王さまがご逝去なされる前は今みたいに人を疑うようなお方ではなかったんだよ。 エドガン様は前線で兵を率いて戦っていたからよく顔を合わせる機会があってその頃は朗らかによく笑うお方だったよ。それに兵からの人望もあったから王位を継いだあとに行われた粛清には驚きを通り越して何かの間違いだと思ったよ」
清十郎は唸る。人望があって順当に継いだのであれば粛清が行われることはない。その疑問に答えるようにウェインは話を続ける
「今の宰相はエドガン様の奥方のお父上にあたる人でね。エドガン様が王位ををついでから軍務卿から宰相に抜擢されたんだよ。その頃からエドガン様がだんだんと人を疑うようになっていったんだ」
「お主がそれを知っているほどだからフリーシア殿や周りの者は諫めなかったのか?」
「清十郎の言う通りさ。当然、フリーシア様を含め王族や周りの前宰相閣下を筆頭に重臣たちも諫めたよ。けれどそれがいけなかったかもしれなかった
特に自分より優秀だと言われていたフリーシア様がお諫めしてからは話すら聞いてもらえない状態になってね。今の宰相閣下の言葉しか聞かなくなってしまったんだ」
「そうなると宰相殿が一番の権力を持つことになるな・・・」
清十郎の言葉にウェインは頷く
「もともと前王様の子供たちはみんな王族の直轄地を分けて公爵家の立ち上げや今の公爵家や侯爵家に養子縁組や嫁いだりするなどの予定だったんだけどそれが今の宰相の敵対するグループでね
きっと前王様が勢力バランスを考慮した結果の意向だったんだと思うけれどそれが宰相閣下は気に入らなかったんだろうさ
で、次に待っていたのは粛清の嵐さ。次々に無実の罪を着せ遠ざけた者たちを粛清していったよ。もちろん前宰相閣下なんてひどいあり様で縛り首の上に城門前に1週間さらされたからね・・・
前王様のご逝去も真実は弑されたのかもしれない」
ふー・・・とここまで話ウェインは溜息を吐く
「口が渇いたね。お茶を持ってくるように頼んでくるよ」
そういうとウェインは一旦席を離れた。清十郎はその間、ウェインの話を整理する
清十郎は排除した理由におおかた目星をつけた
王の親類が多ければそれだけウェインの言う通り各有力家を継いでいくか立ち上げる形で領土を配して統治させるのが普通の流れだ
けれどその土地は大体、豊かであったり重要な拠点を有していたり重要地をまかされることが多い。宰相が権力を持てば次に待っているのは粛清し空きができたポストに自分の息のかかるものを送り込みその土地に充てることで権力の盤石化を図ることは自然の流れだ
(しかしそうなるとこのオーランド王国は崩壊一歩手前かもしれぬ。アボルグは平和そうにみえるがウェイン殿が陰ながら頑張っておるからかもしれんな。それもかなり危険な立ち位置か)
清十郎は今までの話から推測し考えを導き出していく。ある程度見えてきたところでウェインが戻ってきた
「お待たせ。いまターニャに頼んだからすぐにでも持ってきてくれると思うよ」
「うむ。こちらの世界に来てからすっかり紅茶の虜よ」
「はは、それはよかったよ」
ウェインと清十郎が何気ない会話をしていると扉がノックされ紅茶を淹れたポットとカップ2つをのせたトレーをもってターニャが入ってくると静かな所作で2人の前に置き一礼して部屋を出ていく
ポットから淹れられた紅茶の爽やかな香りが部屋を満たし話が続けられる
「まあ、そんなわけでね。オーランド王国はかなり危険な状態なんだ」
カップに口をつけ紅茶を一口飲むとウェインは口を開いた
「であろうな」
清十郎はそれに頷き返答するとウェインは話の続きを話し始める
「で、僕の話にもどるけど弟妹達が死に追いやられる中、フリーシア様だけは理由をつけて死に追いやることができなかったんだ。
フリーシア様は、弟妹達が死に追いやられる情報を早くに掴んでいてね。エドガン様の王位の支持をいち早く表明したんだ
結果として表立って始末ができなくなったエドガン様はフリーシア様を親衛隊ごとロックバランの最前線に送り込んだのさ、それこそ激戦区にね
毎日フリーシア様と生き残るのに必死だったよ。日を追うごとに親衛隊の仲間も数を減らしていって最後に生き残ったのはフリーシア様と僕とアンガスだけさ」
そこでアンガスの名前が出てきたところで清十郎は驚く
「なんとアンガスは元親衛隊か!」
「うん。アンガスは副隊長で男爵位を持っていたよ。もう爵位は返したけどね
で、たった3人になってしまって追い詰められた時にフリーシア様が一計案じたのさ」
「死んだことにでもしたか」
「さすがだね。その通り。ただ普通に髪の一部を持っていて死んだという話だけでは猜疑心の強いエドガン様も宰相閣下もだますことはできない。そこでフリーシア様は血統魔法を使って死を偽装したのさ」
「ほう、血統魔法とな?」
「このオーランド王国もさかのぼれば異世界者が作った国なのさ。だいぶ代を重ねて薄らいでしまったからフリーシア様だけが唯一使えたんだ。エドガン様やほかの王族の方々、前王様さえ知らなかったんじゃないかな。最後の最後で使われたからずっと隠していたんだと思う。フリーシア様もそうおっしゃっていたしね。その魔法をもってエドガン様と宰相閣下を欺くことが出来たんだ」
「ふむ、その魔法とは?」
「清十郎」
清十郎の問いにウェインの雰囲気に真剣味が増す
「君は僕の味方でいてくれるかい?」
「ふむ・・・前の世界には一宿一飯の恩という言葉があってな。世話になった恩をわすれるなという意味なんじゃ。お主には今も世話になっておる。それにイリア殿やミーニャ殿、ビット殿とも浅からぬ縁を持った。お主たちになにかあれば助けるのは当たり前の話じゃ」
「一宿一飯の恩・・・いい言葉だね。すまない意地悪な聞き方をしたよ」
ウェインは清十郎の言葉に己の言葉に恥じたのか頭を下げると顔をあげ話始める
「清十郎、僕は君を信じるよ。フリーシア様は身代わりを作ることが出来るんだ。瓜二つ、血すら通うものをね」
「なんと!」
「うん、驚くのも無理ないよね。で、フリーシア様は身代わりを作ると体を汚し心臓に剣をさしていかにも戦場で死んだようにみせかけて死を偽装したのさ
僕はその身代わりをアンガスと共に持ち帰ってエドガン様に報告したんだ。僕とアンガスはフリーシア様を死なせた罪として死刑になるところを万が一にとフリーシア様が直筆の助命嘆願書をしたためてもたせてくれたから免れたよ
でも助かったのはエドガン様が自分よりも優れたフリーシア様がいなくなって機嫌がよかったのが一番の理由かもね
だけど命は助かったけど降格されてアボルグの街に閉じ込められたのさ。その時にアンガスは爵位を返し職も辞したけどね」
「だから、逃げ帰ったと言われていたのか」
「ビットには本当に申し訳なく思うよ。妻もあのあと心労がたたってビットを産んですぐに天に召されたよ」
ウェインはそういうと目を伏せた
良いなと思いましたらブックマークの登録、評価をぜひよろしくお願いします
感想もお待ちしております




