表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/111

第16話 イグリット工房

ブックマークありがとうございます!

徐々に増えていくブックマークと評価、PVに涙が出そうになるくらいうれしいです!

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします


ミスリルの表現を訂正しました

翌朝、清十郎は昨日と同じように髪を頭の後ろで縛り刀を持って庭に出る

昨日と違うのは黒いズボンに白のYシャツにジャケットを着ていることだろう


「うーむ・・・昨日の晩もイリア殿は眼をあわせてくれなんだのう・・・」


 念入りに体を伸ばしながら昨日の食事の様子を思い出し唸る


昨晩の食卓はウェイン、イリア、ビット、清十郎で囲んでいたがウェインは何か考える仕草をした後、特になにも言わずイリアの様子を苦笑いしながら見ているだけでミーニャもなにもいわず静かに給仕に徹していた


やがて素振りに入ると雑念は消えていき静かに心が落ち着いていく

深く深く沈みこんでいく意識の元、相手を作り出し戦う

相手を切り伏せ霧散したところで意識が浮上する


「ふー・・・」


一息ついたところで清十郎はタオルをもって邪魔にならないところに立っているミーニャに声をかける

イリアの姿はない


(イリア殿はおらぬか・・・)


「おはようミーニャ殿」


清十郎の心にチクりとしたものを感じるが気を取り直してミーニャに挨拶をする


「清十郎さま、おはようございます。タオルをどうぞ」


「忝い」


ミーニャは挨拶をすると手に持っていたタオルを清十郎に渡す

タオルに顔をうずめると冷やされたタオルの感触が清十郎の火照った顔を冷ましていく


「ふむ」


清十郎は顔を屋敷の角に向ける


「ビット殿もおはよう!」


清十郎が声を張り屋敷の角に向けて声をかける

ミーニャもその声量に吃驚し顔を角に向けると何者かが走り去っていく音が聞こえた


「清十郎さまビット様が申し訳ありません」


「いやいや、気にするな。しかしビット殿も何故、こちらを覗いておるのであろうな」


清十郎の問いにミーニャも首を傾げる


「ま、分からぬものは仕方がない。いずれわかるであろう」


清十郎そう区切ると汗を拭き朝食を摂りに食堂へ向かった


アボルグの街の朝は早い

朝食を終えた清十郎は早速とばかりにミーニャを伴って街へと繰り出していた

用件は昨日行くことが出来なかった工房と防具屋だ

上層区の閑静な屋敷街を抜け、検問所を抜け中層区に入り人通りが多くなってきたところをミーニャと歩いている


「はぁ」


清十郎の覇気のない何度目かになる溜息をミーニャは聞きながら声をかける


「清十郎さま、そう気にしても仕方ないですよ」


「しかしのう・・・」


原因はイリアが全く清十郎に目を合わせてくれない事だ

しゃべりかけてもはい、いいえのみ、雑談の類には一切無視だ

これには傷つくなというのが無理だ


「気にするだけ無駄ですよ。乙女心はそういうものですよ」


ミーニャは慰めにもならない言葉を清十郎にかける


ミーニャと何度目になるかわからない同じような内容の話をしているうちに大通りを渡り西にさらに進んいくとその店はあった


ノミと金槌の看板を掲げている一見の店だった

おしゃれさはなく武骨なレンガ造りの一軒屋の店だ


「ふむ、ここか」


「ええ、バングリー様のお弟子さんのイグリット様が営んでおられる工房ですよ」


早速とばかりに店に入る

カランカランとドアに取り付けられた鐘が心地よくなる


店内は金槌をはじめ釘抜きやらペンチやら各種道具がならんでいた


「はーい。いらっしゃーい」


清十郎は店内を見て回っていると1人の小柄なTシャツに厚手のズボンを履いた女性が店の奥から現れた

年は20過ぎぐらいだろうか茶色の縮れた髪を頭の後ろでまとめている女性だ


「あら?初めてのお客さんだね。ようこそ、イグリット工房へ」


「ああ、丁寧にすまぬな。鏨にヤスリ、金槌に研ぎ石がほしいのじゃが」


「それなら、鏨から見ていこうか」


そういうと店員の女性は鏨が並んでいる棚から案内していく

一つ一つの道具がきっちり丁寧な仕事で作り上げられている


「見事なものじゃのう」


「うん。うちの旦那が丹誠込めて作り上げてるからね

適当な仕事はしてないよ」


清十郎に呟きに店員の女性が相槌を打つ


「奥方であったか。これは失礼をした」


清十郎が丁寧に頭を下げると店員の女性は慌てたように首を振る


「いやいや、そんな大した者じゃないよ!まあ、あたしのことはエリーと呼んでくれるといいよ」


「そうか、儂は清十郎だ。エリー殿よろしく頼む」


「うん。よろしく。ところで清十郎は道具についてみる目があるけど何かの職人かい?」


先ほどから道具をひとつひとつ見る清十郎の姿に感じるものがあったのかエリーが尋ねる


「うむ。刀工をやっておるのじゃが、こちらでは鍛冶か、をやっておる」


「そうか、だから見る目が職人なんだね。これを機会にお得意さんになってくれると嬉しいよ」


「うむ、これだけの腕前恐れ入った。ぜひ懇意にさせていただく」


清十郎はそういうと鏨、金槌、ヤスリを種類ごとすべて買う


(そういえば金床も必要であったな)


清十郎はそう思い金床も一つ買う


最後に研ぎ石を見る、ひとつひとつ指でさすりその粒度を確認していく


(うむ。あらかたそろっておるな)


「エリー殿、ここにある研ぎ石のすべてもらえるか」


「え?すべてかい?」


エリーは清十郎の言うことに驚いた。なにせ研ぎ石だけで10種類以上はあるものをすべて買うというのだ


「ああ、すべてほしい。重さがある故、届けてもらうことはできるか?」


「あ、あぁ、それはいいけど・・・。まぁ買ってもらうにはいいか

じゃあ、ほかの道具もまとめてあとで配達するよ」


エリーは自分の中で納得したのか頷いて快く配達を了解する


「そういえば道具はそれでいいとして材料はどうするんだい?

うちは工房だけどインゴットも取り扱っているよ?」


「そうであった、材料をすっかり抜けておった」


清十郎は前世ではすべての工程を自分でやっていた為、材料を買うということを失念していた


「ならば金属のおおまかな切り出しとある程度の加工をやってもらえるか?」


「うーん・・・ちょっとまってて、旦那にきいてくるからさ」


そういうとエリーは店の奥へと入っていった


しばらくするとバングリーとよく似た背丈で髭を三つ編みにして髪がある筋肉に包まれた男がでてきた

おそらく彼がイグリットだろう


「お前さんか、加工をしてほしいってのは」


「あぁ、頼めるか」


「やるのはかまわねーが、その前に金属を決めないといけないな。金属は決まっているのか?」


「鉄でやるつもりであったがどのような金属を取り扱っているのじゃ?」


「うちで取り扱っている物は銅、鉄、白金、金、ミスリルまでだな

それ以上の金属は扱いたくてもこっちまでまわってこねえ」


(うーむ、白金とミスリルとはなんじゃ?前世では見たことがないのう・・・)


清十郎は腕を組むと考えこむ


「どうした?」


「いや、白金とミスリルというのは見たことがなくてな」


「よし、なら現物をみせてやる。エリーから聞いたが鍛冶師なんだろ

なら現物を見れば一番はやい」


そういうとイグリットは店の中へとはいっていった

しばらくすると太い腕に2本のインゴットを持って帰ってきた

ごとりごとりとカウンターに置く


それをみて清十郎は心が弾む


イグリットは並べ終わると指をさしインゴットを説明し始める


「こっちが白金だ。こっちがミスリル」


白金と呼ばれた方は名前の通り白っぽく輝いている


「ふむ、触ってみてもいいか?」


「あぁ、もちろんその為にもってきたからな」


そういうと金槌も一緒にイグリットは渡してくる。叩いて確認してみろということだろう


清十郎は白金のつるつるした感触を味わいながら金槌でたたくとカンカンと若干高めの音が聞こえてくる


「ふむ、柔らかく加工しやすそうな金属であるな」


「まあ、白金は細工物によく使われるからな

さすがはそれくらいのことは鍛冶をやっているだけわかるか」


イグリットは面白そうに笑うと次はそいつをやってみろとミスリルを指さす

清十郎は銀色に輝くミスリルを触ってみる

急速に体から何かを奪われた感覚を覚え吃驚して手を放す


「ははっ!ミスリルを初めて触るやつはその感覚に吃驚するんだ

お前さん本当にミスリルを知らないみたいだな」


「なんじゃ!知っておったなら教えんか!」


「悪い悪い!ちょっと試してみたくなってな

ミスリルは貴重品だからな。触ったことがないと言って出させて盗むやつもいるんだ」


「ううむ。そういう理由があるなら仕方あるまい

儂には次からは言ってくれよ」


「あぁ、悪かった。さぁ思う存分試してくれ

何かが持ってかれる感覚がするのはミスリルが他の金属よりも魔力を通しているからだ

ミスリルの特徴だな。慣れると吸われないように自分で操れるようになるから試すんだな」


イグリットはそういうと腕を組んだまま様子を見守る


(ふむ、面白い金属もあるものじゃな)


清十郎はそう思いながらミスリルに触れる

今度は持ってかれる感じがするが徐々に薄らいでいく

慣れてきたのかと思うとミスリルの輝きが強くなる


「ほぅ・・・」


「おい、もう充分だ魔力を抑えろ」


イグリットが清十郎に声をかける


「どうやって抑えるんじゃ?」


「む!知らねえのか。ならミスリルに持っていかれる感覚に蓋をするようにしてみろ」


イグリットに言われたとおりに持っていかれる感覚に板で遮るイメージをする

すると光が徐々に治まり元の銀色に戻った


「お前さん、魔力操作は初めてか?」


「うむ。まだ魔力なるものがなんなのかもよく分かっておらん」


「なら、今ので抑え方を覚えておけよ」


「うむ。感覚はつかんだ故、大丈夫じゃ」


「ミスリルの特徴として魔力を込めて魔法を放てば威力を増すことが出来るし武器にすれば硬さと切れ味が増すぞ。魔法剣としても使えるからスピリットの類も斬ることができるしな」


「なるほど」


清十郎はイグリットの話を頭の中で整理しながらミスリルを手にすると金槌でたたく

カーンカーンと響く音がする


(ふむ、プラチナだとそのまま加工できるがミスリルだと薄く引き伸ばしてもらわねば鏨と金槌では加工は無理か)


清十郎は考えをまとめるとイグリットに言う


「決めたぞ。ミスリルをこのぐらいで薄く丸く引き伸ばしてほしい」


清十郎は軽く親指と人差し指で円を作りこれくらいでと言う


「それくらいならお安い御用だがインゴットから削り出すとあとのインゴットが売れなくなるからな

インゴットごと買ってもらわないといけなくなるがそれでもいいか?」


「ああ。それでかまわん」


「ならミスリルのインゴット一本で金貨100枚になる。加工賃はおまけだ」


「む、金を引き出してこないといかんな」


「まぁそこらへんはエリーと話して決めてくれ。それじゃ俺は奥で作業してくるからまた何かあったら言ってくれ」


そういうとイグリットは店の奥へと入っていった


まったくあの人はとエリーはちょっと呆れ気味で清十郎に謝る


「愛想がなくて悪いね。でも悪い人じゃないんだよ」


「それは気にしなくてよい。職人とはそういうものじゃ」


呵々と清十郎は笑う


「それでインゴットを含めて全部で金貨120枚ちょっとだけどおまけして金貨120枚ちょうどにしとくよ」


「それはありがたいが今は手元にそれだけの金がないんじゃ」


「あれ?清十郎さんは証書取引はしらないのかい?」


「証書取引とな?」


「こいつが契約書になっていて金額と署名、最後に血印を押してもらうことで代金を銀行から引き出してもいいですよって書類なんだ。こいつを作れば後日あたしがお金を引き出してくるよ」


「ほう、それは便利じゃな」


「この契約書自体が2部構成になっていてギルド側に保管されているからね。この書類を持って行ってもう一部の契約書と併せて本物と判断されてお金が引き出される仕組みさ

まぁ、商人、魔術師、冒険者とそれぞれのギルドで分けてでしか使えないのが疵だけどね」


「清十郎さんはどれかの証明証をもっているかい?」


「ああ、冒険者ギルド証をもっているぞ」


「なら、冒険者ギルドの契約証はこれだね」


エリーはカウンターの下を探して一枚の書類を出す。相変わらずミミズののたまった文字にしか見えないがミーニャが横から覗き込み清十郎にうなずく。本物ということだろう


「エリーさん、清十郎さんは文字がかけないので私が代筆をします」


「あいよ、じゃあ私は金額をメイドさんは名前をお願いね」


清十郎は頷くとターニャが金額を書きそれをミーニャが確認し名前をさらさらと書いていく


「では清十郎さま、ここに血印をお願いします」


言われた清十郎は刀の鯉口を切ると少しだけ刃に指をあてる。チリっとした痛みが走ると指から血が垂れてくる。それをミーニャが指定した位置に指で押す


すると契約書が光を放ちしばらくすると光が治まった


「これで契約は完了さ。あとは私がこれをもって冒険者ギルドに行くと換金できる仕組みだよ」


「もし清十郎さんの残金が足らないと貸付になるから気を付けておくれよ」


「うむ。気を付けることにしよう」


エリーの心配に清十郎は頷いて答える


「じゃあ、配達先だけどどこに配達すればいい?」


「ハーミット家でお願いします」


エリーの問いにミーニャが答える


「ハーミット家かい!またすごいところと縁ができたね。夕方には加工も終わるだろうからそのころに配達するようにしておくよ」


「面倒だがよろしく頼む」


清十郎はターニャに礼を言う


「さっきも言ったけど気にしないでいいよ。これも仕事だからね。今後ともひいきにしておくれ」


「こちらこそこれからもよろしく頼む」


エリーと清十郎はお互いに笑顔で挨拶を交わすと清十郎は店を後にした


良いなと思いましたらブックマークの登録、評価をぜひよろしくお願いします

感想もお待ちしております

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ