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第15話 服を買おう

清十郎は現在、己の行動について後悔しつつあった


「清十郎さま、次はこちらでございますよ」


満面の笑みを浮かべ次々に服を持ってくる

かれこれ2時間ほど清十郎は終わりのない着せ替え人形となっている


「ミーニャ殿、もういい加減終わりにせぬか・・・」


「いえいえ、清十郎さま

清十郎さまほどの容姿の男子はそれ相応の見映えする衣装を身に纏わなければなりません

今はハーミット家の来客用の衣装でございますのでここでご自分の衣裳をしっかりと用意いたしましょう」


ミーニャの言葉に周りの店員も頷く

清十郎は黒髪黒目の珍しい髪と瞳をしている上にはっきりとした目の形に整った顔立ちの良さも相まって美男子の類だ

時折浮かべる年相応らしからぬ儚げで憂いを帯びる瞳にすれ違う貴婦人たちから好奇の視線を受ける

本人はそのことに頓着しないが仮にもハーミット家に仕えるミーニャから見れば放っておくことなどできない


「さぁ、つぎはこちらにお着替えください」


まだまだ終わりそうにない着せ替えに清十郎は溜息をつき安易に服屋へ向かった己を呪った


清十郎が服屋へ向かう数時間前バングリーは話が終わると早速とばかりに自分の工房へ清十郎を連れて行こうとしたが面会の予定があると言ってターニャによってそれは阻止された

バングリーはそんなものどうでもいいとか言っていたが最終的に切れたミーニャの剣幕に負けた形だ

去り際に泣きながら近々かならず工房をのぞけよ!と言って迫ってきたので必ず行くと言って納得させた


部屋を後にした後、黒のローブ姿で全身を包み陰気な雰囲気を漂わせる男とすれ違った時、清十郎の姿を見て何やら一瞬驚いていたが本当に一瞬のことでそのまま何かあるわけでもなく立ち去って行った

おそらくバングリーの次の面会者という奴だろう


アンガスは冒険者ギルドのロビーでエリザ達と合流すると金の事をパーティーで話さないといけなくなったから全てが片付いたら次こそは飯をおごるとと言って別れた


別れた後、鏨や金槌、研ぎ石など工具類が欲しかったがミーニャが次は洋服ですねと言われ有無を言わさないその態度にそのままなしくずし的に大通りに面した服屋を渡り歩き続けて三軒目になる


買って予備の者はすべて屋敷におくる手配をするミーニャを横目に清十郎は溜息を吐く

さすがに買い物にまさかこれほど時間がかかる経験は今までにない


「さぁ清十郎さま、次へ・・・」


「ミ、ミーニャ殿、とりあえず今日のところは時間もないゆえ服選びはこの辺でしまいにせぬか」


「うーん、そうですね・・・」


清十郎をミーニャは人差し指を頤に当てながら上から下に眺める

今の清十郎は黒を基調としたジャケットにズボンをはいており中には白い光沢のあるYシャツを着ている

すべてタランティーネの糸と呼ばれる素材で編みこまれており相当な高級品である


「まぁ、一応合格点でしょう

まだ見足りない気がしますがとりあえずはそれで良しといたしましょう」


ミーニャの合格という言葉に清十郎は安堵する

いままでこれほど安堵したことがあっただろうか


買い物を終え店をでると太陽は傾き夕暮れ時なのがわかる


「ミーニャ殿、少し疲れた故に休憩いたそう

馳走するゆえ、どこか勧めの場所はないか?」


「では、すぐ近くのクマの子亭に向かいましょう」


ミーニャの勧めで大通りを南へ少し進むと看板にクマの絵が描かれた店についた

アパルトメントの一階部分がレストランとなっているようだ

ミーニャについて中に入る


「いらっしゃいませ。お二人ですか?お好きな席へどうぞ」


元気で張りのある声が聞こえてくる

声の通りに二人掛けの空いている席にすわると店の奥からミーニャと同い年くらいの赤髪をショートにした鼻回りにそばかすがある女性が水の入ったコップを持ってきた


「あれ?ミーニャじゃない

ん・・・んんん???

もしかしてデート!?」


店員の女性はテーブルにコップを2人分置くとミーニャと清十郎を見てイタズラ気に笑う


「ちがうから!この方はハーミット家の客人なので失礼のないように!」


「あ、ちがうのか。これは失礼しました

私、レイルと申します。ここクマの子亭で給仕をしております」


「うむ、別段、気にはせんゆえ、そうかしこまらずとも良い

儂は堅苦しいのは嫌いゆえ普段通りに接してくれるとうれしいのう」


「わ、わかりました。ではそうさせてもらいます」


赤毛の女性レイルはそう言うと珍しいものでも見るように清十郎を見る


「でも、変わった人だね。なんか私より年下に見えるのにおじーちゃんと喋ってるみたい」


「ははは。よく言われるのう。ところで注文を取らんでもいいのか?

後ろで店主がすごい目でみておるぞ」


清十郎に言われてレイルは後ろを振り返ると顔を青ざめて慌てた様子で向き直る


「ご注文は何にしましょう!」


「レイル、サンドイッチと紅茶をお願い」


「サンドイッチと紅茶ね。すぐ持ってくるからまっててね」


清十郎が文字を読めない事をしっているミーニャがすぐに答えるとレイルは復唱するとすぐに店の奥へもどっていった。店主のなにやら怒る声が聞こえたことからレイルが叱られたのだろう


「まったくレイルは困った子ですね。清十郎さま失礼いたしました」


「よいよい。あれくらい元気でないとな」


呵々と笑う清十郎にミーニャもニコリと笑う


「ところで清十郎さまは何か買うものがあったのではないですか?」


「うむ。鏨とか金槌とか研ぎ石などの工具が欲しくてのう

あと、できれば採取作業ができるような服も欲しいな」


「そうですか・・・

そうしますと今日は時間がなくなってしまいましたね

申し訳ありません」


「構わんよ。儂のことを思うて選んでくれたのは十分に分かっておる

また今度行けばよい」


申し訳なさそうに謝るミーニャに清十郎は首を振る


「では明日にでもバングリー様のお弟子さんが工具店を営んでおりますのでまずそちらに行きましょう。その後、オーダーで作ってくれる防具店にご案内いたします」


「おぉ、バングリーの弟子か

あやつもしっかり師匠の務めをはたしておるのう

そういえばあやつの年はきいておらなんだな」


「バングリー様は今年で90になられますよ」


「なんと!あやつ90か。それにしては若いのう」


「あぁ、清十郎さまにはご説明していませんでしたね。バングリー様はドワーフ種ですよ

なので寿命は150歳くらいと言われていますからまだまだ現役なのですよ」


「ほう、人間ではないのか」


「そうですね。またこの説明は後日致しましょう」


そうミーニャが区切るとレイラがサンドイッチと紅茶を持っては運んできた


「おまたせー

ヨチドリのテリヤキのサンドイッチとエッグポテトサンドだよ

あと紅茶はテナン産の紅茶になります」


レイラは軽い感じでメニューを案内するとテーブルの上にサンドイッチと紅茶を置く


「ではごゆっくりー」


次のお客の注文が控えているのかそれを言うとレイラはすぐに店の奥に戻っていった


「さぁ、たべるかのう」


清十郎はヨチドリのテリヤキのサンドイッチを掴むと口にほおばる

噛んだ瞬間に柔らかな食感と甘味は強いが肉の味を引き立てるソースの味が口の中に広がる


「うまいっ!」


思わず叫んだ清十郎、どこか微笑ましそうにミーニャは清十郎を見ながらポットからカップに紅茶を注ぎ清十郎に差し出す

差し出された紅茶を口にすると口の中に残る油っこさを清涼な香りが消してくれる

その調和に清十郎は思わずほぅっと声がでてしまう


「ふふ、清十郎さま、ここのヨチドリのテリヤキは看板メニューなのですよ」


「ほう、そうなのか」


「ええ、時間をかけて弱火でしっかり火を通した後に最後に強火でやいてその上に秘伝のソースをかけた一品だそうです」


「うむ!道理でうまいはずじゃ!」


「紅茶もテナン産の茶葉ですので清涼感があって肉の味を消すのにいい組み合わせですね」


ミーニャはそういうと紅茶を口にする


清十郎はその説明を聞きながらもう一つのエッグポテトサンドにも手を付ける


口にいれた瞬間、濃厚な卵な味とほくほくとした芋の感触が口の中に広がり酸味のある調味料が味を引き立てる。この味にも清十郎は満足した

食べ終わったところでテナン産の紅茶を口にし清涼感を味わう


「むぅ、ほとんど儂がたべてしまった」


「気になさらないでください

私はこの時間に食べると夕飯が食べられなくなってしまいますから紅茶だけで十分ですよ」


ほとんどサンドイッチは清十郎が食べてしまったが満足気な清十郎をみてミーニャは微笑ましく思いテナン産の紅茶を口にする

全て食べ終えたところでミーニャがさてと、と席を立つ


「清十郎さま、そろそろ帰りませんと夕飯に遅れてしまいます。そろそろ行きましょう」


「そうじゃな。そろそろ帰ろうかのう」


席を立ち会計を済ませ店をでるともう陽が沈みあたりは暗くなっていた


「帰りは歩いて帰るのか?」


清十郎はミーニャに尋ねるとミーニャは首を振る


「いいえ。今からでは上層区の門限に間に合いませんので辻馬車を拾います」


「ほう。そんなものがあるのか」


「ええ。あっちょうどきましたね」


ミーニャがそういうと手をあげると馬のいななきと共に一台の馬車が止まる


「こんばんわ。どこまで行かれますかい?」


「上層区の橋までお願いできるかしら」


「わかりやした。では大銀貨1枚になりやす」


「ではこれで」


ミーニャは財布からお金を取り出し男に手渡すと男はどうぞと馬車に乗るのを促す


「さあ、清十郎さまお乗りください」


「あ、ああ」


ミーニャが慣れた様子で辻馬車の男とやり取りする様子を見ていた清十郎は声をかけられてはっとし馬車に乗り込む。清十郎が乗り込んだのを見計らって馬車は進みだす


「ほう、これは便利じゃな」


「はい。辻馬車は大通りで走っておりますので誰も乗っていないようであれば手をあげれば止まってくれますよ。大銀貨1枚で上層区内以外はどこにでもいってくれますので大変に便利なんです」


「上層区内はダメなのじゃな?」


「ええ。上層区は身分がしっかりしていないと入れないんですよ

なのであっしらみたいな人間は通れないんです」


ミーニャと清十郎の話に辻馬車の御車の男が馬を操りながら割って入る


「ふむ。ならば冒険者ギルドでも登録すればいいのではないか?」


「ははは。旦那様はご存じないと見える。冒険者ギルドも登録を続けるのに約束事があるんですよ」


「そうなのか?」


問いかける清十郎にミーニャも頷く


「依頼を各ランクごとに月に1回は受けること継続依頼はその限りではない。という規則があるんです」


「そこのお嬢様のおっしゃるとおりですよ

最下級の依頼じゃぁ、馬車の売り上げより安い、けれどランクが上がれば危険度も上がるし結局、馬車を一日操ってた方が安全でもうかるんです」


そうなのか。大変なのじゃな


「大変なのは旦那様もお嬢様も一緒ですよ。みんな生きるのになんやらかんやらあるもんですよ。

っと、しみったれた話をしちまいました。もうすぐ着きますよ」


御車台の男はそういうとそれ以降前を向いたまま何も言わなかった


清十郎は目の前に見える橋をみながら今日の一日を振り返っていた


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