第1部 第2章 重すぎるイケメン竜騎士団長 第2話 「理想の姿」へと変身を遂げた私
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本作は、「想像力だけが取り柄の孤児少女が、持ち前のおしゃべりとマシンガントークが災いし、修道院を追放されてしまい、生き延びるために足を踏み入れた『死の森』で、古代の遺物『幻影の三面鏡』を拾う。それはなんと、思い描いた通りの姿へ変身できる神の道具だった!」という物語です。
お楽しみいただけますと幸いです!
「失礼しちゃうわよね、平庸だなんて! 誰のおかげで地竜の胃袋に収まらずに済んだと思ってるのよ!」
ルシアン様から貰った(叩きつけられた?)銀貨三枚をポケットの中でジャラジャラと鳴らしながら、私は宿屋の物陰で元の「赤茶髪のアリア」に戻っていた。
変身を解いてしまえば、魔法の消費も一切ない。
悔しさは残るものの、背に腹は代えられない。私はいただいた銀貨で一晩の宿代と、温かい羊肉のスープ、焼き立てのパンを手に入れることに成功した。
「んん〜〜っ! 美味しい! かび臭くないパンと、ちゃんとお塩の味がするスープ! 生きててよかった……!」
宿屋の小さな部屋で、私はベッドの上に深々と腰掛け、スープを口に運んだ。
修道院を追い出された時はどうなることかと思ったけれど、この【三面鏡】のおかげで、ひとまず野宿も飢えも回避できた。
(でも……これからどうしようかしら)
三面鏡を手で撫でる。
変身した姿なら凄まじい魔法が使えるみたいだけど、正体を隠しながらこの街で生きていくには、もっと注意深くならなきゃいけない。なにせ、街中には「銀髪紫眸の命の恩人」を探して血眼になっている最強の竜騎士団長がいるのだから。
(あのルシアンって人、顔は信じられないくらいイケメンなのに……言動が重すぎるのよね。『俺の番だ』とか『一生愛する』とか……あんなの絶対、夢見がちな妄想野郎よ! 私の想像力の方がまだ現実的だわ!)
散々心の中で毒づいていると、ふいに窓の外から鐘の音がけたたましく鳴り響いた。
カンカンカンカンッ!!
「な、なに!? 火事!?」
慌てて窓を開けて外を覗き込む。
街道の先、街の東門付近から激しい黒煙と赤黒い火柱が上がっていた。悲鳴と怒号が夜空に木霊する。
「魔物だ! 魔物の群れが東門を破ったぞーっ!」
「助けてくれ! 竜騎士団はどこだ!?」
街中がパニックに陥り、人々が一斉に逃げ惑い始めた。
(魔物……!? こんな大きな街の目と鼻の先に!?)
逃げなきゃ、と一瞬思った。でも、窓から見える東門の惨状の中に、小さな子供を抱えて逃げ遅れているお母さんの姿が見えた。そのすぐ後ろから、巨大な漆黒の狼のような魔物が迫っている。
「あっ……!」
身体が勝手に動き出していた。
部屋を飛び出し、階段を駆け下りながら、私は皮袋から三面鏡を取り出す。
(平庸だなんて言わせない……ううん、そんなことより、誰も死なせたくない!)
人気のない路地裏に滑り込み、鏡の中央を強く指でなぞる。
(私に力を貸して! 誰も傷つけない、圧倒的な強さを持った……大人の美少女の姿に!!)
眩い銀色の光が全身を包み込む。
一瞬で視界が高くなり、背中にシルクのような銀髪が広がる。漆黒の優美なドレスを纏った「理想の姿」へと変身を遂げた私は、路地裏を蹴って跳躍した。
◇
「ギャオオオオンッ!」
東門の前で、巨大な魔狼が鋭い爪を振り下ろそうとしていた。
倒れ込んだ母親が悲鳴を上げ、幼い子供を庇うように抱きしめる。
「そこまでよ!」
空から舞い降りた私の声とともに、紫色の眩い魔力の奔流が魔狼を直撃した。
ズドォォォォンッ!!
「ギャウン!?」
一撃で吹き飛ぶ魔狼。驚愕の表情で私を見上げる親子に、私は優雅に微笑んで手を差し伸べた。
「怪我はないかしら? さあ、早く安全な場所へ」
「あ……ありがとう、ございます……! まるで女神様……!」
親子が走って逃げていくのを見送り、私はふうと息を吐いた。
しかし、安堵したのも束の間。街のあちこちから、さらに数十匹の魔狼が姿を現していた。
(ちょっと待って、多すぎじゃない!? これ、街が崩壊しちゃうわよ!)
「総員、防衛線を維持せよ! 住民の避難を最優先だ!」
聞き覚えのある凛烈な声。
見れば、ルシアン様が部下たちを率いて、圧倒的な剣技で魔物たちを次々と切り伏せていた。しかし、魔物の数が多すぎて防衛線が突破されかけている。
「ルシアン団長! 後方からも敵が——!」
「くっ……!」
背後から襲いかかる魔物に、ルシアン様が剣を構え直したその時。
「よそ見をしてちゃダメでしょ、団長様!」
私が放った紫の光弾が、ルシアン様の背後に迫っていた魔狼を粉砕した。
弾け飛ぶ光の粒子の中で、ルシアン様がゆっくりと振り返る。
夜風に揺れる銀色の髪、怪しく光る紫の瞳。そして、規格外の魔力——。
ルシアン様のエメラルドグリーンの瞳が、歓喜と情熱で激しく見開かれた。
「……お前……! やはり、来てくれたのか……! 我が番よ!」
(だから『我が番』って呼ぶなーーーーーっ!!)
魔物の大群が迫る戦場で、私と重すぎる竜騎士団長の、予期せぬ二度目の遭遇が果たされてしまったのだった。
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【作者より】
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正体を隠したいポンコツ変身少女×一途すぎる最強竜騎士の、勘違いから始まる爆笑&胸キュンハイファンタジー・ラブコメ!
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次回、第2章 第3話「漆黒の長剣に蒼白い闘気が燃え上がる」を。この後、本日 15:10 に、お届けする予定です。




