第1部 姿を変える呪宝で理想の美少女に化けたら 第1章 第1話 驚きのあまり、私は自分の頬を思いっきりつねった
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本作は、「想像力だけが取り柄の孤児少女が、持ち前のおしゃべりとマシンガントークが災いし、修道院を追放されてしまい、生き延びるために足を踏み入れた『死の森』で、古代の遺物『幻影の三面鏡』を拾う。それはなんと、思い描いた通りの姿へ変身できる神の道具だった!」という物語です。
お楽しみいただけますと幸いです!
「いったぁい!? ゆ、夢じゃない……!? 本当に私、こんなに綺麗な大人のお姉さんになっちゃったの!?」
声を出すと、普段の少し甲高い自分の声とは違う、鈴を転がしたような澄んだ美しい声が響いた。
背も伸びているし、修道院のだぼだぼな服が、なぜか体のラインにぴったり合った上品な漆黒のドレスに変わっている。手元の三面鏡を見ると、中央の鏡には変身後の私の姿が映り、左側の鏡には小さく『元の姿に戻る』という文字が青い光で浮かび上がっていた。
(この鏡……本当に思い通りの姿になれる魔法のアイテムなんだ! すごい、すごすぎるわ! これがあれば、どこに行っても「冴えない孤児のアリア」だってバレずに、新生活をやり直せるじゃない!)
胸を躍らせ、私は浮かれ気分でステップを踏んだ。
これなら修道院を追い出されたことなんて、むしろ人生最大のチャンスだったと言える。このパーフェクトな美貌とスタイルがあれば、大きな街に行っても優雅にお仕事を見つけられるかもしれない。
だが、私の能天気な妄想は、突如として森の奥から響いた凄まじい地鳴りによって打ち砕かれた。
ズゥゥゥゥン……!! ズゥゥゥゥン……!!
「ひゃいっ!?」
地面が激しく揺れ、鳥たちが一斉に大空へと飛び立っていく。
樹木が紙くずのように倒れ、森の暗がりから姿を現したのは、体長十メートルを超える巨大な怪物だった。全身を岩のような黒い鱗で覆い、口からは真っ赤な炎を撒き散らしている。
(な、なになになに!? 何なのあの怪物!? お話に出てくる『地竜』じゃないの!?)
生きて街へ辿り着く前に食べられてしまうと恐怖で震え上がったその時、地竜の足元で鋭い金属音が響いた。
キンッ! ガキンッ!!
「ぐっ……! まだ牙を剥くか、不浄の獣め!」
そこには、地竜の猛攻をたった一人で食い止めている騎士の姿があった。
漆黒の甲冑を纏い、銀の長剣を振るう青年。その髪は夜空のように深い紺色で、切れ長のエメラルドグリーンの瞳は、恐ろしいほどの鋭さと冷徹さを秘めている。彫刻のように整った顔立ちは、命懸けの戦いの中であっても神々しいほどだった。
(な、なんて綺麗な人……! まるで昔話に出てくる氷の騎士様みたい!)
感嘆したのも束の間、青年の足元が崩れ、地竜の巨大な尾が彼の脇腹を激しく薙ぎ払った。
「ガハッ……!?」
鮮血が舞い、青年は激しく木々に激突して倒れ込む。
銀の長剣が手元から離れ、地竜は勝利を確信したように口を大きく開け、灼熱の火炎を青年へ向けて放とうとしていた。
「く……ここまで、か……」
青年が死を覚悟し、静かに目を閉じる。
(ダメ! あんなイケメン騎士様が死んじゃうなんて嫌!!)
私の頭の中で何かがプチんと弾けた。
足が勝手に動き出す。変身したことで伸びた脚をフル稼働させ、私は地竜と青年の間に飛び出していた。
「ちょっと! せっかく綺麗に変身して新しい人生を始めようとしてるのに、人の目の前で暴れないでよバカ龍!!」
叫びながら、私は夢中で右手を前に突き出した。
魔法の使い道なんて知らない。でも、この三面鏡から溢れ出る何かを感じ取っていた。
『——汝の望みを解き放て』
脳内に鏡の声が響いた瞬間、私の身体から尋常ではない量の『紫色の魔力』が爆発的に噴き出した。
「な……!? なんだこの圧倒的な魔力は……!?」
倒れていた青年が目を見開く。
私の手から放たれた光は、地竜が吐き出した灼熱の火炎を正面から呑み込み、そのまま地竜の巨体ごと吹き飛ばした。
ズガガガガガガアンッ!!
凄まじい衝撃波が森を駆け抜け、地竜は断末魔を上げる暇もなく、遥か彼方の空へと消えていった。
「……え?」
静まり返る森の中で、私は自分の手を見つめて固まった。
ただ「あっちいけ!」と祈っただけなのに。地竜を一撃で吹っ飛ばすなんて、そんなの伝説の魔法使いだってできるかどうか怪しいレベルだ。
(えっ……なにこれ、私、変身しただけじゃなくて、魔法の威力まで規格外になってるの……!?)
第3話
冷や汗が背中を伝う。
ヤバい、ヤバすぎる。ただの孤児として静かに暮らしたかったのに、こんな大惨事を引き起こしてしまったら、怪しまれて捕まってしまうかもしれない!
(に、逃げなきゃ! 今のうちに走って逃げないと——!)
私が慌てて後ずさりしたその時、ガシャンと甲冑の音が響いた。
「待ってくれ……」
振り返ると、さっきの青年騎士が傷ついた身体を押さえながら、ゆっくりと立ち上がるところだった。
鋭いエメラルドグリーンの瞳が、まっすぐに私を射抜いている。逃げ出そうにも、その強い視線に縛り付けられたように足が動かなくなってしまった。
(ひええっ、お礼を言われるのか、それともバケモノ扱いされて切り捨てられるのかどっち!?)
私は内心パニックになりながらも、変身した「理想の大人の美少女」としてのプライドを保つため、精一杯ミステリアスで澄ました顔を作った。
「……お怪我は、大丈夫かしら? 騎士様」
「ああ……君のおかげで助かった。感謝する」
青年はゆっくりと私に近づいてくると、驚くべき行動に出た。
彼は私の目の前で片膝をつき、胸に手を当てて深く頭を下げたのだ。
「俺は王都竜騎士団・団長のルシアン=ヴァルハイト。貴女のような高貴で強力な魔法の使い手が、なぜこのような危険な森におられたのですか?」
(り、竜騎士団長!? 一番エラい人じゃないの!!)
内心で絶叫しながらも、私は口元に優雅な笑みを浮かべた。
「ふふ、ただの気まぐれよ。深い森の散策を楽しんでいただけだわ」
「散策……地竜が闊歩するこの森を、ですか……」
ルシアン様は呆気にとられたように私を見上げていたが、やがてその瞳に尋常ではない熱量が宿り始めた。
彼は立ち上がると、私の真っ白な手を取った。革の手袋越しでも伝わる、彼の体温と強い力。
「……美しい。銀の髪に、紫の瞳。そして、俺の魂を直接揺さぶるような、この圧倒的で清らかな魔力……」
「へ……? ル、ルシアン様……?」
顔が急激に熱くなる。距離が近すぎる。こんな超絶イケメンに至近距離で見つめられたことなんて、人生で一度もない!
「俺たちヴァルハイト家に伝わる古い伝承がある。一族の者に刻まれた『龍の血』が、生涯でたった一人、運命の伴侶と出会った時……魂が激しく鳴り響くのだと」
ルシアン様は私の手を自分の胸へと運んだ。
彼の鎧の奥から、ドクン、ドクンと、信じられないほど速く力強い鼓動が伝わってくる。
「ずっと童話の類だと思っていた。だが……今、確信した。俺の魂が求めていたのは、お前だ」
「は……? はあぁぁぁぁぁ!?」
あまりの突飛な発言に、私は「おしとやかな美少女」の仮面を脱ぎ捨てて素の声を上げてしまった。
「お前こそが、俺の『番』だ。名前を教えてほしい、美しき我が女神よ」
「つ、つがっ……!? 女神っ……!? ち、違います! 私、そんな大層なものじゃなくて、ただの……ただの通りすがりの美少女です!!」
「謙遜はいらない。俺は生涯をかけてお前を守り、愛すると誓おう」
ルシアン様の瞳は本気だった。冷酷無比と噂される(と思われる)硬派な竜騎士団長が、出会って数分の見知らぬ女に重すぎる愛を告白しているのだ!
(どどど、どうしよう!? この人、見た目は最高にカッコいいのに、言ってることめちゃくちゃ重いしヤバい人だわ!!)
「さあ、俺と一緒に王都へ来てもらいたい。最高の邸宅と、俺のすべてを捧げよう」
「け、結構ですーっ!!」
耐えかねた私は、ルシアン様の手を振り払うと、ドレスの裾を撒き散らして全力で脱兎のごとく走り出した。
「あ、待ってくれ! 我が番よ!」
「追ってこないでくださーーい!!」
変身した身体の驚異的な脚力で、私は森の中を爆走した。
人生をやり直すために手に入れた変身魔法。なのに、最初に遭遇したのは「重すぎる愛をぶつけてくる最強の竜騎士団長」だったなんて!
(私の平穏な新生活は、一体どうなっちゃうの〜〜〜!?)
夕闇が迫る魔の森に、私の悲鳴のような叫び声が虚しく響き渡るのだった。
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