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処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!  作者: 秦江湖


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第52話 四魔人の終焉

■崩れ去る檻




 黒い半球体の結界が、ガラスの破片のように砕け散った。


 朝の光が、再び大聖堂前の広場に差し込む。その中央に立つルシアンの姿を見た瞬間、エリアーナはバルコニーから駆け下りていた。




「ルシアン!」


「エリアーナ」




 広場を駆け抜け、二人は強く抱き合った。


 ルシアンの腕の力強さと、鎧越しに伝わる温もりが、彼が無事であることを何よりも雄弁に物語っていた。




「怪我は……無いのね」


「ああ。お前の声が聞こえたからな。あの声がなければ、結界の中で永遠に剣を振り続けていたかもしれない」




 ルシアンが、エリアーナの頬についた血の跡を優しく指で拭う。


 第一の魔人ヴァルゴが放った暴徒から受けた傷だった。ルシアンの目が、一瞬だけ鋭く細められる。




「俺がいない間に、随分と無茶をしたようだな」


「あなたを助けるためだもの。これくらい、なんてことはないわ」




 エリアーナが微笑むと、ルシアンは小さく息を吐き、彼女の頭をポンと撫でた。




「……だが、まだ終わっていない」




 ルシアンの視線が、広場の端へと向けられる。


 そこには、結界が破壊されたことで実体を保てなくなり、地面に這いつくばっている第四の魔人、カルナの姿があった。










■最後の魔人




『あり得ない……私の、断絶の結界が……人間の絆ごときに……』




 カルナの曖昧な輪郭が、煙のように激しく揺らめいている。


 ルシアンが剣を構えながら歩み寄ると、カルナは怯えたように後ずさった。




『来ないでください! 私は……私はただ、悪魔王様の命令に従っただけだ!』




「お前たち四魔人は、悪魔王の何なんだ?」




 ルシアンが冷たく問う。




『我々は……悪魔王様の感情の一部を切り離して作られた存在。憎悪、絶望、嫉妬、そして孤独……。悪魔王様は、自らの内に渦巻く負の感情を我々に託し、帝都を破壊しようとしたのです』




「なるほどな。自分の手を汚さずに、人間の負の感情を利用して人間を滅ぼそうとしたわけか」




 ルシアンが剣を振り上げる。




『待ってください! 私を殺せば、悪魔王様は必ず直接この地に降臨する! 我々四魔人が全滅したと知れば、あの方は……!』




「それがどうした」




 ルシアンの剣が、カルナの体を両断した。


 悲鳴を上げる間もなく、第四の魔人は光の粒子となって消滅する。


 これで、帝都を襲った四魔人は完全に討ち果たされた。




「……終わったわね」




 エリアーナが、安堵の息を漏らす。


 広場にいた民衆や兵士たちも、魔人の気配が完全に消え去ったことを悟り、その場にへたり込んでいた。










■残された暗雲




 しかし、勝利の余韻に浸る時間は短かった。


 大聖堂の中から、重傷を負った大神官がアンナに支えられながら姿を現したのだ。




「大神官様……! お体は大丈夫なのですか?」




 エリアーナが駆け寄るが、大神官の顔色は青白く、呼吸も荒かった。




「エリアーナ様、ルシアン殿……。四魔人を討ち果たしたこと、見事です。しかし、空を見てください」




 大神官が震える指で天を指差す。


 帝都の上空には、夜明けの光を遮るように、いまだに真っ黒な暗雲が渦を巻いていた。いや、四魔人が消滅したことで、暗雲はさらに色濃く、不気味にうねり始めている。




「四魔人は、悪魔王の感情の一部に過ぎません。彼らが倒されたことで、悪魔王の本体が……直接、この世界に干渉し始めています」


「直接干渉するだと? 奴は魔界から出られないのではなかったのか?」




 ルシアンの問いに、大神官は首を横に振った。




「アラン皇太子という強大な『器』が失われ、四魔人も消滅した今、悪魔王は手段を選ばなくなっています。あの暗雲は、魔界とこの世界を繋ぐ『門』……。このままでは、帝都そのものが魔界に飲み込まれてしまう」




 その言葉を証明するかのように、空の暗雲から赤い稲妻が走り、帝都のあちこちに落雷し始めた。


 雷が落ちた場所からは、黒い瘴気が噴き出し、再び民衆を恐怖に陥れている。




「どうすれば、あの門を閉じることができるのですか?」




 エリアーナが問う。




「悪魔王の本体を、直接叩くしかありません。しかし、それは……人間の力でどうにかなる相手ではない……」




 大神官が絶望的な声で呟いた。










■次なる戦いへ




「人間の力でどうにもならないなら、俺たちがどうにかするしかないだろう」




 ルシアンが、剣の血糊を払いながら淡々と言った。




「奴が魔界から出てくるというなら、好都合だ。こちらから出向く手間が省ける」


「ルシアン……」


「エリアーナ。お前はここに残れ。大聖堂の結界を維持し、民衆を守るんだ」




 ルシアンが、エリアーナの肩を強く掴む。


 しかし、エリアーナは静かに首を横に振った。




「いいえ、わたくしも行くわ」


「危険すぎる。悪魔王の狙いはお前なんだぞ」


「だからこそよ。わたくしが囮になれば、あなたに隙を作ることができる。それに……」




 エリアーナは、ルシアンの目を真っ直ぐに見つめ返した。




「わたくしたちは、誓ったはずよ。二人で始末をつける、と」




 その決意に満ちた瞳を見て、ルシアンは小さく息を吐き、負けを認めるように笑った。




「……本当に、頑固な女だ。わかった、俺の背中から離れるなよ」


「ええ、約束するわ」




 二人は、空で渦巻く暗雲——悪魔王の「門」へと視線を向けた。




 しかし、四魔人が消滅したことに呼応するように、帝都を覆っていた暗雲がすっと薄れ、久しぶりに青空が顔を覗かせた。民衆が歓声を上げる。しかし大神官だけが、その晴れ間を見上げながら静かに呟く。




「……嵐の前の、静けさです」




 四魔人との戦いは終わった。しかし、それは真の最終決戦への序章に過ぎなかった。


 



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