表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/65

第35話 開かれた門と真実の亡骸

■イザベラの「最期」




私の心には、達成感も安堵もなかった。




イザベラは死んだ。




ルシアンが、私の代わりに、彼女の心臓を貫いた。




私が躊躇ったせいで、私が「かつての親友」の面影を振り切れなかったせいで、ルシアンが瘴気を全身に浴びて倒れた。




今、彼は大神官の懸命な治療を受けながら、大聖堂の奥で意識を失ったまま横たわっている。




(……私のせいで)




私は、イザベラの亡骸を見下ろした。




悪魔の力が消えた今、彼女の体は、かつての美しさの欠片もなく、ただ爛れた醜い亡骸として、大聖堂の石畳の上に横たわっていた。




(……これで、終わったの?)




(……私の復讐は、これで終わったの?)




答えは出なかった。




私が求めていた「復讐」とは、何だったのだろう。




アランへの怒り。イザベラへの憎悪。処刑台の記憶。




それら全てを胸に抱えて、2周目の人生を走り続けてきた。




なのに今、目の前に「結果」が転がっているのに、私の心は、恐ろしいほど静かだった。




静かで、冷たくて、そして空っぽだった。




(……ルシアンが、死ぬかもしれない)




その「恐怖」だけが、今の私を満たしていた。










■悪魔王の「誤算」




同時刻。魔界。




悪魔王は、玉座で忌々しげに舌打ちをしていた。




「……あのクソイザベラめ。……使えん」




イザベラに最後の「力」を与え、エリアーナと相討ちさせるか、あるいは大聖堂ごと吹き飛ばし、帝都を大混乱に陥れるはずだった。




だが結果はどうだ。




イザベラは死んだ。




大聖堂は無事。




そして、何よりも気に食わないのが。




「……ルシアン。……あの男」




悪魔王は、ルシアンがエリアーナの「代わり」にイザベラを殺した瞬間を思い出していた。




(……エリアーナの『憎悪』が足りぬと思ったが)




(……あのルシアンの『エリアーナへの』が、俺の『憎悪(の計画)』を上回っただと?)




馬鹿馬鹿しい。




愛だの、信頼だの、そんな「不確定」なものが、純粋な「憎悪」に勝つなどありえない。




(……だが、イザベラは失った)




(……エリアーナの魂は、『愛』に汚染され、もはや、俺の『糧』にはなりそうもない)




悪魔王は、盤面を見つめ直した。






■悪魔王の「次の手」




(……まだだ)




悪魔王は新たな「駒」に目をつけた。




(……アラン)




皇太子、アラン。




彼は今、大聖堂の外で、イザベラが中に入ったまま、何の音沙汰もなくなったことに焦れている。




(……あの男は、どうだ?)




(プライドは高い。……だが、エリアーナに負け続け)




(イザベラ(聖女)を失い)




(世継ぎ(子供)も失った)




(……その『絶望』は、なかなか、美味そうだ)




悪魔王は、エリアーナとルシアンを直接潰すのをやめた。




(……アランを使おう)




(イザベラに与えた、あの「力」を、今度は、アランに与えれば)




(……あの男なら、プライドを守るため、喜んで俺の手先となるだろう)




悪魔王は、エリアーナとルシアンへの「苛立ち」を、アランという「駒」を使って晴らすことに決めた。




(……見ていろ、エリアーナ)




(お前が、憎悪を捨てた、その『代償』を)




(お前が愛を選んだ、その『罰』を)




(……今度は、アランが、お前に与えてくれるだろう)




悪魔王は満足そうに笑みを浮かべた。










■開かれた「門」




大聖堂の大広間。




ルシアンは、大神官の「聖水」による懸命な治療により一命を取り留めていた。




だが悪魔の「呪い」は深く、彼の意識は戻らない。




その時。




「……エリアーナ様!」




神官が、血相を変えて走ってきた。




「……外で、アラン殿下が……!」




私は、ハッとして顔を上げた。




(……そうだった。まだ終わっていなかった)




私は、ルシアンを神官たちに任せ、大神官と共に、大聖堂の「門」へと向かった。




外ではアランが軍隊を前に叫んでいた。




「……イザベラは、どうした! 魔女め!余の聖女をどうした!」




アランはまだ、イザベラが「聖女」だと信じている。




「……大神官様。……門を開けてください」




「……エリアーナ嬢。……正気か」




「……ええ」




私は、覚悟を決めた。




「……イザベラの『真実』を、民衆とアランに見せるときです」




大神官は、頷いた。




ギィィ……。




再び、大聖堂の「門」が開かれる。




門の外にはアランと五万の軍勢。




そして、帝都の全民衆。




門の内には、私と大神官。




そして。




神官たちに運ばれてきた、悪魔の力(瘴気)が消え、ただの醜い亡骸となったイザベラの体が横たわっていた。




「……な……」




アランが、その変わり果てたイザベラの姿を見て絶句した。




「……イザベラ?」




民衆も息を呑んだ。




(……あれが聖女様?)




私は、一歩、前に出た。




「……アラン殿下。……これが、貴方が愛した『聖女』の正体です」




私の声が、静まり返った広場に響き渡った。




広場に集まった民衆の間から、ざわめきが広がる。




「……あれが……聖女様……?」




「……あんな姿……まるで、悪魔の……」




「……嘘だ。嘘だ! イザベラは聖女だ! 魔女エリアーナが、何かしたに決まっている!」




アランが、震える声で叫んだ。




だが、その叫びに呼応する声は、以前より、ずっと少なかった。




民衆は、目の前の「真実」を、自分の目で見ていた。




奇跡を起こしていたはずの「聖女」の亡骸が、悪魔の瘴気に爛れた醜い姿であることを。




「……大神官様」




私は、大神官に目を向けた。




大神官は静かに頷き、民衆に向かって、深く澄んだ声で語りかけた。




「……民よ。このイザベラが行っていた『奇跡』は、神の御業ではない。……悪魔の力を借りた、偽りの奇跡であった」




「……!」




「……この大聖堂に奉納されている『破魔の鏡』が、彼女の力の『本性』を暴いた。……神聖なる聖域において、悪魔の力は長くは続かぬ」




広場が、しんと静まり返った。




アランの顔が、怒りと混乱と、そして初めて見せる「恐怖」で歪んでいくのを、私は静かに見つめた。




(……さあ、次よ)




(……アランと、悪魔王の、本当の「最後の戦い」が、今、始まる)




私は、冷たい風の中に立ちながら、ルシアンが目を覚ます日を待ちわびていた。




彼が戻るまでに、私がこの戦いに決着をつける。




それが、今の私にできる、彼への唯一の誓いだった。




広場の向こうで、アランが再び叫び声を上げた。




「……魔女め! 余の聖女を返せ! お前が、お前が何かしたに決まっている!」




彼の声は、もはや皇太子のそれではなかった。




理性を失った、ただの男の絶叫だった。




(……アランは、もう限界ね)




私は、静かに思った。




イザベラを失い、世継ぎを失い、南部の民心を失い、バートン伯爵を失い。




そして今、「聖女の奇跡」という最後の切り札まで、民衆の目の前で崩れ去った。




残るのは、五万の軍勢と、悪魔王から与えられるかもしれない「次の力」だけだ。




(……悪魔王は、必ずアランを使う)




私は確信していた。




悪魔王は、イザベラという駒を失った。次の駒は、絶望の淵に立つアランしかいない。




アランは、プライドのためなら悪魔に魂を売ることも厭わないだろう。




それが、彼という人間の、本質だから。








広場では、アランの叫び声が続いている。




五万の軍勢が、じりじりと大聖堂の門に近づいてくる。




だが私は、もう恐れていなかった。




未来の知識は尽きた。




悪魔王の次の手も読めない。




それでも。




私には、ルシアンがいる。大神官がいる。アンナがいる。父がいる。




そして、この帝都の民衆が、今、「真実」を目にした。




それだけで、十分だった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ