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闇オークションで落札した白猫獣人が、運命の番でした 〜騎士団長は最愛の彼女を溺愛する〜  作者: 月代 緋色


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第6話 騎士の誓い

よろしくお願いいたします

 お披露目の話が決まってから、ルクレツィア家は、にわかに、慌ただしくなった。


 いや——慌ただしくなった、というより。


「さあ、ノアちゃん! 今日も、ドレスの仮縫いよ!」


 張り切っていたのは、もっぱら、ルクレツィアと、その妹たちだった。


 応接間には、王都でも指折りの仕立て屋が呼ばれ、色とりどりの生地が、所狭しと、広げられていた。


 その真ん中に、ノアが、ちょこんと立っている。


「……ノア、これ、きるの?」


 ノアは、おそるおそる、目の前の生地を、見つめた。


 淡い水色の、上等な絹。きらきらと、光沢を放っている。


「そうよ。ノアちゃんの、お披露目用のドレス。とびきり可愛く、仕立てるんだから」


「……おひろめ」


「王城に行って、国王陛下に、ご挨拶するの。だから、いちばん素敵な姿で、行かなくちゃね」


「……こくおう、へいか」


 ノアの白い耳が、ぴくりと、緊張で、こわばった。


***


 最初、ノアは、ドレスに、戸惑っていた。


 仮縫いのドレスを着せられると、ノアは、その場で、固まってしまった。


「……うごけ、ない」


「ふふ、慣れるまでは、そうよね」


 ルクレツィアが、優しく笑う。


 ドレスは、ノアが今まで着ていた、ふわりとしたワンピースとは、まるで違った。


 裾が広がっていて、足元が見えにくい。生地が重なって、腕も、思うように、動かない。


「ノア、こけそう」


「大丈夫。ゆっくり、歩いてみて」


「……っ、と」


 ノアが、一歩、踏み出した、その瞬間。


 ドレスの裾を、自分で踏んで、ぐらり、と、よろけた。


「わわっ」


「ノアちゃん!」


 すかさず、近くにいたカティアが、ノアの腕を、支えた。


「危ない。ほら、裾は、こうやって、少し持ち上げて歩くのよ」


「……むずかしい」


「最初は、みんな、そうよ。私だって、初めてドレス着たときは、何回も転んだもの」


「カティア、ねえさまも?」


「そうよ。ロザリオなんて、階段から、転げ落ちかけたわ」


「ちょっと、カティア! それ、言わないでって、言ったでしょ!」


 ロザリオが、顔を真っ赤にして、抗議する。


「あはは。本当のことじゃない」


 ノアは、その様子を見て——ふっと、肩の力が、抜けた。


「……ねえさまたちも、ころんだの?」


「そうよ。だから、ノアちゃんも、大丈夫。何回でも、練習すればいいの」


「……うん」


 ノアは、こくん、と頷いて——もう一度、慎重に、足を踏み出した。


 今度は、裾を、ちゃんと持ち上げて。


「……あるけた」


「上手!」


 わあっ、と、姉妹たちが、拍手した。


 ノアの白い頬が、ぽっと、嬉しそうに、染まった。


***


 それから、ノアの、ドレスの練習は、毎日のように、続いた。


 最初は、ぎこちなかった、足取り。


 それが、日を追うごとに、少しずつ、滑らかになっていく。


「ノアちゃん、ターンも、してみましょう」


「たーん?」


「くるっと、回るのよ。ほら、こうやって」


 ロザリオが、お手本に、くるりと、回ってみせる。


 ドレスの裾が、ふわりと、花のように、広がった。


「……っ、すごい」


「ノアちゃんも、やってみて」


「……えっと」


 ノアが、おそるおそる、回ってみる。


 最初は、ぎくしゃくしていたけれど。


 何度も、何度も、繰り返すうちに——。


「……できた!」


 ノアの白い髪と、淡い水色の裾が、ふわりと、舞った。


 まるで、雪の妖精が、踊っているような、可憐な、姿だった。


「ノアちゃん、上手になったわねぇ」


 ルクレツィアが、目を細めて、ノアを見つめた。


 ほんの一ヶ月前まで、怯えて、部屋の隅で、丸まっていた子が。


 今では、こんなにも、生き生きと、笑っている。


『……本当に、強い子』


 ルクレツィアの胸に、温かいものが、込み上げた。


***


 ある日の、夕方。


 ちょうど、城から帰ってきたレオンが、その練習に、加わることになった。


「ダンスも、練習しておくといいわ。お披露目では、夜会も、あるかもしれないし」


 ルクレツィアの提案で、応接間に、ちょっとした、ダンスの場が、設けられた。


「れおん、おどるの?」


「うん。ノアと、一緒にね」


 レオンが、ノアの前で、軽く、お辞儀をする。


「お手をどうぞ、お嬢さん」


「……っ、えへへ」


 ノアが、小さな手を、レオンの手に、重ねた。


 けれど——いざ、踊ろうとすると。


「……れおん、とおい」


 ノアの手は、レオンの腰の、あたりまでしか、届かなかった。


 レオンは、二十八歳の、長身の騎士。ノアは、見た目十歳ほどの、小柄な少女。


 二人の体格差は、いかんともしがたく——普通に組んで踊るには、あまりに、差がありすぎた。


「……あれ。これは、難しいな」


「ノア、ちいさいから……おどれない?」


 ノアの白い耳が、しゅん、と、垂れる。


「ううん。そんなことない」


 レオンは、少し考えて——それから、ぽん、と、手を打った。


「こうしよう」


 そう言って、ひょいと、ノアを、抱き上げた。


「わっ」


「これなら、目線も、ぴったりだ」


 レオンの腕の中で、ノアが、目を、ぱちくりさせる。


 さっきまで、見上げていたレオンの顔が、今は、すぐ目の前にあった。


「……れおんと、おなじ、たかさ」


「うん。じゃあ、このまま、回ってみようか」


「……うん!」


 レオンが、ノアを抱いたまま、くるり、と、回る。


 応接間に、ノアの、楽しそうな笑い声が、響いた。


「わあ……っ、ふふ、たのしい!」


「あはは、楽しいね」


 レオンも、つられて、笑う。


 くるくる、くるくる。


 二人は、すっかり、夢中になって、回り続けた。


 ノアの、淡い水色の裾が、ふわりふわりと、舞う。


 レオンの腕の中で、ノアが、きゃっきゃと、声を上げて、笑う。


 もはや、ダンスの練習というより——ただの、楽しい、遊びだった。


「……あの」


 その様子を、見ていたルクレツィアが、こめかみを押さえた。


「レオン。それ、ダンスじゃ、ないわよね?」


「え? あ……」


 レオンが、はた、と、我に返る。


「これは……お披露目では、無理ね」


 ルクレツィアが、やれやれと、ため息をついた。


 けれど、その口元は、笑っていた。


「国王陛下の御前で、ノアちゃんを、抱えて、ぐるぐる回るわけには、いかないでしょう」


「……た、確かに」


 レオンが、ノアを、そっと、下ろす。


 ノアは、まだ、楽しそうに、ふわふわ、笑っていた。


「だから、夜会では、踊らなくて、いいわ。ノアちゃんは、レオンの隣で、にこにこ、していればいいの」


「うん。それが、いいね」


 レオンは、苦笑して、頷いた。


 と——そこへ、騒ぎを聞きつけたのか、長男のテオが、応接間を、覗き込んだ。


「あ、ダンスの練習?」


「テオ」


「ぼく、ダンス、習ってるよ。家庭教師の先生に」


 テオは、得意げに、胸を張った。


「ねえ、ノアおねえちゃん。ぼくと、踊ってみる? ぼくたち、背、近いから、ちゃんと踊れるよ」


「……テオくんと?」


 ノアの目が、ぱっと、輝いた。


 確かに、十歳のテオとなら、体格差は、ほとんどない。普通に、手を取り合って、踊れそうだった。


「うん。ぼく、エスコート、できるよ。こうやって——」


 テオが、紳士のように、ノアに、手を差し出す。


「……っ、ま、待った」


 その瞬間。


 レオンが、ずいっ、と、二人の間に、割って入った。


「テオ。ダンスは、その……まだ、ノアには、早いんじゃないかな」


「え? でも、お披露目の練習でしょ?」


「いや、その。ノアは、疲れてるだろうし。ね、ノア。今日は、もう、休もうか」


「ノア、つかれてない、よ?」


「い、いや、でも。明日も、あるし」


『……あれ。僕、何を、言ってるんだ』


 レオン自身、自分が、なぜ、こんなことを、言っているのか、よくわからなかった。


 ただ——テオが、ノアに、手を差し出した、その瞬間。


 胸の奥が、もやもやと、落ち着かなくなったのだ。


 なんだか、嫌な感じ。ノアが、自分以外の誰かと、手を取り合うのが——。


『……いや。テオは、まだ、子どもだし。何を、僕は』


「……おじさま」


 その様子を、じっと見ていたテオが、ぽつりと、言った。


「もしかして……ヤキモチ?」


「——っ」


 レオンの動きが、ぴたり、と、止まった。


「な、何を、言うんだ、テオ。ヤキモチなんて、そんな」


「ふうん」


 十歳の少年は、にやり、と、笑った。


 その顔は、どこか、父親のユリウスに、似ていた。


「おじさま、わかりやすいって、お父さまが、言ってたよ」


「……っ、ユリウス……!」


 レオンが、顔を、赤くする。


 その横で、ノアは、きょとん、と、首を傾げていた。


「やきもち? なに?」


「ふふ。ノアおねえちゃんは、知らなくて、いいよ」


 テオは、いたずらっぽく、笑った。


 なんだか、子どもたちのほうが、よっぽど、大人びて、見える瞬間だった。


『……まいったな』


 レオンは、片手で、顔を、覆った。


 自分の中の、この、よくわからない感情に——名前を、つけられないまま。


***


 その夜。


 眠る前に、ノアは、ふと、思った。


『……れおんと、おどるの、たのしかった』


『でも』


『ノアが、ちゃんと、おっきく、なれたら』


『れおんに、だっこされなくても』


『ちゃんと、てを、つないで……むきあって、おどれるのかな』


 その想いが、何を、意味するのか。


 ノア自身も、まだ、よく、わからなかった。


 ただ——いつか、そんな日が、来たらいいな、と。


 ノアは、小さく、願った。


***


 お披露目を、数日後に控えた、ある日の夕方。


 城から帰ってきたレオンが、応接間の扉を、開けた、その瞬間。


「あ、れおん。おかえり」


 ノアが、振り返った。


 淡い水色のドレスを、まとって。


 白い髪を、結い上げて、小さな花の髪飾りを、つけて。


 夕日が、窓から差し込んで、ノアの姿を、淡い金色に、照らしていた。


「……」


 レオンは、扉のところで、固まった。


『……え』


『え、誰』


『……いや、ノアだ。ノアなんだけど』


 いつものノアと、同じはずなのに。


 ドレスを着た、ノアの姿は——なんだか、ひどく、特別に、見えた。


 心臓が、どくん、と、大きく、跳ねる。


「れおん?」


 ノアが、不思議そうに、首を傾げた。


「ノアの、ドレス。へん?」


「……っ、ち、違う」


 レオンは、慌てて、首を、横に振った。


「変じゃ、ない。すごく……すごく、似合ってる」


「……ほんと?」


「うん。本当に。その……」


 レオンは、言葉を、探した。


 けれど、頭の中が、ぐるぐるして、うまく、まとまらない。


「……きれいだ」


 ぽつりと、零れた、その一言。


『……あ。今、僕、なんて』


 レオンの顔が、一気に、赤くなった。


 ノアの白い頬も、ふわっと、桜色に、染まる。


「……っ、えへへ」


 ノアは、嬉しそうに、はにかんだ。


 その様子を、応接間の隅で見ていた、ロザリオとカティアが——。


「……姉さま。見た?」


「見たわ。バッチリ」


 にやにやと、顔を見合わせていた。


『……あ、しまった』


 レオンは、二人の視線に気づいて、ますます、いたたまれなくなった。


***


 そして——お披露目の、当日。


 約束の、一ヶ月が、過ぎていた。


 朝早くから、ルクレツィアと、姉妹たちが、総出で、ノアの支度を、整えた。


 仕上がったドレスを、まとい。髪を、丁寧に結い上げ。小さな宝石の髪飾りを、添える。


 最後に、姿見の前に、立ったノアは——。


「……これ、ノア?」


 鏡の中の、自分の姿に、ぱちぱちと、瞬きをした。


 淡い水色のドレスに包まれた、白い髪の少女。


 淡い紫の瞳が、宝石のように、輝いている。


「そうよ。これが、めかしこんだ、ノアちゃん」


「……ノア、ちがう子、みたい」


「ふふ、同じノアちゃんよ。ただ、とびきり、可愛いだけ」


 ルクレツィアが、ノアの肩を、そっと、撫でた。


「さあ、レオンが、待ってるわ。行ってらっしゃい」


「……うん」


 ノアは、こくん、と頷いて——玄関へ、向かった。


***


 玄関ホールで、レオンが、待っていた。


 いつもの執務服ではなく、騎士団長としての、正装に身を包んでいる。


 白を基調とした、礼服。胸には、騎士団の紋章。腰には、儀礼用の剣。


 その凛々しい姿に——ノアの足が、ふと、止まった。


「……れおん、かっこいい」


「あはは、ありがとう。ノアも、すごく、可愛いよ」


 レオンは、ノアの前で、膝をついて、目線を、合わせた。


「ノア。今日、緊張してる?」


「……うん。ちょっと」


「大丈夫。僕が、ずっと、一緒にいるから」


「……れおんが、いっしょ?」


「うん。今日は、ずーっと、ノアのそばにいる。だから、何も、怖くないよ」


 レオンは、にっこりと、笑った。


「練習した、ご挨拶。できそう?」


「……うん。ノア、がんばる」


「うん。いい子だね」


 レオンは、ノアの小さな手を、そっと、握った。


「じゃあ、行こうか。お城へ」


「……うん!」


***


 馬車に揺られて、王城へ。


 ノアは、レオンの隣で、緊張に、身を、固くしていた。


 ぎゅっと、レオンの手を、握ったまま。


「ノア。深呼吸して」


「……すー、はー」


「うん。上手」


 窓の外に、王城が、見えてきた。


 白い石壁。高い尖塔。きらびやかな、王家の旗。


「……おっきい」


「うん。大きいね」


「……ノア、ちゃんと、できるかな」


「できるよ。たくさん、練習したじゃないか」


 レオンは、ノアの手を、ぎゅっと、握り返した。


「それに、もし、間違えても、大丈夫。僕が、フォローするから」


「……れおんが?」


「うん。だって、僕は、ノアの——」


 レオンは、そこで、ほんの少し、言葉に詰まって。


 それから、照れたように、笑った。


「……ノアを、守る人、だから」


 ノアの淡い紫の瞳が、ふわりと、和らいだ。


「……うん。ノア、れおんが、いれば、だいじょうぶ」


***


 王城に着くと、二人は、侍従に案内されて、控えの間で、しばし待った。


 やがて、侍従が、恭しく、告げた。


「本日の式次第で、ございます。まずは、陛下と王妃殿下に、私的なご挨拶を。その後、謁見の間にて、正式なお披露目。夜には、夜会が、ございます」


「うん。ありがとう」


「では——どうぞ、こちらへ。陛下と王妃殿下が、お待ちです」


「……行こう、ノア」


「……うん」


 ノアは、レオンの手を、ぎゅっと握って、頷いた。


 通されたのは、謁見の間ではなく、王家の私室に近い、小さな応接の間だった。


 窓から、柔らかな光が差し込み、上品な調度品が、整然と並んでいる。


 その奥に——アルノー王が、座っていた。


 ダークブラウンの髪に、青い瞳。穏やかで、品のある佇まい。


 そして、その隣には——一人の女性が、寄り添っていた。


 艶やかな黒髪を結い上げ、凛とした瞳をした、美しい女性。


 ヴァルトヘルツ王国の、王妃セイラだった。


「よく来た、レオン」


「はい。本日は、お時間をいただき、ありがとうございます。陛下。王妃殿下」


 レオンが、騎士の礼をとる。


 その隣で、ノアも、練習した通りに——。


「は、はじめ、まして」


 たどたどしく、けれど、一生懸命に。


「ノア、です。……えっと、ごきげん、よう」


 ノアは、ドレスの裾を、両手でつまんで。


 ぺこり、と、淑女の礼を——してみせた。


 少し、ぎこちなくて。少し、足がふらついて。


 けれど、確かに、心のこもった礼だった。


「……ふむ」


 アルノー王が、ゆっくりと立ち上がった。


 そして、つかつかと、ノアの前まで歩いてきて——同じ目線まで、しゃがみ込んだ。


「……っ、陛下!?」


 レオンが、ぎょっとする。国王が自ら膝をつくなど、異例のことだった。


 けれど、アルノー王は、気にする様子もなく、ノアの顔を、まじまじと覗き込んだ。


「ふむ。なるほど。これは——可愛いな」


「……っ」


「うむ。実に、可愛い」


『……陛下、それ、ただの感想ですよね』


 レオンが、心の中でつっこむ。


「あなた」


 すると、王妃セイラが、穏やかに、けれど、たしなめるように、声をかけた。


「ノアさんが、困っていらっしゃいますよ。あまり、近くで、見つめては」


「む。そうか。すまんな、ノア」


 アルノー王が、ぱっと、身を引く。


 その素直な様子に、レオンは、思わず、笑いそうになった。


『……陛下、王妃殿下には、頭が上がらないんだな』


 王妃セイラは、ノアの前で、優雅に膝を折り、目線を合わせた。


 その所作の一つひとつが、洗練されていて、けれど、少しも、気取ったところがない。


「ノアさん。はじめまして。わたくしは、セイラ。この国の、王妃です」


「……おうひ、さま」


「ええ。そんなに、緊張しなくて、大丈夫よ」


 セイラの声は、凛としていながら、どこか、春の日差しのような温かさがあった。


「あなたのことは、ロザリオから、よく聞いているわ」


「……ロザリオ、ねえさま?」


「ええ。ロザリオは、わたくしの、弟のところへ、嫁いだの」


 セイラが、上品に、微笑む。


「わたくしの実家は、ベルリオーズ侯爵家。その当主が、わたくしの弟でね。ロザリオは、その妻——つまり、侯爵夫人なのよ」


「……こうしゃく、ふじん」


 ノアが、目を、ぱちくりさせる。


 いつも、ノアの前で、きゃっきゃと、はしゃいでいる、あのロザリオが。


 高位の貴族の、夫人——なんて、ノアには、まだ、うまく、結びつかなかった。


「ふふ。意外、という顔ね」


 セイラは、ノアの心を読んだように、目を細めた。


「あの子ね、あなたの前では、子どもみたいに、はしゃいでいるでしょう。でも、社交の場では、なかなか、どうして。如才なく、立ち回る、立派な侯爵夫人なのよ」


「……ロザリオ、ねえさまが?」


「ええ。侯爵領の、夫人の務めも、きちんと、果たしているわ。あの明るさで、領民にも、慕われているの。——まあ、あなたの話になると、すぐ、年相応の女の子に、戻ってしまうのだけれど」


 セイラは、くすり、と、笑った。


「会うたびに、『ノアちゃんが、可愛くて』『今日は、こんなことが、あって』と、それは、もう、楽しそうに。おかげで、わたくしまで、あなたに、会うのが、楽しみに、なってしまったわ」


「……っ、えへへ」


 ノアの白い頬が、嬉しそうに、ほころんだ。


 会ったばかりの、王妃。本当なら、緊張で、固まってしまいそうな相手。


 けれど、セイラの、さりげない気遣いと、ロザリオの話のおかげで——ノアの肩から、少しずつ、力が、抜けていった。


「ノアさん。今日は、たくさんの貴族が、あなたを、見に来ているわ」


「……はい」


「きっと、緊張すると思う。でもね」


 セイラは、ノアの、小さな手を、そっと、両手で、包んだ。


「あなたは、ちゃんと、ここにいていい子。それを、皆に、見せてあげればいいの。難しいことは、何も、いらないわ」


「……」


「あなたが、いつも通り、にこにこ、していれば。それだけで、皆、あなたのことを、好きになる。ロザリオが、そうだったように。わたくしが、今、そうなったように」


 ノアの淡い紫の瞳が、じわりと、和らいだ。


「……はい。ノア、がんばります」


「ええ。いい子ね」


 セイラは、満足げに、頷いて、立ち上がった。


『……さすが、王妃殿下』


 レオンは、内心で、感嘆していた。


 たった、数分の、やり取り。


 それで、セイラは、ノアの緊張を、すっかり、解いてしまった。凛として、聡明で、それでいて、温かい。


『陛下が、頭が上がらないのも、わかる気がするな……』


「ところで、レオン」


 アルノー王が、にやりと、笑った。


「いつぞや、お前が、この私に、宣言したことを——覚えているか」


「……っ」


 レオンの肩が、びくりと、跳ねた。


 忘れるはずもない。いつだったか、王の私室で、レオンは、確かに、言ったのだ。


「この子を、『お嫁さんにします』、とな」


「へ、陛下! その話は……っ」


「ん? 隠すことではないだろう。あのときの、お前の顔は、実に、見ものだった。世にも真剣な顔で、な」


 アルノー王は、楽しそうに、笑った。


「あなた。レオンが、困っていますよ」


「む。そうか」


『……王妃殿下、ありがとうございます』


 レオンが、心の中で、セイラに感謝した、そのとき。


 ノアが、こてん、と、首を傾げた。


「……およめさん?」


 ぽつりと、ノアが、呟いた。


 その言葉の意味を、ノアは、まだ、よく、知らなかった。


「……およめさんって、なに?」


「——っ」


 レオンが、ぎくり、と、固まる。


『あ。これは。まずい』


『どう、説明すれば……いや、というか、僕の口からは、恥ずかしくて』


 レオンが、しどろもどろに、なっていると——。


「ふむ。ノア、知らぬのか」


 なぜか、アルノー王が、得意げに、身を乗り出した。


「よし。この私が、教えてやろう」


「へ、陛下!?」


『なんで、陛下が!?』


 レオンが、慌てるのも、構わず。


 アルノー王は、こほん、と、咳払いをして——。


「いいか、ノア。お嫁さん、というのはな」


「うん」


「好きな相手と、夫婦になる、ということだ。ずっと、一緒にいて。ずっと、共に、生きていく」


「……ずっと、いっしょ?」


「うむ。朝も、夜も。嬉しいときも、悲しいときも。ずーっと、一緒だ」


 アルノー王は、ちらり、と、隣のセイラを、見た。


「私と、セイラのように、な」


「……っ」


 今度は、セイラの頬が、ほんのり、染まった。


「あなた。何を、急に」


「ん? 事実だろう」


 アルノー王は、けろりと、している。


『……陛下、さっきの僕への仕返しのつもりが、自分で照れてません?』


 レオンは、心の中で、つっこんだ。


 けれど、ノアは——アルノー王の言葉を、じっと、噛みしめていた。


「……ずっと、いっしょ。れおんと」


 ノアの淡い紫の瞳が、ゆっくりと、輝いていく。


「あさも、よるも。うれしいときも、かなしいときも……ずっと、れおんと、いっしょ?」


「……う、うん。そう、だね」


 レオンが、真っ赤になりながら、頷く。


 その瞬間。


 ノアの顔が——ぱあっと、花が咲くように、明るくなった。


「……うん! ノア、れおんの、およめさんに、なる!」


 きっぱりと、迷いのない、声だった。


「ノア、れおんのこと、すき。だから、ずっと、いっしょに、いたいの。だから——およめさんに、なりたい」


『——』


 レオンの心臓が、大きく、跳ねた。


 王と王妃の御前で、堂々と、まっすぐに言い切る、その姿。


『……ノア』


 胸の奥が、温かいもので、いっぱいになる。


 その「温かさ」の正体に——レオンは、まだ、気づかないふりをしていた。


 セイラが、ふふ、と、上品に微笑んだ。


「まあ。素敵な、お返事ね」


「うむ。実に、よろしい」


 アルノー王も、満足げに、頷いた。


「うん。よい。実に、よい。——どうだ、レオン。私の説明、完璧だったろう」


「……陛下が、よけいなことを、言わなければ、もっと、よかったです」


「ふは。違いない」


 アルノー王は、豪快に、笑った。


 そして、ふと、思い出したように、付け加える。


「ああ、そうだ。ノア。今夜は、夜会がある。我が城の、木苺のタルトが——実に、美味でな」


「……きいちご?」


 ノアの目が、ぱっと、輝いた。


「うむ。甘くて、酸っぱくて、実に、美味なりだ。たんと、お食べ」


「……うん!」


「あなた」


 セイラが、また、たしなめるような声を、出す。


「ノアさんを、お菓子で、釣ろうとしないでください」


「む。釣るなど、人聞きの悪い。ただ、美味いものを、勧めただけだ」


「……まあ。よろしいですけれど」


 セイラの呆れたような微笑みに、レオンも、思わず、苦笑した。


***


 私的な挨拶のあと。


 二人は、いよいよ、正式な謁見の間へと、通された。


 高い天井。磨き上げられた、大理石の床。


 そして——その左右には、大勢の貴族たちが、居並んでいた。


 きらびやかな装いの、紳士淑女たち。


 その視線が、いっせいに、ノアに、注がれる。


 好奇。品定め。値踏み——さまざまな色を含んだ、無数の視線。


「……っ」


 ノアの足が、ぴたり、と、止まった。


 たくさんの、見知らぬ大人たち。突き刺さるような、視線。


 ノアの小さな身体が、緊張で、こわばっていく。


 けれど——その視線の中に。


 ノアは、いくつか、知っている顔を、見つけた。


 左手の列に、ユリウスと、ルクレツィアが、立っていた。公爵夫妻としての、格式高い正装で。


 その隣には、ロザリオと、見知らぬ紳士。ベルリオーズ侯爵——ロザリオの、夫だった。


 さらに、その向こうには、カティアと、精悍な顔つきの男性。国境を守る、辺境伯家に嫁いだ、カティアと、その夫。


 みんな、いつもとは、まるで違う、貴族としての装いで。


 けれど、ノアと目が合うと——そっと、優しく、微笑んでくれた。


『……ねえさまたち』


 ノアの胸に、ほっと、温かいものが、灯る。


 知らない人ばかりの中に、確かに、味方が、いる。


「ノア」


 レオンが、そっと、ノアの手を、握った。


「大丈夫。僕が、ここにいる」


「……れおん」


「前だけ、見てて。陛下だけを、見ていればいい。他は、気にしなくていいから」


 その言葉に、ノアは、こくん、と頷いて——前を、向いた。


 玉座の、アルノー王だけを、見つめて。


 一歩、一歩、進んでいく。


 練習した通りに。裾を、そっと持ち上げて。背筋を、伸ばして。


 けれど——その歩みの最中。


 居並ぶ貴族の中から、ひそひそと、囁き声が、漏れ聞こえてきた。


「あれが、噂の……闇オークションで、買われたという」


「まあ。獣人を、わざわざ。騎士団長も、物好きな」


「素性も知れぬ、得体の知れぬ子を、王城に、あげるなど」


「……っ」


 ノアの白い耳が、ぴくり、と、震えた。


 獣人の、鋭敏な聴覚。その囁きは——ノアの耳に、はっきりと、届いていた。


 ノアの足が、また、止まりかける。淡い紫の瞳が、不安げに、揺れた。


『——』


 その瞬間。


 レオンが、ぴたり、と、足を止めて——囁きの聞こえた方を、まっすぐに、見据えた。


 いつもの、穏やかな表情では、なかった。


「……今、何か、おっしゃいましたか」


 その声は、低く、静かで——けれど、ぞくりとするほど、鋭かった。


 囁いていた貴族たちが、ぎくり、と、身をすくめる。


「この子は、神獣の森に育った、稀少な子です。そして——僕が、命に代えても、守ると決めた、大切な子だ」


 レオンの、ヘーゼルの瞳が、静かな怒りを、湛えていた。


「素性が知れぬ、と言うなら。僕が、保証します。この子は、誰よりも、清らかで、優しい子だと」


「それでも、まだ、何か、おっしゃりたいことが、おありですか」


「……っ、い、いや」


 囁いていた貴族たちが、気まずそうに、目を、伏せた。


 と——。


「まったく。聞き苦しいこと」


 凛とした声が、響いた。ロザリオだった。


 いつもの、はしゃいだ様子とは、まるで違う。侯爵夫人としての、堂々たる佇まいで。


「義兄が、これほど大切にする子。ベルリオーズ侯爵家も、全力で、後ろ盾と、ならせていただきますわ。——よろしくて?」


 その、優雅で、けれど、有無を言わさぬ言葉に。貴族たちが、いっせいに、口を、つぐんだ。


「ええ。我が、クライン公爵家も、同様だ」


 続けて、ユリウスが、静かに、けれど、重く、言った。


「宰相として、申し上げる。この子に、不当な言いがかりをつける者は——相応の、覚悟を、していただこう」


「……」


 もはや、誰も、何も、言えなかった。


 公爵家、侯爵家、そして辺境伯家。国の重鎮たちが、揃って、ノアの後ろ盾に、立ったのだ。


『……ねえさま。ユリウス』


 ノアの胸が、じん、と、熱くなる。


 その姿に、勇気をもらって——ノアは、もう一度、前を向き、歩き出した。


 玉座の前まで来ると、ノアは、深く、淑女の礼をした。


 もう、足は、ふらつかなかった。


「ノア、と申します。……ごきげん、よう。こくおう、へいか」


 凛とした、その姿に——居並ぶ貴族たちは、もう、誰も、嘲笑を、浮かべなかった。


 むしろ、その可憐さと、健気さに、戸惑い、見入っていた。


「うむ」


 アルノー王が、玉座から、ゆっくりと、口を開いた。


 その声は、もう、先ほどの砕けたものではない。王としての、威厳に満ちていた。


「ノア。そして、騎士団長レオン・グラディウス・シュタルク。皆の前で、宣言する」


 謁見の間が、しん、と、静まり返る。


「この者、ノアは——本日より、我が王家が、その身を、認める者である」


 貴族たちが、息を呑んだ。


「騎士団長レオンが、保護し、慈しむ者。何者も、この子に、不当な手出しは、許さぬ。もし、この子を害そうとする者あらば——それは、ヴァルトヘルツ王家への、敵対と、みなす」


 王の言葉が、謁見の間に、響き渡った。


 先ほどまで、陰口を、囁いていた、貴族たちの顔が——。


 すっと、青ざめ、そして、改められていく。


 王家が、公に認めた。それは、何より重い、事実だった。


「レオン」


「はい」


「この子を、しかと、守れ」


「——はい。我が、剣に、誓って」


 レオンは、深く、騎士の礼をとった。


 その横顔は、いつもの穏やかなレオンではなく。


 ノアを守る、ひとりの騎士の、凛とした覚悟に満ちていた。


 ノアは、その横顔を、じっと見つめて——。


 胸の奥が、じんと、熱くなるのを、感じていた。


***


 謁見が終わると、その夜は——お披露目を兼ねた、夜会が、催された。


 大広間に、シャンデリアの光が、きらめく。


 優雅な楽の音が、流れ、着飾った貴族たちが、思い思いに、歓談している。


 その中心に——レオンと、ノアがいた。


 謁見での、堂々とした姿。そして、王家の正式な認知。


 それらを目にした貴族たちは、もう、ノアを、奇異の目では、見なかった。


「まあ、なんて、可愛らしいお嬢さん」


「神獣の森から、いらしたとか。なんと、神秘的な」


「騎士団長殿が、大切にされるのも、頷けますな」


 口々に、好意的な言葉が、寄せられる。


 ノアは、最初こそ、緊張していたけれど。


 レオンが、ずっと、隣にいてくれたから。


 少しずつ、その場に、慣れていった。


「れおん」


「うん?」


「……みんな、ノアのこと、こわくないみたい」


「うん。みんな、ノアの、いいところを、わかってくれたんだよ」


「……えへへ」


 そのとき、給仕が、銀の盆を、運んできた。


 その上には——色とりどりの、菓子が、並んでいた。


 ひときわ目を引く、赤い木苺の、タルト。


「あ」


 ノアの目が、きらきらと、輝いた。


「……きいちごの、タルト」


「陛下が、言ってた、やつだね。食べてみる?」


「……いいの?」


「もちろん」


 レオンが、ひと切れ、取って、ノアに渡す。


 ノアは、おそるおそる、それを、一口、食べた。


 その瞬間——。


「……っ、おいしい!」


 ノアの白い頬が、ぱあっと、輝いた。


「あまくて、すっぱくて……ふわふわで……おいしい!」


「あはは、よかった」


「れおんも、たべて。はい」


 ノアが、自分の食べかけを、レオンに差し出す。


「あ、ありがとう」


 レオンは、それを、ぱくっと食べた。


「ほんとだ。おいしいね」


「でしょ!」


 二人の、微笑ましい様子を——少し離れた場所から、アルノー王と、王妃セイラが、見ていた。


「ふむ。よい光景だな」


「ええ。本当に」


 セイラが、穏やかに、微笑む。


「あの子、来たばかりの頃は、ずいぶん、苦労したと聞きました。それが、今では、あんなに、安らいだ顔を」


「うむ。レオンの、おかげだろうな」


 アルノー王は、ワインを、ひと口、含んだ。


「あやつ、昔から、誰かのために、なるときが、いちばん、強い。……よい、相手を、見つけたものだ」


「あなたが、認めてくださって、よかった」


「当然だ。——まあ、それはそれとして」


 アルノー王が、ふと、自分の皿に、視線を落とした。


「この、木苺のタルト。本当に、美味なりだな」


「……あなた。それが、言いたかっただけでしょう」


「む。ばれたか」


 セイラが、やれやれと、肩をすくめる。


 けれど、その口元は、優しく、笑っていた。


***


 こうして——ノアの、王城お披露目は。


 案じていた、波乱も、何ひとつ、なく。


 ただただ、温かく、穏やかに——幕を、閉じたのだった。


***


 その日の、夜。


 王都の外れ。打ち捨てられた、時計塔の上。


 小さな影が、夜の王城を、じっと、見下ろしていた。


「……ふぅん。おひろめ、うまくいったんだ」


 幼い少女のような声が、つまらなそうに、呟いた。


「おうさままで、あのこを、みとめちゃった。これで、だれも、てだし、できないね」


 影は、こつん、と、踵で、塔の縁を、蹴った。


「……でも」


 その声が、すうっと、低くなる。


「おうさまの、まもりなんて。わたしには、かんけい、ないもの」


 影は、くすり、と、笑った。


「だって、わたしは——にんげんの、こころのなかに、はいれるんだから」


「とびらに、かぎを、かけたって。むだ。だって、わたしは、なかから、あけられるんだもの」


 影の背中で、薄い羽が、夜風に、揺れた。


「ねぇ、ノア。たのしい、おひろめは、おわり」


「つぎは——わたしの、ばん」


 ぱた、と、羽音が、一度。


 影は、夜の闇に、溶けるように——消えていった。


 あとには、静かな、王都の夜だけが、残された。


 その不穏な気配に、気づく者は——まだ、誰も、いなかった。


——第6話 了

おまけSS 〜テオの夜〜

 お披露目から、帰ってきた、その夜。

 テオは、自分の部屋のベッドに寝転んで、天井を、じっと見上げていた。

 頭の中で、今日の出来事が、ぐるぐると、回っている。

『……おじさま、ほんとに、ヤキモチだったよなぁ』

 ダンスの練習で、ぼくがノアおねえちゃんに、手を差し出した、あの瞬間。

 おじさまの、あの慌てっぷり。

『ふふ。指摘したら、固まってたし』

 大人なのに、自分の気持ちが、わかっていないなんて。

 お父さま(ユリウス)が言っていた、「お前の伯父は、ああいうことに、本当に、わかりやすいんだ」というのは、本当だった。

『……でも』

 テオは、ふと、思い出した。

 謁見で、陰口を言った貴族に、毅然と立ち向かった、おじさまの姿。

「命に代えても、守ると決めた、大切な子だ」と、まっすぐに言い切った、あの声。

『……おじさま、かっこよかった』

 ノアおねえちゃんを、あんなふうに、守れる人。

 あんなふうに、誰かを、まっすぐ大切にできる人。

『……いいな』

 テオの胸に、ふと、子どもらしくない、感情が、芽生えた。

『……ぼくも』

 ぽつり、と、口に出してみる。

「……ぼくも、はやく、いいなずけ、ほしいな」

『——』

 言った瞬間、テオの白い頬が、ぼっと、赤くなった。

『い、いや。べつに、今すぐじゃ、なくていいけど』

『でも、いつか、おじさまみたいに、誰かを、まっすぐ、守れる男に……』

「にいさま……?」

 と——隣のベッドから、寝ぼけた、ルカの声。

「いま、なんか、いった?」

「——っ、い、いや! なんでもない!」

 テオが、慌てて、毛布を、頭まで、引き上げる。

「うん……?」

 ルカは、ぼんやりと、首を傾げて——また、すぐに、寝息を立て始めた。

『……あぶなかった』

 テオは、毛布の中で、ほっと、息をついた。

 子どもの自分には、まだ早い、想い。

 でも——いつか、自分も。

 おじさまみたいに、大切な誰かを、見つけられる日が、来るのだろうか。

 そんなことを思いながら——テオは、目を、閉じた。

 その日の夢に、何が出てきたかは——本人にしか、わからない。

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