先に惚れたの38才の奈央子さん?
「ユージくんが帰ると、急に静かね。太陽が沈んだみたい。」
「酷いな。ぼくが息子で悪かったね。家の中が暗くて。」
「アキラもそこそこうるさいわ。でもね、ムダにうるさいのよ。」
「いやいやいや、ユージはムダに筋肉だし。」
お互いに顔を見合わせて声を上げて笑った。
アキラは女手一つでここまで育ててくれた母に、感謝している。
いつもありがとうと心の中で言っている。奈央子を幸せにしたい。幸せになってもらいたいと心底思っている。
感謝の方法がわからなかったり、それを言葉で現せなかったりというところが、普通の男子高校生。感謝の言葉が恥ずかしくて言えないのが、この年代の可愛いところである。
「かあさん、テレビの調子悪いよ」
「え?」
「ほら、画面の上のところにいくつか筋が入ってない?チラチラしてるし。」
「あらやだ。テレビを買うのは、想定外の出費だわ。」
「大丈夫。YouTube見るか、聖子ちゃん聴くから、ぼくは平気だよ」
アキラは昭和の聖子ちゃんにハマっている。パイナップル、ユートピアがお気に入りのアルバムだ。
そこへ、ユージからLINEが入る。
「アキラ!野球見てるか?ドラゴンズが逆転したぞ!」
「あー、ユージ。テレビの調子悪いんだよ。」
「そっか」
それきりLINEが来ない
しばらくして、ユージからのスマホが鳴る。
「アキラ、俺の家のテレビ、型が古くなったから、新しいの買うんだよ。よかったら貸すから使ってよ。」
「いいの?」
返事より先にスマホが切れた。
「かあさん」
「ええ、聞いてたわ。良いのかしら?」
また、ユージからスマホ。
「アキラ、今度の休み、オフクロかオヤジかどちらかと届けにいくよ。」
「いいのか?」
返事より先にスマホが切れた。
「ユージ!落ち着け!」
奈央子がクスクス笑いながら、
「たぶん聞こえてないわよ」
「だよな。あの筋肉せっかちが。かあさん、今度の休み、テレビを持ってきてくれるらしいよ。ユージの父さんか母さんと一緒だって。」
「まあ」
テレビを拝借、いや恐らく譲り受ける身としては恐縮だか、何故か奈央子の心が弾む。
そして、奈央子の顔が晴れやかになった。
そう。お気づきだと思うが、ユージがいると家が明るく感じるのは、奈央子の心が真っ青な空のように晴れ上がるからであった。
ユージがテレビをあげるのではなく、貸すと言ってくれた彼なりの優しさが、奈央子にはたまらなく嬉しく愛おしく感じた。
最近、どんどん大人になる息子のアキラとその親友のユージ。ふたりの男子高校生の凄まじい成長の早さに目を細めながらも、ユージの笑顔が頭から離れなくなっている奈央子であった。




