診断結果は、左肩の棘上筋(きゃくじょうきん)部分断裂です
4回を終わって、1対3と2点をリードされた中野高校。
5回以降、中野高校は、小谷対策が功を奏し、ヒットも打つ。単発ではあるが。
アキラは、点を取られてからは持ちこたえ、無失点に抑えている。
6回表の中野高校の攻撃は、1アウトランナー無しでユージに回ってきた。
小谷は全て速球勝負。しかもコーナーを突こうなど考えてない。
それを全て振りに来るユージ。
ファールが6球続いた。
「タイム」
伝令だ。
「熱くならずに冷静に打ち取ろう。」
ごもっとも。
頷く小谷。
それを見て、監督がほっと一息。
しかし、キャチャーのサインに3度首を振る小谷。
嫌な予感がする知多の監督。
ユージ
「ストレート勝負来いよ。小谷君。」とつぶやく
小谷が投げたのはド真ん中のストレート。
監督が思わず、あっと言って腰を浮かせた。
ズバーン!
空振り三振!
知多の監督は、
ハハハハハ、小谷、細川以来のライバルを見つけたな。川伊君の打席はノーサインにするから。好きに勝負しなさい。
と、つぶやいた。
子供を信じるとか、そんな綺麗事では無い。
野球人として、スポーツマンとして、小谷の純粋な勝負したいという気持ちがわかるからだ。
大人はその場を与え、子供の成長を見守る。勝ち負けなんて10年早い。
今回はユージの負け。これで2アウト。
ベンチに戻り、ユージは小谷を見た。
小谷もユージを見た。
ふたりとも楽しそうにしている。
ユージのファン、小谷のファンがキャーキャー騒いでいる。
お互いに譲らず、1対3のまま、
8回2アウトランナー1塁になった。
再びバッターはユージ。
一発出れば、同点。
応援団は、ユージに期待する。
ユージが打席に入る。
小谷がストレートを投げ込む。
空振り!
その瞬間、ユージの左肩に電気が走った。
「あっ!」と声を出して、肩を抑えた。
小谷が、ユージの異変を感じ、無意識に「タイム!」と叫んだ。
その直後、ユージがしゃがみ込んだ。
タダならない小谷とユージの様子に、敵である知多医科大付の監督が、大事をとって担架を要請。
中野高校の選手達が駆け寄ろうとする。
小谷が叫ぶ。「動かすな!」
ユージが痛みに耐えながら、
「あ、ありがとう、小谷くん。でも、大丈夫。」
「その状態で、オレのストレートは打てないだろ。」
「ソレもそうだ。イタタ。」
球場の職員、看護師も駆けつけ、応急処置を施していると、救急車のサイレンが聞こえてきた。
ざわめく球場。
ユージの母と奈央子はオロオロしている。
ユージの父が、
「命に別状はない。心配しなくていい。これ以上痛めた所を悪化させないよう、高校生の場合、救急車を呼ぶことは、珍しくないよ。」
リコが席に来た。「パパ、ママ救急車に乗って。」
ユージの父
「わかった。リコは残りなさい。奈央子さんを頼みますよ。」
奈央子
「私も行きたい。」
ユージの父
「ありがとうございます。でも、アキラくんも、カナさんも戦っている。残ってあげてください。」
そこに、カナの両親が駆けつけた。
ユージの父
「あー、よかった。奈央子さん、リコをたのみます。連絡先はリコに送ります。」
救急車で病院に搬送されたユージ。両親も一緒だ。
処置室に運ばれた。
両親は待合室で待っている。
ユージは治るのか?
手術しなければならないのか?
野球は出来るのか?
重苦しい長い時間が過ぎる。
「お父さん、お母さん、コンファレンスルームへ」
主治医は森田愛先生だ。女性だ。
ユージも処置が終わり、コンファレンスルームにユージが車椅子で入ってきた。
主治医になる森田です。
川伊さんの診断結果は、
左肩の棘上筋(腱板)部分断裂(断裂寸前)です。肩甲骨と上腕骨をつなぐ4つのインナーマッスルの腱の複合体の異常です。
川伊さんの場合、右打者ですので、打つときのフォロースルーで左肩に強い負荷がかかります。
彼は特に力が強いので、その結果、腱板の一部が裂けかけました。
3人は、腱板の一部が裂けかけたと聞き息を飲んだ。
ユージは野球は?と聞いた。
森田先生は、わからないとのこと。
但し、完全断裂ではないため、手術をしないで済むかも知れないこと、リハビリ方法も確立されていることを話してくれた。
直って復帰した例もたくさんある。
一方で、治療の経過を見ながらの判断になるので、今は野球ができるようになるかはわからない、
また、再発リスクが高いことを知らされた。
少なくても、ユージの持ち味である、大きく振り抜くフォームには戻れない可能性が高い。
3人は言葉を失った。
リコから電話が来た。
試合は1対3で負け。
そして、奈央子、アキラ、リコ、カナ、米村監督が病院へ駆けつけるそうだ。
ユージは、試合が負けた実感が沸かない。野球が出来なくなるかも知れないショックも重なり黙り込むユージであった。




