九十四夜 ハミングバード
国によって様々だが、国民は一定の年齢まで社会生活を営むための教育を求めることができる――義務教育制度。
古代ギリシアからこの制度は制定されていたが、ほぼ衰退してしまう。
「明日の花より今日の種」
親の後を継ぐのが当然の時代、食べるだけが精一杯の時代。
いつしか知識は、平民に閉ざされし門となっていた。
「ギムキョ――…?」
「いずれは国中の子供へ広めたいですね。まずは手が届く範囲から構想を組立て、学園を軌道に乗せるのが先決でしょう」
「学園……教会教育みたいな機関を、立ち上げるのか?」
この時代に知識人や知識層の中心とみなされたのは、聖職者である。
教会や修道院を「学校」と定め、薬草を研究して病院や診療所に伝え、エールやワインの醸造に携わり、芸術や文学を興す。
聖職者が文化教育の支配権を有し、社会の価値基準を築くのが通例であった。
階級制を排し、現代の学校形態になるのは――19世紀である。
ラクシュの疑問は当然であり、残念ですがと首を振った。
「教会は神学やスコラ学が中心であり、聖書の聴講や引用しての受け答えに重きを置いています。それらを否定する訳ではありませんが、勝手が違い過ぎですね」
教義を学ぶ過程に文字が必要なだけで、読み書きなど基本教育の場ではない。
「こちらの学園ではまず、数字から文字へと一定の水準まで習得を目指します」
この時代で四則演算がかなえば、神のごとき頭脳だと思われます。
読み書きができれば、貴族を客筋にする専門店や商人も勤めれましょう。領主に政務を執り行う要職として、雇用すら望めるかもしれません。
設計図やレシピの解読など、あらゆる職への汎用性が極めて高いのです。
適した仕事へつくためには、時間がかかろうとも文字は必須。
「そして敷地内外に鍛冶や陶器の窯を建て、石工や大工の親方を教師に招きます。身を守るための武術など、希望があるほどに幅広く」
「頭を押さえて答えだと決めつけるのではなく、選択と過程を持った教育制度――サーガラでアユムがやっていた、導き手となるやり方だな!」
ラクシュがふに落ちたと前屈みになり、今度は頷いて肯定する。
「適している現実と目指している希望が違う場合もあるでしょう、しかし向いていないと分かっていても成し遂げたい夢もある……それすらも選べる自由」
「誰でも好きな、やりたい仕事につけるってこと!?」
ビハーラ嬢が若干興奮し、胸で手を組む。
「そうです、身分も性別も関係ありません――ブリハスパティ卿がいい例ですね。彼が領主を継承なさっていたら、大変困った事態が訪れたでしょう」
ソーマ卿が思わず、佩刀している細身の剣に手を伸ばしていた。
ヴィーラ王国のS属性にとっては、背筋が寒くなるほどだろう。
「食事と同じなのです、レバーが不得手ならイチジクがあるのだと……「知識」の土台を築き、新たな道を切り開く力を与えたい!」
親の後を継ぐ一本道だけではない、人はどんな道でも歩けるのだ。
「教会教育、騎士道教育、職人教育……それら単一ではなく、総合的な教育制度。未来を選択できる! これがヴィーラ王国を磨く、最大の一手となります!!」
行商人が訪れなければ、ウダカに「絶品3食」は出店しない。
誰もが抗えない食の魅力ですらこうなのだ、学園の構想もせいぜいウダカ領内の一過性で終わるだろう。
しかし王道の整備と通信網の構築が整えば、情報の伝達速度は加速する。
『他の生き方なんて、知らなかったから』
ウールドやサーランバ卿の葛藤――イダム卿の町を襲撃した盗賊、恨みの連鎖に囚われてしまった亜人。
選択ができなかった、迷いこんでしまった多くの人生。
人々に欲望がある限り、犯罪の完全なる抑制は現代とて不可能だろう。それでも可能性を……目の前に広がる世界を、次世代を担う子供らにしめしたい。
「――教育制度、子供らに学ばせる「学園」の構想はいい」
だが基本的な問題をかかえているなと、炎の瞳が心を読む。
静かに聴いていたヴィーラ殿下が、カードを指で弾き木霊させた。
「人はパンひと切れのために、罪を犯すぞ」
「……っえ?」
「それのみで生くるに非ずと説こうが、飢えている者の耳に届こうはずもない」
思わず喉が詰まる。
この場にいる者の中で、本当の意味で「飢え」を知らないのはぼくだけだろう。
「そうだ、多くの領民が「今日の種」を必要とするのは、飢えて苦しまぬためだ。現実として子にも仕事があり、全てを国で賄うには資本金が必要となろう。いずれ優秀な労働力になるからと、どれほどの負担を国庫にかけるつもりだ?」
殿下が皮肉な笑みを浮かべた。
王道を各領地に任せれば負担が減ると主張した件の、見事な意趣返し。
平皿やスプーンは全てこれからの商品であり、展望は見えない。在校生の作品を販売するにしても、安定供給と呼ぶにはほど遠いだろう。
「財源の確保は絶えず念頭におけ、風呂や石鹸を経済活動規模としたのはなぜか。新王都への誘いを断り旅をしたのは、我が国の現状を推し量るためであろう!」
お風呂や石鹸とは違う、学校は完成してからが始まり。
何十年とかけ、長期的な視点で取り組まなければならない政策である。桁違いの支出となるのは予想できるし、資金の見通しは当然だった。
国ごと動かす制度改革……殿下の許可が必要だと、策を練っていたのだ。
しかし学園の構想に想いが強まり、机上の空論になってはいなかったか?
「夢想や世迷言だけで、国が立ちゆくと思うてかっ!!」
「は……っ!」
運営と継続を未来に棚上げする失策だ、反論はない。
側溝を掘った時は殿下とスーリヤ様に頼りきりだった。対するのもウールドや、広くてもマナスル領だけ。
ぼくの発想は、自分が手を伸ばせる範囲でしかない。
しかし今度は全領民が、国が相手となるのだ。背負う世界のあまりの巨大さに、想像だけで身震いし汗が落ちる。
「ぼくの代では、終わらないだろう……」
その世界を見ることがかなうのは、きっと彼女だけ――。
「が――嘆かわしいことに、貴様には認可済の免罪符を与えておるのだったな」
「……へっ?」
伏していた顔を上げると、深いため息と悪ガキみたいな笑み。
「まったくもって、下らん許可を与えてしまった! お前は思うさまに制定して、好きに破滅すればよかろう?」
――してやったり!
声を上げて笑われる……意地悪ですねえ殿下。
「それとも我が与える許可は、受け取れんと申すか!?」
「い、いえとんでもございませんっ! ただ……ぼくが強要強制するより、領民の自主的な意識改革が大切ではと願ってしまうのです」
必要なのは領民を救い去ってゆく英雄ではない。困難に立ち向かう領民こそが、その意思こそが国を救うのではないのか。
できるならばぼくは、その姿をこそ手助けしたい――。
「まったく……賢しいほどの暴言を吐くと思えば、幼子ほどの理想を語る」
お前ほど自分を分かってない奴も珍しいな――どこかで見た、呆れ顔。
どっちにしろ突っ込まれるのだが、なんだか妙に嬉しい。殿下の瞳が、弟を諭す姉の優しさと強さを秘めていたから。
「人を動かすに一番単純なのは資金力だ」
マナスルの復興に各地から人が溢れた、それは潤沢な資金が期待できたからだ。
「ヒントを与えてやっただろう、お前はこの半年実績を積み上げてきたはずだ」
「実績」は利益を生み出す可能性を表す。
お風呂や石鹸事業を成功させた実績は、非常に大きな魅力となって信用を得た。
それは経営者にとってもっとも重要な、人材を動かす能力に直結する。
「完成が見えない」事業に投資し、参加する資産家に辿りつく人脈……。
マナスルに滞在されてた頃、王族専用の執務室は深夜まで明かりが灯っていた。
何年も一国の摂政をされてこられた殿下の前では、ぼくなど赤子同然だろう。
「しかしまた、資金だけでも人は動かん。そこにある理念――未来像に心を揺らすほどの共感が得られてこそ、人は目的の達成に尽力する」
人は誰もが、己を理解して貰いたい。
真剣に話を聴いてくれ認めてくれ、自分を分かってくれる。心を満たす共感が、体を動かす原動力となるのだ。
マナスルでサーガラで……どれほど助け合い、感謝の笑みを交わし合ったか。
「青い瞳がずっとお前を見てきた。その分は、誇ってもよかろう」
「……はっ!」
ありがとう、ジャーラフ。
「まずはこの学園をモデルケースにし、成果を上げよ! 実績の全てを明確にし、企業理念に基づく矜持をこそ王道を駆けるとしれ!!」
「ははっ! 御意にござりますっ!!」
テーブルの横に回り跪く、深々と頭を下げ歓喜に満ちていた。
忠誠を誓うべき方の偉大さに、気圧される魂に、あおぐべき主君に背が震える。
優美に組んだ脚がふくらはぎを浮かべ、くるぶしが蠱惑的に揺れぼくを誘う。
嗚呼……どうかそのおみ足で、未熟な下僕めを踏みにじってくださいっ!!
「そしてまだ、最大の問題が残っている」
再びカードを指で弾き、いささか苛立った木霊が鳴る。
「スペードの9を止めてるだろう、決定権のある者には逆らわん方が賢明だぞ」
パスの連続と連敗にかなりヘイトが溜まっていたのか、下目使いで睨まれた。
素晴らしきかな、我が暴君。
「この方がやるとひと言発すれば、その日から学園が始まるのだろうな」
人を動かす3大要素――資金と理念と、そして恐怖である。
☆
「――ローカァ伯爵家に向かう」
「はっ!!」
夕刻門扉が開かれ、シャンティ卿の屋敷よりヴィーラ殿下が現れる。
門前には当然のようにステューパ卿が直立不動し、一糸乱れぬ敬礼で出迎えた。
殿下への心遣いや、御身へ配慮などなにも主張しない。
「殿下が供1人で、ウダカへ視察に出立なされた!?」
新王都にヴィーラ殿下が居られない――ジャーレーに報告を受けた近衛隊長は、この事実に戦慄と動揺を隠せなかった。
しかもウダカには今、件の少年が何やら悪だくみをしていると聞く。
何故そのような場所へ赴くのに、私をお連れくださらないのかっ。あの奇天烈な少年に注視なさらずとも、私の方がよほど――。
「ヴィーラ殿下……っ嗚呼なんと! なんと愚かなっ!!」
「ステューパっ! 殿下に対し奉り、不敬にもほどがあろうっ!!」
父の真っ青な叱責を受け、息子は天に涙し懺悔する。
「父上、その通りでございます! 殿下の燃える瞳が、輝く黄金色の髪が、覇気をまとう背が「出立する」と告げてはおられなかったかっ!? 嗚呼……情けない、私はなんと愚かな家臣でございましょう――~!!」
例え御独りで領地を巡回されたとしても、気がつかぬ己が悪いのだ。
「足りぬ我が身が恨めしい、早く殿下に覚えある騎士とならねば……っ!!」
騎士団総長であり父のサードゥ卿は、うな垂れる息子に問う言葉がなかった。
「殿下のなさることは全て正しい!」
ステューパ卿は一切ぶれずに胸を張る。
見送りに出て来たアユムへ、危険で複雑な視線だけは送っていたが……。
乗馬する騎士を先頭に、貴族用と思しき馬車が大通りを内側城門へ向かう。
ステューパ卿が露払い、ヴィーラ殿下とラクシュが並んで馬車に座り、因果伯の3名が側面と最後尾を固めていた。
ローカァ伯爵夫人も馬車を勧められたが、会釈して辞退する。若い2人の邪魔はしたくないとの配慮だろう。
「はぁでっかい騎士さまが、でっかいお馬に乗って為さる」
「おっおい道を開けろ! 貴族さまが、お通りになられるぞ――~!」
「かあちゃん……あの馬車、燃えてる……」
複数の『カルマ』をまとう集団は、現れた瞬間から注目を受けていた。
素通りしようにもその存在は、意識からけっして離れてはくれない。
中でも黄金色の髪と炎の瞳を放つ少女は……そこに在るだけで輝き、常人ではないと如実に表しているのだから。
「……夕日に赤く染まる空は、この少女がもたらしているのではないか」
平民にとって王族は雲の上の住人であり、貴族であっても遠目に見る存在。
少女がヴィーラ殿下であるのは、集まる市民も行商人も兵士ですら知らない。
「今ウダカの貴族の屋敷に、殿下がお見えである」
そんな噂がなくても断言させていただろう、この少女は王族であろうと。
大きく口を開けあおぎ見ていた子供に、殿下が微笑んで手を振る。それが開始の合図となった。
大歓声が弾け波打って街に広がり、港の係留場で働いていた労働者が仰天する。
海にカモメが飛び山に野鳥が羽ばたき、夕日を覆って鳴き声の楽器を鳴らす。
期せずしてパレードとなった。
「あっこれは、始まりましたネ」
「殿下は、お忍びができない方ですから」
喝采の地響きがシャンティ卿の屋敷まで届き、不敬な2人が笑い合う。
ルタは飲み物を給仕した際厨房の惨状に額を押さえ、放ってはおけなくなった。
料理を担当しているクラトゥら年上の子数人と、掃除を始めてしまったのだ。
ルタの主君である王族のラクシュも、大概どんぶり勘定気質である。度量が広いと言えば聞こえはいいが、大雑把な行動をルタが細やかに支えていた。
「損な性格してますねえ……」
アユムは苦笑と共に呟き、自分も残って掃除に参加してしまう。
似た者同士が笑いながら掃除するのを、2人の弟子が恐々と眺めていた。
「けして話題に加わらないよう、あの方の件は振られないよう……」
ぶつぶつと呟きつつ、黙々と掃除に精を出すのだ。
1人ホールで居眠りを始めたヨーギのそばへ、子供たちが恐々と近づいていく。
「――殿下はアユム卿を前によくお笑いになる、気が合うのでしょうか?」
「むしろ彼奴には、腹立たしさが際立っていると思いますが?」
お似合いのカップルは数舜見つめ合うと、どちらともなく吹き出した。
内側城門を潜ると、次は貴族と名誉市民が拍手で出迎える。ヴィーラ殿下へ拝謁願いに集った貴族が、騒ぎを知り我先にと飛び出したのだ。
道の周囲には馬車が連なり、色とりどりに着飾った礼服が夕日に反射した。
外側都市部とはあきらかに異なる情景。
「ずけずけと言いたいことを言う。主従関係をはき違えぬよう、いずれ身体に沁み込ませてやるつもりですよ」
夕日に舞う鳥に伝書バトの件を思い出し、美しい左の眉が少しだけ上がった。
「そういった軽口さえ、私には羨ましく思えますが」
着飾った貴族の令嬢に手を振ると、絶叫とも呼ぶべき歓声が響く。
ラクシュとて身なりを整えれば、その佇まいは紛れもなく王族のそれである。
「おやリグ公はずいぶんと、アユム卿を買っておられるのですね」
「そうですね、実は少々……やきもきする場面もありますが」
王太子の苦笑に、王太女の視線が瞬く。
「サーガラの磨き上げられた街並み、船舶で垣間見た英知と手腕、ウダカで開いた王国の新たな扉……彼の道程は未知なる光に輝いています」
そして戦闘訓練で見せた、人知を超えた「力」――。
「アユム卿ならば一国の王すら望めるでしょう、国の命運すら左右しかねない! にも拘らず、影に潜むのを好む習性すら見受けられる。奇妙としか、そうまさしく奇天烈としかいいようがない」
『アユム卿は、私たちとは違うのです』
姉の断定が脳内で木霊する。
「ならばこそ私が彼の伝記を広く後世に残したい。師として学び、友として生涯を共にしたい……っ!」
「公爵の友……ですか?」
少し呆れ顔で、少し嬉しく、それは微妙な笑顔となって写った。
「変でしょうか? アユム卿は紛れもなく、王族の資質があると思うのですが」
「臣下ではなく友と呼ぶのなら、資質などに拘らず手を差し出すといいでしょう。彼奴はきっと――リグ公に、笑って応じてくれますよ」
視線は市民に向けたまま、しかし心はラクシュに向け語る。
それは本心であったか、単なる社交辞令であったのか。少女の体の内から、淡い光が立ち上って見えた。
「ふむ……ステューパ卿、少し寄り道をいたす!」
「1枚で再びこの地を訪れる、2枚で大切な方と一緒にいられる、3枚で配偶者と別れられる――」
そこは奇天烈な少年が「乙女の水道」と勝手に命名した、巨大な水汲み場。
願いがかなう、異国の少年が占いをしていたと噂が広まっていたのだ。半円形の水底にはすでに、大小銀貨と数枚だが金貨まで投じてある。
貴族が住む内側都市部だからこそ、放置されているのだろう。
占星術に易占に水晶占い、タロットに手相におみくじ――いつの世であろうと、占いは人の心をつかんで離さない。
乙女の水道を背に、ヴィーラ殿下が金貨を3枚投じた。
2枚が着水する雨音、そして1枚は……水汲み場の縁に当たり石畳で弾ける。
「ああ――――~……」
「おい、し……っ!」
周囲から残念な声が上がり、次いで不敬かもと慌てて口を押えた。
少女は足元に転がった金貨を拾うと、改めて水汲み場に投げ入れる。水滴の音にかぶり、若干だが口の端を上げ小さく呟く。
「本当に、腹立たしい奴だ」
ヴィーラ殿下がなにを願ったのか。
あるいは3枚が無事着水していれば、かなう願いとして訊けたかもしれない。
外れてしまった今では、胸の内は固く閉ざされてしまっただろう。
「リグ公どうか、アユム卿の良き友で在って欲しい」
我が思う以上に、因果は巡っている――その微かな呟きを誰が聞けただろうか。
「ええ、それはもちろん……殿下?」
夕日の逆光となり見えにくいが、少女の瞳は炎とは別種の揺れ方をしていた。
覇気をまとう眼差しが崩れ、幼子が泣き叫ぶ寸前の瞳。この方に相応しくない、あるいはそれこそが相応しかったのかと胸が詰まる。
光に包まれた小さな女の子が背を向け、ラクシュは言葉も発せず見つめた。
「ウダカの市民よ、大海に向かい広がる民よ! 其方らはなにを願い占う!?」
突如殿下に問われ、貴族たちは横を確認し戸惑う。
「見果てぬ世界か!? 目も眩むほどの財宝か!? 戦争や争いのない国か!? ――どうやら我は、この国とは別れられぬらしい」
先ほどの3枚は国との関係を占ったのか。噂とは違い殿下は冗談も話すのだと、周囲から軽い笑い声が上がる。
だがその空気は、一瞬で霧散した。
夕日になお紅き蛇が、殿下の手より発したのだ。
「我が国は小さくまだ幼いっ! それでも貧者に手を差し伸べ、明るき未来を語るだけの矜持はある!!」
揺れ動く炎の蛇と、有無を言わさぬ断定。
燃える瞳に射すくめられ、ざわめきは水を打って静かになる。
「卵を割り巣から飛び立つ子。幼き子らへ想いを託し礎になることこそ、なにより相応しき願いではないのか!」
語りかけた言葉の一部は、あるいは少女の本心だったのかもしれない。
詰め掛けた貴族が我が子の肩を強く抱き、名誉市民が幼き子を思い出す。誰もが我知らず膝を折り跪いていた。
「我が名において命じるまでもなかろう、水底に集いし願いはただ一つと!」
「全てをハチドリが謡いし園――「ハミングバード学園」への寄贈とせよ!!」




