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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第三章 新王都アムリタ
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七十六夜 人生行路

 ――出航中、キラナ船員長は予想外となる嵐の発生を予見する。

 そこで夜になる前、カター船長が自室にこもる前に告げた。

「今夜嵐が止んだ後、守護聖人様が来られるかもしれません」

「っ守護聖人様が!?」

 バックギャモンを前に、サイコロを持ったリザードマンの手が止まる。

 それは船乗りにとって、いや……船長にとって(・・・・・・)魅力的な言葉だった。夜間自室にこもる船長は、セントエルモの火を見たことがなかったのだ。

「お会いして初めて船乗りと認められる」

 船員の間で実しやかに語られる存在に、船長はどれほど心惹かれたか……。

 ふいに風が強まり天候が崩れ、今度は予想通り嵐となる。キラナ船員長と船員の信頼は厚く、無事時化を乗り切ったと言えよう。

 秘めた思いを隠し、船員長としての責務を全うしたのだ。

 嵐が峠を過ぎ、雨の中当直を残して交代要員を休ませる。自分も船室に下がり、軽食を取るかたわらナイフを捜すつもりだった。

 それは誰にとっての幸運か、予定が狂う。

 チャテーが調理室にこもり仮眠してたので、入手できなかったのだ。カレシーが船の害虫を全て排除していたなど、想像もつかないだろう。

 これから成す狂気を思えば、誰かに姿を見られるのはためらわれる。

 武器庫は船長室にあり今は手出しができない。ナイフはあきらめる他なかった、時間がなかったのだ。

 雨が降っている間に、コーティと交代しなければならない。


 マントをはおり、フードを目深に被っても不自然ではない状況……他の船員とはひと目で異なる洋装、青色のプールポワンを隠す必要があった。

 さっさと寝入った船員を横目に、急いで見張り台へ向かう。

 まだ若いコーティは疲労で集中力を欠き、通常より早い交代に気がつかない。

 さして注意も引かずに入れ替われた。ほどなくして雨が上がり、キラナ船員長は独り見張り台で風に耐える。

 やがて軋みを上げる船体が徐々に落ちつきを取り戻してゆく。

 空気が乾燥して、微細な塵や水滴が摩擦を生み静電気を帯電。コロナ放電が――セントエルモの火が、現れてしまう。

 キラナ船員長は己の予想が当たった件をどう思ったのか、胸中は語らなかった。

 船長と船員長だけが所持を許されている短剣を握り、その時(・・・)を待つ。あるいは、訪れないかもしれない時を……。

 それは一種の願いではなかったか。

 予定外の天候、予定外の行動、予定外の船客。いくら天候が読めても、想定外はいかようにも発生するのだから。

 それは長い船員生活で学び、熟知していたはずだった。

 しかしキラナ船員長を信頼しているカター船長は、甲板に出てしまう。船乗りとなって、船長と呼ばれてなお憧れた存在を見るために。

 はたしてマストの先端で、守護聖人様が燈り揺れていた。

 それはどれほどの感動であったか……想像にかたくない。もっと間近で見たいとシュラウドに取りつく。

 見張り台に現れたカター船長に、キラナ船員長は短剣を抜く――。


 甲板や部屋では船長の巨体は脅威となる、一撃で致命傷を与える必要があった。

 そのため狭い見張り台の上、守護聖人様を見上げ動きが止まる時を狙ったのだ。

 実行後、またしても想定外が生じる。1人では船長の巨体を、見張り台から動かすこともできなかったのだ。

 そうしてこの奇妙な状況が作り上げられてしまった。

 だが悩んでいる間もない、本当の交代要員が来てしまう。急いで船長の腰袋から鍵束を取り、見張り台から降りて船室へと走る。

 焦っていたのだろう、その音を奇天烈な少年が耳にし目覚めるほど……。

 運良く他の誰にも見られなかったが、周囲を気にもできない心理状態。手にいつまでも残る……衝撃と感触。

 寝入る船員に囲まれ、独り祈るように手を組んで震える体を抑え込む。

 しかし交代しに向かった当直から、船長が殺されたとの騒ぎが一向に起きない。

 その時見張り台の交代要員ナムダは、奇天烈な少年とトランプをしていたのだ。

 予定よりかなり遅く、早朝日が昇るまで……。

 キラナ船員長は海賊と遭遇した経験がない。初めて人を刺し、それが発覚もせずに時間だけが過ぎる。

「なぜ騒ぎが起きない? 刺したのは1度、まだ息があったのか? 船室の外には船員が待ち構えているのでは!?」

 疑心暗鬼に震えるキラナ船員長にとって、どれほど長く感じる時間だったろう。

 憔悴し疲労が積もって、混然としてしまうほどに――。



 ☆



「これを……」

 キラナ船員長が腰袋から鍵を取り出す、おそらくは鍵束から外した武器棚の鍵。

 鍵束は船長室を検めている時、ぼくらに見つかる場所へコッソリと置いたのだ。

「武器は船を護るための要、因果伯様のおっしゃる通りです。カター船長は巨漢の俺が持っていた方が安全だと、常に身につけておられました」

 確かにどこかへ隠すより、船長が持っていた方が確実といえよう。

「私は船長が行方不明(・・・・)になる前に鍵を受け取っていたと、後任を任せられたのだと思いますと裁判で証言し……全てを、終わらせるつもりでした」

 因果伯様には見破られておりましたが、と鍵を差し出しす。

 鍵は船長の体格――なんて匂わせる発言をしておきながら、ぼくはその可能性を完全に失念していた。

 ラクシュに言われたけど確かに抜けてたな。

 なんとも微妙な心情となり、黙って「船を守る鍵」を受け取る。


「カター船長は守護聖人様を見るため、見張り台に上がったのですか」

 崩れていないバックギャモン……部屋から主が消えたのは、凪の前かその直前。

 それ以外船長の行動がどうしても分からなかった。無事甲板に降り、船員長から事件のあらましを知る。

 ぼくは幕引きを迎え、深く息を吐く。

 しかしキラナ船員長、コーティ、騒ぎに飛び出してきたラクシュ。皆は否応なく出演させられた劇の終演より、その前の派手な喧噪に心ここにあらずだった。

「その顔を十字裂きにして、海に叩き込むぞっ!!」

 ジャーラフが烈火のごとく怒ったのだ。

「ボクはお前の言葉を信じて見張り台に行ってやったんだ! あれほど危険な状況にはならないと説明しておいて――なんだあれはっ!!」

「大丈夫だよ、このベストもシャツも防刃布仕立て……あっはい、ごめんなさい」

 今にも襲い掛からんとする怒りの形相に、正座をして頭を下げ続ける。

 防刃布はアイスピックなど突き刺しに効果は薄く、圧力や衝撃も無視できない。

 なによりもあの高さから落下すれば、防犯グッズではなす術がなかった。せめてザイロンを使い、命綱にすべきだったと後悔するも後の祭り。

 自分の命を的にする――とても最善の策とは言えず、軽率すぎたと猛省。

 それなのにぼくを気遣い、怒ってくれるのが嬉しくてにやけてしまうのだ。牙を光らせ震えるジャーラフが、こんなにも愛おしい。

「聞いてんのか! この……っバーカバーカ!!」

「あっいえ、はい……申し訳ありません」


 亜人が只人を怒鳴りつける、それも彼らからすれば「因果伯」を。ヴィーラ王国の領民にとって、それはかなり異質な状況だったのだろう。

 ぼくが怒りもせず謝罪するので、ジャーラフを止めるべきか戸惑っていた。

 唖然と見ていた他国出身であるラクシュだけが、別の意見だったようだ。

「……こいつ、無茶するのか?」

「するっ! 恐れ知らずでなんにでも首を突っ込みやがる!!」

 そこまで言わなくとも……。

「無茶をする理由があったんだよ、このままウダカにつけばコーティの犯行にされた可能性が高い。無実だと分かってるのに、放っておく訳にもいかないだろう?」

「だから文句だけで済ませてやってんだ! それ以上御託並べやがったら縛り上げて船倉に叩き込むぞっ!!」

 口を尖らせつつ若干反論してみるも、怒りの収まらないジャーラフの尻尾がこれ以上ないほど太く逆立つ。

 黒のレザーに酷似した紐を両手で引き、鞭の雷鳴をうならせた。

「嗚呼、それは願ってもない――~!」

 希望と願望が入り混じった感想が頭をよぎったが、無理矢理口を閉じる。征服欲を強要はできない、ヴィーラ殿下意外に求めてはいけないのだ。

 ぼくは頬の発汗をごまかし、幾度も頭と肩を下げた。

「シ――~?」

 頬に擦り寄ってきたカレシーが、不思議そうに首を傾げる。


「コーティすまなかった、裁判でできる限りの擁護はするつもりだったが……」

 キラナ船員長にとっての予定外。

 突然の惨劇に船員の混乱が爆発し、見張り台の当直であるコーティが疑われるだけではなく、船客をも巻き込んでしまう。

 その船客は因果伯であり、船の内部で収まる話ではなくなったのだ。

 当初は誰が犯人か分からず、自殺で収めるつもりだったのかもしれない。しかし犯人を捜さなければ、パニックを拡大させる事態となる。

 誰かを、差し出さねばならなくなったのだ。

「キラナ船員長、ぼくにはカター船長に確執を持っているとは思えませんでした。なぜ突然、こんな暴挙を行ったのですか?」

 ぼくの問いにラクシュは不満そうに頭を掻き、ジャーラフが不機嫌に横を向く。

 分かっていないのは、ぼくだけ……?


「許せ、なかったのです……」

 私は他の船員と違い、亜人に偏見を持ってはいません。

 仕事を全うする上で種族は関係ない。世に流布される先入観に縛られず、只人と同じに接するべきだ。

「そうあるべきと船員にも説いてきました、私たちは航海のプロなのですから!」

 キラナ船員長の吐き出した吐露は、次第に大きくうねり出す。

 亜人への対応で注意を受けていたコーティが、複雑な表情で船員長を見る。

「亜人だからと特別視した事などありません。だからこそ日が落ちれば嵐であっても部屋にこもる、カター船長が許せなかった!」

 食事などは船員に話を聴き改善され、けっして融通の利かない方ではないのだ。

 それなのに夜の自由な振る舞いだけは、一向に改めていただけない。船の状況は刻一刻と変わる、船員の模範となるべき船長がそれでは困る。

 亜人だからではない、航海のプロとして許せなかった。

「私は、賭けたのです……己の感情を優先するならば、この手でと」

 夜半は船員に一任する、それが船長の定めるルールならば従いましょう。

 ならば守護聖人様が来られても、ルールは守って欲しいと。

「カター船長の資質に疑いはないのです、だからこそ許せなかった……っ!」

 船員長が本気で船長を殺めるつもりなら、陸でナイフを入手していたはず。

 そうであれば犯人の特定には、もっと時間を必要としただろう。計画的ではなく「条件が整った」ゆえの行動ではなかったか。

 不安から発生する、突発的なパニック。

 その時(・・・)が訪れなければ、実行しなかったのでは――。

 キラナ船員長は真面目な性格だと誰もが認めている。

 真面目に職務を全うし、真面目に船長に接し……理性からこぼれ落ちる感情が、オリのように積み重なっていく。

 虚偽を続けるのも限界だったのだろう。

 うなだれた船員長は犯行の露見に……それでも、安堵して見えた。


「申し訳ありません、なにを言おうともう手遅れなのは分かっています。この手でカター船長の命を、絶ってしまったのですから」

 言い訳にしかなりませんと、拳を握り甲板に押しつけた。

 キラナ船員長の罪が消える訳ではない。

 だけどぼくの右手は覚えている。見張り台から落ちるぼくを、彼は同じその手で救おうとしてくれたのだから。

「本当に真面目な奴だなあ、船長に訊いてみればよかったのに」

 なんだかとても軽く、ラクシュがため息交じりに告げた。

「何度も話しました! お願いし諭して、改めるべきと――ですが、それも」

「いや、手遅れかは分からん」

「……え!?」

「因果伯がおっしゃったろう? カター船長の心に直接訊くのです――と」

 胸を張り、手の平でぼくを指した。

 自分のセリフを思い出し、思わず頬を掻く。



 ☆



 格子状の明り取りから、船倉に夜空の星が揺れている。

 通路に立つルタが道を開け、巨体の横に控えていたヨーギが立ち上がった。

 あお向けに寝ていたリザードマンの目が微かに開き、意識の光を放つ。

「ああ……」

 船倉に入ってきたキラナ船員長の姿を認め、全てを察して細く低い息がもれる。

 あの時(・・・)見張り台にいた者はフードを目深に被っていて、誰かは分からなかった。

 船長にとっては、分からないままの方がよかったのかもしれないけど……。

「カター船長――…」

 長いつき合いとなる船員長の動揺した声を聴き、船長は目を細める。

「まだ予断は許せませんが、緊急事態は脱しました」

 抉れた傷跡は残るものの、左胸の創傷には早くも肉が盛り上がっていた。

 だが大量出血による重度の貧血は、増血剤がない時代ではどうしようもない。

 輸血は血液型や血液の凝固、感染症など多くの問題が発生する。成功例がしめされるのは19世紀以降であり、万が一以外は回避したかった。

 食事療法により、時間をかけて改善を測る他ないだろう。

 むしろ昨日の重体の状況から、よくぞここまで治療できたと感心する。

 自然の摂理を超越するとも思える「力」……眠そうにしているヨーギとルタに、最大限の感謝を送った。

「しっしかし……船医は確かに、死んだ……と」

「見知った船長が受けた当然の惨劇、動揺による誤診もいたし方ないと思います」

 ぼくは内心で謝罪しつつ、どうにか形だけは整える。

 申し訳ないけどこの時代の医術は未だ未開。星図の描かれた暦やホロスコープを元に診察するよう、法的に定められていたり。

 感染症の知識も皆無であった。

「短剣での突きは、胸を縦に抉っていました」

 幸いにも鉈に見紛う大振りの刃は、肋骨に阻まれ臓器には達しなかったのです。

 さらに船長の巨体、鍛えられた筋肉によって致命傷を免れる。

「しかし胸からの出血のため、急激に体温が下がり冬眠に似た休眠状態(・・・・)に陥った」

「休眠状態!? その……獣が、冬に行う?」

 意外な説明に、ラクシュが目をしばたかせながら問う。

「そうです類似する行為は、気温変化の激しい地域で複数の生物が行います」

 生命活動の維持に必要なエネルギーを減少させる、有効な手段の一つ。

 呼吸や心拍数が著しく低下し、まるで死んでいるかのように――。

「死後硬直を確かめるため首元を検めた際、船長の脈は微かですがあったのです」


「カター船長、あなたはおそらく低体温ですね。だから夜半、特に雨が降っている嵐だからこそ(・・・・・・)外に出たくなかったのでは?」

 トカゲは変温動物である。

 気温の低下により、体の代謝と体力が著しく低下する。体温調節や活動に必要な熱エネルギーを、日光など外部から取り入れなければならないのだ。

 船長はリザードマンであり進化の過程は分からないが、食事同様トカゲに類似した生態をしていても不思議ではない。

 雨が止んでいても、寒さ避けにマントをはおって部屋から出るほど。

 船長室から甲板へは直通、目撃者が少なくて当然だ。しかしもしその姿を船員に見られていても、特徴ある青色のプールポワンが隠れ船長だと気がつきにくい。

 船長は夜働かない――思い込みが、意識を縛っていたのもあるだろう。

「そして船長は豪雨後の気温低下により、動きが鈍ってしまう。事件後には出血のショックで気を失ってしまうほど」

 だが船員長は、動かなくなった船長を殺したと判断し止めを刺さなかった。

 複数の幸運が重なった結果、命は繋ぎ止められたのだ……。

「カター船長にも、夜半外に出れない理由があったのですよ」

 キラナ船員長が驚き目を見張る。

 何年も一緒に船に乗っていたのに、そんなことすら知らなかったと。

「なぜそうだと言ってくれなかったんですか! でしたら私は……っ私、は?」

 声が詰まる、自分は知ろうとしなかったのかと。

 職務さえ全うしていれば種族など関係ないと言いながら、只人の習慣だけを押しつけてきたのではないか。

 意思疎通を行わず、先入観に縛られていたのは自分ではなかったか。

 口を覆った船員長に、カター船長が目を向ける。司教を思わせる太く重い声で、小さく答えた。

「すまんな……見栄を、張っていたのだ」

 俺は亜人だ、船長として只人の上に立つ以上は弱みを見せれない。

 自負心を持って、意地を張らねばならなかったのだ。だが俺も皆と同じように、守護聖人様を見たかった。

 胸を張って、俺は船乗りだと叫びたい。

 この自由にならない体のことは忘れて、只人(なかま)と同じように――。

「見栄……」

 キラナ船員長が船長とそろいの、青色のプールポワンを見返す。見栄で着てると苦笑した服。

 只人と亜人、心にどれほどの違いがあるだろうか。

「カター船長……申し訳、ありませんでした……っ」

 謝罪ができる、それもまた幸運と言えよう。


「皆さんには大変迷惑をおかけした。黙っていた俺が悪いのだ……どうか、あまり責めないでやってくれ」

 カター船長がよろける体を気力で支えながら、ぼくたちに向き直る。

 騎士を思わせる体躯に、船長としての威厳が戻っていた。

「いえ、全て私の不徳が招いたこと! 裁判を受け、いかような罰も受けます!」

 キラナ船員長が毅然とした態度でこうべを垂れる。

「真面目だからなお前は、そう自分を責めるな」

 もし十分に話せたなら、カター船長はそう言って笑ったのではないか。

 頑なに己を責める船員長と苦笑する船長を、夜空の光が優しく包む。

「――それはちょっと、困ったな」

 ラクシュが興味もなさそうに頭を掻き、ため息をついた。

「俺みたいな他国民が、ここの領主の前で裁判だの証言だの、ヴィーラ王国の内情に触れたくはないんだが」

「もっもちろん船長を救っていただいた方を貶めたり、吹聴したりは……」

「って訳で因果伯どの、これ以上一介の商船(・・・・・)に関わるのは願い下げだ。席を外させてもらうから、後はお好きに――~」

 唖然とする船長と船員長の前を、まともに取り合わず横切り出て行ってしまう。

 その後ろをヨーギとルタも従う。

 憎まれ口を演じる態度や姿が堂に入っていて、思わず吹き出しかけた。御自分の立場もあるだろうけど、ぼくに全て任せると言ってくれたのだ。

 気がつけばジャーラフの姿もない。

 彼女の場合は、気配を消しているだけかもしれないけど。


「これからも航海しよう、なにより天候の読めるお前がいてくれないと困るのだ」

 大陸には珍しい食器や野菜などの商品があるそうだ、行ってみたくないか?

 未開の地もいいな、宝を探したり海の魔獣と戦ったり。俺は子供の頃から冒険者に憧れて、ついには船乗りになったんだ。

 目の前に広がる大海原には、果てのない未来が――。

「それにしても天候なんて神の御業を読めるのに、お前は賭けが下手だなあ。今度俺が仕込んでやろう」

 立ち並んだ鋭い歯が笑みに光った。

 虚を突かれたのだろう、真面目な船員長が意味を理解して苦笑する。

 ウロコが覆った亜人の腕と、見慣れた只人の腕が、鍵を手に重なっていた。

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