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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第二章 港湾都市サーガラ
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六十八夜 塩

 サーガラからほど近い海岸線沿いに、「町」規模の塩田が複数あった。

 海水を貯留池に引きこみ巡回させ、太陽で水分を蒸発させる。約二年放置すると濃縮された濃い塩水から、塩の結晶が析出できた。

 ――「天日製塩法」である。

 古くから記録があるこの製塩方法は、広い土地と適した土壌が必要だった。また多雨多湿な環境では難しい。

 ぼくは塩田の一部に新たな整備を造る。

 コンクリートでならした四〇メートルの斜面に海水を流す。海水は太陽によって蒸発し、塩分濃度を高めていく。

 さらに重ねたわらぶき屋根――「枝条架」の上部へ、腕木ポンプで散布する。

 したたり落ちる海水は、太陽と海風でさらに水分を蒸発させていく。枝条架への散布をくり返し一定の濃度に達したら、煮詰めて塩の結晶を取り出す。

 これは季節に関係なく、一定量の生産が可能だった。

 年間の稼働日数も多くなり、生産率が大幅に増加する。より能動的な生産法――「流下式塩田法」である。


「ただし放置すればいい天日製塩法に比べて、海水を散布する人員や窯で煮詰めるための薪が必要となります」

 整備を案内しながら説明していく。

 サンガ伯爵とサーランバ卿は、見慣れない整備に目移りしていた。護衛についた兵士たちも、物珍しさにきょろきょろと首を回す。

 大窯のそばに重ねられた樽には、できあがったばかりの塩がつめられている。

「もっもう塩が取れたのかね!?」

「運搬用に岩塩状態のままです、よかったら試していただけますか?」

 建設してから約一か月、今までの天日製塩法では到底不可能な速さだ。

 樽を取り布を開ける、サンガ伯爵は凝視し恐る恐る舐めてみる。サーランバ卿も喉を鳴らし、欠片を取り口にふくんで驚く。

「なんと……見事な」

「これはまさしく、塩だ」

「この季節なら申し分ないですね。サーガラでは日常的に風車が利用できるほど、海風も吹きますし」

 長期利用を念頭におくのなら、風車を建て動力としたほうがいい。

 複数ある塩田施設を見て周り、適した場所を調べた。日照時間が短くなっても、ここでなら生産の見通しを上げられる。

「製塩業として大々的に実施するのなら、塩の専門職を立ち上げるべきでしょう。生産性を維持するため、労働力の効率化をどの規模まで高めるか――…」

 サンガ伯爵は塩を舐めた態勢のまま、説明するぼくを呆然と見ていた。


 ――塩は大半の生物にとって必須であり、かけがえのない重要な物質である。

 向こうの世界(アラヤシキ)でも唯一代用品が造れないといわれる成分だった。食事に香辛料に保存にと、人類にかかせない食品とも言えよう。

 海水の塩分濃度は約三パーセントで、世界各地では多様な試みがなされている。

 立地がよくとも、塩作りに長いスパンが必要なのは変わりがない。生活必需品でありながら塩税が課せられ、領民にとってはまだまだ高価なのだ。

 徳利(とっくり)窯の建設を時期尚早と断ったのはこのためである。

 塩の品質向上と安定生産こそ、サーガラでしか営めない事業だった。


「アユム卿! このような類を見ない施設、真実(まこと)にありがとうございます!!」

 サンガ伯爵が体を震わせ、ぼくの両肩をがっしりとつかみ爪がくいこむ。

 とてもありがたいのですけど、これ逃げちゃまずい?

「お父さまっ! この地を『アユム岬』と名づけ、永劫に称えましょう! そうだアユム卿をかたどった銅像を建て、見守ってもらうのはいかがでしょう!」

「うむっ! よきアイデアだ、我が息子よ!」

 とてもありがたいのですけど、これ逃げちゃまずい!?

 塩は「港湾都市」の、中心的産業である。ミスは絶対に許されず、細心の注意を払わなくてはならない。

「サーガラ領領主として、どんなに心の重しになっていたのか……」

 なにはともあれ直訴がかない、計画の最終段階にホッとひと息つく。

 ヴィーラ殿下の「認可済」がどこまで効果があるかは聞いた。だけど領主を無視して強行していたら、この痛いまでの瞳は得られなかった。

 ぼくが個人で遂行しても一過性でしかない。

 領民が職人が領主が立ち上がれば領土が動く。当初の目的通り、塩の逐次生産が見こめ海水を運ぶ手間が省ける。

「マナスルに帰る日も、近いかなあ」

 計画を次点へ進めることができるのだ。


「この地を基本とし、以後は公衆浴場と同じくサーランバ卿におまかせしますね」

「ぼっ僕に……このような壮大な計画を、任命していただけるのですか!?」

 サーガラへの帰路、四頭立ての豪華な貴族用馬車(コーチ)で今後の政策を話す。

 サーランバ卿が驚愕し、目を見開いて叫んだ。

「サンガ伯爵とお話したのです、これからの世代に歩ませるべきだと」

 幼き息子が父を見ると、サンガ伯爵は目を合わせて発破をかける。

「やり遂げて見せよ、サーランバ!」

「――はいっ!!」

 緊張と、動揺と、未知なる興奮が少年を包み震えていた。

 ぼくは脳内で、流下式塩田法の詳しい設備図を清書する。安全管理の条項などもそえてまとめあげ、あとで差しあげよう。

 風車による海水の汲み上げも視野に入れたい、どのみち手押しポンプは必須か。

「だったら製造をセツに、お願いできないかなあ」

 毎回マナスルに発注して整備や点検ごとに出張を頼むより、製造者がサーガラの鍛冶職人だったほうが都合がいい。

 不具合が生じた場合、即時に対応しやすいからだ。

「おお、それほど名の通った鍛冶職人が我が領地に! ぜひともお会いしたい!」

 サンガ伯爵に話すとことのほか喜ばれ、城館へ招く運びとなった。セツはぼくといっしょにサーガラに戻ってきて、すでに自前の鍛冶場で働いている。

 領主への目通りと新たな工具の製造許可、土産話になると喜んでもらえるかな。

「アマゾネスへ出張をお願いした、お礼になるといいんだけど」

 まずは手押しポンプを、そしていずれは薪ボイラーの製作を――。

「にしても、バンダがアマゾネスから帰ってこない」

 火傷はマーラさんの「按手(あんしゅ)」で完治し、早期の治療で外傷も残っていない。

 いつまでも出張扱いでは、職人ギルドへの体裁的にも問題となる。それに妻帯者でもないのに、アマゾネスに居続けるのもやはり問題だ。

「ああ――~…まあもしかしたらその問題は、二つとも消えてるかもな」

 だから気にしなくていいよと、以前ノルブリンカが苦笑していた。

 アマゾネスの領主が認めているのならいいのかな。

「マーラさんもいるし、変なことにはなってませんよねえ」

 そう納得したら爆笑された……なぜ?


 意図がわからず首を傾げると、馬車と騎乗した兵士がサーガラの城門をくぐる。

『身なりや証文の有無で、列を別けるべきだろうなあ』

 以前の感想を説明しており、広い城門前には二列縦隊が作られていた。

 行商人の背負子や荷馬車をチェックし、関税を取り締まる門衛。農民や巡礼者に身分の提示を呼びかける門衛と、それぞれ専門の列となっている。

 入城が格段にスムーズとなり、領民のストレスも軽減されるに違いない。

 中央広場へと向かう道はいつもどおり混雑していた。なかでも屋台村の一角は、連日市場の様相を見せている。

 奇天烈ドッグ、アユム揚げ、アラヤシキクレープ――。

 客引きが自信を持ち、聞き慣れてしまった奇妙な名称を叫んでいた。期待に胸をふくらませた領民が行列を作っているのだ。

 ひときわおいしくなったと大好評である。

 香ばしい匂いにサーランバ卿の胃が自己主張し、馬車の中に笑いがあふれた。

「あっ早くも中央広場で、お店が開いたんですね」

「皆サーガラの名物だと喜んでおります、アユム卿には感謝しかございません」

 昨今「サーガラフライ」がこの流れに追加されたのだ。屋台での買い食いより、個人商店や酒場で座って食べるほうが向いている。

 カフェテラスにきつね色のフライがならび、エールを片手につまんでいた。

 見れば幾人かが小石や木片で、「ナインメンズモリス」に興じている。

「ルールは簡単だ、まあやって覚えるのが早えさ」

「おめえそうやって、初心者相手に連勝する気だろ」

「ちっ違えよ! 単にこのゲームが面白えからだな――」

 いつの間にかアマゾネスの兵士間に流行り、ついにサーガラまで広まったのだ。

 何をしているのかと立ち止まり、覗きこむ市民もいた。

「あれはチェス……ではないですね、アユム卿はご存じですか?」

「ナインメンズモリスといいます。チェスより単純でコマも手軽に製造できます、よかったら試供してみますか?」

 ああっやはりあなた絡みなのですねと、若干汗を落とされた。

「興味を持つ方が多いようですし、サーガラで製品版を製造するのもいいですね」

「おおっそこまでとは、ぜひお話をうかがわせてください!」

 欧州では一四世紀に流行するはずだし、この地から広まっていくのかなあ。

 奇妙な感覚に笑みがもれる。

「よっしゃあ! 見たか、こっちを先に攻めとくべきだったろう!」

「くあっ……読み違えたか! おうどうでい、もうひと勝負!」

 いっぽうが勝利し、フォークに突き刺したサーガラフライを上げた。

 うれしいことに鉄製の二又フォークも、市民の間で流行っている。手軽に扱える食器として人気がでて、鍛冶職人に発注が相次いでいるそうだ。

 さらに特注品として四又フォークも、安くはないが販売されていた。

 鉄製品は「錆び」さえ気をつければ、強く長く使用可能。恋人や家族、我が子へのプレゼントとして注目を集めている。

 この画期的なフォークブームは、サーランバ卿が発起人だった。


「選択肢を広げ、『少しだけ高い』特注品を作ったのは見事ですね」

「アユム卿に習い、ノルブリンカ姉さまに話を聞いたおかげです」

 サーランバ卿が照れて頭を下げる。

 感傷やその場しのぎで、公衆浴場や塩田の管理を任命したりはしない。彼は常に学ぼうとする――領主に学び、騎士に学び、領民に学ぶ。

 常識に固執せず発想を縛られない、それもまたかけがえのない資質なのだ。

「でもあまり、プリンスには学ばないようにね」

「っぶ!」

 ぼくの願いにサーランバ卿がたまらず吹き出した。サンガ伯爵まで微妙に歪んだ笑みを浮かべ、三人は馬車の中で爆笑してしまう。

 通りすぎる市民が何事かと顔を向けるほど。

 見る間に成長する息子の姿に、父のサンガ伯爵が目を細める。議会で次期領主の後押しとなる成果だろう。

 サーガラの「顔」がひと息入れると、イダム卿の父の姿に重なって見えた。

 サーランバ卿がサンガ伯爵家を継承し、サーガラを発展させる四代目になるのもそう遠い話ではない。


「わあああ――っ!!」

 前方の人混みから悲鳴があがり、見れば馬が竿立っている。

 逃げる市民がぶつかり合い、数名が将棋倒しとなって道の中央まで躍り出た。

 馬車は余裕を持って止まり御者に焦りはない。市民が混雑しているときはすぐに速度を下げる、通達通りに危険を回避したのだ。

 安全を優先させる措置、サンガ伯爵の采配にうなずくばかりだ。

「皆さん、まずは落ちつきましょう!」

 サンガ伯爵は迷わず馬車から降り、騒然とした周囲に通る声を響かせた。

 荷馬車の一頭がなにかに興奮したのか、御者が降りてなだめている。

「おお、どうやら大事はないようだ。ではケガをされた方や、手当てが必要な方は申し出なさい! なに領主に遠慮すると損をしますぞ!?」

 高らかに笑い、座りこんでいた子供の手を取り埃を払う。

 市民の笑い声が重なり、頼りになる領主の姿だけで安堵していた。

「さすがですねえ……」

 父の姿に学ぼうとサーランバ卿も外に出て、兵士も下馬し交通整理をしている。

 混乱は最小限でくい止められたといえよう。

「今はまだ騎馬も馬車も少ないけど、いずれは車道と歩道を別けるべきかな」

 これも城門の管理同様、提案だけはしておこう。

 一人で乗っているのもなんだし、応急手当はできるかなとぼくも腰を浮かす。

「アユム、動くな!」

 ジャーラフが馬車の窓に、逆さに顔を出して叫ぶ。

 馬車は窮屈で苦手と言ってたし、どうしてるのかと思ってたけど……なるほど、屋根に乗っていたのか。

「ジャーラフ? どうし――」

啓いた(・・・)奴が二人いる、意識は向いてないが注意しろ!」

 騒ぎの起こった前方に、ジャーラフの青き瞳が向けられていた。

「この騒ぎは陽動!?」

 サンガ伯爵とサーランバ卿に危険は!? 対象は誰だ!?

「落ちつけアユム、敵視されているかはわからない」

 ぼくの動揺が見てとれたのか、ジャーラフが声をかけてくれる。

 盗賊の襲撃や陽動を経験し、思考が偏っていたのだ。

『職人などが何十年も修行し、いつのまにか啓いてたケースですね』

 無意識に啓いてる者もいると、スーリヤさまの研究発表にあった。サーガラほど大きな街なら可能性も高い。

 お腹のカレシーをさすり、深呼吸して用心深く周囲を観察する。

 アマゾネスの襲撃は、表向きには他国から流れてきた盗賊団によるとされた。

 だがノルブリンカが捕らえた盗賊の首領から、「綺人(きじん)」によって意識を操られていた形跡が浮かんだのだ。

 アマゾネスかサーガラを、「監視」していた密偵がいたとみるべきか。

 ノルブリンカは「女」を取り逃がしたことを、激しく悔しがっていた。

「もし密偵だった場合、因果伯の誰かを呼べば情報をあたえることになるか!?」

 S属性やO属性と敵対したら、M属性のぼくに対処できるのか――?

 疑問だけが駆け巡る、判断材料が少ないのだ。

 ぼくはヴィーラ王国民以外で、啓いた方たちと対峙したことがない。バジリスク騒動の「男」ともすれ違っただけ。

 気持ちとは裏腹に、怖いもの見たさで騒ぎに注目してしまう。


 荷馬車の馬は落ちつき、サンガ伯爵のおかげで市民も笑顔である。

「さしあたり騒動は収まったみたいだけど……ん?」

 騒ぎの集団から少し離れた場所に、異質な三人が浮かんで見えた。

 この暑い時期にフードつきのマントをはおっているのだ。騒ぎによってフードがめくれ、容姿があらわとなっている。

 大人ほど大きい影は、少女の上半身に馬の下半身――ケンタウロス。

 子供ほど小さい影は、山羊の角と脚部――パーン。

 そしてぼくより背が高く、少し年上の影――若い貴族風の青年。

 三人は何やらもめていたおり、距離があって会話までは知れない。ぼくの気配を感じたのか、青年がこちらを向いて視線があう。

 その瞬間、初めて「闇癡(あんち)」を啓いたときの感覚がよみがえった。

 衝撃と充実感が精神を包み、後頭部に光が満ちる。これがM属性の「予感」か、意識したのは初めてで驚く。

 まるで決定事項のごとく、理解していたのだ。


「彼とは生涯の友となるか……生涯をかけ、戦う敵となるだろう――」



 ☆



「――側溝の整備はこちらではなく、通りを挟んだ向こうの道でしょう」

 この暑い時期に、マントをはおった青年が声をかける。

 衛兵は羊皮紙を手に工事の指揮をとっていた。なんの話かと振り返り、物知り顔で話す青年に目を向ける。

「……なんだ貴様は」

「こちらに掘ったら大通りと向きが逆になるから、設置する意味がありませんよ」

 衛兵は質問に取り合わず、後ろに控える亜人二人に気がつく。

 あきらかに揶揄した表情へと変わった。

「これはサーガラのご領主すら一目おかれる方の、指令書にのっとった工事だ! どこの田舎者か知らんが邪魔だ、大道芸をするなら市で稼いでこい!」

 それだけ言うと背を向け、土木作業員に発破をかける。

 青年は衛兵の持った羊皮紙を横から覗き、指さして続けた。

「ほらやっぱり、大通りはこっちでしょ?」

「な……っ!?」

 衛兵は驚きひったくって離れる。他者に閲覧やまして書き写しをさせた場合は、厳重な罰則規定が設けられているのだ。

 部分的とはいえ「サーガラ城壁内の地図」の模写。

 間違っても流出させてはいけない、極秘文書であった。指令書を両手で持っていなければ、剣を閃かせていたのではないか。

「きっきっ! 貴さ――…」

「指示されているのは向こう(・・・)ですよ、昨日も違う場所を掘って埋め戻してました。残念にも二度手間になってますね」

 睨みつけ怒鳴る前に呆れ顔で指をさされ、衛兵は言葉につまる。

 朝受けた連絡事項に心当たりがあったのだ。

「しっ素人になにがわかる! これはご領主の――~…」

 反射的に抗弁しつつ、青年があまりに涼しい顔をしていたので指令書を見直す。

 斜め左右を変え指をさし確認し、上下を変えて――間違いに気がついた。

「あ……っ! そうか、こちらでは水が流れない……」

 指令書と実際の道を何度も確認し、苦渋の表情となる。

「……おいこっちじゃない、通りの向こうだ向こう! 埋め戻せっ!!」

「ええ――~?」

「やっとここまで掘ったのに……」

 衛兵の一方的な言動に、作業員から小さく疑問と批判の声がもれる。

 指示書を持った衛兵は青年を一度睨むと、舌打ちして歩み去った。


「……あのですねえラクシュ、なんでわざわざ揉め事(トラブル)を起こすんですカ?」

 子供ほど小さい亜人が後ろに控えており、青年の行動に疑問を投げかける。

「無駄を省いてやったのさ、むしろ礼を言うべきじゃないか?」

 ラクシュと呼ばれた青年は、あきれ混じりに肩をすくめた。

「側溝」――この発想はなかったと、感心していたのだ。

 それも適当に掘っているのではない。公衆浴場と呼ばれる施設の排水を利用し、街の傾斜に合わせて設置する必要がある。

 異なった用途が補い合い、さらなる結果をもたらす――。

 控えめに言っても発案者の知識は称賛に値した。

「おそらくは例の少年の手による設備だ、だがあまりに手際が悪い。このままでは宝の持ち腐れだ、ルタもそう思わないか?」

 地方のアマゾネスではすでに木枠の段階。

 設備に携わる衛兵が視察し、研修を受けている。サーガラでも工事が開始され、街は見る間に磨きあげられてはいた。

 しかしまだ設置意図の理解には乏しく、同じ失敗をくり返しているのだ。

 彼の少年はこの状況を知らないのか、なぜ放置しておく? あるいはなんらかの意図があって、正解を教えないのか?

 覇気を輝かせる瞳がまっすぐに虚空を見つめ、少年の像を想像する。

「俺なら――」

「もうめったなこと言わないでくださイ、アマゾネスで睨まれたでしょウ!?」

 ルタと呼ばれた亜人がかぶりを振り、山羊の角が揺れる。


 二人が言い争っている間に、大人ほど高い亜人がひづめを鳴らし離れていく。

「待った待ったヨーギ! どこ行くんだ!?」

「ヨーギお腹減っちゃった……」

 少女が振り返って小首をかしげる、なんの邪気もないしぐさ。

「はあ……わかったメシにしよう」

「わ――い!」

「待て待てっちゃんと聞け! 何度も言ってるが一人でうろつくな、特にヨーギは目立つんだから――ルタ!」

 ルタが軽やかに飛び跳ね、ヨーギの背に飛び乗った。

 馬の胴体にはほかにも荷物も積んでいるのに、さほど重さを感じていない。

「市をやってた中央広場に行こうか、あそこなら果物も屋台もあるし」

「イチゴ、ニンジン、プラムにリンゴ~」

「にしてもアユ……例の少年(・・・・)は、どこにおられるんでしょうネ?」

「おまえそんなの、俺が聞きたい」

「メロンにレタスにダイダイ、ダイコン、ぶどうにラズベリ~」

「そうだ彼のお方(・・・・)に、親書でお訊きしては如何でしょウ。ギルドの飛脚を使えば、そこまで時をおかずに教えていただけるのでハ?」

「私事でお手数をかけるのは気が引けるなあ……まあ考えとくよ」

 約二か月、どうにも少年とすれ違いをくり返してしまう。

 だがラクシュはどこかで確信していた、必ず会えると。

「俺なら――アユム卿、おまえをもっと活かせる!」


 ヨーギが鼻歌まじりで四肢を弾ませて歩く。

 ルタが振り落とされもせず座っている。

 ラクシュが今日はなんにするかと頭で手を組む。

 ――その日サーガラの中央広場に、異質な三人が向かっていた。

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