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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第二章 港湾都市サーガラ
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五十八夜 祭りの続き

「アユム卿は……あの方はいったい、何者なのですか!?」

 サーランバ卿の誰ともない問いに、サンガ伯爵は悩んだ末……うつむいた。


「どうしたらあれほど強く、聡明になれるのか……あんな方がいては」

 奇天烈な服を着た少年が手を振り、闘技場で声援に答えている。

 殿下の覚えもよろしく街を磨き、コンクリートなど見知らぬ知識と技術を持ち、舌をうならせる料理を作る同年代の少年。

 なぜこんなにも差があるのか。

 ほかはどうあれ剣なら、騎士を目指す自分のほうが優れている。それが自尊心を繋ぎ止める最後の一線だったのに……。

 敵兵を手玉に取る、部隊を指揮する才覚まで持っていたのだ。

 アユムに対してあおぎ見る憧れと渦巻く嫉妬。己の心を整理できぬまま、どちらにも傾けれない葛藤があった。


「――拙者の祖先は『強さ』を求め、はるか東から渡ってきたそうだ」

 ダーナ卿はアユムへの驚愕から回復し、闘技場を見下ろしていた。

 突如話を振られ、サーランバ卿は呆然と振り返る。

「湯場で聞きたいと申しておったろう?」

 四角い(あご)の無精ひげをさすり、ダーナ卿が肩をすくめる。彼の容姿は心なしか、人種の違いをふくんでいた。

「アユム卿はな、拙者の祖先よりもさらに遠くからこられた方なのだよ。おおよそ絶対に帰れぬ場所からな……」

 それは想像外に遠い世界であり、理解できる者はいない。

「異国の方、なのですか?」

 あの奇天烈な服は異国の風習だったのかと、闘技場のアユムを見て納得する。

「拙者の剣がこの地において異質に映るのと同様、アユム卿の理は我らとは違う。貴族である卿と、平民の感覚が違うのもまた同じ」

 ダーナ卿が日本刀に酷似した剣を両手で握り、水平にかざす。それだけで覇気が満ち、戦場でもないのに淡い光が立ちのぼった。

 サーランバ卿は学ぶべきときと、居住まいをただして聴き入る。

「皆違えども――己で選ぶのだ」

 刀の鯉口を切り、再び納め鈴の音が鳴った。

「この地には霊山モルディブがあり、魔獣がいる。屍となるか栄達するか、拙者はそれを道と定めた――己で定めたのだ」

 人は進むためにあがくのではない、選ぶためにあがくのだ。

「騎士となるもよかろう、別の道をたどるもよかろう……お主がどうしたいかだ」


 己で定めたならば、いばらの道のなんという心地よさか。


「――っはい!」

 サーランバ卿が父に……サンガ伯爵に向きなおり、拳を強く握りしめる。

 自分は父を批判しておきながら、同じように決断していなかった。父の目を見て自分の決心を伝えたことがあったか。

「お父さま、アユム卿と戦わせてください! そして僕が勝ったら、騎士の資質があると認めてください!!」

 あの方に負けたくない、胸にわきあがった気持ちは本物だった。

 ダーナ卿が目を閉じ、静かに笑う。


「アユム卿と戦う!?」

 父であるサンガ伯爵にとって、それは意外すぎる主張だった。

 アユム卿を家庭教師に――ならば頼むこともできよう。むしろ先ほどまではそうお願いできないかと、交渉する用意をしていたのだ。

 殿下に「認可済」の免罪符をいただく最大級の逸材。

 経営理念と先見の明まで目の当たりにし、ぜひ我が領地に招きたい。結びつきを深めて懇意となり、ノルブリンカの婿に迎える。

 最高のシナリオだった。

 だのにアユム卿に敵対する姿勢をとっては、後々問題となるではないか。

 しかし負ければ、サーランバに騎士を諦めさせれる。此度(こたび)の振る舞いを見れば、アユム卿の強さがわかる……だが。

 サーガラ領領主は熟考し、答えを出せなかった。

「……サーランバよ、そのようにアユム卿の迷惑になる――」

「なんと頼もしいご子息だ!」

 親子の対面を気にもせず、突如「華麗な王子様」が割りこんできた。

「騎士を志す者はそれくらいの気構えを持って当然、よろしい僕が立ち会おう! そうだいっそアユム卿チームと、サーランバ卿チームで対決はどうだい!?」

 アユムが卒倒しそうな意見を、プリンスは決定とばかりに宣誓する。どうしても剣闘士競技会がしてみたかったのだ。

 彼の提案に居合わせた因果伯の目が光った。

「いいだろう! 一度因果伯同士でやりおうてみたかったのだ、勝負といこう!」

 ダーナ卿の「力」を求める魂に火が宿る。

「三対三ね、私を満足させられる殿方がいるのかしら~?」

 マーラが舌なめずりしてほほえむ。

「あたしが負けちゃあしめしがつかない、たたきのめしてやるよ!」

 皆の戦いで気分が盛り上がってしまったノルブリンカが腕をたたく。

 サンガ伯爵は因果伯の誰にもついていけず、苦手意識が増加した。



 ☆



「二か月ぶりになるのか……」

 ぼくは潮風を吸い込み、始めて来たときと同じ絶景に敬意を表す。

 そびえるサーガラの城壁下部には、海面の光が乱反射し波打っている。カモメが無数に飛び回り、鳴き声がこだましていた。

 ウダカから来たのか、一本マストのコグ船がゆるやかに入港している。

 海の街――住んだことはなくとも、なぜか懐かしい情景だった。

「なんか薄汚れてな~い?」

 サーガラの城壁が遠くに見え、馬車に同席するマーラさんが眉をひそめる。

「……そんなことありませんよ」

 朝にアマゾネスを出発し、夕方前にサーガラへつく。

 通常馬車は時速一〇キロ前後、整備した王道では時速一五キロ前後を記録する。

 期待以上にコンクリートの舗装は役に立っていて、快適な移動だった。

「生産見通しがつけば、王道全体の整備も討対象にできるかな」

 サーガラへの道中、ぼくはたんぽぽコーヒーを淹れて安らぐ。

 プリンスが「組み立て式簡易五徳」を購入してたのだ。使い方を聞かれたので、実演がてら淹れさせてもらった。

 たんぽぽの根を二センチに刻んで灰汁抜きをし、さらに細かく刻んで乾燥。

 フライパンで焙煎し粉末にする――「代用コーヒー」である。向こうの世界(アラヤシキ)ではほぼ毎日コーヒーを飲んでいた、なくなってわかる貴重さ。

 数度の試行錯誤でかなりおいしくなった。

「代用だなんて断言して申し訳なかったなあ、あっよかったら一杯いかがです?」

「……それは本当に飲み物なのか?」

 プリンスが疑問を口にし、次いでコーヒーを口にし無言で返される。

 ではどなたかと振り向くと、全員から視線をそらされた。

「ほかの料理は絶品なのに、あれだけは……」

 誰かのぼやきが聞こえる。

 独自の苦みと茶褐色の液体は、見た目だけで敬遠されてしまう。理解してもらえないのは残念だけど、ぼくにとってはかけがえのないひとときだ。

「う~ん時代が少し、早すぎたかなあ」


 いつの間にか決定していた、「アユムチームVSサーランバチーム」の対決。

「なんの因果で……」

 気を紛らわせてコーヒーを飲み、紛れずに言葉を呑む。

 さすがにこれは反論してもいいと腕をまくる。とはいえ剣闘士競技会の最後に、大騒ぎを誘発した発端者の口はたいへん重く。

「でっでも多くの領民の前で、『因果伯』の姿や属性を公開すると問題では……」

 この搦め手の抗議はことのほか有効だった。

 因果伯の四名が腕を組んでうなる。なし崩しでお流れとなるのを願っていると、プリンスが手を打って閃く。

「ならばサーガラの騎士学校でやろう! 彼らはのちに魔獣退治も遂行するのだ、属性を学んでも支障はないし管理や許可もたやすいしな!」

 因果伯全員が名案だと両手を挙げて喜んだ。

「S属性って……」


 サーランバ卿が自身の心を表したいと、しめしたいと願う気持ちはよくわかる。

 それ自体は問題ではないのだ。

「なぜ因果伯がそろって参戦するのか、そこを重点的にお聞きしたい!」

『だって戦ってみたいから――』

 悪戯な好奇心を悟られないよう、全員が視線をそらす。

 せめて一騎打ち(ジョスト)にしてくださいと強調し、捻じこむのが精一杯だった。

「あの方々の団体戦(トゥルネイ)に巻きこまれたら、戦術や陣形なんか意味をなさない」

 命がいくつあっても足りないだろうに……。

 想像すら拒否したくて、幾度目かのため息をついてしまう。

「アユム卿、僕のわがままにつき合っていただき申し訳ありません」

 向かいに座るサーランバ卿が頭を下げる。

 興奮から覚めた部分があっても、決心は変わらないと瞳が語っていた。

「……赤い服を着たクマさんが言いました。森の住処にいて誰かが訪ねてくるのを待っているだけより、たまには自分から訪ねなくっちゃって」

 自分の足で歩いてみなければわからない、世界の広さ。

「アユム卿の国の、亜人ですか?」

 そうかもしれないですねと笑う。

 以前のノルブリンカをマネ、コーヒーカップを掲げた。

「サーランバ卿を森から誘う役目、これも『縁』なのでしょう」

「縁……」

「ぼくは今日まで多くの方に頼ってきました、そしてノルブリンカ――領主にも。弟さんが悩んでいて手助けできるのなら、きっと巡り合わせなんです」

 領民の生活や税金、そして継承権。記録ではけっして得られない貴重な体験を、実際に関わって実感できたのだ。

 人の力に感謝した、この気持ちを次の者に受け渡す。

「ああ――確かに薄汚れてんなあ、前からこうだっけ?」

「でしょう~?」

 城壁を見上げたノルブリンカの同調に、遠慮なく相づちを打つマーラさん。

「……お二人さん、そんなことありませんって」

 ノルブリンカ円形闘技場の白いコンクリートに比べると、サーガラの城壁は潮風に晒され、どうしても時代を経た印象を受けてしまう。

 だけどほら、弟さんが微妙な顔をされてるじゃないですか。

 焦るぼくにサーランバ卿が笑いかける。

「アユム卿どうかお気になさらず、ノルブリンカ姉さまは自由な方なんです。感情をすぐ口にしてしまえる裏表のなさに、僕は眩しさすら覚えます」

 なんとできた弟さんか、騒ぐ女性陣を横目に強く感心した。

 サーランバ卿がサーガラの城壁を見直している。

「巡り合わせ……ですか。そうですね、僕もこの気持ちを次へと繋げなくては」

 それぞれの想いを乗せ、二台の馬車がサーガラの城門をくぐった。


「ああ……まさしく、学校(・・)の趣きだ」

 サーガラの騎士学校は、規模名声ともに有名だった。

 歴史のある三階建てのレンガ建築で、豪華なホテルといった外見である。周囲は高い石塀に囲われ、従騎士が衛兵として立ち周っていた。

 中庭に面した広場はかなり広く、一辺一〇〇メートルを優に超えている。

 叙任式や祝祭で貴族を招き、馬上槍試合も催されているそうだ。バクティ卿から騎士学校の概要を聞いており、来校するのが楽しみだった。

「これも異世界(こちら)ならでは、ファンタジーの光景だなあ」

 ――向こうの世界(アラヤシキ)の歴史に、「騎士学校」は存在しない。

 国に騎士を養成する教育機関はなかったのだ。

 本来騎士を志す貴族の子弟たちは、幼少から叔父や知人の城主に仕える。従者として雑用をこなしながら、騎士の礼節を学んでいく。

 のちに一人の騎士を主君と定め従騎士となり、本格的な修練が開始されたのだ。

 複数人の騎士を擁する領主はいても、あくまで個人契約でしかない。家臣であり有事には徴集に応じる私的兵力だった。

 ゆえに騎士同志は横の繋がりが希薄で、連携自体が存在しない。

 部隊行動はむしろ、傭兵団のほうが優れていたとさえいえる。個人の武勇を重んじ槍を手に突撃する時代に、部隊教練は必要なかった。

「だけど騎士学校(・・・・)が必要な理由……異世界(こちら)には一点だけ、異なる事情があった」

 魔獣の存在である。

 因果伯でもなければ、単独で魔獣と戦うのは死を意味した。討伐に参陣する騎士は肩をならべ、背をあずける仲間が重要だったのだ。

 協力せねばならぬ状況が、指揮官に近い対応力や機転を育てていく。

「学校制度のおかげで、小姓の世代から仲間と切磋琢磨していける。個別に騎士へ仕えているより、連帯感(チームワーク)は強くなるに違いない」

 異世界(こちら)向こうの世界(アラヤシキ)よりも早く、士官や官僚の組織化が進むのではないか。

「どうせならトマトの伝来も、早まってくれないかなあ」


 少しの違いが歴史を重ね、大きな差異へと移っていく並行世界――。


「アマゾネスに比べると、いやあサーガラのなんと田舎か!」

 騎士学校前で馬車から飛び降り、プリンスが開口一番に叫ぶ。

 そこまで面と向かわれると、さすがにサーランバ卿もうつ向いてしまう。子供のころから慣れ親しみ、美しい街の自負もあったのだ。

 サンガ伯爵も心づもりがあったのか、肩を落としていた。

 季節は六月となり、陽気もよく暑い日が続いている。ゆえに街の片隅にあふれる「塊」の匂いと、害虫の発生が見てとれるのだ。

 そしてこの惨状は、夏が本格化するほど酷くなっていく。

 それが「当たり前」な者には、今までどおりでしかない。

 ところが側溝を設備し、下水処理設備を設置したアマゾネスを体感した者には、どうにも空気が濁って見えた。

 それは街の大きさに関わらず、城壁同様古く立ち遅れて感じてしまう。

 先輩騎士たちがぼくに期待の視線を送ってくる。

 ぼくとしても「衛生」を広めたいのだ、この国の今後のために。わかってますと視線を合わせ会釈すると、本当にうれしそうに笑った。

 皆が騎士学校に入っていく、すでに因果伯の四名は視線を合わせ燃えている。

「ニギャアアア――――ッッ!!」

 ぼくも入ろうとしたら、けたたましい叫びと何かが倒れる音が重った。

 数匹の猫が獲物を見つけたのか、路地を走っていったのだ。

「ああそういえば、猫が多いとジャーラフが言ってたっけ」

 そうだった……と、ぼくは少し軽くなったお腹をさする。



「ここで待機しろっ!?」

「シ――~ッ!?」

 アマゾネス滞在中の部屋、ジャーラフとカレシーがそろって抗議の声をあげる。

「……キミら本当は、仲いいんじゃない?」

 今朝二人にはアマゾネスで待っていてほしいと頼んだ。因果伯が四人もいるし、ぼくに関してはこれ以上安全な護衛もない。

 それよりアマゾネスに、マーラさんもいなくなるのだ。

 アマゾネスはすでに、建設の革命となるコンクリート製造の街。ヴィーラ王国にとって有数と呼べる重要拠点となっている。

「アマゾネスをまかせられるのは、ジャーラフしかいないんだ!」

 そして騎士学校には魔獣討伐の経験者もいるそうだ。カレシーを魔獣と看破し、刃傷沙汰からパニックを誘発する可能性がある。

 なによりカレシーに嫌な思いをさせたくなかった。

「シーちゃんお願い、ジャーラフを守ってあげて?」

 座って目線を合わせ、頬をさすりながら頼む。

「……シ――~」

 わかってくれたのかお腹にすり寄ってきた、ありがとうカレシー。

 この話し方だとジャーラフの怒号が響いたのに、静かなのが気になった。見れば悔しそうに視線をそらしている。

「わかった、確かに……そのほうがよさそうだ」

 辛そうな悔しそうな顔で、ジャーラフも了承する。

「あの妙な窯を建てるときだって、ボクはなんの役にもたってないし……」

 ジャーラフはO属性の「風舌(ふうぜつ)」に特化している。種族的な特徴として身体能力は高くても、肉体強化は使えない。

 コンクリートの重要性を認識し、関われないのを気にしていたのだ。

「な――んだそんなことか、バカだなあ」

 安堵して胸をなでおろす、重大事でもあるのかと心配してしまった。

「バっ!? ボクは護え……っ監視として――」

「以前も話しただろ? ジャーラフがいつも周囲に気を配っているのを感じてる。だからぼくは安心して歩けるんだ、本当に感謝してるんだよ!」

 つい背をたたいてしまった、変な癖がついてしまったなあ。

「毎日ありがとうジャーラフ!」

「監視として当然だ、礼なんか言うにゃっ! バーカバーカ!」

 顔を真っ赤にして怒りだす。

 うん、ジャーラフはそうでなきゃね――と謝りながら笑う。


 ……二人とも納得してもらえたはずなんだけど。

 嫌々が完全にわかる態度で、ジャーラフに巻きつくカレシー。苦虫を噛み潰した顔で放置しているジャーラフ。

 視線が重なると睨み合いになるし……仲良くしようよ。



 ☆



 ――騎士学校で小姓(ペイジ)の立場は馬以下だった。

 教室ほどの広さ、倉庫とも呼べる場所に数十人が押しこめられる。仕切りもなく申し訳程度のシーツで場を区切った共同部屋。

 雑用にこき使われほぼ寝るだけなので、それで十分なのか。

 そういった愚痴も、個別に仕えていては吐けなかった。未来を見据えていなければ耐えられない、これは史実でも同じである。

「すげえ……これ実戦で着たんだよな」

「ああなんだか、雰囲気があるよな」

 同期の少年たちがサーランバ卿を取り囲み、うらやましそうに見ていた。

 先輩騎士が今回の対決のため、装備を貸してくれたのだ。それはかなりのお古でけっして煌びやかな甲冑ではない。

 だが少年たちにとっては、威厳のある騎士の出で立ち。

「チェインメイルは重くてダメだな、下はギャンベゾンのままでいいだろう」

 同期の少年に心得のあり、着つけを手伝っていた。

 チェインメイルは約一五キロある。少年の体力的に革鎧――ブリガンダインとの重ね着は無理だった。

 サーランバ卿は真剣な面持ちでうなずき、革鎧で軽く動くとそれでも重かった。

「おぉ……っ」

 剣を抜くと周囲から感嘆がもれる。

 あくまで試合用で刃は潰してあっても、鉄の重さがズシリと腕に乗った。

 サーランバ卿は従騎士前であり、正式な剣の指導を受けていない。武器の手入れで手に取り、先輩騎士がなかば自慢で討伐の話をしてくれる。

 心に情景を浮かべ、剣の軌跡を追った……それがすべて。

「相手は騎士といえど俺らと変わらない歳だそうだ、ならば負けるはずがない!」

「そうだっ! サーランバは先陣の誉だ、たたきのめしてやれ!」

「……おまえに先んじられるのは、ちょっとだけ悔しいけどな」

 少し本音がもれ笑いが起こった。それしか道がなかったのだとあきらめるより、騎士に憧れているのだと己を鼓舞する。

 そうして培ったこれまでの五年。

「僕に騎士の資質があると、父に見せつける!」

 サーランバ卿が剣をひときわ高く掲げた。

「絶対に勝つっ!!」

「おお――――っっ!!」

 小姓の部屋が揺れ響き、盛大な絶叫がほとばしる。




 ――その日サーガラの中央広場で、異質な三人が途方に暮れていた。

 フードを目深にかぶり表情は見えなくても、あきらかな動揺が見てとれる。

『サーガラについたら、屋台で〝絶品三食〟を食わなきゃ損しますぜ!』

 ウダカから船旅の間、船員に何度も勧められていた。

 それなのに屋台どころか商店も閉まり、人もまばらで閑散としているのだ。

「奇天烈ドッグ……アユム揚げ……それに、アラヤシキクレープはどこだ!?」

 疑問の叫びに、誰も答えてはくれない。

 味を聞き特長を聞き、想像をかきたて喉を鳴らしてたのだ。それを食べるための今日だった、たとえ最高級の肉を食べても砂の味ではないか。

 ガックリと肩を落とし、それでも未練がましく周囲を見回す。

 どこか遠くで歓声があがっている。

 三人は足取りも重く、宿屋へと帰っていった。

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