四十六夜 ノルブリンカ円形闘技場
「東京ドーム三個分の広さかな」
なぜ単位が東京ドームなのかと笑っていたら、変な目で見られた。
ターダ山の山あいにある「この街」まで約五〇キロ。
四輪で二頭引きの荷馬車に薪ボイラーの機材を積む。早朝にサーガラを発てば、天候次第でどうにか一日で到着する距離である。
馬車のリズムに合わせ、谷間の風が茜色に染まった風車を回していた。
沢があり水場には困らないが、岩が多く水深が低いので水車には適さない。
動力としてはもっぱら、風車に頼っているそうだ。サーガラでも建っていたし、ノウハウが伝わっているようだ。
こちらは風向きが安定しているのか、以後の主流となる石造の塔型風車である。
「さすがはノッチ噴水がある領地だなあ」
アレクサンドリアのヘロンは、風車動力を利用したオルガンも製作した。
世に名を遺す偉人が時を邂逅する瞬間。
「ノッチって、城館にある噴水のことか?」
勝手につけられた名称に、ノルブリンカが吹き出す一歩手前の表情をする。
門衛に挨拶し街に入ると、活気あふれる笑い声が騒めきだす。
「この街」には、千五百人近くの市民が暮らしているそうだ。この規模なら市壁が必要だけど、空堀と木柵しかなかった。
サーガラ同様に安全だからではない。
領主曰く「攻撃するなら、攻撃する」……と、潔いいいほどの徹底した抑止力を誇示していたのだ。
過去には宣言通り、盗賊の偵察や挑発を問答無用でたたき潰してきた。
有言実行の領主がいるかぎり、手を出す輩は存在しないといえる。誰あろう隣で足を組み寝転ぶ、因果伯のノルブリンカが治める街だった。
周囲には畑も散見していたが、主な産業は森を利用した豚の放牧と養蜂。
「豚換算」など豚は森に放し飼いにされ、冬には領民の胃を満たす。蜂蜜は蝋燭の原料であり、蜂蜜酒に甘味にと生活に必要不可欠な製品だった。
因果伯の立場を利用し、国の実質トップ――ヴィーラ殿下に直接許可を賜る。
養蜂は「封建制の特権」といわれるまで厳しかったのだ。とはいえ広大な放牧場や養蜂園はあっても、専門の街ではない。
一番の注目株は傭兵の育成である。
養成所が建てられ、兵士のかけ声や打突の音がしていた。これが決定打となり、周辺から盗賊の影が完全に消えたといわれている。
さらに年に一度、「剣闘士競技会」まで開催していた。
兵士は競技会に出場し好成績を残すのが目標であり、厳しい鍛錬する。
なにかしらの目標があったら意欲もわく。文献をひもといて面白そうだからと、数年前から催しているそうだ。
勝手な興行はサーガラ領の領主、サンガ伯爵を悩ませた。
本来ならば親子と言えどいち側近でしかない、領地の没収もできたのだ。しかしノルブリンカは殿下直属の因果伯でもある。
あたら無下に扱うわけにはいかず、決断できずにいたら人気が出てしまった。
競技会の開催が叫ばれると、他領から見物人が訪れるようになる。市場に次いで今後も集客の見こめる娯楽となってしまう。
「パンとサーカス」である。
サーガラの「顔」としては、ほとんどなし崩しに許可をするしかなかった。
そして「この街」はある意味、男性の願望であり絶望も持ち合わせている。
「あれが有名な、『ノルブリンカ円形闘技場』っスね!」
名を関した本人が横で笑っているのに、荷台でバンダが大声で叫ぶ。
街の中心にはコロッセオ……「円形闘技場」が鎮座していた。施工から約三年の歳月をかけ、今年ついに完成したのだ。
今までは野試合だった剣闘士競技会も、今年からはこの闘技場で催される。
「人の目線で観るのと違い、段差上なら迫力は増すでしょうねえ」
ノルブリンカの格好と、ローマの剣闘士試合はあまりにもマッチしていた。
――古代ローマで人気を博した円形闘技場での催し。例によって中世欧州に至るまでに衰退し、建物は解体されるか遺跡となり朽ちていく。
大会と呼べるのは、騎士によるトーナメントや馬上槍試合だけとなっている。
ぼくも史実にはない建造物に興味がわいた。領主の館には向かわず、御者さんにお願いして闘技場へ寄ってもらう。
残念にもおじさんはすでに、サーガラを発っていたのだ。
マナスルの復興に向けて仕事が立てこんでおり、小売商の職人ギルドから呼集がかかってすれ違いになる。
「仕事があること自体は、とても喜ばしいんだけどね」
そのうえギルドで聞いたところ、「この街」は管轄が違うそうだ。おじさんに荷を運んでもらうのは、縄張り的に無理だと説かれた。
ぼくの知る信用できる方――。
帽子を振って笑うおじさんの顔が浮かび、天を見上げる。
「ウールドの短剣も託そうと思っていたのに、うまくいかないものだなあ」
「うお! でかいっス!」
「これは、見事ですね……!」
バンダといっしょに円形闘技場を見上げながら感嘆する。
街に入る前――遠目にも丸くて巨大な建造物にウキウキしていた、近くで見ると壮大さに気圧されてしまう。
外見は半円形状の市壁にしか見えない。
高さ六メートルの上に、一メートルの木柵が狭間胸壁でならんでいた。
兵士の鍛錬にと山から石を運び削って積み上げる。内部には市民が日々製造し、焼いたレンガが大量に使用されているそうだ。
まさしく街の全市民によって建てられた建造物だった。
「人の力に、圧倒されますね」
動力を使用せず人力だけで、こんな設備を建ててしまう。軽く傾斜してるのに、迫りくる迫力がなんとも頼もしい。
「ノルブリンカ円形闘技場」はすり鉢状の窪地を利用し、階段客席を設けている。
建材の積み上げが通常より少なく、労力は大幅に削減された。採石場が近いのをいいことに、遠慮なく大理石を注ぎこんだ豪華さだった。
直径九〇メートル、地下二階建て、約三千人を収容可能。
山あいでは排水が最大の重要点となり、城壁製作の石工職人を招き取り組んだ。
「有事のさいは避難場所として、今は食料や物資の一時保管場所にも利用してる」
ノルブリンカが幾度も見上げた壁に手をつき、優しくなでる。
瞳には三年にもおよんだ、苦労の情景が映っていた。
「食料の保存……あのもしかしたら、近くに洞窟があったりしません?」
「おお、あるある。涼しいんで避暑したり、狭い場所での戦闘訓練にも使ってる」
よくわかるなあと、ちょっと呆れ顔で返答される。
「典型的なカルスト地形ですね」
「親愛な……地形? いやまあ、親しみを持ってくれるのはうれしいが。アユムの言ってることは妙過ぎて、たまにわけわかんないな」
それもアラヤシキの御業ってやつかい――。
馬車のそばで話をしていると、なにかに気がついた衛兵が駆けてきた。
「――あれ、姐さんっ!?」
「あっやっぱ姐さんだ! お帰んなさ――い!」
「お――い姐さんのお帰りだ!」
騒ぎを聞きつけて、周囲からも市民や兵士が集まってくる。
ノルブリンカを中心に輪ができ、大きな人垣の華が咲く。
「おう、ただいま! 皆元気そうだなっ!」
歓声がわき、それだけが取りえで――などと気安い声がかけられている。
一見すれば慕われている領主、ただ大いに違っている点があった。集まってくる市民が兵士にいたるまで、全員女性なのだ。
「この街」は、女性が中心として運営されていた。
むろん男性がいないのではなく、定住できるのは結婚している者のみ。
男子は十六歳までに婚礼するか、親方を見つけて街を出る。サーガラで臨時教官を務めるノルブリンカの人脈で、騎士学校にも入れた。
家を継承するのは長女なのだ。
そのため労力のかかる畑仕事は少なく、高額な取引の養蜂が中心となっている。
男性の過客は宿には泊まれても、定住はできない。
女性目当ての男性が訪れ、この世の春だと喜び連泊し、好みの娘を見て口説き、玉砕して落ちこみ、お金だけ落とし帰っていくのだ……。
「あっ……姐さん! このガキはどうしたんです!?」
ふいに気がつかれ、ぼくに視線が集まった。
「きゃしゃだなあ坊主、もっと食わなきゃだぞ」
「なんだ嫁探しかあ? ませてんなあ少年!」
「えっ姐さん嫁になったんですか!?」
「姐さんついに捕まえたんだ、そりゃあめでたい!」
女性の噂は光の速さか……早くも万歳が起こってますし、訂正も修正もできず婿にされるのはちょっと。
「オイオイ下手なこと言うなよ、青い月が落っこちるぞ」
ノルブリンカが苦笑しながら肩をすくめる。
万歳の途中で手が止まり、彼女たちは疑問に空を見上げた。
「姐さん、なんですそれ?」
「青い月、そういえばジャーラフは?」
見れば少し離れたところでフードを目深にかぶり――「カルマ」が緊張してる?
怒りではなく、何かに対して臨戦態勢をとっている。ノルブリンカも気がつき、ジャーラフの視線の先を見た。
遅れて皆も気がつく、別の気配が流れていることに。
☆
「もう~皆さん、道幅に広がってちゃ迷惑ですよお」
ノンビリとした口調でほほえみながら歩いてくる女性。だが集まっていた市民に緊張が走り、兵士は直立不動となる。
ジャーラフは緊張をとかず、ノルブリンカは笑った。
「悪いなマーラ、皆がお帰りって集まってくれたんだ」
「あらそうでしたかあ、まずはお帰りなさいノルブリンカさん」
マーラ? ウールドが苦手と言っていたのは確か……。
「これまた魅力的な女性っスねえ」
バンダはのんきに、集まる女性陣に喜んでいた。
マーラさんはごく普通に話していても、確かに妙な気配がある。肌に触れそうでいて焦らすような、ねばりつく黒い意思。
対応に困惑していると、ふいにジャーラフがかき消えた。
「何か」の間合いに入ったのか、サイドステップして壁に張りついている。
「……ジャーラフさんって、意地悪ですねえ」
「おまえの趣味にはつき合えん」
クスクスと笑うマーラさんに違和感を覚える、あるいはシンパシーか?
彼女は妙な光沢を放つ、「ハイヒール」を履いていたのだ。
「は~い皆さん解散しましょうねえ、特に衛兵は巡回中でしょう?」
「はっ! しっ失礼しました!」
マーラさんが歩きながら顔の横で手を鳴らす。
蜘蛛の子を散らすとはこのことか、兵士が去って市民も続いた。ノルブリンカが一瞬だけ周囲に視線を向ける。
その瞬間、「彼女」の間合いに入っていた。
「この浮気者――――~っ!!」
マーラさんが石畳を蹴り砕く勢いで弾け飛んだのだ。
勢いのままノルブリンカの顔面を殴って吹き飛ばす。人間が相手とは思えない、鉄がもたらす重く硬い音が響いた。
続けてなんの遠慮もなく顔、胸、腹、場所を問わず殴りまくる。
体から「カルマ」をしめす淡い光がもれていた、S属性――肉体強化。
「っ皆――離れろ!」
これだけ殴られてもノルブリンカはずり下がるだけ。手を広げ注意を呼びかけ、すべて受ける気構えで立っていた。
同じS属性――肉体強化VS肉体強化。
もうどちらに驚いていいのか判断がつかない。混乱する間も硬質な音は止まず、ついには打楽器と化す。
「ねっ姐さんこっちはまかせて!」
「ひゃあああ――~っ!!」
腰を抜かしていた市民を兵士が引きずり、二人の周囲にスペースが空く。
さらにマーラさんの回転が加速し、ほとんど工事現場の重機となる。
「……フッ!」
「グエ――ッ!!」
息を吐き放ったノルブリンカの一撃、右ボディブローがマーラさんをとらえた。
特徴的な断末魔の叫びに、空気のつまったタイヤが弾ける。衝撃が大気を歪め、離れているぼくの髪が揺れる威力。
マーラさんが体をくの字にし、腰がノルブリンカの頭まで上がった。
空中で一時停止したあと――重力に引かれ墜落する。石畳を波打たせ崩れ落ち、手足が痙攣していた。
気絶ではなく痛みに悶絶だけですむ、耐久力はさすがと言えよう。
どちらが良かったかは諸説あるだろうが……。
「すごいな、たった一発で終――…了?」
ノルブリンカもジャーラフも緊張を解いていない。
あれをくらったら肉体強化をしていようと、ただですむはず――ふいにうめきが感嘆の声に変わる。
「ああ――~…効くわあ、ステキ……やっぱりノルブリンカさんは最っ高ねえ!」
頬を染め耳朶まで真っ赤にし、苦痛に酔っていた。
「ふう……まあいいけどさ、市民に被害が出る場所で突っかかってくるなよなあ。って――かなんだい浮気者って」
ノルブリンカため息をつきながら、マーラさんに手を貸す。
あれだけ殴られたにも関わらず、顔が少し赤くなっている程度。こちらもさすがとしか言えず、拍手してしまいそうになる。
「だってえ盗賊退治に出たって噂があったっきり、報告にもこないんですものお」
「ああそりゃ悪かった、しかしウチの兵に変な癖をつけてねえだろうなあ」
マーラさんが拗ねて睨み、ノルブリンカがやっと警戒をとく。
「どうやら、満足したみたいだな」
ジャーラフもため息をつきながら歩いてくる、まだ視線は切っていない。
「あんまり、聞きたくないセリフっスね……」
バンダが呆然と汗を垂らしていた。
「あ――アユム、紹介するな。クスママーラだ、変な奴だが悪い奴じゃない」
「まあ~ひどい紹介の仕方ですわね」
「っ痛てて――~痛っえよおい――!」
マーラさんが腕をつねり、手を振ったノルブリンカが半泣きで叫ぶ。
ようやく妙な気配も消えていた。
クスママーラ――十七人の因果伯の一人である。
色白で長い黒髪がひと束、顔を横断していた。少し厚い唇の下にほくろがあり、胸元に青い宝飾品が輝いている。青黒いコタルディが足首までおおい、扇に広がる袖と唯一見えている細い肩が印象的だった。
「とても殴り合いができそうにない、優美さだなあ」
これも「カルマ」の影響なのか。
現在各領地を移動する予備人員であり、この女性だけの街に滞在していたのだ。
ラヴィとはまた違った目を引く妖艶な美女である。強引に迫り、放っておかない無頼漢も多いのではないか。
因果伯の立場的にも、女性に囲まれてたほうが面倒がないかもしれない。
「あらこの街にいれば、ノルブリンカさんに殴ってもらえますから~」
「なるほど」
「クスママーラです、マーラと呼んでください。殿下の踏みつけはどうでした? 妬ましいですねえ~私もハイヒールで踏んでいただきたいわあ」
両手を組んでおねだりし、少し太めのお尻が揺れた。
ハイヒールは紀元前五世紀に登場し、古代ギリシャで流行している。身長を高く見せ、注目を集めるために使用したのだ。
だがまたしてもいったん廃れ、欧州では一六世紀にならねば再び登場しない。
ジャーラフも「妙な段差」と怪しんでいた。この時代一般的には革製の靴底で、ヒール自体が珍しい。
文献でひもとかれたのか? 独自に到達されたのか?
「あらヒールで踏むと一点火力になって、すご~く痛いんですよ。殿下にもお勧めしましたのに、避けられてしまってえ~」
「なるほど」
マーラさんがほほえみ、ノルブリンカが額を押さえ、ジャーラフが一歩引いた。
そういえば殿下は「ハイヒール」を知っておられた、この方からか。そこはもう少し強調しておいてほしかった。
もし殿下がハイヒールを履いていたら、一撃で粉砕されてただろうなあ。
「怖えなあ、アユムさまの同類っスよ」
怖えってバンダ、ぼくはごく普通の少年ですよ。驚きはしても恐怖はなかった、お腹のカレシーも眠ったまま。
短時間のうちに市民は――とくに兵士は、彼女がどういう人か理解したようだ。
どうやらマーラさんが落ちつき、散った蜘蛛も恐々と近寄る。こうして見ると、本当に女性しかいない。
「しかしこれでは、アマゾネスみたいですね」
「愛する熱意……? いやまあ熱意はあるけど、また妙なことを言いだしたな」
周囲を見回していると、耳慣れない単語にノルブリンカが反応した。
「アマゾネスです、向こうの世界にあったとされる『女性だけの国』の伝説です。神話に記された戦いに参戦した、恐るべき戦闘部族で――…あっ!」
口を押さえたがすでに遅く、ノルブリンカの瞳が笑みに光る。
「女だけの戦闘部族ってのは面白いな、アユムその辺もうちょっと詳しく頼む」
いつの間にか囲まれ、女性の壁が興味の影を浮かばせた。
ぼくのひと言で以降「この街」は、「アマゾネス」と呼ばれることになる。
「メイドさんの件から、余計なことを言わないよう気をつけていたのに……」
「『因果伯が治める街』に出張をお願いできませんか?」
ぼくの余計なひと言の前は、領主の名を冠して呼ばれ有名だった。そして陰では「男として一度は行ってみたい街」としても。
ゆえに仕事を依頼しに向かったら、セツとバンダは手をあげて喜んだ。
「興味本位で街に行くと、『女性目当てのスケベ』みたいに誤解されるし。うまい理由がないかと探してたんスよ!」
「興味本位ですよね?」
などとはややこしくなるので言わない。
二人とも帰宅してすぐの出張で、恐縮していたのに……。
「仕事じゃあしょうがねえよな!」
「しょうがないっス!」
後ろめたい気持ちを、どうにかごまかしているようだ。
「おおっぴらには言えなくても、皆そうやって浮かれてんでさあ!」
妻子がいても目の抱擁は別腹だと力説され、セツは奥さんに睨まれていたが――それでも行ってみたかったのだと訴えられた。
うん……お願いします。
「あらあんたがお世話になった方って、大道芸人やってるの?」
燕尾服を見て言われた、違います。
まだ幼い子供は隠れて近寄ろうともしない……。
「セツ、どんな土産話をしたんです?」
目をそらされた。
貴族が怖がられてると思っていた、もしかしてぼくの……いやそれはないか。
「それにしても、これまた変な工具の製作許可が下りたもんスね」
「さすがアユムさまです、俺らも領主様に目通りかなうくらい腕を上げようぜ」
二人は二の腕を合わせ盛り上がっていた。
セツには原付の製作を頼んだのだ。ダメ元で鍛冶屋の職人ギルドに設計図を持ちこみ申請したら、なぜかすんなり通る。
「使用するのはノルブリンカの街だと、ちゃんと説明したのが効いたのかな」
ギルド役員の媚びた表情は気になったけど、まあ心配事が減ってよかった。
ぼくとバンダは先行して現地へ向かう。セツは向こうの鍛冶屋がわからないし、使い慣れた自宅の窯がいい。
なにより妻帯者だ、少しでも家にいる時間が必要だと配慮する。
「いやあ燃えてきた! 完成し次第、速攻で駆けつけまさあ!」
意気ごみは感謝しかありません、でも奥さんが燃えてますのでその辺で……。
「ではこの街に、『アラヤシキ』を造ります!」
領主の館に招かれたぼくは宣言した。
蒸留水にカレンデュラオイル、側溝を掘ってお風呂を設置する。インフラ整備の基礎を立ち上げ、街を発展させるのだ。
「そしてもう一点っ! ぼくの知るかぎりこの地でしか果たせない、サンガ伯爵に直訴できるだけの――最大の功績!」
「おう、やっちまえ! 親父に目にもの見せてやれ!!」
新しいことが好きな領主、ノルブリンカは拍手して賛同。
「アラヤシキを、造るんですの~?」
移動の多かったマーラさんは、わからないのか首を傾げている。
「アレか……」
ジャーラフは、露骨に嫌そうな顔をした。




