宵越し一晩 あるアラヤシキでの「変換」
――私はディードリット。
仕事は月あかりの下、縄張りでの狩り。
こう見えても一流のハンターなのよ、驚いた?
その気になれば狩れない獲物はいないわ。
数ある自慢の一つだけどね。
仕事とはいえ、成果がなくとも食事はもらえる。
そういつも獲物がいるわけじゃないし、気分が乗らないときもある。
だけど私がいないと縄張りは維持できない。
だから同居人はいつも下手に出て、揉み手で食事を運んでくるわけ。
かわいい奴よね。
……ちょっと太ったかしら、まさかね。
緊張感を持たないとやってけないのはわかってる。
どうしたって仕事なんだし、気をつけてはいたんだけど。
あからさまに食事の量が減った……。
あんた立場わかってる? あたしが出てってもいいわけ!?
拗ねたフリをしたら、ほらごらんご機嫌を取ってきた。
しかたなく狩りをする姿を見せつけ、ときには獲物を持っていく。
同居人は大きいだけで気が弱く、狩りが下手だからね。
するととたんに食事が豪華になった。
現金だと呆れてしまう。
まあ態度には表さないけどね。
でもね、調子に乗るんじゃないわよ?
背中から抱きしめようとするから、怒鳴りつけてやった。
私はそんな安っぽい女じゃない!
文句だけですませてやろうとしたのに、しつこく後ろをついてくる。
これでもかと引っかいてやった、身のほどをわきまえなさい。
……あらやだ、ガックリと落ちこんじゃった。
もう――~…面倒だなあ。
同居人は悪い奴じゃない、それはわかるけどね。
立場ってもんがあるでしょ?
選ぶのは私! OK?
私の虜なのよね、結局。
自分で言うのもなんだけど、私に言い寄ってくる男は少なくない。
ほら今日も獲物を包んでくれる。
彼らに比べたら、狩りできない同居人はちょと……ね。
あんたの黒い瞳は好きだよ、けど自重しなさいって。
高望みしすぎなの。
こんな甲斐性なしのどこがいいのか、自分でも不思議だけど。
今日も縄張りを見張ってあげてた。
やるべきことはキチンとやって、迷わないのが私のいいとこよね。
……せっかくやる気を出したのに、獲物の気配がない。
仕方なくお気に入りの場所でウトウトしてた。
決意? 早々に羽をはやして飛んでったわ。
金属の音がして意識を向ける。
同居人が運んでた何かが淡い光を放ち、霞の中に消えていく。
光のもやがはれる前に、別の何かがわいて落ちた。
なんだろうと見ていると、こちらに走ってくる。
速攻飛び上って臨戦態勢! なめんじゃないわよっ!!
目の前でパタリと倒れ、動きなし。
誰何しても反応がない、二、三撃する……反応なし。
周囲を丹念に観察し、念のためもう一度誰何。
ふむ……どうやらもう、死んでるみたいね。
じゃあ、まあいいか。
興味のないフリを見せつつ、即座に対応できるだけの距離をとる。
場合によっては同居人に持っていくのもいい。
そうすれば食事がおいしくなるかもしれない、なるといいな。
あ――~あっ働いたら眠くなっちゃった。
お休みなさい。
☆
――とある個人商店の八百屋。
近所の大型スーパーに押され、四苦八苦しながらも営業を続けていた。
「あれえ、おっかしいわねえ……」
「どうしたん母ちゃん、もう試食の準備しなきゃいけないんだろ?」
母親がなにやらぶつくさと呟いている。レジを担当していた息子が不審に思い、バッグヤードまで呼びにきた。
店の前で宣伝をするのになぜパーマをかけるのか、息子には今なお謎である。
「それがねえ評判のまぐろの缶詰めを用意しといたんだけど、一個足んなくって。どっかその辺に落っこちてない――?」
あっちこちを見回し、隙間を覗きこむ。
「また父ちゃんが勝手に食ったんと違う? 一個くらいいいじゃん」
そうなんだけどね――と言いながら、母親はやっと試食の準備を始めた。
「ようディード、今日の機嫌はどうだ?」
レジに戻ろうとして、小さい影を見つける。
息子は子供のころに拾った、気分屋の同居人を気に入っていた。見ればなにやら銀色のコインを弾き遊んでいる。
ビンの蓋? 百円? 興味がわき座って眺めていた。
手は出さない、以前それで酷い目にあったのだから。足元まで弾かれ、やばいと腰を上げる――が同居人は首を傾げ見てくる。
なんだなんだ、くれるのかな?
「あっこれ銀貨だ! おいディード、どうしたんだこんなもん」
そっとつまんで光にかざす。
見慣れない装飾の硬貨で、時代がかっている割には新しい。そんなに歳月を経ていないのだけはわかる。
じゃあ価値はないと見なしつつ、同居人がくれた気がして嬉しい。
「落ちてたのかなあ、まあいいやありがとうディード」
今日はいいほうのご飯をあげようと、銀貨をポケットに入れてレジに戻る。
「ニャ――」




