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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第一章 城郭都市マナスル
31/188

三十一夜 異世界の歴史

 マナスルの城門前。

 ぼくとジャーラフさんは、しばし呆然と立っていた。


 ――笑顔あふれる晩餐の席。

「ぼくは新王都にいけません、ですがパンやほかのレシピはお渡しいたします」

 ホーマ親方の弟子にも話を通しておきましょうと、代案を提示する。

「おおそうかね、そうしてもらえるとありがたいのう!」

 ハスター伯爵は話に乗ってくれたのだ。

 そうして諸々の準備を整え量産型薪ボイラーも手配し、新王都への帰路当日……少しばかり爆弾を落としていく。

「そうそうサーガラへの護衛は、猫さんに頼んでおいたでな」

「にゃっ!?」

 突然の申告にぼくが驚きの声をあげる前、柱の影から当事者のジャーラフさんが「初めて聞いた」と仰天顔で姿を現した。

「そんなところにいたんですか……いやハスター卿、あのとおりですが?」

女子(おなご)には優しくせんといかんぞ、アユム卿? 仲良く(・・・)のう」

 とても楽しそうに笑い、ぼくの二の腕をたたき馬上の人となる。

 元騎士団総長の権威がどれほどかはわからない。とはいえヴィーラ殿下から直接「お願い」されるだけの、確固たる地位はある。

 無下にするわけにも……。

「あるいは殿下に反論した意趣返しにも思えたけど、穿ちすぎかなあ」

「あの爺なら、やり兼ねないわね」

 スーリヤ様には否定してほしかったのに、肯定されてしまう。

 それにしても、嵐みたいなお爺さんだったなあ。遠ざかっていく馬と荷馬車に、少しだけ寂しさの混じった苦笑を返す。

「えっとジャーラフさん、よろしくお願いします。あっこれは握手といいまして、相手と友好をしめす――…」

 ある意味一番衝撃を受けたのは、ジャーラフさんではないか。

 ぼくは笑って手を出し握手を求めた。何だそれはと質問され、会話の糸口にでもなれば幸いだ。

「…――友好をしめす挨拶と、言われて……」

「――っ!」

 下唇を噛み締めた形相で睨まれる。

 つい身構えそうになると、ジャーラフさんは土埃をあげ速攻で姿を隠す。

「……切り株と握手はしてないけど、まるで忍者だなあ」

 これは本気で嫌われてるな――。

 差し出した手が寂しい、殴ってくれてもいいのに。好意でも敵意でも、ぶつけてくれるほうが嬉しいんだけど。

「あいつは俺らでもよくわからんからなあ。まあ気にすんな、影から守ってる奴がいるとでも思ってりゃいいよ」

「そうですね……」

 んでニンジャーってなんだと、頭をかきながらウールドがフォローしてくれる。

 苦笑して答えてると、もう一つの問題が代わりに手を握ってきた。

 うん、ありがとう。

 赤毛の幼女が握手をして、じっとぼくを見つめる。サーガラ行きを話してから、アカーシャが離れなくなってしまったのだ。



 ☆



「――これらが秀逸なのは、安全を考慮し高圧蒸気の使用を止めた点です」

「なるほど排気をコントロールする分離凝縮器は、機構的に難関だな」

「熱効率を高める、蒸気の力を最大限に生かす利点ではあるんですけどね」

 ホーマ親方と連日、侃侃諤々(かんかんがくがく)

 蒸気エンジンはとにかく巨大なので、のちの調整がかなり難しい。初期手順から慎重にせねば、最終過程で狂いをなおせなくなるのだ。

 できるだけの知識を、このさい理解できるかは置いといて伝えた。

 記憶の片隅にでも残っていれば、きっと役に立つ。

「おおそうだサーガラへ帰る奴が二人いる、よかったら相乗りさせてやってくれ」

「こちらとしても助かります、よろしくお願いします」

 サーガラでもお風呂を広めたい、衛生の第一歩。そのため薪ボイラーの設置と、点検要員としてホーマ親方の弟子が必要となる。

 任ぜられた数人が新王都へ帰り、サーガラにも誰かいないか相談していた。

 ちょうど出身の弟子がいて、帰省に便乗させてもらう。

「いえ、そろそろ帰らなくてはいけなかったんで」

 奥さんに連絡ができず落ち着かない。だが蒸気エンジンの製作には携わりたく、かなり後ろ髪を引かれている。

 鍛冶場で遊ぶアカーシャに、我が子を思い出していた。


「――のですがアユム卿、いかがでしょう? 公衆浴場(アラヤシキ)を国家事業として申請していただけたら、マナスルも潤うと愚考しておるのですが」

「ええすべておまかせするのは心苦しいですが、お願いできますでしょうか」

「もっもちろんです! どうかご安心して我らに託し、出立なさいますよう!」

 会議の席で徴税官が揉み手で申し出てきた。

 幸いにも公衆浴場と石鹸は、十分すぎるほどの利益を上げている。

 ほかの大臣格も言いたいことはあれど、国の発展が明らかで愚痴もこぼせず……最後の抵抗とばかりに無言を貫いた。

 スーリヤ様に確認すると、すでにヴィーラ殿下より予算承認もされている。

 新規開拓や設備の充実、補充や点検などの手配に問題は見当たらない。二人して殿下の手腕に感謝した。

「ぼくの手はすでに離れているので、経理のすり合わせさえすませればOKです」

 浴場の管理者やパン職人と顔合わせの準備をする。

 それはそうとぼくの横で船を漕いでいた赤毛の幼女に、疑問の視線が刺さった。

「ああアカーシャは因果伯(エリート)です、会議に出席しても問題ないはずですよ」


「――食の魅力は絶大です、それにも増して」

「大切なのは何より安全! ですよね、アユム様!」

 料理長とメイドさんに笑いながら返された。

 城ではあらためて蒸留水の説明をする。並行して備蓄水槽やパイプの、定期的な清掃を提案しておく。

 特にマヨネーズの製造には、新鮮な卵を使用するように念押し。

 さらに保存している壺の管理など――調理をお願いして幾度も手伝ってもらった皆さんは、十分に理解していた。

「本当ならアユム卿には、もっと料理を教えてほしかったんですがね」

「ちょっ……料理長!? それは言わない約束でしょ!」

「アっアユム様は絶対に、無事お帰りになられます――~…っ!!」

 絞るような叫びに呼応し、メイド服の華に包まれ胸がつまる。

 増えた自家製酵母を別け、お世話になった厨房の掃除。

「アカーシャ煤で真っ黒になってるから、わかったお風呂に入ろうな」


「――帰ってくるころには、見違えるほど磨きあがっているかも」

 暖簾(のれん)をくぐると、火照った頬に冷たい風が気持ちいい。

 始まりの場所である元屋敷から、街を見渡してて独り言ちた。

 側溝と下水処理設備の資金は、復興費(・・・)から捻出されているので問題ない。井戸も同様で、すでに設置工事を開始している。

「色々……あったなあ」

 ごく普通の少年が影供(えいぐ)の丘から召喚され、異世界で運命の方を見つけ無理難題を命じられ、多くの方との出会いと助けを受け、魔獣の来襲――…。

 振り返ってみても、本当に濃い二ヵ月だった。

 でもぼくはもう一度、きっとこの情景を瞳に映すため――。

「うんアカーシャ、手が痛いから緩めてほしいかな」



 ☆



「小学生のときに習ったお裁縫って、一生ものの技術(スキル)じゃないかなあ」

 静かな居館の夜、ぼくは持ちこんだ新たな布を使い燕尾服を縫う。

 大切に着てはいたんだけど、破けたり汚れたり。繕うにも限度がある、旅の間は気をつけなくっちゃね。

「お前さん、やっぱそれ着ていくんか?」

 言外に「やめとけ――」と、匿名希望の狼が眉根を寄せていた。

「燕尾服はヴィーラ殿下への、忠誠の証なのです!」

 そう主張して着てしまったから、もう後戻りができなくなったとも言う。

 苦笑しながら仕立てていたらノックがする。

「アユム――いる?」

「いま――す!」

 妙な会話はしかし、互いには通じていた。

 視線がベッドでカレシーと遊んでいる、赤毛の幼女に向けられていたから。

「もうアカーシャ、アユムの邪魔しちゃダメでしょう?」

「邪魔じゃないって言った」

 ねえシーちゃんと、同意を求めてカレシーを抱きしめる。

 スーリヤ様が腰に手を当て、駄々っ子を諭す。

「アユムはそういうとこ、鈍いってわかってるでしょ!?」

 ……なぜだろう、すごく責められてる気がした。


「出発の準備は――進んでるみたいね」

 剣のほかに黒い警棒や、紐を編んだリストバンドを装備予定。

 バックパックにレーズン酵母とカレンデュラオイルの小瓶、方位磁石と水平器に着替えの農民服、バールのようなものを上に積み登山でもする出で立ちになる。

「方位磁石を借りっぱなしになってしまい、申し訳ありません」

「いいのいいの、ほったらかしだったし役立てて」

 スーリヤ様が紐についた耳栓を伸ばし、不思議そうに首を傾げていた。

「アユムがマナスルで色々やってる噂は、サーガラまで広まってるはず。まったく話を聞かない――なんてことにはならないだろうけど」

「一ヵ月近く前に、レシピを手渡した行商人の方に噂を頼みましたけど、そこまで広まっているでしょうか?」

「ん――~…ああ、そうねえ」

 何か言い辛そうに天井を見るので、合わせて見上げてみる。

 異世界(こちら)の方たちにとって「アラヤシキ」とは、天国や地獄同様に信仰対象であり実在の確認にはいたらない……そんな世界をしめすそうだ。

 なので「アラヤシキから来た少年」――なんて、信じてもらえるのかなあ。

「……噂が広まるスピード、早いって気がしない?」

 ぼくの疑問を察したように、スーリヤ様が盗み見ていた。

「ああそういえば、新王都の方まで噂を頼りに集まるのは変だなと」

 マナスル市民なら実物があるからわかる。だけど他領の方は行商人の噂だけで、薪ボイラーや側溝通りの話を信じていたのだ。

「私もハスター卿から聞いたのよ、つまり信じるに足る人(・・・・・・・)だからこそ広まったの」

「妙な言い回しですね、領民が信じるに足る――…」

 瞬時に浮かぶ姿。

「――っまさか!」

「そう、ヴィーラ殿下(・・・・・・)が広めてるの」

 二人の間にハッキリと、黄金色の髪に炎の瞳を光らせた少女が浮かびあがった。


「バジリスクを見事に討伐せし英雄――マナスルに顕現した(・・・・・・・・・)アラヤシキの少年は、注目の的なのよ」

 他国からもね――と、温度が下がる忠告をされる。

「ヴィーラ殿下がなんらかの思惑をもって流している噂。だからこそ本来アユムがマナスルを離れるなんて、認められるはずがない」

「この件を知っているのは……ハスター卿が尽力してくれた!?」

 スーリヤ様がおそらくと、複雑な表情で頷く。

「さらにマナスルに因果伯六名は殿下の下知。それでもアユムに護衛が必要だと、殿下が納得できるだけの理由をしめしたのでしょうね」

 ぼくの話を完全に理解できたとは思えない。

 それでもヴィーラ王国の未来に繋がると見越し、糸口を作ってくれたのか。

「ずいぶんとぼくを……買ってくれているの、ですね」

 元騎士団総長の威光で旅を止めるか、護衛をつけないほうが簡単だったはず。

 それなのに殿下を説き伏せ、サーガラ行きを認めてもらう。もし密偵がいても、また元騎士団総長のいたずらかと気に留めなかったに違いない。

 ぼくですら意趣返しに思えたほど、完璧に道化を演じ切ってみせたのだ。

「やはり怖い方ですね、ハスター元騎士団総長……」

「重荷に感じることないわ、とぼけた顔をして……あの爺は読めない」

 その手腕に称賛していると、スーリヤ様は悔しいのか深いため息をつく。

 この時代でも流言飛語はけして無視できない。拡散するにつれ尾ひれがつけば、剣以上に恐ろしい武器となる。

「これが向かい風になるのか追い風になるのか……ヴィーラ殿下はアユムを騒動の渦中にしようとしてる、まったく無茶苦茶よねえ」


 ぼくは突きつけられた無理難題に、胸の高鳴りと興奮を覚えていた。

 本望(それをこそ)である――と。


 そして同時に、消えない罪悪感も胸を突く。けっして避けて通れない矛盾……。

 アカーシャが心配そうに顔を覗きこんでいた。

「大変だよね、でもそう……これはアカーシャの悩みと似てるかな?」

「同じ?」

 うんと頷いて頭をなでる。

 ぼくは何度も振り返る、それは返還なのか? 改悪なのか?

 頭での理解と感情での足踏み、どちらの選択もしがたく――。

「まあアユムが目的を持って行動してるのは、アカーシャもわかってるんだよね。城には歳の近い娘がいないし、寂しいって気持ちは消えようがないけど」

 バジリスクのときと違い、何か視た(・・)ゆえの行動ではない。

 だからぼくとしては、アカーシャのいいようにしてあげたいんだけど。

「スーリヤは寂しくないの?」

 カレシーのほっぺを引っ張りながら、ポツリと呟く。

「そ――んなわけないでしょう!?」

 大きく口を開け、呆れたとばかりの即答。

 むしろ訊いたアカーシャのほうが驚いている。

「先生も、教え子も、仲良くなった人も、喧嘩した人も、皆先に逝っちゃった」

 長寿のエルフ、そのあまりにも長い時間。

 理解したアカーシャが下を向く、賢い娘だ。スーリヤ様も横に座って、カレシーの(あご)をなでる。

「シ――~…」



 ――世界を見たいと里を飛び出した私は、かなりの異端児でしょうね。

 そうアユム風に言うなら、此処(ここ)ではない何処(どこ)かにってなるのかな。プラーナ様はうらやましいって笑ってたけど。

 エルフに「寿命」の概念はない。

 ゆえに「子を残す」……次世代に繋げる意思は、只人よりもはるかに弱い。里の顔ぶれは何十年も変化しないのだ。

 暖かな日差しのなかでいつもと変わらない日常をくり返す、平和で平穏な日々。

 私は……私には、それが退屈だった。

 けどそんな世界にも別れはあって、何百年と生きるうち徐々に――数十年かけて徐々に動きの少なくなる人がいる。

 食事の回数が減っていく、瞑想する時間が増えていく。

 夢のなかを歩き、心のなかで糧を得て、光のなかに住む。里の者たちも「そこにいて笑っている人」……それが当然の認識となっていく。

 徐々に……徐々に……当然みたいに、ある日「気がつく」といなくなっている。

 子供のころお気に入りだった杖も、本も、歳を重ねて離れるみたいに。

 慌てて探し回り親に訊ねたら――もういらないって捨てたじゃないと知り(・・)、夜に思い出してちょっと泣く。

 エルフの「別れ」とは、そういった認識なのだ。



「寂しくないわけじゃないの、だから未来(ゆめ)を視るのよ」

 アカーシャがスーリヤ様を見上げ、不思議そうに目を合わせる。

「今日笑って別れたから――明日もきっと、笑って会えるねって!」

 見事なウインクにぼくの心まで弾む。アカーシャがやっと、「にへら~」としか形容できない笑みを見せた。

 スーリヤ様もマネて笑い、温かな光の輪が咲く。

 無我夢中でやってきた、今でも正しいと確信している。それでもときに顧みる、歴史を変えているだろう罪深さを。

 蒸留水、パン酵母、側溝、ソース、フォーク、蒸気エンジン。

 自分の衣服すら否定していたのに……時代の変遷にはそぐわない記憶の数々を、今後も手繰っていく。

 歴史――記録の大切さを語り、実行しているくせに変える。

「ぼくは世界を返還しているつもりで、改悪 (・・)しているのではないか?」

 全人口を二億人減少させたといわれる黒死病(ペスト)

 それすらも悲しみ、教訓とし、知恵を絞り立ち向かう力を人類が得たのであれば――必要な犠牲(・・・・・)ではないのか。

「やけどの痛みを知らないと、より大きなケガをするのでは?」

 黄熱病、天然痘、スペイン風邪、エイズ、結核、マラリア、コレラ――どれほど尽力しようと、人類は今後も感染症の猛威と戦う。

 そんな犠牲を否定する自分と、それでも肯定する自分がいた。

 ぼくの存在自体が矛盾を抱えている。

「これがぼくを召喚したヴィーラ殿下の、望んだ未来(ゆめ)なんだろうか……?」


「まあしばらくアユム(・・・)のパンが食べられないのは、寂しいかなあ」

「レシピは料理長に手渡してます、実習も十分実地しました。これからも変わらず同じパンが食べられますよ、ご安心ください」

 笑顔でアピールしたのに、二人は顔を見合わせため息をついている。

「ほらね、鈍いでしょう?」

「アユムは女心を記憶すべきだ」

 アカーシャどこでそんな言葉を……。

 かなりの年齢差に同時に責められ、困っていいのか喜んでいいのか。

「あらそんな顔しても、私たち以上にアユムを知ってる者はいないんだからね? ――我発見せり(ヘウレーカ)っ!!」

 突然二人がぼくを指さし、ハモって大笑いするので驚いた。

「……入浴中に飛び出さないでくださいね」

 哲学者アルキメデスが浮力の定理を発見し、喜びのあまり叫んだとされる故事。

「先の見えない暗闇の迷宮で、アユムを探し出したのは私とアカーシャよ!」

 スーリヤ様が胸を張り、アカーシャが頬をふくらませて頷く。

 そうでしたと、苦笑して頭を下げる。

「その節は大変お世話になり……」

「まったくよ――~いい? アユムがどんなに世界を返還(・・)しても、それは私たちが見つけたかけがえのない未来!」

 スーリヤ様が腰に手を当て、まばゆく笑う。

 嗚呼……この方は本当に光なのだ、影であるぼくの心を照らし出す。

「そうか、あのときぼくは……見つけて(・・・・)もらったのか」

 ぼくは動悸が激しくなり、聞こえてしまわないか怖くなった。


「まあアカーシャ、隠れてついていこうとしてたの!? ダメですよあぶない! アユムも危険なことはしないようにね? 何かあったらすぐに連絡すること!」

「は――いお母さん」

「っ……そんな歳じゃありません!」

 三人で色々な話をした、予知ではない楽しい未来(ゆめ)を視るのだと。

 確かなのはこの一瞬。

 ここは過去の向こうの世界(アラヤシキ)ではない、「すでに経過した記録」ではないのだ。

 異世界の、この並行世界の未来は「たった今」作られているのだから。

「来年の、今月今夜のこの月を――…」

 窓の外を見上げて呟く。

 貫一とお宮の人生は未完のまま、複数の見解を持って語られる。ぼくの物語(みらい)も、きっと誰にもわからない。

 記憶した歴史にはけっして繋がらないのだと、実感が夜の空に浮かんでいた。

 青と黄色に輝く二つの衛星。


 こちらで青い月はジャーラフ、黄色い月はジャーレーと呼ばれている。

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