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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第一章 城郭都市マナスル
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三十夜 バクティ卿

 かがり火が城壁を不安げに照らしだす。城は戦時下でもなければ、夜間それほど多くの兵がつめているわけではない。

 防衛を管理をする城代と、見回りの衛兵が十数人いる程度である。

 ほとんどが東の駐屯地や、居住区へと帰宅していた。バジリスクの騒動で増えた警備も通常に戻り、落ちつきを取り戻しつつある。

 城門を疾走した「得体のしれない影」のため、若干兵士は多かったが……。



 井戸のそばに松明を立て、ラヴィとハスター伯爵が向かい合う。

 周囲にはぼくとスーリヤ様、因果伯の三名だけ。アカーシャはお腹がふくれるとカレシーを抱っこし寝てしまった。

綺人(きじん)』……。

 ラヴィが虚空に錫杖をかざす。

 先の輪に「タラーク」に酷似した文様が浮かび、淡く発光する。ゆっくりと……手順を確かめながら、ゆっくりと立ち振る舞う。

『動くな爺ぃ!』

「――っ!」

 錫杖を地につけ叫ぶと、ハスター伯爵が身震いのあと停止した。遠目でも筋肉が不自然に硬直し、強制的に体の自由を奪っているのがわかる。

「動かない」と脳に疑似的な刷りこみをあたえたのだ。

 つまり実際には、ハスター伯爵が自ら(・・)筋肉を硬直させているらしい。

 ラヴィが「力」の成功を確認し、錫杖を上げ集中を解く。

「――っはあ! むうきついの、O属性は脳にくるわい」

 深く息を吐き肩を回す、相当辛かったのか額に汗を滲ませていた。

 鍛冶場でのやり取りを知らないウールドとトリコナーは、「まあそうだろうな」と納得している。


『鍛冶場で〝綺人(きじん)〟が効かなかったのは、なぜでございましょう?』

 晩餐会でラヴィがハスター伯爵に問うたのだ。

 あるいはすでに「力」を、失っているのではないかと。

「いやご令嬢見事な『綺人(きじん)』じゃったよ、孫のステューパの嫁にきてくれんかね」

「お断りします、ではあのとき『力』が通じなかったのはいったい……」

 ……ラヴィ、一行くらいは迷ってあげたほうが。

 巨漢の近衛隊長のお祖父さんだったんだ、そういえば面影があるかな。まあ性格はずいぶんと違うみたいだけど。

 ハスター伯爵はしばし目を泳がせ、立ちなおるために一つ咳をする。

「んんっ! あ――~…このなかではバクティ卿かのう、同じように試すがいい」

「はっ!」

 突然呼ばれたにもかかわらず、バクティ卿は背筋を伸ばし即座に前に出た。

 元騎士団総長に敬意を表し、一糸乱れぬ姿が彼らしい。

『動くなボケェ!』

 バクティ卿に向かい「力」を放つ、同じく停止して見開いた目に苦悶が滲む。

「すごい今さらだけど、言動が普段のラヴィと違いすぎてちょっと戸惑うね」

「どっちが本性かわかんねえけどな」

 ウールドがまっぜ返し、剣呑な気配がラヴィから届く。

「O属性『綺人(きじん)』……少し怖いけどめったに体験できない、機会があったらかけてもらおうかな」


「――抜刀っ!!」

 突然、ハスター伯爵が吠えた。

 元騎士団総長らしい鬼気迫る号令に空気さえも震える。何十年にも渡って国に、領民に「争いのない世界」を託してきた者の迫力。

 周囲の意識がハスター伯爵に向く。

 いっぽうバクティ卿は――ごく普通の動作さながら、流麗に剣を抜いて構えた。

「なんとっ!?」

 バクティ卿が自分で驚いている。

「とまあ、こういうことじゃな」

 誰もが二の句が継げないでいるなか、ハスター伯爵が笑う。バクティ卿のそばに寄って、もうよいと軽く腕をたたく。

 ラヴィが「力」を解き、バクティ卿が息を吐いて剣を鞘に納めた。

「『綺人(きじん)』は相対する者の意識に、別の意識を刷りこませる。そういった意味じゃ同属性の『風舌(ふうぜつ)』と似ておるのう」

 まさに実戦でとらえた武人の認識なのだ。

 スーリヤ様が書き留めようとして何もなく、オロオロと手をさまよわせている。

「ゆえに判断が必要な思考は操れても、無意識の行動には効果がないのじゃよ」

「動こう」としたのではなく、日常でくり返す動作。

 服を着て靴を履き、ドアを開ける。歩き方や呼吸まで、「意識しない行動」には効かないのだと説明を受けた。

 ハスター伯爵がバクティ卿を見る目に、優しさが漂っている。

「卿がどれほど真剣に剣を学んできたか……立派じゃよ、バクティ卿」

「――はっ!」

 右手を左胸に再度敬礼する、表情は見えないが肩が震えていた。

 元騎士団総長と同様、バクティ卿も剣の型が体にしみ込んでいるのだ。無意識に体が動くほど、日常と言えるほどの鍛錬。

「ご令嬢――イーシャ卿はあのとき(・・・・)、驚いてしもうて続けんかった。だがアユム卿が走りだしたとき『追うな』とでも刷りこまれたら、いっかな儂でも従うたろう」

 ラヴィも顧みたのか、錫杖を強く握りしめていた。

「まあこれも経験じゃな。よほどの相手でもないかぎり、抜刀はできても攻撃まで無意識におこなえる者は、そうおらんよ」

「はっ!」

 貴重な教えを受け、片足を内側に引き軽く折る。

 好々爺に見えてもやはり元騎士団総長なのだ、皆の意識が目に見えて変わった。

「結果として正解だったのは、即座に逃げたアユム卿だけかのう――じゃがなあ」

 疑問を持つような、困ったような表情でぼくを見る。

「騎士として剣で、領主を守ろう矜持を見せようとは、思わんかったのかね?」

「ああ、騎士道ですね」

 騎士にとっては戦うことが名誉であり、逃げ出すのは最大の不名誉。騎士同士の戦いであれば特に顕著で、まずは戦い武勇をしめす。

 そして敵わぬ場合は、素直に投降した。

 抵抗を続けるのは「自殺」とされ、教義的に禁止である。捕虜となっても身分が保証され、身代金で保釈されるまで丁寧な扱いすら受けられた。

 勝者も降伏勧告を果たし、助命嘆願を受け入れる義務があったのだ。

 これは「血のパイプ」――貴族間での婚姻が習慣であり、血を辿れば高位の縁者がいる可能性が理由の一つ。

 由緒ある方の「血統」を傷つけ、貴族社会を敵にする可能性を回避する制度。

 身代金が安く自分はもっと高いと、不満をもらすエピソードまである。

 敗者となって技量不足の誹りは受けても、不名誉とはならない。この辺りは同様に名誉を重んずる武士道とは、明確に異なっていた。

 ハスター伯爵は不義の疑惑を向けられるぞと、心配してくれていたのだ。

 けれどぼくは平然と反論する。

「私の矜持(プライド)や今後より、マナスル卿の安全が最優先です」

 スーリヤ様が嬉しそうにしてくれるので、ぼくもほほえむ。

「うっうむ、まあそれもありじゃな」



 ☆



 ――松明が辺りをオレンジに染め、井戸を浮かび上がらせる。

 光のなか注視しなければ見えないほど、幽鬼に染まった男が剣を振っていた。

 けしてオレンジのプールポワンを着ているからではない。影さえも遠慮し、薄く漂っているかのようだ。

 細身で刺突用の片手剣(エストック)、バクティ伯爵である。

 習い覚えた型をくり返し、筋肉の流れと姿勢を確かめた。地味な反復のみが高みへいたる道なのだと、滝の汗が派手に誇示している。

 己の道は間違ってはいなかったのだ。

 肌を伝いこぼれ落ちる光の反射だけ、彼の存在を強く浮かばせていた。


 型が終わったのか、あるいは納得できたのか剣を鞘に納める。

 ひと息ついて懐からタオルを取り出すと、汲んでおいた水に浸し顔に当てた。

「よう――~真夜中に精が出るねえ」

 建物の裏手からムカッシュヴァナーサナ伯爵こと、ウールドがジャグとコップを揺らして陽気に歩いてくる。

 ジャグは取っ手のついた陶器製の壺で、エールやワインを運ぶピッチャー。

 彼には珍しく気を使い、鍛錬が終わるのを待っていたのだ。バクティ伯爵も彼の存在に気がついてはいたが、何も言わなかった。

「昼間にやったほうがよかねえ? 兵士やメイドが見たら、『得体のしれない影』の噂がまた増えるぞ」

影が薄い(・・・・)と言われては因果伯の名折れだ、卿こそこんな夜ふけに珍しい」

 S属性の特徴である、体内に「カルマ」を発生させ維持する肉体強化。

 逆に存在を薄くさせるほど、自然に発生する「カルマ」さえ閉じて(・・・)しまう術を、バクティ伯爵は魔獣討伐の経験により得ていた。

 それはバジリスクとて、意識が向かない域に達している――。

「いやなに、ミスに落ちこんでんじゃねえかってね」

 笑って井筒に腰をかけ、コップにエールを継いで無邪気に渡してくる。

「卿は以前からそうだが、気を遣うのがうまいのか下手なのか判断しかねる」

「へっそう気張るなよ色男、吐き出しちまったほうがいいときもあるさ」

「――っ!」

 ズバリと指摘され、コップを受け取るとため息といっしょに飲み干した。

 自責の念か、エールの味が変わって思える。マナスル産だからとごまかすには、アルコールの量が足りなかった。

「正解はアユムだけ(・・)――爺さんに言われっちまったからなあ」

 自分のコップにもエールを注ぎながら苦笑する。

「そうだな、完全に因果伯(ぼくたち)のミスだ。マナスル卿とアユム卿、守るべき対象が二人いるのなら護衛も増やすべきだった。つい先日プールヴァ帝国の密偵か刺客が入り込んでいたのに……気を抜きすぎだ!」

 珍しく多い口調に、落ちこみが見て取れた。

「だなあ……まあラヴィもそうだ、経験にできたと幸いにしようや」

 ウールドがジャグを傾けて見せ、察してコップを差しだし注いでもらう。

 同じく井筒に腰をかけ、今度はひと口だけ含んだ。

「経験か……」

 知らずのうちに右膝をさする、バクティ伯爵は走れない剣士だった。


 ――子爵家の出身だった彼は、六歳で家を出て騎士学校に入る。

 先輩騎士の小姓(ペイジ)として牛馬のごとく務め、五年を経て従騎士(エスクワイア)になった。さらには通常は二十歳前後のところを、十六歳で叙任式を受けて騎士となる。

 異例の速さで駆けあがった少年に、しかし笑みはない。

「己に克ってこそ真実の騎士」

 幼きころより血と汗で実践してきた家訓の、やっとスタート位置に立っただけ。

 家訓を守るのが人生のすべてだった、その道しか知らないのだから。「カルマ」をこそ啓きはしなくとも、幾度かの盗賊討伐や小競りあいを経験。

 騎士数名を従えた若き正騎士となった。

 騎士として磨いた知識と教養、優雅な剣捌きは将来を約束されていたのだ。

「彼はこのまま王国騎士団に編成され、諸侯につき従う有力者となる」

 いち騎士が派閥争いや宮廷闘争に尽力する、諸侯たちの噂にのぼる。

 魔獣討伐の遠征で、有力貴族の指揮官が無謀な作戦を敢行した末に瓦解。魔獣に襲撃され、仲間と右膝を潰されるまでは……。

 無様だと子爵家から放逐され、生きる指針を失い仲間の仇も討てない絶望。

 己の無力にさいなまれ怒りの炎に焼かれるなか。何の因果か「カルマ」が啓き、運命の残酷さを呪った。

 取り返せない経験をさせておいて、なぜ今さらと。

 魔獣に相対したときに啓いていれば、あるいは撃退できたかもしれない。

 自分に憧れ、歯を食いしばって訓練していた従騎士。戦いでは背をあずける不安さえなかった、かけがえのない同期。

 あとを頼むと笑った、友の瞳が忘れられなかった。

 名を捨てモルディブに近い農村で、魔獣退治を一手に請け負う傷だらけの剣士を「少女」が知るのは……しばらくしてからだった。

 以降「バクティ伯爵」の栄誉称号と爵位を拝命し、因果伯となる。



「――にしても次はサーガラか、あいつはフットワークが軽いねえ」

 いつから段取りしてたのか……と、ウールドは少し寂しそうに呟く。

 因果伯として幾度も滞在しており、活気あふれる街並みが脳裏に浮かぶ。

「髭のおっさんはまだ領主やってんのかな、あいつら(・・・・)も大変だ。そういやお前さんの古巣でもあんだろ、アユムの護衛に立候補しねえのかい?」

 サーガラの騎士学校は規模名声とも有名だった。

「今さら……だな。卿こそまっさきについていくと、手を挙げると思ったのだが」

「それは山々なんだがねえ、今あっこの近くにクスママーラが滞在してんだわ」

 俺あいつ苦手と、言外に語っていた。


 昨晩の晩餐ホールで、ジャーラフがまたもや気配を消した後。

 ハスター伯爵がアユムに、ヴィーラ殿下要望の品を用意できるか訊いた。

「……薪ボイラーはなにより給水と、排水ができる側溝が必須です。王宮に準備があるのなら、鍛冶職人が現地へ持ちこみ設置すれば使用は可能ですね」

 パンは日持ちがせずせいぜい五日。新王都まで馬車で三日ならば、酵母で運んで向こうで焼いたほうがおいしい、ただしこれも技術は必要。

 シャンプーとカレンデュラオイルも、現地で製造したほうがいいと告げた。

「石畳に溝を掘る『側溝通り』は見事じゃった。靴も汚れないし歩きやすいしで、いや大助かりよなあ。ほかも新王都で新たに作ったほうがいいのか」

 ふむ……とハスター伯爵は腕を組む。

 アユムは会話の外で、ジャーラフの「お前が嫌いだ」発言に少々混乱していた。

「何か気に障ることをしたか、言ったかな……?」

 数えるほどの接触しか記憶にない、判断材料に乏しかったのだ。

「そうじゃなではアユム卿、鍛冶職人と共に新王都へ来てはくれんか?」

 突然の発言に、むしろ周囲のほうが驚く。

「卿が来てくれればすむ話じゃろ、なによりヴィーラ殿下のお願いでもあるし」

「はあ、無理ですね」


「――――~…っっ!?」

 アユムは「殿下」の名の元の願いを、軽く拒否した。

 場に重く沈んだ空気が流れる、停止したと言ってもいい。即答に聞き間違えかと一拍開けるも、ハスター伯爵すら息を呑む。

「いっいや、いやこれは殿下(・・)の……じゃね」

「なればこそ、です」

 少年は笑い、平然と反論する。

「ヴィーラ殿下はぼくに、この国を磨きあげろと命じられたのです。主君たる者が私欲によって、簡単に主張を変えるなど許されません」

 正論ではある、ではあるがそれを言えるのは……。

 さらりと反論した少年に対し、周囲は驚愕の表情を隠して「奇天烈な少年(あんただけだ)っ!」と心で絶叫していた。

それより(・・・・)も、時期を見てとは思っていたのですが。そろそろ港湾都市サーガラに向かう準備を、整えたいのです」

「ほっほうサーガラに、それはまたどうしてじゃね?」

 ハスター伯爵が前のめりに食いついた。あるいは「それより」扱いされた殿下への反論から、離れたかったのかもしれない。

「塩です」

 手元の料理を指して少年がほほえむ。

「もちろん調味料としての塩も大切ですがそれ以上に、塩による消毒ができます。感染症予防の塩素消毒――ヴィーラ王国の今後に、絶対必要な処方です!」

「予防の、ショウドク……?」

 疾病の予防と対策、これにもまた歴史の積み重ねがあった。

 病態や進行度などを観察し、原因の究明や治療方法の実験。治療薬や医療機器の開発により、推論を講じるプロセス――臨床研究。

「因果」関係が大前提の研究である。

 これらの大原則が提唱されたのは一九世紀。膨大なデータの集積が必須であり、一朝一夕に導かれる「答え」は存在しない。

「明日の花より今日の種」

 貴族に仕える使用人や侍女ですら、薬と聞いて二の足を踏む。日々の暮らしにも窮する時代、明日のために体を気遣える(・・・・・・)のは裕福の証なのだ。

 優先度が低くなって当然だった。


 笑顔あふれる晩餐のなか、ややぎこちなさも垣間見えている。

 元騎士団総長はなにやら得体のしれなさを、少年に覚えていた。

「路地に追いつめたときも、同じじゃったのう」

 武芸は素人も同然じゃな、戦えば相手にもならんじゃろう。それなのにまるで、喉元にナイフを突きつけられた恐怖を感じ……つい手を上げてしもうた。

 料理や側溝にみられる数々の機転、何より聡明さはならぶ者がおらん。

 そのくせ見せびらかすことも、鼻にかけることもない。異郷の地、アラヤシキの理を身にまとう少年か。

 ――底が見えない、それは殿下にも似た「理解不能」な畏怖。

「来た、甲斐があった」

 ハスター伯爵は内心で呟き、それとは別に老人らしい忠告もしてみる。

「しかしのう儂が言うべきでもないが、一人でサーガラに向かうのはいささか問題ありゃせんか? 数日とはいえ慣れぬ国の旅は危険じゃぞい」

「ですかねえ、う――~…ん」

「シ――~…」

 膝に座るカレシーをなでながら、少年が虚空を見上げた。

「まあ旅の間だけでも、因果伯の護衛を一人はつけるべきじゃのう」

 悩む少年に気をよくし、ハスター伯爵はそのむね殿下に伝えておくと約束。

 アユムはごく普通に、感謝を述べる。



「ほんと妙な奴だよなあ何度も驚かされる、脆いのか強いのかわけわかんねえ」

 ウールドが夜空を見上げてため息をつく、しかし表情は明るかった。

「卿はずいぶんとアユム卿を買っているな……いや、類い稀な存在ではあるが」

 なにしろアラヤシキから来たのだから――。

 それよりも最初は面倒くさがっていたのに、いつの間にかアユムに肩入れしてる餓狼に意外性を覚えていた。

「なによりも面白いってのはあるけどな。側溝から特許から、国が良くなるように返還(・・)していってくれる」

 手を伸ばしけっして届かない月をつかむ。

「あいつはこの国の因果に……運命に必要な奴じゃねえかって、思うのよ」

 アユムの後ろには道が、未来が切り啓いて(・・・)いく。その道はきっとあいつ自身も、救うんじゃないのか――。

 物言いに照れたのか、まあS属性の「予感」なぞ当たりゃしねえかと大笑い。

「へんっ汚れを知らない坊ちゃんのくせに、手にマメ作って(クワ)を振ってんだぜ? てめえの掘った墓穴(・・)で助かってんだから世話ねえや!」

 口を衝いて出た悪態に、苦笑とまっすぐなグレーの瞳が返った。

「フッ……貴族嫌いの餓狼(・・)にそこまで言わせるとは、アユム卿も大した少年だな。すでに王国の因果は巡っているのやもしれん」

「おっなんでい? その口ぶりからすると、わりと俺のことを買ってたんだ」

「卿は因果伯だからな、導いたヴィーラ殿下を信じているのだよ」

「へいへい――~」

 鉄と炎――思想も心情も、出自までまるで異なる二人がエールを傾ける。

 夜が更けジャグが空になるまで、笑って雑談を続けた。

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