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M属性 ~嗚呼、あなたに踏まれたい~  作者: 高谷正弘
第五章 プールヴァ帝国
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百七十七夜 再演

「そっその声はペール? ペールラァサかっ!?」

「おう久しぶりだなチャンドラ、まさか帝国の帝都(こんなとこ)でおまえさんと会うとはなあ」

 チャンドラが見えぬ目で因果伯(なかま)の名を呼ぶ。

 見知った声に安堵し、急激に意識が遠のいていく。

「とにかくここを離れたほうがよさそうだな。なりふり構わず逃げたってことは、ちょいとやばい状況なんだろう?」

 お互いしんどい任務を受けたようだ――。

 ペールは軽々とチャンドラを担ぎ、さらに街の奥へと影をつたう。

 一見すると商人と行商人が肩を組み、酒場から千鳥足で帰る姿に見えた。しかしチャンドラは気を失っていられないと、ペールの胸ぐらをつかむ。

「そっそうだ、城にアユムがいる! きっ『綺人(きじん)』で、操られていて……っ」

「落ちつけ、わかってる。俺もどうにか正気に戻そうとしたが……旅の間に魔獣と戦闘になってな、洗脳が解けかかってはいた。まだ完全な傀儡となってはいない、解く機会(チャンス)は残されているはずだ」

 絶対的な危機におちいったり、強い衝撃を受ける。

 特殊な例だが、『カルマ』が啓くときと状況は似ていた。とはいえ魔獣のいない帝都ではそれも望めない。

「O属性でもないアユムに、啓いてるのがバレたときは焦った。殿下に信頼されて護衛を任されたのにこの失態だ、ああクソ……国へ帰るのが怖え」

 虚空に誰の姿を思い浮かべたのか、説明するまでもない。

 ペールの軽口になかば呆れ、チャンドラは長い息を吐く。喉での笑い声には血が混ざり、膝が揺れ体が重くなる。

「くっくっ……おっ俺だって帰ってこられると期待されての、務めだったんだぜ。この醜態じゃ……ほっ褒美はおあずけだな」

「おいおいっ少しでも休んで、維持的強化ができるだけ回復しろ。血は出てねえがこの傷は命にかかわる」

 内容からはほど遠い気楽さで、チャンドラを背負いなおす。

 ふいに市井の明るいざわめきが、悲鳴と泣き声に代わった。狼の出現に逃げ惑う市民の姿がありありと浮かぶ。

「てっ天下の因果伯様ともあろう者が、二人してあの坊主に振り回されてんだ! こっこれが笑わずにいれるか……なあ!」

「いっしょに怒られに帰ろうや、それにいい報告だってできるさ」

 二人は路地の陰に消え、声だけが薄く漂う。

「仮面をかぶってたチャンドラ卿の、素顔が見れましたってな」

「……ケッ」


 古城に異音が轟き、巨大な氷の影が視界を遮って立ち上がった。


「ゾっ!?」

 ルーシーの瞳が驚愕に見開かれ、氷の柱をとらえる。

 まだ沈まぬ太陽に逆光となり、一本の線のごとく浮かび上がった蛇。突如として城内に顕現し突き立ったのだ。

 いっそ美しいと感嘆する光景。

 城壁上の歩廊でも、「三悪党」と「仁王」が口を開け見入っていた。ルーシーは空堀から起き上がると息をのんで駆けだす。

 あの辺りにはオルロックがいたのだ。



 ☆



「うォおおおおお――――っっ!!」

 敵を前に文字通り縛り留められ、エクスの不快は頂点に達した。

 たたきのめされるでも斬り捨てられるでもない。武装解除され虜囚の身となった己が許せない、それはまさしく雄たけびだった。

 千切れ跳んだザイロンが怒気を表して舞う。

「なっ……エクス様!? やめ……っやめてください!」

 オルロックの目の前で、狼が自身の顔を殴る。

 両拳で頬を顎をまさしく手当たり次第殴りつけた。真なる神の名(ダーマヤ)で失った視覚と聴覚の気つけか、あるいは自己嫌悪か。

 額が割れ血が噴き出し、頭突きが左腕を打ち壊す。

 狼の脳内に石を砕き木を折る音が響き、激痛に意識が遠くなる。それでこそだと血を撒き散らし、満足げに胸を張った。

 ニヤリと笑みすら浮かべ、手負いの狼が一歩進む。

「いいかげんうんざりだ! てめえの弱さに、ムカついてムカついて腹が立つ!」

 フルフェイスのヘルメットで、少年は闇に閉ざされている。気配が閃光となって爆発を繰り返し、狼の自傷行為を視せていた。

 絶えない笑みが消え、汗を落とした少年は一歩下がる。

「エっエクス……様」

 攻城戦の惨劇を見た、百人を超える兵に囲まれた、町を襲った盗賊を追い払い、洞窟で魔獣と相対し、異世界(こちら)の常識を理解したはずだった。

 暗闇の中で、戦争のない国(・・・・・・)で育った少年が顔を覗かせる。

「うっ……うわあああ――っっ!!」

 たった一人を前に、臆したのだ。

 近寄るなとばかり安全に息をする(サールスピロー)を構えトリガーを引く。後先考えない行動に、オレンジ色のガスは律儀に従った。

 距離三メートルで一メートル円に拡散し、狼を直撃する。


「ぐっ!? おお――っ!!」

 エクスは嗅覚まで奪われ、剥き出しの肌にさらなる激痛が襲う。

 しかし見えず聞こえず嗅げなくなろうと、四肢はけして怯むことはない。残った右腕を振り回し、獣舎の石壁を弾き飛ばした。

 今度こそオルロックに散弾が直撃し、馬場を転がり倒れ伏す。

 だがさすがの狼も追撃は選択できない。S属性といえども無敵ではなく、痛みを耐えるのに時間を要する。

「わあ――――っ!!」

「っやべえ!」

 少年が跳び起きてトリガーを引く、よろけながら引く、立ち上がって引く。

 狼に向けてブレスを吐くがごとく、半狂乱でトリガーを引いた。ガスが切れても二度三度と空打ちし、震えをごまかして叫んだ。

 少年の精神がすり減り、理性を欠いている。

「まったく……やるじゃねえかロックちゃん」

 見えない狼は避けようもなく翻弄され、右腕で頭部をカバーして耐えた。

 少年は魔獣とは違う、ブレスを吐いているわけではない。ならばこの毒に見紛う痛みと衝撃はなんだ?

 未知の攻撃に疑問が浮かぶ。

 歯を食いしばりガスが収まるのを待つ狼の横顔に、影が射す――。

「なっ……!?」

 少年がオレンジ色の霧をのむ勢いで、黒い警棒を突きこんだのだ。

 危険な気配に飛び退いたが間にあわず、スタンガンに接触して硬直した。石壁の残骸にたたきつけられ、破片が落下する。

 ヘルメットといえど隙間はあり、少年はガスを吸い咳きこみながらも追撃した。

「これで……ここで、私が倒すっっ!!」

「ガキが……器用なマネを……」

 狼は残った触覚を最大限に活かし、警棒が触れた刹那(スリッピングアウェイ)に回避する。

 左腕は動かず鼓動をくり返し、体が悲鳴をあげ、血が己の影に落ち地図を描く。

「へっ……だがなあ、パールが言ってたぜ……」

 眼前には雷の剣(フルメンテールム)を構える敵意。喘ぎながら剣の軌道に合わせて流し、見えない目で少年と相対する。

 狼は不敵にも、赤く染まる口角を上げた。

「因果伯として見られてるんだ……てっ」

 荒い息に血をにじませ、膝に力を入れて伏せるのを拒む。

「羂索により心を強靭にする」――体内の血液に鉄を含ませ、筋肉の肥大、耐久力の増加、肺機能の向上、スタミナの上昇を必要時、無意識におこなう。

 狼に言わせれば「気合入れるとなんか調子いい」となるが……。

 体の内(・・・)から、淡い光がうっすらと立ちのぼっていく。

「――ってこたあ、まだやれるっ!!」

 肉体が強化されていた。


「うあああ――!!」

「があああっっ!!」

 自分の縄張りから出ていけとばかりに相撃つ遠吠え。

 オルロックは気配の光で狼を視ている。基本的な剣術だが左手では勝手が違い、右腕が重くバランスを取りにくい。

 さして脅威ではないが、スタンガンの威力は健在。

 エクスは三大感覚を失っている。善良を(ボーナ)失う(ハゥ)の影響が残る体を引きずり、少年の攻撃を避け一撃を狙う。

 突進に合わせた少年の突きを、狼は切っ先を殴った勢いで避ける。

 間髪入れず袈裟斬りが迫ってきた。肩に触れた瞬間に少年の位置を把握し、身を半回転させ体を入れ替える。

 左一文字で斬り返された警棒を弾き、放電から逃れると蹴り返した。

 スタンガンをくらうと一瞬とはいえ硬直してしまう。安全に息をする(サールスピロー)を回避するには接近しかないとはいえ、ひとときの油断もならない攻防。

 狼と大蛇が建物に囲まれた密林で雌雄を決する。

「おらあっ――『邪土(じゃどう)』っっ!!」

 ブレスレットの鉱石は砕け散っている。

 フェイント――少年が気がつき修正するまでの隙を、狼は見逃さない。勘だけを頼りに突進し、渾身の力を握りこむ。

 全身をしならせ、狙った一撃に手ごたえがあった。

「や……っ!」

 だが皮肉にも、少年の右腕(ガントレット)で受け止められる。

 殴られてバランスを崩す少年と、殴った勢いでバランスを崩す狼。先に回復した少年がスタンガンを突きこんだ。

 両者が弾けて距離をとる。

 狼は痛みに耐えるのに精神を削り、防御するので手一杯。少年とて渾身の一撃を受け無事ではすまない。

 右腕が痺れて血の気が引き、息を吸うだけで全身に激痛が走った。

「……かわいげのねえ、ちったあ効きやがれよ」

 狼が見えない目で睨みつける、少年が倒れた気配はなく油断はできない。

 それほどの相手だとすでに認めている。

 鉱石はないが、足元には得難い土があった。もう一度腕か足に「力」を使えば、少年とてもはや抵抗はできまい。

 土を得るため、不様に転んでみるか? ロックちゃんに(ひざまず)けってか?

「しんどいねえちくしょう、こりゃあ……勝てねえ」


「エクス様の意識は、常に足元に向いている」

 オルロックはやっと足を止め、しかしまだ動くエクスに注視する。

 三大感覚が失われようと、S属性の膂力はそれだけで脅威だ。不用意に近づけば一撃で昏倒させられてしまう。

 右腕のガントレットが破損し、血が流れている。

 足元には踏み固められた土があった。もう一度啓いて甲冑を張りつけられたら、もはや抵抗はできなくなる。

 相手は大型の魔獣に匹敵する脅威――。

「……魔獣」

 獣舎にたどりついた衛兵たちは、二人の魔獣(・・・・・)の戦いに見入っていた。

 両者からあふれる覇気が馬場の土を跳ねさせる。


「――『力』を使わなきゃな、『邪土(じゃどう)』っ!!」

 この化け物を倒すためなら――。

 エクスが決意をこめ、右拳の前に三〇センチほどの見慣れない文様を啓く。

「土を突く? (させない!) またフェイントか!? (右腕(ガントレット)で受ける!)」

 思考が誘導され、オルロックは一瞬硬直する。

 狼が術を開放しないまま、獣の素早さで襲いかかってきた。少年の予想が狂い、防御が間に合わないと覚るや頭突きをする。

 フルフェイスのヘルメットで迎撃した――はずだった。

「――~…っ!?」

 頭部に受けた衝撃は、痛みよりも平衡感覚の喪失を覚える。

 突如暗闇が開放され、閃光が襲ったのだ。フルフェイスの左半分が切り取られ、汗を落とす顔が剥き出しになっていた。

「こいつが再利用(・・・)させる変転ってか、なるほど便利だ! 化け物を倒すためなら、化け物(ロックちゃん)の助言だって受け入れらあ……っ!」

 右拳を突き出したまま、狼が喉で笑う。

 上を向いた顔の左半分に、切り取った部分が張りついている。啓いた文様を軸にヘルメットを奪った(・・・)のだ。

「ありがとうよ、煉獄で続きをやろうぜ」

 変なモノ(サングラス)が割れ、太陽を直視したヴァンパイアが左目の視力を失う。

 少年は残った右目越しに、「カルマ」をとらえていた。身の丈を超す巨大な狼がぬらり(・・・)と光り、少年の半面を不規則に照らしだす。

「ここで、ぼくが(・・・)倒さなければ……マナスル(・・・・)が滅ぶ!」

 目の前に迫るのは、国家存亡危機の魔獣。

 側溝に伏せる、瓦礫に身を隠す、生物なら火を怖がる。選択が脳内を巡っても、現れただけでわかっていた。

 全てを不可能だと知らしめる、圧倒的な存在。

 その絶対的な、死の告知――。

『――女の子が泣いている』

 狼は生じた隙を逃さず、地面を殴り肘まで突き刺す。

 右拳越しに伝わる土の冷たさ。

「力」を発すると地面を蹴り砕いて弾け飛ぶ。

『――半身が消えてしまう『大きな影が振り向き、ぼくに手を伸ばす』

 気合が体から虹の光を放ち、持てる力を握りこみ右拳が振りかぶられた。

 跳躍した狼が空気を弾き、帝都を歪ませて建物を市民をたたく。

 すべてがコマ送りで流れていた。

『――女の子が泣いている『闇に落ちるぼくの手は、間にあわなかった』

『光のなかで、女の子が泣いている』

 少年は左手を地面につき、我知らずささやく。

『カルマ』――。



 ――かつて名君と呼ばれる黒髪の王がいた。

 だがあろうことかO属性の王とS属性の王妃から、M属性の子が生まれる。

 不貞を疑われたが名君は王妃を信じた。

 属性婚が常識となった世界、M属性が軽視され嘲笑される世界。

 不憫に思った王は、「国の(いしずえ)となれ」と跡を継ぐ子に伝え続ける。

 何度も何度も、刷り込むように……。

 しかし諸侯に迫られ廃位の噂が立つと、名君とて屈するほかない。

 亡きものにするよりはと、四歳のおり召喚の因果とした。

 隣国が戦争をちらつかせており、国を守るため王族の義務をまっとうせよと。

 ……結果、召喚自体は成功する。

 だがそれによる犠牲も、はなはだ大きかったのだ。

 召喚の間の暗闇は人の心を開けやすくするのか、肥大した要望が叫ばれた。

 我が国に仇なす者を、皆殺しにせよ――。



 ――『門を啓きし者(カルマ)

 左手の影に、一〇センチほどの見慣れない文様が浮かび、淡く発光する。

 識者ならば梵字の「キリーク」に酷似していたと指摘しただろう。地面についた文様から、痛みすらともなう冷たい風が噴き出た。

 それは瞬く間に死の氷柱と化し、巨大な槍となって帝都の天を突く。

 冷気の爆発が起き、殴りかかろうとしたエクスが吹き飛んだ。周囲が凍てつき、冬なお極寒の寒さが身を切って広がる。

 いつしかオルロックは感覚を失い、一面が白銀に凍りつき微かに見える光景。

 逆光にも蛇に酷似しており、頭部には王冠に似た突起がある。

『シ――…』

 小さな「魔獣」は、じっとぼくを見ていた。

 静かで、深い緑の瞳。

「あれは……オルロックじゃないゾ!」

 魔獣の影が揺れて薄まり、漆黒のマントをはおった娘が現れる。

 いち早くたどり着いたルーシーは困惑していた。

「意識が揺らいでいる、またアユムの記憶が戻りつつあるな」

 なんて意志の強さなんだ、どれだけ深度を深めても浮上してきやがるゾ。よほどヴィーラ王国で得難い経験をしたのか。

 ふんっすべて吹き飛ばせば、未練もなくなるだろう。

「保険だったペールはもういない、暴れられたら手に負えん。定期的にかけなおす方法を模索して……いや、コレ(・・)はなんだ!?」

 両膝で(ひざまず)き頭を下げる少年から漂う気配。

 魔獣の街を壊滅させた少年とも、ヴィーラ王国で見た少年とも違う。

「違う、違うっアユムの気配でもない! 外見は……いやっあんたは誰だ!?」

「ぼくは……闇に落ちたんです」

 ああまたあの夢だ、内容もハッキリ覚えていないのに……まとわりつく焦燥感。

 急がないと時が来てしまう。

 夜半の「力」、アユムではない。日中の「力」、オルロックでもない。あれは、子供のころのぼくだ……もう一人の、ぼく本来の――。

 手を伸ばしても届かなかった、走っても間に合わなかった。

 ぼくの意識は、闇に落ちる……。




「――(ざむ)っ!!」

 エクスがビクリと震え、真っ白な世界で飛び起きた。

 顔の左半分に張りついたヘルメットが割れ、欠片となって落ちていく。何をしていたんだっけと首を巡らすと、ふいに口を押さえられる。

「しっ……騒ぎのお説教は後でするわ、そのまま(ひざまず)いて」

「おめえに察しろと無茶は言わん、ちぃと大人しくしといてくれ」

「四君子」のパルウロールムが手を離す。オーレをおんぶしたウェリタースまで、神妙な面持ちで片膝を立てていた。

 エクスはなんだかバツが悪くなり、目だけで辺りをうかがう。

 騒動を治めに来た「双璧」が隣に控えている。少し離れて「三悪党」と「仁王」も駆け戻り、片膝を立てていた。

 衛兵と使用人が身動きもせず平伏している。

「お下がりください、危のうございます!」

 衆人環視の中心には、いつの間にか巨大な氷の柱が鎮座していた。

 そばにオルロックが伏し、守るように「詩聖」も跪いている。コンコルディアが必死に青年を制していた。

「お待ちください殿下! 何が起こるか想定もできませぬ、一刻も早くこの場からご退去くださいますよう! どうか……っユースティティア殿下!!」

 青年が氷柱に手を伸ばそうとするのを、老人が頭を下げて願い出る。

 あまりの真剣さに、一瞥もしなかった青年が手を止めた。どこか陳謝すら感じる物言いに目を細めている。

「翁がそれほどまでに危険視するのか、なおのこと興味が尽きぬな」

「っ……申し訳ありませぬ、統制できるものと見定めた儂の不覚! その者は……その者は私どもとは、違う(・・)のです!」

「さればこそだ」

 青年の返答に意味が分からず、老人が顔を上げた。

 およそ興味のないことは視界にも入れない青年。伏した少年に関心と好奇心と、危機感を覚えて凝視している。

「翁よ諸刃の剣こそ、俺にふさわしいとは思わんか」

「まっ……まさか! まさか、ユースティティア様!?」

「一〇年待った」

 ユースティティア皇太子殿下は、破顔と呼ぶべき笑顔で天を見上げた。

 陽光がスポットライトを放ち、期せずして一枚の絵画に演出する――。


「彼の少年こそが帝国を担う、最大の布石となろう」

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