聖女様と初めての対人戦
「私の牙イノシシを返せー」
私はお替りをしようとする太った男の脇腹に拳を叩き込む。出力は人間相手なので死なないように30%で。
「ドゥワァ」
声を上げながら太った男の体は少し飛ばされ倒れこむ。多分死んでない。
他の男達は一瞬何が起こったか分からず、ポカンとするが、一番早く正気に戻ったリーダー格の男は立ち上がり私に声をかけてくる。
「いきなり大声で現れてウチの部下を殴り飛ばしてくれるなんて、お前は一体何者だ。ただの聖職者です。なんて言わないよな」
他の男達も立ち上がりこちらから少し距離を取ると、各々剣やこん棒、ナイフなどを構え警戒してくる。 リーダー格の男だけは斧を置いたままだ。
「わたしの牙イノシシを今すぐ返しなさい、さもなくば……いえ、皆さんには私の大切な物を奪った罰を受けてもらいます」
言い終わった直後、私は一番近くにいた両手でロングソード構える男の懐に潜り込み腹に一撃、男が崩れていく間にも、もう一人の胸のあたりに一撃、固いものを砕く音がする。
よしこれで三人。案外楽に終わるかも。
しかし次の瞬間体の横から衝撃が来る。
「ったぁ」
私は声洩らしながら飛ばされて倒れる。おそらく素手だったリーダー格の攻撃、アバラも何本かやられたみたいだ。初めての人間複数相手とはいえ、視野が狭くなっている。セルティアが戦闘は視野を広く持つことが大事と言っていたのに。
もっともアバラはもう回復してしまったので、痛みなどはもうないが。
私が立ち上がると追撃してきたあごの長い男にナイフで腹を刺される。
「ッヴ」
腹部に痛みが走るが私は刺した男の顔面に裏拳を叩き込む。
刺さったナイフを引き抜くと血がついてきて内心ぎょっとしてしまうが、顔には出さずナイフをそこらに投げ捨てる。なるほど30%だと強い打撃や刃物はダメージを受けるのか。もちろん傷口はもう塞がっている。
瞬時に怪我が治り傷口が塞がるのは私にとっては当たり前のことだけど、向こうにとっては違うらしい。
私が平然としている様を見てリーダー格の男以外が後ずさりしておびえる。
「ボス、こいつはいったい!」
リーダー格の男は険しい表情になると話し出す。
「こいつはおそらく教会が隠し持つ暗殺部隊の一人に違いない」
「教会にそんな組織が!それになんで俺たちを」
「俺もウワサでしか知らんが、強者ばかり集めた少数精鋭の部隊で、基本こいつのように単独で動き、教会の邪魔者を消すらしい。素人くさい動きで相手の攻撃を受けているはずなのに、なぜかノーダメージ、相手の追撃を誘い潰すってやり方か……変わった戦い方をするって聞いたがその通りだぜ。狙われる理由はわからねえが、お前ら腹くくれ。負けたらここで全滅だ」
へぇーそんな部隊があるんだ。教会があくどくて胡散臭いのは知ってたけど、人殺しまでやってるか。
で、なんで私がそれなんだ。相手の追撃を誘い……ってすいません私全力でやってます。マジものの素人です。人を殴ったのも初めてです。
あ、初めて殴ったのはセルティアか。
それはともかく、目的はさっき言ったじゃないか、牙イノシシの奪還だと。ついでにちょっとお仕置きもするけど。
こいつらを倒したあかつきには牙イノシシ鍋をゲット、ついでに美味しいワインもあるらしいし、食べた分の代金としていただこう。
戦闘中だけど思わず唾液が出てしまった。早く倒してご飯にしよう。
そんなことを考えていると、リーダー格の男が小声で部下たちに指示を出し残った二人の部下たちが一斉に向かってくる。
私は迎え撃とうとかまえるが、向かってくる内の二人は射程に入る直前で体制を低くして、左右の足にしがみつく。想定していなかった事態に狼狽していると、リーダー格の男も斧を振り上げ目前まで距離を詰めてきていた。
やばい。
振り下ろされる斧を避けようと体を動かすが二人によって動きが阻害される。斧は右肩を深く抉り、私っはとてつもない激痛を感じた。
ぽとり、と私の右腕が地面に落ちた。




