聖女様と初めての盗賊
「私の牙イノシシが居ない!」
朝の陽ざしで目を覚まし、牙イノシシを見にいったら牙イノシシが消えていた。
私の心は絶望に包まれる。どんな味がするのか楽しみにしていたのに、昨日の寝る前など、ずっと牙イノシシの事ばかり考えていた。
いやまだ諦めるのはまだ早い、絶命した牙イノシシが勝手に消える訳が無い。これは!
動揺していてすぐに気づけなかったが、地面をよく見ると牙イノシシのもと居た場所から引きずられたような跡と、複数の足跡が森の方へ続いている。
足跡は靴を履いているようだからおそらく人間又は亜人のものだろう。セルティアが、靴の有無が足跡の判別に非常に大切だと言っていた。ただし注意が必要で魔物でも上種族や、中位以下の種族でも物を使う知能があるものはたまに靴を履いていることがある。ここら辺の判別は慣れた者なら足跡の付き方から中位種族辺りまでは判断できるらしい。
私には判別できないが、それほど多い事例ではないため、ほぼ人間の仕業と考えて良いだろう。
そしておそらくこれは盗賊の仕業に違いない。
盗賊の中には町から離れ、道を通る旅人や商人から食料や金品を奪う非道な奴らが居るらしい。これもセルティアが言ってた。
私の大切な楽しみにしていた牙イノシシを奪っていくなんて、まさに非道。とんでもないやつらだ。
「まだ間に合うかも……」
私は風になった。強化最高出力での全力ダッシュ。途中何度もバランスを崩して転び、服や顔が汚れるが構わない。
私の牙イノシシを取り戻すんだ。そしてお腹いっぱい食べてやるんだ。
跡を追ってしばらく森の中を進むと男達のガヤガヤとした話声が聞こえてくる。
「もう少しだ」
待ってて頂戴私の牙イノシシ、今助けてあげるから。
私は森の中の少し開けた場所に複数の人間が居るのを見つけると、その手前で立ち止まり様子をうかがった。
複数の男達が鍋を囲んで腰をおろしている。リーダー格らしいスキンヘッドの大男は厳つい傷だらけの顔に眼帯を付けており、右足は膝から先が木製の義足、鎧などはつけておらず何かの毛皮で作られた上着を羽織っている。かなり鍛え上げているのか、厚い上着の上からでも分かるほどの筋肉質だ。脇には刃の部分だけで男性の片腕ほどの長さがある巨大な斧が置かれている。
そのリーダーのほかには子悪党っぽい連中が6人ほど、中には剣や鎧などを装備している者もいるが、総じて薄汚れていて質はあまりよくなさそうだ。
「さすがボスの味付けはうまいっすね。長年冒険者やってきただけあって野草や山菜にも詳しいし」
アゴの長い男が隣に座ったリーダー格の男に話しかける。
「お前らだって元冒険者だろうが、俺と一緒に来るならこれくらいは覚えてもらう」
そう言いつつもリーダー格の男は笑みを見せ、木製コップの中身を飲み干した。
「それにこのワイン。こんな上等な物、初めて飲みましたぜ」
「俺たちの新しい門出を祝う酒だからな、冒険者時代の稼ぎで残ってた金を全部つぎ込んじまった」
「おお」「スゲー」「おれずっとガルムさんに付いていきます」
周りのの男達が口々に感嘆の声を上げる。
いいなあワイン、教会でも薄めたやつは飲ませてもらってたけど、私ももう17歳そろそろ普通に飲んでも良いよね。
それにしてもあの鍋良い匂いだなあ。
「この拾ってきたイノシシもデカかったから肉が固いのかと思えば柔らかくて、うま味がありますね」
「そうそうこんなイノシシが死んだばかりで放置されてるなんて」
「おそらく別の魔物にやられたんだろう、まだこの辺にいる可能性もある。警戒しておけ。ちなみにこいつは巨体だがまだ成体じゃねえ、ここらは牙イノシシの上位種がナワバリにしていてな、そいつの子供だ。血抜きと内臓抜きが多少遅くなっちまったから多少臭みはあるが、脂のうまみはなかなかだな」
はい、まものをやった本人ここにいます。それにしても血抜と内臓抜きが必要なのか勉強になる。ってっ関心してる場合じゃない。あの鍋私の牙イノシシ入ってるじゃないか。もう半分くらいしかない。
「ボスお替りもらいますね」
「オウ」
許可がでて一人の男がお椀を片手にたちあがる。
これ以上私の牙イノシシを食べられてなるものか、私は木の陰から飛び出す。




