聖女様は家出します
ついにこのときがやってき来た。
家出を決意してから一年、ずっとこの日のために準備をしてきた。
元々攻撃魔法の才能はなく治癒魔法しか扱えなかった私だが、護衛であるセルティアの身体強化魔法を見よう見まねでどうにか習得、こっそりと自室で研究訓練に励んできたのだ。
教会からの脱出にも必要だし、セルティアの話によれば外には野盗やゴブリン、牙イノシシ、酔っ払いなどの危険が溢れているらしい。中でも酔っ払いは街中にまで現れセルティアもなんども絡まれたと聞いたことがある。要注意。
次に資金だがこれが悩みものだった。教会の連中私のおかげで大量の資金が入っているというのに私には一銭もよこさない。まあずっと教会の中にいる分には使い道もないのだが……
セルティアに今着ている聖女の服装を売ったらいくらくらいになるだろうかと尋ねたことがあったが、セルティア曰く非常に高価だがおそらく買い取ってもらえないだろうとのことだ。
それに今は深夜だ。ほとんどの店は閉まっているだろうし、できればいっきに街を抜けてしまいたい。
どうにかなるさ。
最悪そこら辺の適当な木の実や草でも食べてれば死なないだろう、私の治癒なら食中毒だって治せる。
いやいやいや流石に最後の手段か……。
教会と同じことをやるようで気が引けるが治癒魔法の需要はどこででもある。あまり派手にやると教会に目を付けられるだろうが、一晩泊めてもらうことくらいはできると思う。
「さて、いきますか」
一人呟くと窓の前に立つ。
開閉機能は無いガラス製の窓だ。防犯上の理由で外側には鉄製の格子が設けられている。
「まずはこれをどうにかしないと……」
集中力を高め肉体強化の魔法を発動させ、拳をかまえる。魔法の特訓はしてきたが実際にものを殴ったことなんてないので加減がわからない。
とりあえず最高出力で。
「うぉりゃ------」
少々はしたないが気合一発声をあげて窓に拳を振るう。
私の一撃により窓は破壊され、心配していた鉄格子は街の外まで吹っ飛んでいった。殴った右手は無傷。
わたし結構強いかも。後はここから外に飛び降りれば家出成功だ。
「聖女様どうされました!?」
あんな叫び声と破壊音を出したのだ、当然部屋の前で警備をしていた聖騎士が慌てて中に入ってくる。セルティアほどではないがなかなか腕利きの聖騎士だ。
「さようなら」
窓枠に足をかけながら聖騎士に一声だけかけると窓から身をのりだし……ヤベ!足が滑った!
「わぁぁぁぁ------!」
私は華麗に飛び降りるつもりが頭から落ちている。死んだかなと一瞬だけ考えてるうちに顔面から地面に着地。
「聖女様が窓からおちたぞー!」
聖騎士の大声が聞こえてくる。
あれ、私生きてる。それにあんまり痛くない。
私の強化魔法おそるべし、最大出力とはいえ顔面から落ちて無傷とは。しかし基本スペックが上がっても普段から碌に体を動かして来なかっただけあって、なかなかうまくいかないものだ。まさか初っ端から地面に顔面ダイブするとは。これからは運動がんばろう。
教会の中がだんだんと慌ただしくなってくる。まぁ聖女の私が飛び降り自殺したらそりゃ騒ぎにもなるか。いつまでも地面にキスしたまま思考しているわけにもいかない。誰かが来る前にこの場を去らなければ。
私は立ち上がると服の汚れを払う。流石聖女の衣装一切破れていない。全力で走りだそうと地面を蹴るのだが予想以上の脚力にバランスを崩しまたもや地面に顔面ダイブ。
「うぉぁ!」
思わず変な声がでてしまう、落ちた時といいもっと、きゃあ!みたいな可愛い悲鳴をだしたいものである。
気を取り直して私は軽い小走りで走り出す。小走りとは言っても常人の全力疾走よりもだいぶ早いこれなら大抵の人間には追い付かれないだろう。
走り出して一分もしないうちに息が上がり足も疲れてくる。流石引きこもりで運動不足の私、しかしそこは聖女の奇跡でサクッと解決、疲労も息切れも完全回復しかも常時発動。聖女のクラスは伊達じゃないです。
深夜であるため街は闇に包まれ、人通りはない。視力も多少強化されているようでどうにか道なりに走ることができている。宿屋などが立ち並ぶ区画に差し掛かったところで前方にフラフラと揺れる人影を見つける。これが噂の酔っ払い、絡まれないように注意しなければ。
すれ違う寸前、人影がが屈みこんだかと思うと苦しそうな声を出し道の真ん中に吐しゃ物をまき散らしている。
「これは、ひどい」
すれ違いつつ酔っ払いの方を振り向き呟く。するとその声が聞こえてのか酔っ払いがこちらを追いかけて走り出す。
うゎ、からんできた。フッでも酔っ払いに追い付かれる私じゃ……え!酔っ払い速くね!
私は強化されたスピードで走っているのに酔っ払いは若干バランを崩しつつも私との距離を詰めてくる。セルティアの言ったとおり酔っ払いは恐ろしい存在だ。
ついには酔っ払いに追い付かれ、手を掴まれる。
「やっぱり、エリス様なぜこのようなところへ!」
あぁ、まさかセルティア本人だったとは、セルティアからは先ほどの吐しゃ物と強い酒精の匂いがただよっている。そういえば昼間に明日は非番だから夜存分に飲みに行くと言っていたなぁ。
「いや、こんなところにエリス様が居るわけない……これは酔っぱらった私の夢か……」
「そうそう夢ですよー安心して休んでください」
どうにか誤魔化せれば良いが。
「いや、たとえ夢でも私はエリスさまの護衛、エリス様をお守りしなければ」
チッやっぱりだめか、たった一声で私だと判断するし、悲しいほど職務に忠実だ。酔っぱらって酷い匂いお漂わせているせいで台無しだが……
なんとかセルティアを言いくるめようとしていると、たいまつを持ち私を探しているだろう兵士が近づいてくるのが目に入った。
まずい、ここで追い付かれたうえ、セルティアまで夢でないと気付けば町から出るのは絶望てきだろう。しかたない。
「ごめん!セルティア」
「エリス様なにうぉ!」
私はセルティアの手を払いのけ腹に拳を叩き込む、多少出力は抑えていたつもりだったが酔って踏ん張りがきかなかったこともあるのだろう、セルティアは吹っ飛び民家の壁に叩きつけられる。
セルティアはぐったりとして動かなくなるが、命に別状はないだろうだろう。以前私をかばってオーガのこん棒の一撃を受けた時もぴんぴんしてたし。そんないつも守ってくれていた忠実な護衛を殴り飛ばしてしまって、申し訳ない気分になってくる。
一応近くまで行ってダメージの確認はしておこう。あ、この人寝てる。しかも割と気持ち良さそうに。
念のため回復魔法をかけておく、治した感覚的に受けたダメージは低そうだ。追ってこられても困るので睡眠状態と酔いはそのままにしておく。
セルティアの無事を確認すると私は再び走り出す。見回りの兵士とすれ違うが反応する間もなく走り去る。
やっと城壁が見えてきた。私は走る勢いのまま城壁に向かってジャンプ、城壁の上に着地する。
よし今度はうまくいった。正直ここまでの流れなら、うまくジャンプできずに思い切り城壁に激突するかもとか考えてた。城壁や城門を壊しての突破も多分可能だろうけどさすがに町に迷惑がかかるので無事着地できてよかった。
城壁の上で見張りをしていた兵士が私に気付くがもう遅い、私は町の外側に飛び降りる。
今度のダイブは足からの着地に成功、しかしバランスを崩しやはり前のめりに倒れ地面にキスしてしまう。
最後までいまいち締まらなかったが、私は聖都クラウディアを抜け出すことに成功した。
やっぱり普段からの運動は大事だなぁ。




