プロローグ 聖女様は家出したい
「聖女様どうかわたくしの病をお癒し下さい」
私の前で豪華な服に身を包んだ小太りな貴族の男が跪く。
「信仰確かに受け取りました。信仰深き者に癒しを与えましょう。」
信仰とは端的に言ってしまえば寄付金のことだ。
各町に教会あるでも寄付金と引き換えに怪我や病の治療を教会所属のヒーラーが行っているが、中でも聖女である私は特別。難病、部位欠損を含めた怪我、猛毒どんな身体異常だろうと治す『聖女の奇跡』とも言われる回復魔法を受けるには莫大な量の寄付金や教会への優遇を行う必要がある。
だれだって我が身は可愛い、トップクラスの冒険者、有力な商人や貴族、はたまた王族までがアリシア教を優遇。アリシア教が複数の国にまたがって信仰され大きな力を持つ要因のひとつに聖女の奇跡が上げられる。
貴族に回復魔法をかけてやる。そこら辺の上位ヒーラーでは治療不可能な病らしいが私であれば大した苦労もない。
貴族の足元がひかりだしさらに部屋全体が白く照らされる。さいごは貴族の体が光に包まれるのだが正直言ってこれ、私の魔法と関係ないんだよな。私の魔法は本来特に前兆もなく発動するのだが、それではありがたみや神聖さが足りないと部屋に演出の魔法が仕掛けられている。
「おお!からだが軽く」
貴族は自分の体の変化に驚き思わず立ち上がり声をだす。私の回復魔法は特別性、病以外にも全身の疲労なども一切なくなっているはずだ。
貴族が私に何度も礼を言い、よりいっそうの支援を約束して退室すると、私の傍らに控えていた女の聖騎士がこえをかけてくる。
「お疲れ様です。お部屋にお戻りください」
名前はセルティア、私の専属護衛だ。ただし聖騎士とはいっても彼女のクラスは聖拳士というレアクラス。拳などに聖属性を付与することが可能なため剣などは帯びておらず、代わりに通常の聖騎士が装備するものより高価で水色の魔石と紋様が特徴的なガントレットを装備し、鎧も胴体こそはプレートで覆われているが手足部分は動きやすさを重視したものとなっている。
腰まで届く長い金色の髪になかなかの美形なのだが、男性よりも女性人気の方が高いらしい。
部屋に戻る途中の通路でわたしはセルティアにはなしかける。外には出られず生活ほとんどを大教会の自室で過ごす私の数少ない娯楽であり、外のことを知る手段でもある。
「セルティア、たまには街へ出かけたいです」
「毎日同じこといってますが、聖女さまにもしものことがあってはいけません」
わたしとセルティアの会話はいつもこのやりとりからはじまる。
「最近出回り始めた冷えたエールが美味しいんでしょう、こないだ良い店を見つけたと言ってましたよね」
「はい、あの店の肉料理を熱々のうちにほおばり冷えたエールで流し込むのは最高です」
セルティアはその光景をイメージしたのかとても素晴らしい笑顔で返してくる。クソ、わたしの料理は毒見やら運搬のあいだに冷めてしまってるというのに。毒でも治療できるわたしに毒見とかいらないだろと思うのだが、なかなか改善される気配はない。というか聖女付きの聖騎士がそんなにしょっちゅう飲みに行って良いのだろうか。
「わたしも、つれて行ってください。冷えたエールと熱い肉料理が私をまっています」
「ダメです、聖女様を連れ出したりしたら、良くて国外追放、下手したら処刑……」
今度は顔を青くするセルティア、そうこの状況はセルティアが悪い訳ではないのだ。教会の上層部は私を影響力拡大の道具としてしかみていない。毎日毎日退屈しながら教会のために働くのはもううんざりだ。私は冷たいエールが飲みたい、熱々の肉を頬張りたい、知らない景色を見てみたい、もっと楽しく生きてみたい。
16歳の春、私は家出を決意した




