年越し
王立ヴァルハイト学園が冬季休暇に入り、街が輝く白銀の世界に包まれる頃。
王太子の離宮にある見晴らしの良い温室テラスに、ヴァルフリートとメルティール、そして特別に招かれたキリルとライラの4人が集まっていた。
ガラス張りの部屋の真ん中には、パチパチと心地よい音を立てて爆ぜる暖炉。外には今にも年が明けようとしている静かな雪景色が広がり、室内にはメルティールが淹れた温かなハーブティーと、ライラ特製の冬の焼き菓子の甘い香りが漂っている。
「今年も、もうすぐ終わりですね……」
ライラが窓の外を舞う粉雪を愛おしそうに見つめながら、ぽつりと呟いた。
「ええ、レーベン嬢。振り返ってみると、今年は本当に濃密で素晴らしい一年だったよ」
ヴァルフリートは手元にある温かいカップに視線を落とし、感慨深く微笑んだ。
「音楽祭でのあの感動的な旋律、文化祭で皆と作り上げた温かな空間……そして、あのバザーだ。キリル、君が提案してくれたあのバザーの寄付金で、先週、孤児院の子供たちへ無事に温かな冬服とパンを届けることができたよ」
「まあ……! それは本当に良かったですわ、ヴァルフリート様」
メルティールが胸の前でそっと手を組み、紫水晶の瞳を潤ませた。
「子供たちの笑顔が目に浮かぶようですわね、ハルシオ様、ライラ様」
「ええ、ローゼンベルク嬢。僕たちの小さな思いつきが、巡り巡って誰かの心を温めることができた……それもすべて、ヴァルフリート様とローゼンベルク嬢が真摯に向き合ってくださったおかげです」
キリルは丸眼鏡を押し上げながら、隣のライラと顔を見合わせて柔らかく微笑んだ。
「キリルの言う通りですわ。私、今年の一年は人生でいちばん心が温かくなる出来事ばかりでしたの。殿下、メルティール様、私たちをこんなにも温かく迎え入れてくださり、本当にありがとうございます」
ライラが感謝を込めて深々とお辞儀をすると、ヴァルフリートは首を横に振った。
「礼を言うのは私の方だよ、レーベン嬢。君たちと出会えたからこそ、私は王太子という重責の中に埋もれず、人として大切な温もりを知ることができたのだから」
「ヴァルフリート様……」
メルティールは愛おしそうにヴァルフリートの横顔を見つめ、そっと自分の手首に巻かれたミサンガに触れた。冬の衣類の袖口から覗くその色とりどりの糸は、あの日と変わらず4人の手首で優しく結ばれている。
「このミサンガを編んだ日が、なんだか遠い昔のことのように思えますわね。手と手を携えて歩んできたこの絆が、私にとって今年一番の宝物です」
「同感だよ、メルティール。……さあ、皆で今年最後の乾杯をしようじゃないか」
ヴァルフリートの言葉に促され、4人はそれぞれカップを掲げた。
「皆の幸せと、来る新しい年が、より素晴らしく温かな一年になりますように」
「「「乾杯」」」
カチャンと静かな磁器の音が響き合い、温かいハーブティーがそれぞれの胸を優しく満たしていく。
◇
ゴーン……ゴーン……ゴーン……。
やがて、王都の大聖堂から新年を告げる重厚な鐘の音が響き渡り始めた。
「あ……年が、明けましたね」
キリルが静かに窓の外を指さした。
鐘の音に応えるように、王都の夜空へと一斉に祝福の大輪の打ち上げ花火が上がった。銀世界の街並みが、赤や金、紫の鮮やかな光によって色とりどりに染め上げられていく。
窓辺に寄り添って立つヴァルフリートとメルティール。
「あけましておめでとう、メルティール。新しい年も、君の隣でこうして笑顔を見られることが、私の一番の願いだ」
「あけましておめでとうございます、ヴァルフリート様。ええ……どこまでも、あなた様のお傍でお支えいたしますわ」
ヴァルフリートは優しくメルティールの手を包み込み、二人は静かに見つめ合った。
その少し後ろでは、キリルとライラが肩を並べて花火を見上げていた。
「あけましておめでとう、ライラ様。今年もよろしくね。またハルシオ領の畑のことや、新しいお茶のブレンド、たくさん一緒に研究しよう」
「ええ、あけましておめでとうございます、キリル。ふふ、今年もキリルと一緒にたくさんの『美味しい』と『幸せ』を見つけていきたいですわ」
ライラが照れくさそうに微笑むと、キリルもどこか誇らしげに、けれど心底愛おしそうに彼女の頬を見つめた。
「あけましておめでとう、キリル、レーベン嬢!」
「今年もよろしくお願いいたしますわ、ハルシオ様、ライラ様!」
振り向いたヴァルフリートとメルティールの晴れやかな笑顔に、キリルとライラも心からの笑顔で応える。
「あけましておめでとうございます、ヴァルフリート様、ローゼンベルク嬢!」
「本年も、どうぞよろしくお願いいたします、殿下、メルティール様!」
窓の外では、降り積もる純白の雪と夜空を彩る幾多の花火が、4人の紡ぐ温かな未来を祝うかのように美しく輝いていた。
巡る季節を越えて、深まった絆と互いを想う優しい心。それはこれから始まる新しい年も、変わることなく彼らの道を照らし続けていくのだった。




