表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エマの本音が聞けるまで ー見てるだけじゃ満足出来ない次期公爵様とギフトの事情ー  作者: HARUHANA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/30

26.均衡の話

 ――翌日。

 重厚な扉が閉まると同時に、外の喧騒が嘘のように遮断された場所こそが――文化財保管局。

 机越しに向かい合う男性は、柔らかな口調とは裏腹に、こちらを値踏みするような視線を隠そうともしません。


「マゼル公爵家のご子息が、こちらに何のご用件で?」

「エリアス・フェルメールについて、少し確認したいことがあってね」


 リヒト様はいつも通り穏やかに微笑みながら、私の指先を僅かに包み込んでいます。


「……どのような内容でしょう」

「この国に存在する作品の数と、その所在だ。無論、真作の話をしている」


 一瞬、目元がピクリと動いたのを、見逃しはしません。その仕草が、恐れを含むようで、少しばかり呼吸がしづらい……。


「……それは、一般には公開していない情報です」

「承知の上だよ。だからこうして、直接来ている」


 相手は、公爵家。観念したように小さく息を吐いた。


「……エリアス・フェルメールの真作は、この世界に二十三点のみ存在します」


「二十三……」


 思っていたよりも、ずっと少ない数字です。


「その全てが登録され、王都および各領に分散して管理されています。配置にも意味があり、無作為ではありません」

「意味、とは?」

「――簡単に言えば、安定です」


 少し口調が穏やかになりつつある男性が、数枚の資料を広げました。


「真作は、見る者の感情や精神に微細な影響を与えるとされています。過度な興奮や混乱を抑え、均す……いえ、整える役割を担っているのです」

「もし仮に、その均衡が崩れれば――」

「人心は乱れます。争いが増え、疑心が広がる。小さな歪みが、やがて国全体へと波及するでしょう」


 ……それを聞いたリヒト様は、何か思い出すように口元に手を置きました。忙しくされる日々の中に、思い当たる節が……あるのかもしれません。


「もう一つ聞こう」

「何でしょうか」

「現在、市場に出回っているフェルメールの数は?」

「……記録上の真作を、大きく上回っています」

「贋作、か」

「通常の贋作であれば、ここまで問題にはなりません。しかし――」


 言葉を選ぶような、少しの間。

 するとそこへ、ノックの音と共に、別の男性が入ってきました。朗らかそうな笑みは、部屋の空気を少しだけ変えてくれるような、不思議な方です。


「遅れてごめん」

「いや、来てくれて良かった。エマ、こちらは僕の学友でシリウス」

「シリウスです。初めまして」


 失礼とは分かりながら、リヒト様に手を握られたまま挨拶を交わす。微笑みの奥で、何かを鑑定するような熱のある瞳……。


「後は、僕が引き受けるから。君は自分の仕事に戻って良い」

「……ありがとうございます」


 ジッとこちらを見た男性は、「またお会いしましょう」と外に出た。


「話の内容は、察するにフェルメールの件かな」

「そうだ。贋作が出回ってると知って、事情を聞きに来た」

「それは……また、通な情報をお持ちのようだ。ところで、貴女は……ギフト持ち、だよね」


 私……のこと、ですよね。 


「ギフト持ちが二人も揃って、今回の件に辿り着いた理由を知りたいね」

「その前に、一つ聞きたい。真贋を感覚で見抜くギフトについて、記録はあるか?」


 目を見開いて、フッと薄く笑うシリウス様が「なるほど」と口にしました。


「ごく稀に。ただ――確認された者は、例外なく記録から消えてるんだ」

「……理由は?」

「不明だ。何せ、希少性の高い稀なギフトだから。ただ一つ言えるのは……その力が、都合の悪いギフト、だということに違いないね」


 その視線が、私に向けられる理由――

 

 "ある種の人間には毒になる。一人で身を守れないうちはギフトを隠すことを勧めるよ"


 館長の言葉が、ふと蘇ります。

 一人じゃない今なら、このギフトを隠さずとも良い――そう言われてる気がして。


「私の存在は、()()にとって都合が悪い、のですね。……思想を壊す存在、ということでしょう」

「エマ……!」

「良いのです。シリウス様は、既に認識されていますから」


 頭を下げたシリウス様が、胸に手を当てた。


「今世で、貴女のような方にお会いできて、とても光栄です」

「いえ、私は……」

「こう言っては何だが、差し迫った危機にこそ現れる存在だと思っているのです。それを人は、運命と呼ぶのではないかと」

「運命……」


 握る手が、強くなったのは、リヒト様が私のことを思って……ですよね。

 

「贋作が増え続けた場合……真作の影響はどうなる?」

「……弱まる。正確には、“埋もれる”かな。本来の働きが、発揮されなくなる可能性が高くて、今調査に当たってる」


 私が美術館で聞こえた声、そのものの表現です。力が弱まれば、声も弱くなる……。

 やはり、あの感覚は間違いじゃなかったんですね。


「……副局長として、忠告しておきます。今、君たちが触れているのは、単なる贋作の問題ではありません。国家規模で秘匿されてきた均衡の話。これ以上深入りすれば、命の保障はありませんよ。特に――大切な人なら、尚更ね」


 その言葉が落ちた瞬間、リヒト様の手が強く私を引き寄せた。


「……エマには、絶対に指一本触れさせない」


 低く、押し殺したような声。

 ……それが恐れではなく、怒りだと分かるのに、そう時間は掛かりませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ