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エマの本音が聞けるまで ー見てるだけじゃ満足出来ない次期公爵様とギフトの事情ー  作者: HARUHANA


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25/30

25.遭遇

 今日は、リヒト様が不在のため、自由を頂きました。

 あと数日で王家主催の舞踏会なので、連日ダンスの練習でふらふらです。


「エマと、二曲は踊りたい」


 そう言われてしまえば、練習しないわけには……。

 同じ相手と踊る、回数には意味があるのです。


 婚約者は、二回。夫婦は、三回。


 まだ婚約式には至っていませんが、先日ついに両家揃って書面を認めたので、晴れて婚約者となりました。

 だからと言って、この間のような同衾はしませんが。


 ――と、まぁ。仕事とダンスばかりなので、許可を頂いて美術館へ足を伸ばしています。

 相変わらず静かな異空間に、コツン……コツン……と、ヒールの音が響く。それに反応するように聞こえてくる美術品たちの声――


「……こないだより、声が少ない?」


 今朝のキスが影響して、まだ話せますね。

 それにしても……まるで弱まってるかのように、微かな声しか聞こえない美術品が多いのは、気のせいでしょうか。


 まるで――何かに、奪われているような……薄められているような。

 

 ()()()()()美術品は、変わらず何も聞こえない。正面に立って、細部を見ますが、隣に飾られた美術品と遜色ない出来。これが贋作だと気付くには、困難を極めそうです。


「……お嬢さん」


 パッと振り返ると、恰幅の良い貴族……確か、どこかで……


「この美術品が、何か?」

「いえ……素敵、だなって」

「そうでしょう。かの有名なエリアス・フェルメールですからね」

「そう、ですね」


 思い出しました。

 リーゼル様と公爵邸を訪問された――スパニー侯爵です。

 マゼル邸に……エリアス・フェルメールの贋作を寄贈した張本人――


「この絵()、スパニー侯爵の寄贈ですか?」

「……えぇ。素晴らしい絵は、世に広がるべきですから。価値は独占するものではなく、人に合わせて造る物。貴女もそう思いませんか?」


 その言葉を聞いて、微笑みながら鳥肌が立ちました。

 美術品とは元来、誰かの心から生まれて、誰かの心に届くものだと思うのです。

 同じものを見ても、違うものを感じるからこその価値を……この方は、“人に合わせて造る物“と表現するのですね。


 隣の絵から感じる温かみは、この絵には無い。それが、私にとっては悲しく感じてしまうのです。


「また、お会いしましょう」

「えぇ……ご機嫌よう」


 美術館を出て、緊張を解くように小さく深呼吸しました。

 まさか、贋作を広めているかもしれない本人に会うとは、思いもしませんから。

 美術品たちの声が弱まる原因も、もし贋作や他の影響があるのだとすれば……突き止めなければいけません。


 私のギフトが活かせるなら、やってみて損は無いかもしれません。



 ***



「エマ、今日はどこに行ってたの?」


 入浴中、頭を洗いながら日中の出来事を聞くのが、僕の楽しみの一つ。

 丁寧に揉み込まれて、エマの声も聞けて、一石二鳥なのだ。


「今日は、美術館へ……」


 エマの言葉が途切れ、振り向いた僕に曖昧な笑みを浮かべた。


「どうしたの? 何かあった?」

「……不確かなお話は、出来れば避けたいのですが。一つだけ気になってまして――」


 聞くと、以前よりもずっと美術品から聞こえる声が少ないと言う。

 微かに聞こえはするものの、弱まっているのか、まるで薄まっているようにも感じると。


「私には、本物か偽物かの判断しか出来ません……ですが、もしかしたら……」

「ん?」

「あの、本物のエリアス・フェルメールの絵がこの国にどれだけあるのか、調べることは出来ますか?」

「そうだな……美術商でも良いが、文化財保管局に行けばリストがあると思う。明日、調べてみよう」

「それなら私が行き――」

「待って。彼らは、あまり外部の人間を良く思わないんだ。僕にも付き合わせてよ」


 大半男だらけの場所に、エマ一人行くなんて考えたら、仕事も手につかない。

 それに、昔ながらの友人がきっと力になってくれるだろう。


「ありがとうございます。お仕事も忙しいのに……」

「いや、ふと思ったんだよね。今、僕や殿下が追ってる仕事と……繋がりそうな匂いがする」

「…………」


 また、考えを巡らせているのかエマが無言になった。


「エマ」

「は、はい」

「そろそろ逆上(のぼ)せそうだから上がって良い?」

「えっ、あ、ごめんなさい――きゃぁ!」

「エマ!!」


 足元の水に滑ったのか、体勢を崩したエマを咄嗟に抱えたかったのに――


 ――バシャーン……

 二人で湯船に浸かってしまった。


「ごめんなさい!! リヒト様、怪我は――」

「全然大丈夫。そんなことより……二人でビシャビシャだ」

「クスッ……前にも、こんなことありましたね」

「……今日も髪、洗ってあげようか?」

「ダ、ダメです」

「即答は、切ないな」


 恥じらう姿は、逆効果だと知らないだろう。

 そっと首に手を伸ばし、引き寄せた。


「んっ……」


 今は、キスだけで我慢するから……。

 もっとエマの心が欲しい。もっとエマの心に、僕だけが残るくらい……独占したい――

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