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エマの本音が聞けるまで ー見てるだけじゃ満足出来ない次期公爵様とギフトの事情ー  作者: HARUHANA


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24/30

24.欲望

 来週に夜会を控え、マダムフランがドレスを携えて私を訪れています。

 で、ですが――


「叔母上、ここはもっとボリュームを抑えましょう」

「でも、今の流行りはね――」

「流行りより、エマが引き立つかどうかです。これだけは譲れません」

「本当にこの子ったら……。トレースも、何とか言ってよ」


 ドレスに着替えた私の周りを囲むように、マダム、リヒト様、それに奥様まで。


「う〜ん……確かにボリュームを落とした方が映えるけど……」


 なんて、着せ替え人形のように布を当てたり外したり。

 美しく、私には勿体無いドレスです。直すところ……ありますか?

 このままで十分過ぎるのに、宝石にヒールもズラッと並んで、目眩がしそうです。


 暫く熱い議論が交わされた後、お針子さんと共にマダムフランも帰られました。まだ、宝石に悩む奥様だけを客間に残し、リヒト様に手を引かれて部屋に戻っては来ましたが……。


「奥様だけ残すなんて……」

「大丈夫大丈夫。それより」


 ぎゅっと、優しくリヒト様に包まれています。


「リ、リヒト様……誰か来たら」

「だってさ……仕事が忙しくて、エマとの時間が減ってるなんて死活問題だ」

「死活、問題」

「そう。それに、ドレスを着たエマを見たら……無性に抱き締めたくなった」

「なんですか、それ」


 全然、力を緩めてくれる気配がありません。

 抱き締められると、いつも迷うのです。自分の手の行方を――


「最近、あまり情勢が良くないんだ。いつ、出張になるかも分からない」

「ギフトを……使う回数が、増えているんですか?」

「そうだね。嘘は、正さなくてはいけないからね」


 真っ直ぐなリヒト様が、とても愛おしいと、最近特に強く思うのです。

 思わず、リヒト様の腰に手を回してみたり。


「……っ、嬉しいのに、拷問だな」

「す、すいません」


 離した手を、リヒト様の手によって腰に戻されました。


「久々に、ここで一緒に食事をしよう」

「え?」

「それで、お風呂に入って、髪も乾かして……今日は、離したくない」

「……っ、つまり……」

「朝まで一緒にいたい、ってこと」


 熱が込み上げて、顔が赤いのは間違いないです。

 無理です――メイドとしての答えは、これが正解です。でも……その言葉の方が、素直に出なくなるなんて。


「……エマが、否定してこない!」

「いや、えっと……だって……」

「ごめん、エマ。食事の手配を先にお願い出来るかな?」

「あ、はい。行って……参ります」


 メイド服の乱れを確認して、慌てて部屋を出て来ましたが……リヒト様の様子も、変……だったような――



 ***



「危なかった……」


 随分、圧迫された心と体を鎮めるように、窓を開けた。前から可愛くて、可愛くて、耐えてきたのは間違いないが……。


「可愛過ぎる……」


 最近のエマは、イエスとは言えずとも、ノーも言わない。だから、僕が調子に乗るんだけど。

 困惑した瞳で見上げる彼女を見つめると、また勝手にギフトが発動してしまいそうで……それだけが、怖い。

 ……体が反応してる時点で、アウトか。


 手を出すのは……まずいよな。

 キス、くらいなら……いや。止められる自信がない。

 ……でも同じベッドで、寝てみたい。


「はぁ……どこまでなら、許されるんだ?」

「お待たせしました」

「ぅわぁ!!」


 ビ、ビックリした。


「何が、許されるんですか?」

「……こっちの話」


 ――僕の頭の中が、邪念だらけなんて思わないだろう。何とか誤魔化したものの、素直に「同じベッドで寝たい」なんて聞いて、エマは返答をくれるのか?

 

 入浴の準備をしてる間に、仕事の資料に目を通す……はずが、全く内容が頭に入らない。

 

 婚約の誓約書を取り寄せてはいるが、まだ手元に届いていない。プロポーズはしたけど、関係は主人とメイドのまま。……恋人くらいには成長したかな。


「エマ、今日は一人で入ってくる」


 まるで精神統一でもするかのように、水を浴びまくり、頭を冷やした。

 これで大丈夫、そう意気込んでエマを浴室へ送り出したのに――今度はシャワーの音に意識を持っていかれる。


 ……もう、どうにでもなれ。

 書類を無造作に手から離し、目頭を押さえた。

 僕だって男だ。だけど、嫌われたく……ない。


 濡れた髪をタオルで拭きながら出てきたエマを、鏡の前に座らせた。


「前にも、同じような場面があったよね」

「そう、ですね。今も恥ずかしさは全く変わりませんけど」

「あの時はさ、エマに気持ちを伝えたくて……必死で、強引だったと思う」


 “どうか、エマに溺れた憐れな男を救ってくれないだろうか“


 あの時の言葉は、プロポーズした今も変わらない。

 形を変えて、結局今も、エマに溺れて救いを求めてるのだから。


「キス……は、して良い?」

「……っ、は……はい」

「抱き締めるのも……」

「……はい」

「同じ布団で寝るのも……」

「…………違うんですか?」


 ――ドキッ!

 この反応は、ダメな方じゃないよな?


「違くない。同じ布団が良い」

「ふふっ、なんかさっきら挙動不審です」

「……嫌われたく、ないんだよ。嫌なことは、したくない。だから正直に答えてほしくて」


「う〜ん……」と口元に手を当てて、何かを悩むエマが、ポツリと言った。


「リヒト様が好きなので、嫌いになんてなりません」

「エマ――」

「ですから、いつものリヒト様で……リヒトでいて下さい」


 笑ったエマを見て、また胸がギューっと掴まれた。

 どこまでも僕を、抜けられない沼へ沈めていく。


「おいで」


 伸ばした手を、エマはちゃんと取ってくれる。

 広いベッドにちょこんと座って、僕を見上げた。


 ――愛しい君に、何度も何度もキスをして。


 手を繋いだ僕らは、眠気に誘われるまでずっと、未来について語り合った――

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