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エマの本音が聞けるまで ー見てるだけじゃ満足出来ない次期公爵様とギフトの事情ー  作者: HARUHANA


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23/30

23.同じ価値観

 ヒールとズカズカ鳴らして、勢いよく出てきた。


「何なのよ……どうして、こうも上手くいかないのよ……!」

「……お前、案外役に立たないんだな」


 公爵邸の門を抜けた所で、まるで待ち伏せでもしてたようにグート・ケヴィントが現れた。

 いつ見ても陰気臭い男。


「役に立たない、ですって? 誰に向かってそんな――」

「だって事実だろう。エマの実家も教えてやったし、声が出ないことだって教えてやったのに」

「……っ、元はと言えば、あんたが婚約破棄なんかするからでしょ」


 自分の失敗を、人に押し付けるなんて。


「――俺たちの目的は、ハッキリしてる。俺はエマを、お前はリヒト……そうだろ?」

「そう……だけど、時間がないのよ! あと一ヶ月で、あの女を引き離さないとリヒトは……」


 わたくしのものには、ならない。

 悔しい。憎い……憎い……憎い。

 日に日に、この感情だけが湧いてくる。


「……夜会で、手を打とう」

「夜会って、王家主催の舞踏会のことを言ってるなら、無謀ね」

「人が大勢集まって、雑多になるんだ。勝機は、そこしかない」

「……何をするっていうのよ」


 口角をあげて、薄ら笑う表情に、背筋がゾクッと震えた。


「お前は、リヒトの事だけ考えてれば良い。計画を練ったら、知らせる」


 そう言って、どこかへ走って消えて行った。

 人のことを、“役立たず“と罵った男なんて、本当は気にしたくないのに。なのに、リヒトが手に入る術は……もうあの男に賭けるしかない。


 ねぇリヒト……貴女が悪いのよ。

 さっさと、わたくしを選ばないから。

 

 どうなったって……知らないんだから。



 ***



「リーゼルは、まだ諦めていないのか?」

「はい。本日も、マゼル公爵邸へ行かれておいででした」

「諦めが悪い。ハハッ、血は……争えんな」

 

 娘が静かだと、夜の書斎も静かだ。

 灯りに照らされた絵画が、まるで呼吸をしているように揺らめいて見える。


 ――いや、違うな。


「“本物”は、呼吸などしない」


 壁に掛けられた、エリアス・フェルメールの作。厳密に言えば、“そう扱われている”一枚の絵を見ながら、ワイングラスを回した。


「価値とは何だと思う?」


 儂の側近は答えない。答えを求めていないことを知っているからだ。


「希少性か? 歴史か? 作者の名か? ……違うな。人は、“信じたもの”に価値を見出す。そうだろ?」


 額縁に触れながら、静かに笑みが零れた。

 グラスの中で揺れる琥珀色。その奥に映る絵画は、どこまでも精巧で――そして、空虚だ。


「本物である必要が、どこにある。本物が持つという“力”は、実に曖昧で、実に不安定だ。見る者の感性に依存し、揺らぎ、個に委ねられる」


 ……馬鹿馬鹿しい。だから面白くないのだ。

 本物の力など、贋作が持つ空虚に喰われれば、それでお終い。

 たとえば、飢えた貴族に“奇跡を起こす絵”だと囁けば、それはもう本物以上の価値を持つ。

 

 結局、嘘で固められた世界の方が、現実味がある。

 それに、よく言うだろう。


 “正直者は、馬鹿を見る“ とな。


「誰にでも同じ顔を見せる贋作は、なんて扱いやすいことか。均一で、安定して、操作しやすい……実に、美しい」


 空いたグラスに、側近がまた注ぎ込むワインの香りが堪らん。

 これだから、“注ぐこと“を止められないのだ。


「おい、次の絵を卸せ」

「かしこまりました」


 均された価値は、管理できる。管理できるものは、支配できる。

 そして、何も与えない。だからこそ……余計なものを生まない。


「ノイズのない世界は、美しい――もっとも、厄介な“異物”もいるがね」


 真を感じ取る存在。あれは、厄介で、この静寂を乱す、唯一の存在。

 ――均したはずの価値を、一瞬で崩す“例外”。


「まぁ良い。もしも毒ならば、抜けばいい。それこそが、最も効率的で……最も美しい秩序だ」

「……明日、例の邸宅へ届く予定です」

「そうか。夜会までに可能な限り広めるのだ。爆発するなら……そこが一番、面白い」


 散々儂を馬鹿にしてきた輩ども。

 カウントダウンは、始まったぞ――

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