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エマの本音が聞けるまで ー見てるだけじゃ満足出来ない次期公爵様とギフトの事情ー  作者: HARUHANA


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22/30

22.沈黙の絵画

「ここが、エマの来たかった場所?」

「はい」


 馬車が止まったのは、思い出の美術館。


 今朝、スッキリされたお顔のリヒト様から、領地の手伝いをしたいと提案を頂きました。ですが、明日は王城で会議の予定だったはず。

 ですから、王都に帰りがてら寄りたい場所をお願いして、今に至ります。

 

 あの時は、一緒に来れませんでしたが、今日は違います。

 白い回廊に響く足音を気にしながら、美術品は変われど懐かしい空間に、なぜかホッとします。以前よりも冴えるように、美術品の呼吸を感じれるのは、隣にリヒト様がいるからでしょうか。

 静かに、だけど力強さを感じれるのです。


 少しずつ絵画を眺めながら、一枚の絵画に目を止めました。それは、説明文を読むためでも構図を眺めるためでもありません。


『このギフトは、人によって毒になる』


 かつてそう言われた言葉が、胸の奥で静かに蘇り、あの時は、分からなかった意味が理解できたような気がしました。


「エマ、どうしたの?」

「……同じなんです」

「同じ?」

「リヒト様……この絵画も、マゼル公爵邸の絵画も私には、何も聞こえません」


 絵画を見て、私を見るリヒト様と目が合いました。


「本物の絵は、近付くと少し温かいんです」

「でも、これは?」

「……冷たい」


 リヒト様が、通りすがりの学芸員に声を掛けて下さり、絵画の寄贈元を調べてもらえることになりました。

 館長が不在のため、分かり次第連絡をくれると約束し、美術館を後に。


「どうして、ここに来たかったの?」

「……私もリヒト様と一緒なんです。初めて訪れた時、館長に言われました」


『調子が優れなくなった時は、美術品の声を聞きに来ると良い』


「別に、疲れてるとかではなく、今ならもう少し自分のギフトと向き合えるかなって。それに――」


 リヒト様のギフトと相性が良いのには、きっと理由があるはずだと思うのです。関係性とか関連性とか、相性に繋がる意図があるはず。


「それに?」

「館長から『このギフトは、人によっては毒になる』とも言われたんです。あの頃は、深く考えませんでしたが……」

「――恐れる人もいる、そういうことだね?」

「はい。公爵家の絵画も、販売元を辿れますか?」

「可能だよ。全て資産として管理してるから記録も残してるんだ」


 リヒト様は、乗ってきた馬車を先に公爵邸へ帰し「歩きながら帰ろう」と手を繋いでいます。

 こうして歩いていると、美術品を前に、胸の奥が静かになる感覚ととても似ているんだと実感します。穏やかになるし、温かくなる。


「何を考えてるの?」

「……内緒です」


 流石に、貴族街に差し掛かると一歩下がります。

 少し不満そうに不貞腐れる姿は、私を微笑ませるのに十分な材料でした。



 ***  

 

 

 美術館の様子を見るに、エマは美術品から何かしら感じ取れるんだろう。

 廊下を歩き、数多ある絵画の中から一枚、エマが美術館同様に足を止めた。

 

「……これか」

「そうです。やっぱり……聞こえません」

「絵画の裏にあるんだよ。ちょっと待ってて」


 裏面に貼られた番号を記憶し、エマを連れて父の書斎へ向かった。仕事で不在の父に代わり、レジスタンの持つ合鍵で中へと入り、美術品のデータが綴られたファイルをテーブルに置いて、該当のページを探した。


「……これだ。販売元は、オズワルド……スパニー」

「それって、リーゼル様のご実家……?」

「あぁ。購入は、昨年のようだね。作品は、エリアス・フェルメールの日常」


 レジスタンと目を合わせた。

 何も言わず部屋を出たから、僕の意思は汲んでくれてるだろう。


「エマ、ここから先は危険を伴うかもしれない。僕に任せてくれないか?」 

「……分かりました。何かお手伝い出来る時は、声を掛けて下さいますか?」

「勿論。エマにしか出来ないことがあるからね」


 もし、同じような贋作が出回ってるとしたら、早々に突き止めなくてはならない。この国だけに留まらず、世界的に見ても美術品は希少価値の高い流通品だ。

 エマを危険に晒すことだけは、避けなくては。

 でも今の僕は無敵なのだ。想いが通じ合った今なら、どんな問題もサッと片付く自信しかない――


「ちょっと……! 貴女、なんでここに――」


 父の書斎から出てすぐ、声の主はリーゼルだ。

 エマの緊張が、繋がれた手から簡単に読み取れる。恐らく、飽きもせず通っていたんだろうが、ここらが潮時だろう。


「聞いてるの? あっさり帰ってくるなんて、なんて親不孝なのかしら」

「リーゼル、いい加減にしてくれ。君の父上には『我が家への立入を控えるよう』伝えたはずだが、聞いてないのか?」

「だって、悪いのはその女じゃない! 婚約者がいるくせに、リヒトに色目を使うからいけないのよ。許せないっ」

「婚約者?」

「そうよ、ケビィント家の息子がそう言ってたわ。ふんっ、もう良い。痛い目見るのは、貴女ですから!」


 踵を返して、どこかに消えていった。

 ――なぜ、リーゼルからグート殿の話しが出るんだ。


「もう大丈夫、僕の部屋に戻ろう」

「……はい」

 

 

 僕は、まだ分かってなかったんだ。

 男の嫉妬も女の嫉妬も、度を越すと危険だと。

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