14.嫉妬の理由
「リヒトと婚約が出来ないって何でよ、お父様!!」
どうして婚約が進まないのよ……!
ずっと……ずっと、リヒトだけを見て来たのに。
「落ち着きなさい。今度、マゼル公爵邸に行く予定があるから、その時にもう一度打診してみよう。なっ?」
「だって……前に、婚約の話しが出た時だって、上手く交わされてたじゃない! リヒトもリヒトよ、私が一番適任だって分かってるのに」
五つ離れたお兄ちゃんが、好きな人になるのに時間なんてかからなかったわ。いつも私と手を繋いでお出掛けしたり、遊んでくれたりしたじゃない。
恋心に変わってから、ずっとずっとアピールしてきた。好きだよって何度も伝えてきた。結婚するなら、絶対リヒトお兄ちゃんが良いって……伝えてきたのに。
だから……だから、お父様にお願いして婚約打診のお手紙を出したのに。
"自分で見初めた相手を選ぶ"
……リヒトは私の何を見てきたのよ。リヒトに釣り合うように、リヒトの好みに近づきたくて可愛くなったのに……!
絶対諦めたくない。
だから今日、お父様と出向いた。
「リーヒトッ、元気だった? 変わりない?」
「あぁ変わりないし、調子が良い」
「私も調子良いのよ、ほらっ髪だって艶々でしょ?」
「あぁ……うん、それで今日は――」
「そうよね、気になるわよね! お父様たちのところへ行きましょう」
さり気無くリヒトの腕に絡めて歩けば、ほらぁやっぱり私たちお似合いじゃない! ガラスに映る二人、やっぱりこうでなくっちゃ。
「リヒト君、ぜひリーゼルを君の妻に貰ってやってくれないか?」
「…………」
「リーゼルも立派な淑女になっただろう? 小さい頃から一緒にいてくれたリヒト君なら、私も安心して預けられるし、幸せな家庭を築けるんじゃないかと思ってね」
でも、リヒトは何も言わずに微笑むだけ。
マゼル公爵だって「早く結婚して欲しいんだけどな」とか「いつになる事やら」とか言って、真剣味が足りないのよ。
「リヒトの奥さんになってあげる。ねぇ、私たちお似合いだと思うの。良い奥さんになれるように花嫁修行だって頑張ってるわっ。ねっ、だから一緒に」
「リーゼル、君のことは気心知れた友人とは思ってるけど……結婚はまた別だ」
「どうして? 私のこと嫌い?」
「そうじゃない」
「……なら、私を選んでよ。リヒトの隣に並んでも恥ずかしくない淑女になったよ? 家格だって釣り合いが取れるし、私は……リヒトが好きなの」
「…………」
「まぁまぁ二人とも、お茶でも飲んで落ち着きなさい。誰かいるか? 新しいお茶を入れてくれ」
痺れを切らしたのか、リヒトのお父様に遮られてしまったけど、どうしてここまで私を避けるのよ……。こんなに好きなのに。私が一番近くにいるじゃない。誰よりも近くでお互い見てきたのに、メイドなんか見てないで私を見てよ。
「ねぇそこのメイドさん、入れ終わったらそこを退いてくださる? 今、リヒト様と大切な話をしてるの」
「……話は終わっただろ? スパニー侯爵、申し訳ありませんが僕もこちらで失礼します」
「ちょ、リヒト……!?」
メイドの腕を掴んでドアを出ていった。
……は? この私を差し置いてメイドと出ていくの?
「リーゼル嬢、リヒトが失礼な態度をとってすまなかったね」
「……いいえ。ですが、私は諦めきれません」
「息子をこんなに思ってもらえて、親としては有難い限りだよ。私と妻も政略結婚ではないから、リヒトにも自分の思う人と結ばれてほしいと思っていてね。それでもリヒトだって良い年だ。結婚適齢期というものは、見過ごせないとも思っているんだよ」
「ならっ……」
「どうだろう、リヒトが23の年になる誕生日までに相手が決まらなかったら、その時は私も後押ししよう」
「リヒトの誕生日って、あと二ヶ月ですよね」
「息子にも息子なりの考えがあって今を生きてるのは間違いない。そこも尊重してやってほしいから、二ヶ月後リヒトがどうなってるかその目で見届けてほしい」
「分かりました。二ヶ月後、もしもリヒトに相手がいなかったらその時は、リヒトの誕生日パーティで私との婚約を発表して下さい」
「良いだろう。愛し、愛されたいなら努力しなければ得られないがね」
「そんなこと分かってますわ。絶対二ヶ月のうちに振り向かせてみせますから」
「楽しみにしてるよ」
心の中でガッツポーズをして、気分よく部屋を出た私。
今日、ここに来てよかったわ!
夫婦になるなら、私だってやっぱり愛されて大切にされたいもの。二ヶ月後に、仕方ないから一緒になりましたーなんてなりたくない。どんな手を使ってでもリヒトを私に夢中にさせてみせるんだから。
さっきは部屋から出て行っちゃったけど、このままじゃ気まずいし、お茶ぐらい付き合ってくれないかしら。
「ねぇ、リヒトはどこ?」
「リヒト様は出掛けられました」
「は? さっきまで応接室にいたのよ?」
「応接室から出てから、馬車で出掛けられましたので……」
「あっそ。どこに行ったか知らない?」
「マダムフランのお店と伺っております」
「ふ〜ん……」
ふと蘇った、メイドの腕を引くリヒト――
「メガネのメイドって前からいた?」
「メガネ? あ……エマですね。まだこちらに来て二ヶ月程でしょうか。何かございますか?」
「別に。気に入らなかっただけ」
ここに居ないなら長居する必要もないし、リヒトを追いかけようかしら。
ねぇリヒト……私を選んでよ。
一緒になれるなら何だってするから。
貴方が、どうしても欲しい……の。




