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エマの本音が聞けるまで ー見てるだけじゃ満足出来ない次期公爵様とギフトの事情ー  作者: HARUHANA


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12/30

12.疑惑と思惑

 テーゼがいた頃とは、また違った心地良さが仕事の疲れを取り払ってくれるようで、すこぶる捗った。

 まぁ捗った結果、仕事は増えていくんだが、それはそれで良い。要するに、好循環で回り続ける日常が、僕を満たしてくれると言うこと。


 

 働き通した疲れをエマに癒してほしいと、夕食を自室で取ったまでは良かった。しかし今、口を押さえたエマに動揺する自分がいる。


 

「女性に慣れていらっしゃるんですね」


 

 聞き間違いであって欲しいと一瞬フリーズしたが、エマの様子を見る限り、聞き間違いではなかったんだろう。


 触れていたはずの腕も離れ、口元を押さえるエマは、首を横に振る仕草を見せるが、話せないのだから仕方ない。エマの手を握って「違うんだ」と言っても、次はどんな言葉を紡げばこの誤解が解けるんだろう。


「私……なんて失礼なことを……本当に申し訳ござ――」

「そう思うような行動をしたのは僕だから」


 本来の自分は女性が苦手なこと、だから今までこの年齢になっても相手がいないこと、だけどエマと過ごす時間や話せる時間が今の僕には必要なこと。

 口数が多いと思われても良いから、必死に説明した。


「仕事が丁寧なだけじゃない。そこには色んな想いが込められてて、考えられてて、それがすごく伝わるんだ。エマだから触れたいと思うし、側にいて欲しいと……誰にでもするんじゃないよ、エマだからするんだよ?」

「……ベテランメイドが沢山いるのに私が選ばれたのは、ギフトのためですよね?」

「ギフトの事情の方がおまけだよ」

 

 本当だよ? 確かに、エマがいれば体調もギフトも安定するし、欠かせないのは事実だ。

 だけど、そんなことよりもずっと、隣にいて欲しい。触れていたい……誰のものにもならないで欲しい……そんな独占欲ばかりが大きくなる。


 エマが好きだから――


 ……今はまだ『NO』を突き付けられたくない。

 

 

 ***



「夕食の食器を片付けたら部屋に戻って良い――」


 部屋を出る時、最後に見たリヒト様の顔が忘れられません。

 触れた腕があまりに熱くて、食事にも集中出来ないからって余計なことを言ったばかりに……。明日から仕事しなくて良いなんて言われたら……配属変更――


 それは、嫌……。


 明日、きちんと謝罪をして、失言をお詫びして、誠心誠意働きますって伝えなくちゃいけません。許してもらえるまで何度でも。


 と、意気込んだ翌朝――

 遅くまでお仕事をされてたのか、起床時間を当に過ぎ、ぐっすり眠るリヒト様を起こさないように朝の準備を進めます。日頃の疲れが取れるなら、たまには寝坊したって誰も文句は言いません。


 きちんとお仕事で挽回するって決めたんです。

 気合いを入れて、朝食が遅くなることを伝えに行こうと廊下に出ました。


 厨房へ向かう廊下には、絵画や骨董品が並び、ヒソヒソと美術品から声が聞こえてきます。

 そう言えば、リヒト様の専属になってから特に、触れてもないのに声が聞こえるようになりまして。はっきり聞こえるのは触れた時だけですが、微かな喋り声が聞こえます。

 声が聞こえるのは、価値のある美術品だから。


 ですが、ふと目に止まった絵画からは声が聞こえません。まさか、公爵邸のしかも廊下に飾られた絵画が偽物だなんて……善し悪しは別にして、興味が湧いた私は、辺りを見渡してから手を伸ばしました。


 ――何も、聞こえない。


「ちょっと、そこの貴方!」


 突然廊下に響き渡った声に驚いて、手を引っ込めました。声の方に向くと、華美なドレスを見に纏った女性が、扇で口元を隠しながら立っているのです。

 慌てて頭を下げますが、足音が近づく度に心臓の音も大きくなるばかり。


「見ない顔ね、何故この絵に触れてたの? どれだけ価値が有るのか知っての行いかしら?」


 ポケットからメモとペンを取り出し、謝罪を綴ろうとしましたが――


「ねぇ、聞いてるの? この私を無視するなんて、貴女どこの家の者よ。お父様に言いつけてやるんだから」


 メモとペンがあるのだから書けば良いだけ……だけど、家名を書いたその先がどうなるのか、想像もつかない私は、手が震えてペンを落としてしまったのです。


「呆れた……ここまで言っても無言なんて。ちょっと一緒に来なさい! お父様と公爵様のところに連れてってやるんだから!」


 勢いよく伸びる手に、身がすくんで目をギュッと閉じた私を、強く抱き締めるのがリヒト様だと……すぐに気付きました。 


「ここで何をしてるんだ」

「リヒトッ! 丁度良かった、このメイドが――」

「今、何をしようとした」

「え……何って、決まってるじゃない! 客人であるこの私を無視した使用人を突き出すところよ。使用人まで庇うなんて、リヒトのその優しさも好きだけど、家の格が下がるわよ」

「……」

「それより、今日はリヒトに用があって来たのよ。お父様が先に――」

「……もう良い。僕に用があって来たなら、早いとこ済ませよう」

「えぇ。良かったわね、リヒトに命拾いされて」


 支えられた温かい手が離れ「仕事の続きを」そう言って、リヒト様と女性が腕組みする姿に、頭を下げるしかありませんでした。

 不用意な自分の行いに反省です。

 俯き加減でお部屋に戻る途中で、メイド長様がこちらに向かって来るのが見えます。


「エマさん、このまま旦那様のお部屋に行って下さい。給仕をお願いしたいそうだから、奥の小扉から入って控えてて」

 

 ――かしこまりました


 少し躊躇ってしまったのは、失態を冒した使用人が給仕に現れたら……ご不快かもしれないから。

 ですが、旦那様の指示に従わない訳にはいきません。大きな扉とは別に、給仕専用の小扉から入って待機しています。心臓を押さえて、大きく深呼吸――


「――誰かいるか? 新しいお茶を入れてくれ」


 その合図で、ワゴンに乗せた新しいティーカップセットを運びながら部屋を一瞬で見渡します。片付けと準備を手際良く、素早くご用意しなければいけません。

 

 突然現れた私を、リヒト様は唖然とした感じで見つめ、向かいに座るご令嬢は、鋭い視線――

 気持ち急ぎめで準備していますが「早く退いてくださる? 今、リヒトと大切な話をしてるの」と、やっぱり怒りを隠せないご様子。


「話は終わっただろ? 僕もこちらで失礼します」

「え? リ、リヒトッ」


 リヒト様が、私の腕を掴んでいるではありませんか。

 ワゴンを押す私のために、扉まで開けて下さるのは非常に有り難いですけど、ちらっと見えたリーゼル様の敵意ある表情……あれはどう見ても――嫉妬。

 

 黙ったまま廊下を進みながら、変な汗が出そうです。

 給仕が終われば仕事に戻るつもりだったのに、もしかしたら仕事を放棄してると勘違いされてるのかも……しれません。


 急に止まったワゴンが食器を鳴らし、少し冷えたリヒト様の手が私の腕を掴みました。


「今日、今から僕と出掛けよう。少し自分の部屋で待ってて」

「え、今からですか!? 急に言われても」

「良いから、今度こそちゃんと待ってて」


 駆け足で先に行ってしまったリヒト様ですが、考えてる事がサッパリです。いちお、『今度こそちゃんと』と釘を刺されたような気がするので、ワゴンを片付けてから自室に戻りました。

 主人とメイドで出掛けるなら、メイド服のままでも困りませんが、そんな事よりも朝食も食べていないのは身体に良くありません。慌てなくとも、午後出掛ければ宜しいのに。


 すると、「さぁさぁ時間がありませんからね! 急ぎましょう」とメイド長様が大きな箱を抱えて入ってくるではありませんか。

 床に置かれた箱から取り出されたのは、光沢が美しい紺色のワンピース。あれよあれよと、服を脱がされ着せられ、髪も魔法に掛かったように編み込まれて、化粧まで……!


「さぁ、今日はメガネなしでお出掛けですよ。リヒト様からの要望ですからね。急いで玄関前の馬車へ向かって、ほらっ急いで」

 

 怒涛の展開すぎて、思考が追いつきません。

 こんな似つかわしくないワンピースを着て、おめかしして、リヒト様のところへ行くなんて……メイドの立場を優に超えています。


「たまには息抜きしていらっしゃい」


 ――行って参ります


 そう綴ったものの、仕事仲間に見られないかとハラハラしながら、駆け足に階段を降りて行きます。ロビーに後少しのところで、ヒールの音に気付いたリヒト様と目が合った瞬間――


「危ないっ!!」


 慣れないヒールにバランスを崩し、整えた髪も見事に宙を踊った気がします。

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