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第184話:繋がり


少しだけ、

沈黙が落ちる。


その空気を破ったのは、

意外にもユーリスだった。


「あの……」


全員の視線が向く。


ユーリスは少しだけ躊躇った。


だが。


意を決したように口を開く。


「ロアンさん」


「ん?」


「返事は……ありませんでしたか?」


ロアンが瞬きをした。


数秒。


そして。


「あ」


間抜けな声を出した。


「悪い悪い。そういや渡されてた」


腰の鞄を漁る。


ごそごそ。


紙の音。


そして。


一通の封書が出てきた。


「ほれ」


ユーリスへ投げる。


慌てて受け取る。


見覚えのある封印。


「師匠……」


少しだけ表情が緩む。


「あと、これはユーリスとお前に」


「俺に?、どういうことだ?」


ユーリスが固まった。


「えっと……手紙を出しました」


「誰に?」


「師匠と……パコダさん達に」


「……」


俺は黙った。


ユーリスも黙る。


数秒。


そして。


「怒ってるわけじゃないんだが…何故だ?」


聞く。


ユーリスは少しだけ頬を膨らませた。


「エアは出さないと思ったので」


「……」


「こういう時」


小さく続ける。


「無事だって、知らせたりしないかと思って」


「……」


否定しようとして。


出来なかった。


確かに、

していない。


考えてもいなかった。


ユーリスがため息を吐く。


「エアは薄情だとは思いません」


先回りされた。


「でも」


封書を抱えながら言う。


「そういうの、

 すごく抜けてます」


フィアが吹き出した。


「それはそうね」


ガルドも何も言わない。


つまり、

そういうことらしい。


「……」


ロアンが笑う。


「まぁ、安心しろ」


肩を叩く。


「向こうも似たようなこと書いてる」


「?」


ユーリスが封を切る。


紙を開く。


目が走る。


そして。


数行読んだところで、

額を押さえた。


「……本当に書いてあります」


「だから言ったろ」


ロアンが笑う。


ガルドが言う。


「読んでみろ」


ユーリスは小さく頷いた。


そして、

読み上げる。


「ユーリスへ」


静かな朝だった。


誰も喋らない。


『まず、生きているならもっと早く知らせなさい』


ノクシアらしい。


ユーリスの肩が少し縮む。


『まぁ、でも、無事ならそれでいい』


少しだけ。


表情が柔らかくなる。


だが。


次の一文で止まった。


「……?」


「どうした」


ガルドが聞く。


ユーリスは困った顔になる。


「その……」


俺を見る。


嫌な予感がした。


「読め……」


言う。


ユーリスは諦めた。


『ただし』


咳払い。


『あなたの隣にいる男にも伝えなさい』


全員の視線が集まる。


嫌な予感しかしない。


『自分が消えた時、

 誰が心配するかを少しは考えろって』


沈黙。


フィアが吹き出した。


ロアンが腹を抱える。


ガルドまで笑いを堪えている。


「ぷっはっはっはっは! ほらな!」


「本当だ……自業自得だぞ、エア」


「……」


何も言えない。


言い返せない。


ユーリスは、

少しだけ笑っていた。


続きを読む。


表情が少し変わる。


今度は、

真面目な顔。


『アルケシアについて』


空気が変わった。


『現在、中央及び教会から正式な調査要求が出ている』


ロアンの話の続きだ。


『学院は中央単独での調査を拒否。

 白塔同盟立ち会いの共同調査という形で交渉中』


ガルドの眉が寄る。


ユーリスは続けた。


『上位者集団失踪として扱われている。

 現時点では死亡扱いではない』


セレスの指先が、

僅かに動く。


『だが、生存も確認されていない』


静かだった。


風の音だけが聞こえる。


『噂は広がっている。


 神器。

 誘拐。

 迷宮暴走。

 中央陰謀説。

 学院隠蔽説。


 好きなだけ飛び交っている』


ロアンが苦笑した。


「まぁ、そんな感じだったな」


ユーリスは頷く。


そして。


最後の方へ視線を落とした。


少しだけ、

目を細める。


「……」


「何て書いてある」


俺が聞く。


ユーリスは紙を見る。


そして。


ゆっくり読み上げた。


『戻ったらダメ』


全員が静かになる。


『今のアルケシアは、

 あなた達が戻れば収まる場所ではない。


 むしろ、

 もっと厄介な別の火種になる』


風が吹く。


紙が揺れる。


『だから今は生きなさい』


ノクシアらしい文章だった。


感情的ではない。


だが……。


確かに心配している。


そんな文章だった。


ユーリスは手紙を畳む。


少しだけ、

大事そうに。


「……そうか」


俺は空を見る。


遠い。


だが。


だからといって、

繋がりが消えたわけではない。


少しだけ、

胸の奥が軽くなった気がした。


「で?」


ロアンが言う。


全員が見る。


「学院の奴らからの返事もあるぞ」


「……」


ユーリスが固まる。


ロアンはにやりと笑った。


「そっちはもっと面白ぇ」


全員の視線が、

俺の持っている封筒に集まる。


「はぁ……」


封を開く。


何枚かの紙。


書いてある文字の量で、

少し察してしまった……。


俺はユーリスに渡した。


「読んでくれ」


「はい!まずはオルドさんです」


少しだけ笑う。


読み上げる。


『エア


 生きてるなら返事を寄越せ。


 迷宮で死んだと思ったら生存説。


 生きてると思ったら失踪説。


 いい加減にしろ。


 ――オルド』


「……」


思わず、

ロアンが吹き出した。


「エアらしいな。

 学院でも散々やってらぁ」


ガルドも笑う。


ユーリスは次の紙を開いた。


「パコダさん」


読み上げる。


『エア


 お前のことだから生きてるとは思ってる。


 だが一応言っとく。


 次はちゃんと連絡しろよ。


 ユーリスがいなかったら、

 俺達は何も分からなかった。


 以上。


 ――パコダ』


俺は再びため息を吐いた。


「……正解だったな」


ユーリスが少しだけ目を見開く。


それから、

小さく笑った。


次の紙。


「ザハクさんです」


『無事なら良い。


 それだけだ。


 ――ザハク』


短い。


だが。


妙にザハクらしかった。


そして。


最後の一枚。


ユーリスが見た瞬間。


少しだけ顔をしかめた。


「……長いです」


「ミリカだな……」


読み上げる。


『エア!!


 生きてる!?


 ユーリスも生きてる!?


 今すぐ返事する!!


 さっさと帰ってくる!!


 あと、息子の話の続きも聞かせろって今度は母ちゃんが!!


 以下略

 

 ――ミリカ』


「まだ言ってるのか、あいつは……」


フィアが吹き出す。


ロアンが腹を抱えて笑う。


ユーリスまで、

肩を震わせていた。


「ミリカらしいですね」


だが。


紙はまだ終わっていなかった。


「あれ?」


ユーリスが小さく声を上げる。


紙の裏に、

もう一枚挟まっている。


見覚えのない筆跡。


ユーリスが読む。


そして。


少しだけ表情を変えた。


「カイナさんです」


空気が静かになる。


読み上げる。


『エアへ


 生きているならそれでいい。


 今の中央は妙だ。


 お前を追っているのか。


 神器を追っているのか。


 それとも、

 別の何かを追っているのか。


 俺にも分からん。


 だから余計な場所へ顔を出すな。


 お前は自分だけなら何とかなると思っている。


 だが、

 周りは違う。


 ユーリスも。


 あのミリカ達もだ。


 巻き込まれる。


 俺はお前がどうなろうと知らん。


 だが、生きていろ。


 ――カイナ』


風が吹いた。


誰も、

すぐには喋らない。


「……カイナらしいな」


最後まで。


心配しているとは、

一言も書いていない。


だが。


心配しているのは分かる。


フィアが苦笑した。


「不器用なのかしら。

 エアみたいね?」


ガルドも頷く。


「そうだな」


俺は何も言わない。


ただ。


紙を見る。


怒っている。


文句も言っている。


説教までしている。


だが、

全員。


俺達が戻ってくる前提で書いている。


「……」


妙だった。


手紙を貰ったことはない。


初めてだったかもしれない。


待つ。


怒る。


心配する。


帰ってこいと言う。


家族以外に、

そんな言葉を向けられることは。


昔はなかった。


少なくとも。


俺が覚えている限りは。


「エア?」


ユーリスがこちらを見る。


「何でもない」


短く返す。


ユーリスは、

それを大事そうに畳んだ。


空を見る。


遠い。


アルケシアは遠い。


だが。


繋がっていないわけじゃない。


少なくとも。


あいつらは、

俺達が生きていると思っている。


それだけは分かった。


「……さて」


ロアンが立ち上がる。


「しんみりするのは終わりだ」


肩を鳴らす。


「これからどうするか決めるぞ」


空気が少しだけ変わる。


手紙の時間は終わった。


次は。


進むための話だった。

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