表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/224

第149話:偏り


白い光が、

空で消えていく。


だが――

歓声は、続かなかった。


誰もが、

戦域の中央を見ている。


崩れた防壁。


焼けた地面。


砕けた岩壁。


倒れた術者達。


そして――


白に塗り替えられた、

戦域。


「……全部、取ったのかよ」


誰かが、

呆然と呟く。


「全滅……」


「マジかよ……」


ざわめきはある。


だが、

熱ではない。


引いている。


そんな空気だった。


「……」


俺は槍を下ろす。


まだ熱い。


赤火が、

わずかに揺れていた。


その横。


白火。


セレスが、

静かに槍を収めた。


周囲の白服達が、

自然とそちらへ集まっていく。


勝ちどきも、

歓声も上げない。


静かだ。


そこに、

セレスの声だけがよく響く。


「戦域終了を確認」


熱もない。


興奮もない。


ただ、

決まっていた結果を確認するみたいに。


「負傷者の確認を行え。

 その後、拠点へ帰還」


「はっ!」


白服達が即座に動く。


迷いがない。


もう戦闘は終わっている。


だが、

空気はまだ張っていた。


「……化け物どもが」


遠くで、

誰かが呟いた。


否定する声はない。


第四の連中も、

立ち上がろうとはしない。


オルドは、

崩れた岩にもたれたまま笑っていた。


「ハハ……。

 マジで全部持ってきやがった……」


「止めきれんとは……」


パコダが転がったまま言う。


「やり過ぎだろ……」


ミリカは、

そんな空気を全く気にせず、

拠点核を抱えていた。


「取ったにゃ」


得意げだ。


耳が揺れている。


「……まだ持ってたのか」


「エアにあげるにゃ」


「いらねぇよ」


「じゃあ持って帰るにゃ」


「持って帰るな……」


会話になっていない。


その時。


白服達の列が、

こちらへ向かってきた。


自然と、

空気が割れる。


中央。


セレス。


周囲の白服達は、

誰も喋らない。


ただ従っている。


一つの群れみたいだった。


「「「……」」」


そのまま、

俺達の横を通り過ぎる。


一瞬だけ。


白い目が、

ミリカへ向いた。


冷たい視線。


気に入っていないものを見る目。


ミリカの耳が、

ぴくりと動く。


「……」


セレスは、

そのまま視線を逸らした。


「帰還する」


短く。


それだけ残して、

前へ進む。


白服達も続く。


俺も槍を担いで、

そこに加わる。


草原を、

白が埋めていく。


丘を越え、

列が進む。


静かだ。


誰も、

勝利を叫ばない。


ただ、

淡々と歩いていく。


まるで軍隊の凱旋だな。


「……」


カイナが横で、

他の拠点を見ながら小さく息を吐く。


「派手というか、

 酷いものだな……」


「ほとんどお前らだろ」


「否定はしない」


即答だった。


遠く。


教師達が、

戦域へ降りている。


だが、

誰もすぐには喋れない。


視線だけが、

白い列を追っていた。


第一拠点。


白線で囲まれた丘の上。


そこには、

既に白服達が集まっていた。


負傷者の手当。


核の確認。


整然とした動き。


その中央へ、

セレスが戻ってくる。


自然と、

周囲が道を開けた。


その先。


ユーリスと、

マリスが立っていた。


「……」


ユーリスが、

わずかに姿勢を正す。


だが、

白服達の視線は冷たい。


認めていない。


従っていたのは、

セレスの命令だったから。


それだけだ。


空気で分かる。


「……」


セレスは、

そのまま前へ進む。


そして。


ユーリスの横を通る瞬間。


「……ご苦労」


小さく。


それだけ言った。


「……!」


ユーリスが、

目を開く。


だが、

セレスは止まらない。


そのまま、

前へ進んでいく。


白服達も続く。


ユーリスは、

何か言いかける。


だが、

結局言葉にはならなかった。


マリスだけが、

静かに目を細めていた。


その時。


空気が揺れる。


上。


黒外套。


学院長が、

戦域丘へ降り立った。


ざわめきが止まる。


学院長は、

戦域を見渡した。


遠くまで続く、

焼け跡。


崩れた防壁。


沈黙した他陣営。


そして、

第一拠点へ集められた四つの核。


「……ほぅ」


小さく。


それだけ漏らす。


だが、

妙に響いた。


「これはまた……」


わずかに口元が緩む。


「近年、ここまで見事な制圧はなかった。

 中央からの若者達よ、流石じゃ」


誰も答えない。


それでも学院長は、

柔らかい笑顔を向ける。


そして、

四つ並んだ核を見る。


「第一陣営」


静かな声。


「四拠点の核の保有、

 他拠点制圧を確認した」


間。


「よって――今年の火線祭、

 戦域演習の勝者は第一陣営とする」


その瞬間。


今度は、

七色の光が空へ打ち上がった。


ーーーーー


夕暮れ。


戦域から戻った学院は、

妙に静かだった。


「……」


廊下を歩く。


視線だけが多い。


話し声は小さい。


さっきまで、

火線祭で騒いでいた空気とは違う。


「見たか……?」


「四核全部って……」


「第三と第四、

 同時に落ちたんだろ……?」


小声。


だが、

隠しきれていない。


「……」


横を通る。


その瞬間、

会話が止まる。


「……」


別に、

慣れていないわけじゃない。


ただ――

今回は少し違った。


全員に怖がられている。


そんな空気だった。


「……派手にやりすぎたか」


小さく呟く。


その横。


カイナが、

壁にもたれたまま息を吐いた。


「お前が言うな」


「だから、お前らだろ」


「…否定はしない」


「……」


少しだけ間。


「だが、近年で異常なのは確かだ」


カイナが続ける。


「四核制圧で強制終了なんて、

 そうそうあるものではないらしい」


「そうなのか」


「普通は、一陣営が核を持っても、

 他が取り返す」


淡々と。


「だから長引く。

 拠点を巡って潰し合いになる」


「……」


なるほどな。


「今回は、

 第三を落とした直後に第四まで割った」


カイナが目を細める。


「しかも真正面からだ」


「効率は良かったな」


そこで、

前方が騒がしいことに気づいた。


人だかり。


掲示板。


カイナが小さく言う。


「……もう出たのか」


「?」


「個別戦技試験の組み合わせだ」


ざわめきが広がっている。


「マジかよ……」


「初戦から?」


「いや、

 これ露骨すぎるだろ……」


人混みを抜ける。


掲示板。


そこには、

巨大なトーナメント表が貼られていた。


名前。


階位。


属性。


無数に並んでいる。


「……」


視線を上へ向ける。


最上列。


優先選抜。


第一位、セレス。


第二位、エア。


「……」


周囲の空気が、

また変わる。


「セレスの次って……」


「無色だぞ……?」


ざわめき。


否定。


困惑。


恐れ。


全部混ざっている。


「……」


別に、

どうでもいい。


勝てばいいだけだ。


だが――


その下を見て、

少しだけ目が止まった。


「……」


露骨だった。


学院側上位。


白服上位。


対戦相手が偏っている。


潰し合わせる気だ。


「これも調整っってやつか…」


俺が言うと、

カイナが小さく笑った。


「今更だ」


その時。


周囲のざわめきが、

わずかに割れた。


白。


セレスだ。


自然と、

人が道を開ける。


誰も声をかけない。


ただ、

通す。


セレスは、

そのまま掲示板の前で止まった。


視線が、

静かにトーナメントをなぞる。


「……」


誰も喋らない。


空気が張る。


その視線が、

俺の名前で止まった。


ほんの一瞬。


白火みたいな圧が走る。


「……」


セレスは何も言わない。


だが、

満足していない。


それだけは分かった。


正統光火教会の力を示す。


本来なら、

それだけで良かったはずだ。


圧倒的勝利。


完全制圧。


近年最大の結果。


だが――


その中心にいたのは、

白服だけじゃない。


二属性の混合のユーリス。


そして、

獣人、ミリカ。


「……」


セレスの視線が、

わずかに細くなる。


苛立ち。


違和感。


そして――

ほんの僅かな、熱。


「……次だ」


小さく。


それだけ呟く。


周囲の白服達が、

静かに姿勢を正した。


「個別戦技試験……。

 正統光火教会の火を、主の加護を、迷いし者達に示す」


熱のない声。


だが、

その奥だけが燃えている。


「貴様もそれを心得ろ……エア」


そのまま、

セレスは踵を返した。


白服達が続く。


また、

静かな列ができる。


「……」


その背を見ながら、

カイナが小さく呟く。


「機嫌が悪そうだな……」


「そうか?」


「分からないのか?」


「あまり……」


カイナは、

少しだけ呆れた顔をした。


意味が分からない。


だが、

それ以上説明する気もないらしい。


遠く。


夕焼けが、

学院を赤く染めていた。


火線祭は、

まだ終わっていない。


むしろ――


ここからが本番だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ