第141話:火を踏む者
爆風。
視界が、
白に染まる。
「――ッ!!」
衝撃。
全身を叩き潰すような圧。
だが――
「……ッ」
槍を噛み合わせた瞬間、
流れが見えた。
押し潰す力。
貫く火。
セレスの槍。
その“流れ”に乗る。
「……!」
身が、空へ跳ね上がる。
地面が一気に遠ざかる。
風。
熱。
白い火の残滓が、
周囲を裂きながら流れていく。
「っ……!」
速い。
視界が揺れる。
このままだと制御できない。
「……なら」
空中で、
槍を握り直す。
横。
違う。
前でもない。
身体の下へ。
「――ッ!」
回転。
腰を捻る。
空中で無理やり姿勢を変える。
足を槍へ引っ掛け、
身体を乗せる。
「……そこだ」
火を流す。
腕から、槍に。
揺れない火。
ただ在る火。
穂先ではない。
槍の後端。
そこへ流し込む。
「――噴け」
瞬間。
ドンッ!!
火が爆ぜた。
空中で、
身体が前へ押し出される。
「……ッ!!」
加速。
落下が変わる。
墜落じゃない。
飛ぶ。
「……まだ」
距離が足りない。
防衛線はまだ遠い。
煙が見える。
崩れかけている。
「――もう一度」
火を圧縮。
今度は、
槍全体へ流す。
熱。
圧。
暴れそうになる。
「……暴れるな」
押さえ込む。
槍を軸に、
流れを固定する。
そして。
「行け!」
二度目。
轟音。
空気が弾ける。
景色が流れる。
一気に、
距離を跨ぐ。
雲が裂ける。
下の地面が、
凄まじい速度で流れていく。
速い。
「……あと一回か」
腕が熱い。
火が高ぶる。
だが――止めない。
防衛線が見える。
土壁。
崩れた陣形。
火。
煙。
槍を強く握る。
最後。
最も強く、
火を叩き込む。
「――飛べ!!」
三度目。
今までよりも、
大きく火が爆ぜた。
轟音。
視界が、
一瞬だけ白に染まる。
ーーーーー
拠点はすでに囲まれ、
攻撃戦力が戻るまで持たない。
「厳しいですね……」
土壁が、
崩れる。
「右押されてる!!
下がっ――」
声が途切れた。
爆音。
術式が直撃し、
黒服の一人が吹き飛ぶ。
「きゃああッ!?」
悲鳴。
熱風。
煙。
「前列維持!!
まだ崩さないでください!!
ここで崩れれば終わりです!!!」
ユーリスが叫ぶ。
だが、
返ってくる声は少ない。
限界だった。
土壁は半分以上砕け、
後衛の詠唱も乱れている。
水適性も、
熱処理が追いつかない。
「っ……」
呼吸が熱い。
敵は止まらない。
むしろ増えている。
防衛線へ、
全陣営が流れ込んできていた。
「核まで距離十五!!」
誰かが叫ぶ。
近い。
近すぎる。
拠点中央。
白線。
その奥にある核が、
もう視認できる距離まで押し込まれている。
「ユーリス!!」
横。
マリス。
珍しく、
声が強い。
「左、抜けてくる!!」
「――ッ!」
振り向く。
敵前衛。
土適性の獣人が壁ごと押し込んできている。
止めきれない。
「全員、核前へ!!」
ユーリスが叫ぶ。
「最後の防衛線を――」
その瞬間。
空が、
白く染まった。
「……え?」
誰かが漏らす。
次の瞬間。
ゴォオオオオ――ドーン。
火の塊が、
戦場へ落ちた。
星が落ちるように。
一直線に。
敵前衛の中央へ。
爆風。
熱。
地面が砕ける。
敵がまとめて吹き飛ぶ。
「なっ――!?」
衝撃で、
全員の動きが止まる。
煙。
火。
焼けた土。
その中心。
ひとつの影が、
ゆっくり立ち上がった。
槍を持って。
火を、纏ったまま。
「……エア」
ユーリスの声が、
無意識に漏れた。
ーーーーー
「――ッ!!」
最後の噴射。
やりすぎた。
「――止まれ!!」
逆噴射。
槍を手に取り、
反対方向に火を叩き出す。
減速。
空中で無理やり勢いを殺す。
だが――
完全には消えない。
「ッ――!!」
着弾。
ズドーンッ!!
地面が砕ける。
爆風。
熱。
土壁が弾け飛ぶ。
敵も味方も、
まとめて吹き飛ばされた。
「ぐぁッ!?」
「熱ッ!!」
煙。
火。
土。
槍を地面へ突き刺し、
そのまま滑る。
石を削りながら、
ようやく止まった。
「……っ」
熱風が抜ける。
周囲を見る。
敵。
吹き飛んでいる。
転がっている。
「……」
動いている、
死んではいない。
「……よし」
小さく息を吐く。
その瞬間。
「――エアァ!!」
左。
爆ぜるような踏み込み。
「ッ!」
来る。
反射で槍を持ち上げる。
ガァンッ!!
重い。
拳。
オルド。
腕当てに埋め込まれた触媒が、
発光している。
土属性、強化か。
身体ごと叩き込む戦い方。
「っ……!」
押される。
地面が割れる。
「とんでもねぇ入り方しやがる!!」
「止めに来たんだよ!」
「待ちくたびれたぜ! この野郎!!」
さらに右。
低い踏み込み。
「……」
ザハク。
静か。
だが、
殺気だけが重い。
腕当て。
同じく触媒埋め込み型。
拳が来る。
一直線。
「ッ!」
槍を返す。
受ける。
鈍い衝撃。
腕が軋む。
重い……!
オルドが前から押し込み、
ザハクが崩しに来る。
連携。
迷いがない。
「危険度は理解している」
ザハクが低く落とす。
「だから、二人がかりだ……」
「物騒だな!」
オルドがさらに踏み込む。
拳。
連打。
重い。
一発ごとに、
地面が砕ける。
「ッ……!」
槍で弾く。
流す。
受け切らない。
まともに食らえば、
身体ごと持っていかれる。
「前より硬ぇ!!
槍持ってりゃ当然か!」
「素手でこんなもん受け止められるか!?」
「そりゃ本気だからな!!」
次、ザハク。
低く、最短。
腹へ。
「……!」
槍を滑らせる。
受けない。
軌道を逸らす。
拳が脇を抜ける。
「おらぁッ!」
ザハクが止まらない。
肘がかすめる。
…近い。
「チッ!」
後ろへ飛ぶ。
直後。
オルドが飛び込む。
「逃がすかぁ!!」
拳。
空気が爆ぜる。
「……ッ!」
今度は正面から合わせる。
槍。
拳。
激突。
轟音。
衝撃で、
周囲の火が揺れる。
「ぐッ……!」
オルドの足が沈む。
だが、
止まらない。
土強化。
踏み込みそのものが重い。
「オルド、相変わらずめちゃくちゃな力してんな!!」
「お前もな!!本当に人間か!」
押し合い。
その瞬間。
ザハクが横へ回る。
速い。
重さだけじゃない。
無駄がない。
「……!」
来る。
槍を回す。
柄でオルドを押し返し、
そのまま反転。
ザハクの拳を弾く。
金属音。
火花。
間髪入れず、
オルドが戻る。
「ッラァ!!」
「止まれ!」
槍を横薙ぎ。
オルドが腕で受ける。
弾ける衝撃。
土煙。
だが、
二人とも下がらない。
「……なるほど」
ザハクが低く言う。
「飛んできたのも信じられんが、
落下直後でもそこまで動けるか……」
「だから危険なんだよ、こいつは!」
オルドが笑う。
戦場だ、容赦はない。
確認した瞬間から、
二人とも本気で潰しに来ている。
「ったく、
どいつもこいつも面倒な」
槍を握り直す。
周囲では、
敵も立て直し始めていた。
止まっている暇はない。
「続きは後だ」
槍を握る。
後端に火を流す。
今度は、
飛ぶためじゃない。
距離を取る。
一度、
拠点核の方へ――
「じゃあな!」
火が噴き出す。
身体が浮く。
「逃がすか!」
オルドの声。
だが、
届かない。
そのはずだった。
「いやいや」
上からの声。
「それはさすがに、なしだろ!」
「――ッ!?」
影が落ちる。
パコダ。
兎系の獣人。
足のプレートが反射して、光っている。
触媒。
腕じゃない。
脚。
「俺もいるぜ!」
空中。
膝を抱えるように、
身体を捻っている。
落下じゃない。
「逃げんなよ、エア!!」




