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第116話:変な連中


監視対象と肩を並べて、俺は一体何をしているのだろうか。


「……何でこんな事に」


小さく落とす。


無色。

獣人。

混合。


本来なら、交わらないはずの並びだ。


その中心で、エアだけがいつも通りだった。


……いや、いつも通りに見せているだけか。


警戒している。


飯を食っているくせに、意識の半分は別の場所にある。


(……こいつは本当に)


「……お前」


小さく呼ぶ。


「休む時くらい、休め」


言った瞬間、エアがこちらを見る。


「監視してる奴が言う言葉か?」


「それは、そうだが……」


言い返しながら、自分でも少しだけ思う。


……確かに、説得力はない。


だが、それよりも、こいつの方がよっぽどだ。


「エア……お前は、本当に何してるんだ」


呆れたように落とす。


エアは気にせず串をかじる。


「何がだ?」


「とぼけるな」


声が少しだけ落ちる。


「中央の目の前で、聖杭槍杖とやり合ったと聞いた」


空気が止まる。


ユーリスが、ぴたりと動きを止めた。


「……え?」


ゆっくりとエアを見る。


「いつそんなことしたんですか!?」


……知らないのか。


少しだけ視線を流す。


エアは一瞬だけ間を置いて、


「ああ……昨日だ」


短く返す。


「……ッ」


ユーリスが言葉を失う。


当然だ。


あれをただの“昨日の出来事”として流すやつは、普通いない。


「相手は?」


すぐに聞く。


エアは肩をすくめる。


「強かったな……たしか、セレスだったか?」


その名前を、こいつはあまりにも軽く口にした。


(……本気か)


『聖杭槍杖』

『セレス』


どちらも中央では、軽々しく出していい名前じゃない。


だというのに、こいつはまるで実感がない。


……いや、実感がないわけじゃない。


“気にしていない”だけだ。


「ミリカを襲ったやつかもしれないと思った」


その一言。


ミリカの耳が、ぴくりと動いた。


何も言わないが、さっきより静かだ。


ユーリスはまだ動揺している。


「でも……聖杭槍杖なら……」


言葉を探している。


「中央の……執行役、ですよね……?」


カイナは小さく頷く。


「そうだ」


短く。


「普通の信徒じゃない」


ユーリスの表情が固くなる。


「それを相手に……」


視線がエアに戻る。


「無事だったんですか……?」


エアは何でもないように言う。


「別に大したことはしてない」


「……」


ユーリスは黙る。


納得していない顔。


当たり前だ。


俺でも納得していない。


「大したことないわけあるか」


小さく吐く。


「聖杭槍杖とやり合って、無事で済んでる時点でおかしいんだ、お前は」


エアは肩をすくめる。


「そうか?」


「そうだ」


即答する。


少しだけ間。


言葉を選ぶ。


「……中央の中でも、あれは“実行処理”をする側だ」


視線が少しだけ細くなる。


「関わるなと言われてる連中に、自分から踏み込んでどうする」


言い終えて、小さく息を吐く。


……これで伝わるとは思っていない。


だが、言わないよりはマシだ。


エアは少しだけ黙る。


それから――


「……そうか」


短く返す。


そのまま、串を一本持ち上げる。


「食うか?」


何の気負いもなく、そのまま差し出してきた。


「……は?」


思わず間の抜けた声が出る。


「お前、食ってないだろ?」


軽く言う。


「うまいぞ」


数秒、止まる。


何を言われているのか、一瞬だけ分からなかった。


……こいつは今、何の話をしていた?


「……いらん。お前のだ」


短く返す。


エアは気にしない。


「そうか」


そのまま自分でかじる。


少しだけ間。


それから、何でもないように言う。


「お前って、やっぱ優しいよな」


「……は?」


今度は、はっきりと止まった。


視線が向く。


エアは視線も動かさない。


人の流れを見ている。


「止めてるだろ」


それだけ。


「関わるなって。

 普通は、言わない」


カイナは黙る。


言葉が続かない。


(……何を言ってる)


理解が、一瞬遅れる。


優しい、だと?


俺が?


「……違う」


小さく返す。


「俺はただ――」


言いかけて、止まる。


……何だ?


言葉を選ぼうとして、言い切れない。


「ミリカのことも、悪く言わないだろ? 獣だとか」


その一言で――


空気が、わずかに止まった。


ミリカの尾が、ぴくりと動く。


「……」


何も言わない。


だが、さっきまでより明らかに意識がこちらに向いた。


カイナは少しだけ目を細める。


(……そこを見るのか)


エアは気にしていない。


ただ、事実を並べているだけだ。


「……違う」


小さく返す。


「俺は別に、そんな――」


言いかけて、また止まる。


言葉が続かない。


(……違う、はずだ)


そう思っているのに、理由がうまく出てこない。


「興味がないだけだ……」


ようやく出た言葉。


それで片付ける。


「種族だとか、そういうのに……」


短く言い切る。


それが一番、無難な答えだった。


――その時。


タン。


小さく音が鳴る。


視線を上げる。


ミリカが、立ち上がっていた。


「……?」


そのまま、真っ直ぐこちらに来る。


迷いがない。


止まる。


目の前。


ほんの少しだけ見上げてくる距離。


「……お前」


短く言う。


「変」


はっきりと。


迷いなく。


「……は?」


思わず眉が寄る。


だが、ミリカは気にしていない。


視線を逸らさないまま、続ける。


「白服は嫌い」


……それは、知っている。


空気で分かる。


さっきから、ずっとそうだった。


「……でも」


わずかに間。


「そういう奴は」


視線が、ほんの少しだけ緩む。


「嫌いじゃないにゃ……」


ぽつり。


そのまま、串を差し出してくる。


「食え」


短い。


命令みたいな言い方。


(……何なんだ、これは)


一瞬、本気で分からなくなる。


理解が追いつかない。


だが――


拒否する理由も、見つからない。


「……」


少しだけ迷ってから、手を伸ばす。


受け取る。


温かい。


焼いた肉の匂いがする。


「……ありが、とう」


言い慣れない言葉が、そのまま口から出た。


ミリカはそれを聞いて、小さく頷く。


それで終わりらしい。


満足したように、何もなかった顔で戻っていく。


席に座る。


もうこちらは見ない。


次の串に手を伸ばしている。


(……本当に、分からない)


視線だけで追う。


だが――


さっきまでより、明らかに距離は遠くない。


拒絶ではない。


完全に受け入れているわけでもない。


……だが、さっきとは違う。


その曖昧さが、妙に引っかかる。


「……」


無意識に、手の中の串を見る。


食う気はなかったはずなのに。


少しだけ間を置いて――


かじる。


普通の味だ。


だが。


(……悪くはない)


小さく思う。


その瞬間。


「そういうことだ……にゃ?」


「ッ!?」


エアの声。


反射で視線が動く。


ミリカが固まっている。


「さっきから……言ってるぞ」


追い打ち。


数秒。


沈黙。


それから――


「ッ!?!?!?」


一気に顔が赤くなる。


耳まで。


「ち、違うにゃ!!」


即座に否定。


「今のは違――」


言いながら、さらに崩れる。


「……」


思わず、目を細める。


さっきまでの空気が、一気に崩れた。


(……なんだこれは)


さっきまでの緊張も、境界も、全部そのままなのに。


空気だけが、妙に軽い。


「……はぁ」


小さく息を吐く。


串をもう一口かじる。


監視対象。


本来なら、距離を置くべき相手。


無色。

獣人。

混合。


それなのに――


(……本当に、何をしているんだろうな)


もう一度、同じことを思う。


……だが。


悪くはない。


そう思っている時点で、もう少しおかしいのかもしれない。


「……」


視線を少しだけ横に流す。


エアは変わらず、何も気にせず食べている。


ユーリスは、どこかほっとした顔でそれを見ていた。


ミリカはまだ、顔を逸らしたまま騒いでいる。


その全部が、妙に噛み合っていないのに。


それでも――


崩れない。


「……変な連中だな」


小さく呟く。


否定のつもりだった。


だが。


どこかで――

それを悪いとは、思っていなかった。

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