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第115話:市場の監視者


それから町を歩いている。


エアはついて来てはいるが……。


時折、後ろを気にしていて、あまり楽しめていなさそうだった。


しばらくして、市場の通りに出た。


いろいろな店が並ぶ。


「……ここ」


止まる。


小さい店。


中に入る。


並んでいるのは、細かい装飾。


耳飾り。

紐。

金具。


少しだけ見る。


――似合うかは、どうでもいい。


視線が、後ろに流れる。


エア。


入口の近くで、もう外を見ている。


(……興味ない)


小さく分かる。


「……出る」


すぐに言う。


外に出る。


そのまま、別の店を指す。


「……あっち」


武具店。


今度は、エアがちゃんと見る。


(……あっちの方がいいみたいだにゃ)


少しだけ歩く。


ユーリスが横に来る。


「……ユーリス」


小さく呼ぶ。


「はい?」


少しだけ間。


「……ああいうの」


視線は前。


「何がいい?」


ユーリスが一瞬だけ止まる。


それから、すぐに頷く。


「……エアに、ですか?」


「……そう」


短く。


ユーリスは少し考える。


「実用的なもの、ですね」


「……実用」


「はい。あまり飾りは気にしないので」


小さく頷く。


それだけでいい。


「……分かった」


ユーリスは、それ以上何も聞かなかった。


ほんの少しだけ、柔らかく笑った。


武具店に入る。


鉄の匂い。


油と革の匂いが混ざる。


壁に並ぶ装備。


刃。

革。

金具。


エアの足が止まる。


さっきとは違う。


視線がちゃんと動いている。


(……分かりやすい)


棚の前に立つ。


並んでいるのは、小さな道具。


紐。

留め具。

革の補修材。


一つ手に取る。


軽い。


使い込めば、すぐ馴染む。


視線だけで、エアを見る。


肩当て。

腕の留め。


(……雑)


一歩近づく。


「……動くな」


「ん? 何だ?」


エアが止まる。


腕に触れる。


留め具の位置を軽く確認する。


「……少し緩い」


ぼそり。


もう一つ、似たものを手に取る。


今度は少しだけ硬い。


「こっち」


「あ……おい」


それだけ言う。


そのまま店主に渡す。


金を払う。


エアが横で言う。


「自分のか?」


「違う……」


即答。


受け取る。


そのまま、エアに押し付ける。


「使え……」


短く。


エアがそれを見る。


「……いいのか?」


「いい」


それ以上は言わない。


ユーリスが横で小さく笑う。


「あ、それいいと思います」


エアは少しだけ間を置いて、


「……そうか」


それだけ言う。


受け取る。


前を向く。


「……次」


何事もなかったみたいに歩き出す。


だが――


「ミリカ……ありがとう」


「ッ……別に……」


顔は逸らしたまま。


それ以上は、何も言わない。


だが――


尾だけは、さっきよりも少しだけ大きく揺れていた。


ユーリスが、小さく息を漏らす。


「……よかったですね」


その声に、何も返さない。


ただ、歩く速度だけがほんの少しだけ上がった。


―――――


屋台の並ぶ通りに出る。


香ばしい匂い。


焼いた肉。

甘い生地。

湯気。


「……ここ」


止まる。


適当に座れる場所。


三人で腰を下ろす。


手にしたのは、串焼き。


温かい。


一口。


「……うまい」


小さく落とす。


エアは何も言わないが、普通に食べている。


ユーリスも頷く。


「美味しいですね」


少しだけ間。


そのまま、言葉を投げる。


「……いつから?」


二人を見る。


「冒険者……」


ユーリスが答える。


細かくは言わない。


エアも、特に補足しない。


いつからで、どうだったか。


どんな風に一緒にいたか。


――そんなことを、少しだけ聞いた。


(……普通)


少しだけ思う。


だが、どこか安心した。


そこで――


「……ミリカは」


エアの声。


短い。


視線が来る。


「どうなんだ? なんで学院に?」


それだけ。


少しだけ止まる。


串を持ったまま。


「……別に」


いつも通りに返す。


だが――


少しだけ考える。


「……村」


短く言う。


「出たことない」


それだけ。


ユーリスが小さく反応する。


「え……?」


続ける。


「一族の中だけ」


視線は前。


「外は知らない」


それ以上は言わない。


だが――


エアはそのまま聞く。


「族長の娘とかか?」


「……そう」


短く言うと、エアは少し目を丸くした。


「七人兄弟」


付け足す。


「下の方」


ユーリスが驚いた顔をする。


「七人ッ!?……」


気にしない。


「……だから」


小さく言う。


「出された」


それだけ。


「世界見てこいって」


少しだけ間。


「ついでに、性格直せって」


ぼそり。


ユーリスが少し笑う。


「あぁ……」


「何?」


即座に返す。


「いえ……」


それ以上は言わない。


エアは少しだけ見る。


「ザハクとオルドは? パコダと違って、前からの知り合いっぽく見えたが?」


「……隣」


短く答える。


「だから、顔は知ってた」


それだけ。


会話が止まる。


風が通る。


屋台の音が戻る。


もう一口食べる。


(……外)


少しだけ視線を上げる。


人の流れ。

声。

匂い。


「アルケシア……悪くない」


ぼそり。


誰にも聞かれないくらいの声で、そう落とした。


「……そうですね」


ユーリスが、小さく返す。


ほんの少しだけ、声が柔らかい。


「ここは……悪くない場所です」


ユーリスの言葉が落ちる。


エアは少しだけ周囲を見る。


屋台。

人の流れ。

匂い。


「……学院はともかく」


小さく言う。


「町は悪くないな」


それだけ。


少しだけ視線を向ける。


「……エアは」


短く。


「どこ」


串を持ったまま、そのまま聞く。


「故郷」


エアは一瞬だけ止まる。


だが――


「……さあな」


短く返す。


「覚えてない」


それだけ。


少しだけ首を傾げる。


「……覚えてない?」


小さく言う。


「アルケシアの人間かと思ってた」


視線は前。


「よく馴染んでる。空気が似てる」


エアは少しだけ目を細める。


「そうか?」


「……うん」


短く。


それ以上は続かない。


だが――


ほんの一瞬だけ。


エアの視線が、遠くをなぞった。


理由は分からない。


ただ、見たことがあるような気がした。


「……」


何も言わない。


エアはそのまま串をかじったが、途中で止まった。


「エア?……」


「串、刺さりましたか?」


「……はぁ」


小さく息を吐く。


それから――


「飯ぐらい、落ち着いて食わせろ」


ぼそりと落とす。


視線は前のまま。


だが、言葉は後ろへ。


「監視するなら、もう少し隠せ」


空気が、一瞬だけ変わる。


ユーリスが固まる。


尾が止まる。


数秒の沈黙。


やがて――


人の流れの中から、一つの影が切り離される。


フード。


深く被られている。


顔は見えない。


白は、見えない。


だが――


聞いたことのある声だ。


「……気づいてたのか」


カイナだった。


「一応な」


エアは振り返らない。


「下手だとは言わないが、おまえの見方は分かりやすい」


尾が、ぴたりと止まる。


「白服……」


小さく。


聞こえるかどうかの声。


「最悪……」


ぼそり。


露骨に顔をしかめる。


視線は外す。


関わりたくない、というより――


関わる気がない。


ユーリスも少しだけ身を固くする。


だが、何も言わない。


カイナはそれに対して反応しない。


ただ、静かに立っている。


「また監視か?」


エアがそのまま言う。


カイナは肩をすくめる。


「お前が余計なことをするからだ」


軽く返す。


声に遠慮はない。


「……」


エアは少しだけ笑う。


「そうか」


それだけ。


「笑い事ではないんだがな……」


カイナは腰に手を当てて、呆れたようにエアを見下ろした。


気にせず、エアは一口かじる。


「なら」


そのまま続ける。


「どうせ見るなら、このまま来るか?」


ユーリスが目を瞬かせる。


ミリカが顔をしかめる。


「……は?」


低い声。


エアは気にしない。


「遠くからコソコソ見られてるよりマシだ」


カイナは一瞬だけ黙る。


フードの奥で、視線だけが動く。


今度はカイナが返す。


「何で俺が一緒に行動しなければならない」


少しだけ苛立ちが混じる。


エアは肩をすくめる。


「監視なんだろ? 来るなって言っても、どうせこの後もつけるんだろ?」


「そうだが……」


「なら楽な方を選べ」


淡々と。


カイナは舌打ちする。


「……ほんと、勝手だなお前」


ぼそり。


少しだけ間。


それから――


「……分かった」


そう言って、少し不機嫌そうにカイナはエアの隣に座った。


露骨に嫌そうな顔をする。


「……最悪にゃ」


ぼそり。


カイナは一度だけこちらを見る。


「……」


短く返す。


「こっち見んにゃ……」


即答だった。


だが、距離だけはほんの少しだけ遠い。


ユーリスが、その間に座り直す。


エアは何も気にせず、串をもう一口かじった。


屋台の喧騒は変わらない。


笑い声。

呼び込み。

焼ける音。


なのに――


自分たちの周りだけ、少しだけ妙な空気になっていた。


白服。

エア。

ユーリス。


最悪な組み合わせのはずなのに、なぜか誰も席を立たない。


「……はぁ」


小さくため息を落とす。


串をもう一口かじる。


落ち着かない。


でも――

今すぐ離れたいわけでもなかった。

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