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第114話:外門の待ち合わせ


翌日。


午前の授業が終わる。


教室の空気が緩む。


椅子の音。

話し声。

外へ流れる足音。


俺は立ち上がる。


横には、ユーリス。


いつも通り、少しだけ近い位置。


「お昼、どうしますか?」


「食堂しかあるまい……」


今は冒険者をやっているわけでもない。


ノクシアのおかげで学費など諸々免除にはなっているが、使わなくていい出費は抑えておきたい。


教室から出て歩き出す。


ユーリスがついてくる。


廊下は普段通りだった。


「……エア」


声だ。


振り向くと、ミリカが立っていた。


廊下の端。


壁際。


人の流れから外れた位置。


視線はこっち。


だが、少しだけ逸れている。


「ミリカ?」


短く返す。


「どうした?」


それから一歩近づく。


「……少し、いい?」


「構わない」


そのまま足を止める。


ユーリスも止まる。


三人。


少しだけ空間が変わる。


ミリカはすぐに話さない。


尾だけが、小さく揺れる。


「……今日」


口を開く。


「半日」


「ああ、そうらしいな」


「私、外出る……」


それだけ言う。


俺はそのまま返す。


「そうか」


「……そうか、じゃない」


すぐに返ってくる。


少しだけ強い。


「お前も来る……」


言い切る。


ユーリスの視線がわずかに動く。


俺はミリカを見る。


「なんでだ?」


ミリカは一瞬だけ黙る。


「……買う物ある」


短く言う。


「一人でもいいけど……来てもいい」


言い終えて、少しだけ顔を逸らす。


ユーリスが、ほんの少しだけ笑う。


「お買い物ですか?」


自然に入る。


ミリカが固まる。


「……別に」


即答。


だが、少し遅い。


「用があるだけ」


ユーリスは頷く。


「そうなんですね」


それから、少しだけ間を置いて。


「……でしたら」


自然に続ける。


「せっかくですし行きましょう、エア」


ミリカの尾が、ぴくりと止まる。


「……は?」


小さく漏れる声。


ユーリスはそのまま続ける。


「外に出る機会も多くはありませんし、

 私も久しぶりにアルケシアの街を見ておきたいです」


俺を見る。


「ついでに見て回るのも、悪くないと思います」


確かに、街を見るのは少し興味があった。


たまには息抜きも悪くないか……。


ミリカが攫われたばかりだが、今回は俺もいるしな。


「……行くか」


ミリカの耳が、ほんのわずかに動いた。


「うん、行く……」


小さく落とす。


それ以上は何も言わない。


だが、尾の動きが少しだけ変わる。


さっきより、落ち着かない。


「では、決まりですね」


「俺は一度部屋に寄ってから行く。先に二人で行っててくれ」


「部屋ですか? それなら……」


ユーリスがまとめる。


「外門で合流、でいいですか?」


ミリカが頷く。


「……外門」


短く言う。


「そこで待つ」


「分かった」


俺が答えると、ミリカは一度だけこちらを見る。


すぐに逸らす。


「遅いのは、嫌い……」


「お前が誘ったんだろ」


「そう。でも、早く……」


小さく返す。


少しだけ間。


「……待ってる」


今度は、少しだけ強い。


「分かった」


―――――


外門。


石造りの大きな門の前は、いつもより少しだけ人が多い。


半日で終わる日だからだろう。


外に出る生徒。

戻ってくる者。

門番の確認。


ざわめきはあるが、どこか軽い。


その端。


人の流れから少し外れた位置に、ミリカは立っていた。


壁にもたれず、ただ立っている。


視線は前。


門の外――ではなく、内側。


(……遅い)


ぼそりと、心の中で落とす。


時間はまだ余裕がある。


遅れているわけではない。


だが――


「……」


尾が、小さく揺れる。


落ち着かない。


「そろそろ来ると思いますよ?」


「分かってる……」


顔に出ていたのだろうか……。


ユーリスが横から話しかけてきた。


その時。


人の流れの中に、見慣れた姿が混ざった。


エア。


ミリカの視線が、自然とそこに止まる。


(……来た)


一歩も動かない。


ただ、見ている。


エアはいつもと少し違っていた。


制服の上から、肩当て。


腕の一部に、簡易的な防具。


完全武装ではない。


だが――


戦うための装い。


そして。


手には、槍。


普段は持たないそれを、当たり前のように携えている。


ユーリスがそれを見て、少しだけ苦笑する。


「……やっぱり、持ってきたんですね」


「外に出るなら、な」


そう言って、エアは槍を地面につく。


「何かあってからでは遅い」


「そうですが……」


ユーリスは少しだけ空を見る。


門の外。


街。


「今日は、そこまで危険な場所ではないと思いますけど?」


「思う、だろ」


「はい」


「俺は思わない」


ユーリスは一瞬だけ言葉を止めて、小さく息を吐く。


「……エアさんらしいです」


学院の外の空気。


街の匂い。

石畳。

人の声。


学院の中とは、少しだけ違う。


ユーリスが、小さく伸びをする。


「……久しぶりですね」


「だな」


「はい。学院に入ってからは、外に出ていなかったですから」


エアも深呼吸をしながら、少しだけ肩を回す。


固まっていたものをほぐすように。


「……悪くないな」


短く言う。


それを――


ミリカは、見ていた。


言葉にはしない。


ただ、視線だけが止まる。


肩当て。

腕の装備。

槍。


普段のままじゃない。


エアの戦うための姿。


(……かっこいい)


そこで、ほんのわずかに視線が揺れた。


自分で気づいたのか、すぐに逸らそうとする。


だが――


「……何だ」


エアの声。


ミリカの動きが止まる。


「見てたな?」


続けて言う。


「……見てない」


即答。


でも、少し早い。


エアは一瞬だけ黙る。


それから――


「変か?」


ミリカの耳が跳ねる。


「……別に」


小さく落とす。


「変じゃない……」


それだけ。


エアは少しだけ目を細める。


「そうか……」


そして。


わずかに間を置いて――


「ならいい、にゃ?」


静かに落とす。


時間が止まった。


ミリカの呼吸が、一瞬で止まる。


「……は?」


ゆっくりと、顔が持ち上がる。


信じられないものを見る目。


「今……」


声が震える。


「……言った?」


エアは何も変わらない顔で言う。


「何がだ、にゃ?」


「――――ッ!!」


完全に爆発した。


顔が一気に赤くなる。


耳まで。


「言うなって言っただにゃ!!」


一歩踏み込む。


拳が軽く握られる。


「忘れる約束だにゃ!!」


「覚えてる」


即答だった。


「やめるにゃ!!」


「無理だな」


「なら殺すにゃ!!」


完全に崩れている。


さっきまでの静けさが消える。


ユーリスが横で小さく息を飲む。


それから、少しだけ笑いを堪える。


「ミリカ、出てます! 出てます!」


「な!? 出てないッ!!」


即座に遮る。


「誰にも言うな!!」


「言いません」


ユーリスはすぐに頷く。


だが、少しにやけて、肩が少し震えている。


「絶対だからに……ッ!

 ッ、絶対だ!」


「分かっています」


ミリカは数秒、そのまま固まる。


それから――


「……最悪」


ぼそり。


顔を逸らす。


だが、完全には落ち着いていない。


尾が、さっきよりも大きく揺れている。


エアはそれを見て、何も言わない。


ただ、ほんの少しだけ目を細める。


「行くぞ」


短く言う。


ミリカはすぐには動かない。


それから小さく舌打ちして、歩き出す。


「……あとで覚えてろ」


ぼそりと落とす。


「覚えておく」


「絶対、違う意味で言ってる……」


ユーリスが、今度は完全に笑った。


「ふふっ」


「笑うな!!」


三人の距離は、少しだけ変わっていた。


街のざわめきの中へ、そのまま入っていく。


門の外の風が、少しだけミリカの髪を揺らした。


さっきまで騒いでいたくせに、もう前を向いている。


だが、耳だけはぴくぴくと揺れていた。


それを見てから、エアたちも前を向く。


外出は、まだ始まったばかりだった。

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