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合コンらしい会話が、テーブルの上を滑っていく。
趣味の話、仕事の愚痴、休日の過ごし方。
笑い声が飛び交う中、私は誰が何を言っているのかもよくわからないまま、適当な相槌を打っていた。
「へぇ~」「そうなんですね」「すごーい」
どの言葉も、心がこもっていない。
口だけが自動的に動いて、笑顔だけが貼りついている。
手元のグラスには、4杯目のカクテル。
苺の香りが甘ったるくて、飲むほどに気分が悪くなりそうなのに、自分で好きなものを注文できる空気でもない。
グラスが空きそうなのをめざとく気づいて、"気が効く私"演じ中の立花由佳里(同僚)に注文されてしまう。
5杯目を受け取り、お皿の上に取り分けられたオリーブと生ハムのピンチョスを口に放り込む。
(男なんて、みんな頭ん中エロしかないくせに)
内心でそう毒づきながら、マドラーをくるくると回した。
会話の中に見え隠れする“下心”にゾッとする。
隣に座る美春さんに目くばせをすると、
彼女が小さく頷いた。
「私たちちょっと、メイク直しいってきますね」と言って、4人全員がグラスをテーブルに置き、化粧室へ向かった。
化粧室の中は、花の香りが充満していて、外より少し静かだった。
鏡の前では美春さんがリップを塗り直している。
耳たぶに香水をつけながら由佳里が言った。
「今日の合コン、顔面偏差値高すぎ! しかもハイスペ。全員T大卒だって。しかも医者。」
弾む声に、思わずため息が漏れる。
「……美春さん、私もう帰りたいです」
「えー、ちょっと! まだ始まったばっかじゃん」
「なんか具合が……それに男に興味ないし。だって、男ってみんな」
「みんな、エロしか考えてないって?」
由佳里と美春さんは笑いながら鏡越しに私を見る。
「真乃。男なんてね、頭の中の八割はエロでできてるの。重要なのは残りの二割よ。」
「……その二割を知る気もないのに」
肩をすくめる美春さんに、私も苦笑いを返した。
彼女の言うことは、たぶん正しい。
でも。
“あの日”以来、私はもう、"男"とう生物と関わる気になれなくなっていた。
「高校生のときのこと、引きずりすぎじやない?」
美春さんが、リップを閉じながら言った。
「十代の男なんて、子どもだよ。忘れて、今を生きなきゃ」
その"今"から逃げ出したいんだけど。
化粧室を出ると、照明が少し落ちた店内に、グラスの音と笑い声が戻ってくる。
テーブルに戻ろうとしたその瞬間――
通路の先に、「オレのこと、覚えてる?」と言ったあの男が、壁に軽く肩を預けながら私を見ていた。
目が合うなり一言。
「彼女、連れてっていい?」
低い声が、美春さんのほうに向けられる。
美春さんが私を見た。
ほんの一瞬の間を置いて、唇の端を上げる。
「ごゆっくり~♡ご返却は明日でいいですよ♡」
「ちょ、ちょっと待って、美春さん!」
「いってらっしゃい、真乃♡(次回の合コンセッティングよろしく♡)」
「由佳里お願い、私も……(一緒に席まで連れて行ってぇ 涙 )」
「真乃ちゃん、ファイト♡」
「そんな、由佳里。日向まで……みんなぁ。」
慌てて袖を掴もうとするが、彼女達はさっさと店内の奥へ戻っていく。
まるで“楽しんできなさい”とでも言いたげに。
私は困惑したまま立ち尽くす。
「じゃ、行こ。」
そう言って、彼が私の手首をそっと取った。
「ちょっと!やめてください。」
「《《また》》、逃げられたくないから。」
彼の瞳に浮かぶのは下心ではなく、怒りが滲んでいる気がした。




