1‐01‐2 戸惑い
心地よい柔らかさに、身体が目覚めようと促すのを、思い切り抑え込みたくなる。
暖かで柔らかな布地。微かに漂う懐かしく柔らかな香りは、とても心を落ち着かせてくれる。
このまま一生、まどろみの中にいたい——そう願いながらも渋々薄目を開けると、天蓋の布越しに、わずかに陽の明るさを感じた。
——朝?
なんとか誘惑に打ち勝って目をしっかりと見開けば、そこが天蓋付きの大きなベッドの上であることに気づく。豪奢ではない。だが、かなり品格を感じる寝具とベッドである。
——んんっ、なんでわたし、こんな立派な場所で寝ているんだっけ……
眠気を振り払いながら身を起こし、混乱する頭で記憶を手繰り寄せる。
——ぁ……万象の主に《女神》様!
確か……あの時《女神》様に手を包まれて、何かいろいろ伝えたいけど時間がないからとか、そんな言葉を聞いて——そこから先の記憶が綺麗に抜け落ちている。
その後、何が……?
そもそも、ここは《女神》がいう“エイルタム”なのだろうか?
《女神》にすぐ会えると思っていたが、それは間違いだったのか?
次々と浮かんでくる疑問に、ナギサはベッドの上で頭を抱えた。
だが、何も思い出せない以上、ここで一人考えていても埒が明かない。
故に、今は考えまいと一度頭の隅に追いやった。
まずはこのベッドから出てみることにした。
天蓋布を静かにつまみ、僅かにできた隙間から外を窺う。
——誰もいない……よね?
人の気配は感じない。この隙間から見える範囲で人影もない。
ナギサは静かにベッドから滑り降りた。裸足の足を受け止める絨毯は、毛足が長く、驚くほど柔らかだった。
やはり誰もいない。
軽く部屋を見回してみた。誰かの私室なのか、程よく生活感のある部屋である。
部屋の様子も気になるのだが、それ以上に、ナギサは先ほどから自分自身に強い違和感を覚えていた。
視界に入るテーブルの位置が妙に高い。自身の手足、その視点、すべてがちぐはぐに感じられるのだ。
もう一度、周りを確かめていると、丁度良いところに姿見があった。
大きな鏡面に磨き抜かれた木製の枠。木と花の飾り彫りが美しく、幼いころに憧れたような設えの姿見である。
違和感の元を確認すべく、ナギサは姿見の前へ、恐る恐る足を向けた。
そして、鏡に映し出された自身の姿を目にした瞬間——ナギサは硬直した。
そこにいたのは、肩の上で揃えられた白髪、青白い肌に、吸い込まれそうな紅い瞳。そして、痩せこけた手足を覆い隠すように、筒状の白い寝間着をまとった、紛れもない十歳頃の己の姿だった。
——いや、なんで!?
この状況、今すぐ、全力で、誰かに説明してほしい!
《女神》の誘いを受けた後に、何が起きたのか。
そもそも、ここは“エイルタム”なのか。
そして何より、何故己は——子供の姿に戻っているのだろうか。




