1‐01‐1 祈りの間
大神殿の奥深く、“祈りの間”にて一人跪く人影がある。
魔灯が数本灯されたばかりの祈りの間は、揺れる炎が落とす影と、張り詰めた静寂に満たされていた。
仄暗い静寂の中、かすかに衣が擦れる音が響く。
その厳かな空気の中、巫女長であるクラーヴィアは、夜半の祈りを捧げていた。
祈りを妨げるものは何もなく、今日一日の感謝を心の内で捧げ、いつものように日課の祈りを終えようとしていた。
——空気が……
閉じた瞼越しに、冷たい風が通り抜けたような感覚を覚えた。だが、扉が開いた気配も音も微塵もない。それでも、全身が尋常ならざる違和感を訴えていた。
ゆっくりと頭を上げ、違和感の元を探るべく辺りを見渡した。
それは祭壇、慈愛溢れる女神像の前——そこに、淡く、しかし確かに光を放つ“何か”があった。
先程までは、何もなかったはずの場所。
ここは巫女長専用の祈りの間だ。
クラーヴィアがあずかり知らぬ形で、何者かが立ち入ることなど有り得ない。
そも、彼女が祈りの間にいる時に、その祈りを妨げる者があれば、たちまち神聖なる結界が反応する。
——結界が反応していない。……まさか、《女神》様?
クラーヴィアが驚愕に思考を巡らせる間にも、祭壇前の光は、だんだんとその輝きを失っていく。
訝しく思いながらもクラーヴィアは祭壇に、女神像に近づいた。
光が完全に消え去ったその場には、あどけない表情の少女が、静かに横たわっていた。
——息は……ある。
そっと抱き起こしてみるが、余程深く眠っているのか、目覚める気配もない。
一糸まとわず横たわる少女は青白く、恐ろしく痩せている。
何故ここに現れたのか——恐らくは《女神》様の、何かしらのお考えがあってのことに違いない。
——何か着るものを……
クラーヴィアは静かに立ち上がると、祈りの間を後にした。




