表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴィルディステの物語  作者: あるかな
【序】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/343

0‐03‐1 女神


 


「あなた、お名前は?」


 今、何か聞こえたような……


 周囲が、さっきよりずっと明るい。

 眠っていたとは思えないが、先ほどまでと明らかに様子が違う。

 “目”が、あのまとわりつく視線が一切ないのだ。

 同じ万象の狭間に、己はまだいるのだろうか。


「ねえ、あなた、お名前は?」


 そうだ、誰かに声をかけられた気がしたんだ。

 今さらながらに気付き、顔を向ければ、一人の年若い女性が佇んでいた。


 (綺麗な人……)


 淡く煌めく金髪が、ゆるやかに編まれ、静かに肩から背中へと滑り落ちている。

 己を見つめているその瞳は、繊細な睫毛の奥に湛えられた透瑠璃色とうるりいろ

 白磁のように透き通る肌は、微かな光を帯びているかのようで、そのやさしく弧を描く口元からは、まるで朝露に濡れた花びらのような、淡い桃色の輝きが零れていた。

 それは、辛い時読み耽った古の神話や物語に描かれる、慈愛に満ちた光の女神、その顕現そのものだった。


「——ナギサと言います」


 誰何する気さえ起きず、自然、名前を伝えていた。


「ナギサ、そう、素敵な響きね。わたしはある世界を管理するもの——いわゆる、女神と呼ばれている存在よ。少し、お話をしない?」


 異なる世界……『ここはあらゆる世界へと通じている』とあるじは言っていた——

 どこか別世界から、わざわざここへ足を運んだ?

 しかも、目の前にいるのは、ただの神ではない。

 その存在そのものが、不可侵の概念として脳裏に刻まれるような——いわば、《女神》としか呼びようのない絶対的な存在。


「わたしと、ですか?」


「そう。あなたと。ここへはどうして? 主が招き入れたということは、世界を移りたい、って願ったのよね?」


「移りたい……ですか。以前いた場所から離れられるのであれば、どこでもよかったのです。ただ、あの場所が耐えられなかった、逃げ出したかった……それだけなんです」


「今までいた世界は、逃げ出したいほどに辛いところだったのかしら?」


「わたしにとっては、ですね」


 無意識のうちに、片側の口端が上がってしまう。

 そう、護ってくれる人はもういない。ただ嫌になって、逃げ出したかっただけ。

 己では何一つ行動せず、ただただ嘆くだけの意気地なしだった。そして、気づけば、ここにいる。


 目の前に立つ女性は、そんな己の弱音を優しく見守るような眼差しで、時折頷きながら聴いてくれた。




 ナギサは、ぽつりぽつりと髪色と瞳の話をする。


 唯一の味方だった祖母だけが、いつも己を庇ってくれたこと。その温もりがあったからこそ、理不尽な世界でも我慢して生きてこられた。


 だが、祖母が逝ってしまった瞬間、世界は己に向ける牙をより鋭くした。

 失った悲しみは一向に癒えず、遺影の前でただ涙を流すばかりの日々。どれほど己が護られていたのかを、いなくなってから思い知らされた。これからどう生きていけばいいのか、一歩を踏み出す勇気すら出せなかった。


 気づけば、心の奥底に溜め込んでいた泥のような弱音が、堰を切ったように口から零れ出ていた。

 初めて話す相手なのに……何故か名前だけでなく、こんなことまで。彼女から放たれる圧倒的な慈愛のせいだろうか。


「——こんなわたしを、何故、万象の主はすくい上げてくれたのでしょうか?」


「さぁ、どうしてかしら」


 突き放したような言葉のはずなのに、その透瑠璃色の瞳は柔らかく慈しむような光をたたえていた。


「“万象の主”はその名のとおり“万象の主”よ。すべてを創り、すべてを見渡すお方。

 その世界に厭いているもの、逃げるに逃げられないでいるもの、その世界の枠にはまりきらないもの……主の目に留まった魂だけが、この狭間に招かれ、新たな世界へと導かれるの。

 きっとあなたも、あのお方の何かに触れたのね」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ