0‐02 ずうっと同じ
ナギサがこの場所に来てから、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
周りの薄暗さは変わらないまま。
数多の“目”が漂う状況も変わらない。
それらの“目”は、相も変わらず無言である。
ただただ、ナギサを見ている。
遠巻きに見るもの、近づいてくるもの。
気づくと目の前に“目”があるときも。
だが、どれも、これも、無言である。
行き先を決めろ、か......。
この“目”の持ち主たちは、わたしを気に入れば、彼らの世界へと招いてくれるというのか。
気に入る?
それは一体、どうやって?
見かけだけで気に入る、というのは無理だろう。
この白い髪に紅い瞳。
外に出れば危ないからと、家の中で過ごすことが多かった。
肌色も白いというよりも血色が悪く、動かさない体のせいで瘦せこけ、まるで細枝のようなひょろ長い手足。
とても見た目で選ばれるとは思えなかった。
選ばれるためには、わたしから声をかけないといけないのだろうか?
ナギサが自分自身の無力さにうんざりしている間にも、一つ二つと“目”は過ぎていく。
でも、これらの“目”の数だけ、行き先があるのだろうか。
いったいどれだけの世界があるのだろう。
ひょっとして同じ人(そもそも人型?)が二度三度と見に来ているのだろうか。
ナギサは特に何をするでもなく、とりとめのないことを考えながら、数多の視線の中で膝を抱えたまま座り込んでいた。
そういえば、ずうっと同じだ。
万象の主が最初に言った通り、ナギサ自身には何の変化も起きていない。
眠気、空腹感、尿意、どれも普通に生きていれば感じ、必要なはずのもの。
だが、ここではその一切がない。どんな仕組みなのか、“目”だけが入れ替わり、ナギサ自身には何の変化もなかった。
いつの間にかこの状況に気楽さを感じ始めていた。
煩わしいことが一切ないのだ。栄養バランスを考えて食事をとる必要もなく、睡眠も充分かなど考えることもない。朝早く起きることも、夜更かしを気にすることも。身繕いだって何も必要がない。瞳の色を隠すための眼鏡、ウィッグの為に髪をまとめる手間もない。
確かにずっと見られている。だが、そこには一切の他意が感じられない。ただ純粋に観察するだけの“視線”。それ故、気にする必要もなかった。
このままでもいいかもしれない。
理不尽な目に遭わずにすむ。
自分にとっては何よりも求めて得られなかったものだ。
ナギサは抱えこんだ両膝に顎を乗せ、不思議な安堵感に目を閉じた。
誰も私を責めない。
何も言ってこない。
ただ、このまま、ここに在るのも、ありなのかもしれない。